【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第55話 別に他意はない

「で、どういうつもり?」

「なにがー?」

 

 薫ちゃんのドチャクソ激うまケーキを頂き、氷室があまりのおいしさと妹が自分にケーキを作ってくれたという感動で泣き出したところで解散。織部くんだけが残ったのは氷室に何か言うことがあるのか、それとも薫ちゃん目当てか、どちらかはわからないがまぁどうせメスだし気にすることはないわね。

 私の隣には春乃。目を細めて睨みつけたつもりなんだけど、春乃は何も堪えた様子もなくからから笑っている。

 

「なにって、ずっと日葵に塩送るような真似してるじゃない。少しはあんたも氷室にばんばんアプローチしないと取られちゃうわよ?」

「別に、氷室くんは物ちゃうしなぁ。それに、何個か布石は打ってるし」

 

 明るい雰囲気を持つ春乃は、結構頭が回る。それは勉強的な頭の良さじゃなくて、どうすれば日葵が積極的になれるか、どうすれば氷室が自分を気にしてくれるか。それらを考えて実行し、思い通りにいくだけの頭がある。

 でも、私から見ればどうも自分じゃなくて日葵を優先している気がする。今日のこともそうだし、今までだって。

 

「氷室くんは普段バカやってるけど、頭は悪くないし、鈍感でもない。気づくもんにはちゃんと気づく。元々相手は幼馴染で、しかもずっと好きやった相手やろ? ふっつーに考えなしにアプローチしても、勝ちの目は一切ないやん」

「襲いなさい。あんたが氷室と付き合ってくれたら日葵が氷室と付き合うことはないわ」

「あれ、私を心配してくれたんちゃうんや」

 

 春乃が全然アプローチしないのに怒っているのは春乃を心配しているのもそうだが、氷室と日葵が付き合うってことを考えると腸が煮えくり返るからだ。日葵も氷室のことが好きだし、もしそうなったら応援しようと思ってはいたがどうにも耐えられそうにない。氷室は日葵に対してになるとどうも自己評価が低くなるから、そのあたりも気に入らない。

 

「てか、氷室くん初心やしな。普段あんなに口汚く下品なこと言うといて、実際そういう下品なアピールしたら引いてまうかもせんし。多分、氷室くんって物語みたいな恋愛のが好きやと思うねん」

「実際、小さい頃からずっと幼馴染のことが好きって、物語みたいよね。まぁ日葵が相手だから仕方ないんだけど」

「ほんまに、一途やんなぁ」

 

 とろん、とした目で頬を少し赤く染め、短く息を吐く春乃。あぁ、氷室のそういうところが好きなのね。むしろそれ以外にいいところないみたいなところもあるけど。

 まったく、なんであんなやつがモテるんだろう。日葵と春乃よ? 女神と女神よ? いい子過ぎて私が少しいい子に見えるくらいのいい子よ? それに対して氷室はドクズ。なんで氷室を好きになるんだろう。自分にないものを持ってるからとか? なるほど。私と氷室は似てるから、そう考えればなるほど。だから私は氷室に惹かれないわけだ。

 

「……って、にしても日葵を手助けする意味がわかんないのよ。正面からぶつかり合って勝ちたいっていうのはわかるんだけど、元々勝ち目ないのにもっと勝ち目なくしてるじゃない」

「ん? だって、あんなに可愛い二人、応援したくなるに決まってるやん」

「自分の恋愛感情抜きにしても?」

「そ。それに、日葵のことが好きやのに、罪悪感やらなんやらで私と付き合ってもらっても嬉しないし、お互い全力でぶつかってそれで負けるならしゃあないなって思えるやん?」

「つまり、日葵が全力じゃないのに、それに勝っても……ってこと?」

「そ」

 

 それはなんというか男らしいというか。悪い言い方をすると損な生き方をしてるなぁ、と思う。確かに、好きな人がいる相手を奪い取って、でもその人は好きな人のことをずっと想ってて。そうなったらむなしいかもしれない。でも、氷室は相手のことをちゃんと見てくれるし、付き合ったらちゃんと好きになってくれると思う。好きな人のことを忘れることはできなくても、恋人のことをないがしろにすることは絶対にない。

 

 あれ、私氷室に対する好感度高くない?

 

「それより、光莉はほんまに氷室くんのこと好きちゃうん?」

「好きよ。友だちとして」

「どう見ても怪しいんやけどなぁ……」

 

 男女間の友情は成立しないっていうのはよくある話で、友だちのつもりでもどうしても性差っていうのはあるもの。ふとした時に相手の性を意識するし、それは氷室だって私だってそうだ。病院の時はうっかり好きになりかけてしまった。そんなことになったら私は日葵にゲボ吐くまで殴られることだろう。

 

「んじゃあ氷室くんとえっちなことはできる?」

「は? 春乃は虫とセックスしろって言われたらできるの?」

「好きな人を虫に例えられた私の気持ち考えろや」

 

 氷室とセックスなんて、デカい頭のいいカブトムシに襲われるようなものだ。絶対嫌。あいつ才能めちゃくちゃあるから絶対うまいし、もしそうなったら私もノリノリで屈しないプレイしそうで嫌だ。私と氷室と織部くんはノリで生きてるところあるから、後々のことは無視してやってしまいかねない。

 ……って思う程度には、嫌悪感ないっていうところがヤバいかなとは思ってる。恋愛感情はまったくないのに。

 

「大体、私が氷室のこと好きになったらハーレムじゃない。私、日葵、春乃、織部くん」

「一人メスが混じっとるな」

「メスだからいいじゃない」

「……ん? それもそか」

 

 少し、考えてみる。私と氷室が付き合う可能性。日葵にフラれて、春乃にもフラれて、なんだかんだ色々あって二人で酒を飲んで、流れで寝て、なぁなぁで一緒にいて「そろそろ結婚するか」っていうあいつの一言。うん、これしかありえない。日葵が氷室をフるなんてありえないし、春乃もフラないし、つまりありえないってことね。

 

「そもそも、私が氷室のこと好きだったらライバル増えて不都合じゃない?」

「なんで? ぶちのめす相手が増えるだけやん」

「男らしすぎでしょ。惚れるわよ」

「やめてくれ」

「そんなに嫌がらなくても……」

 

 私を好き勝手いじったくせに。あんなに私の体中を好き勝手……あ、好きになっちゃう。私、女の子を好きになっちゃう。

 

「あ、そやそや。お祭りなんやけど、浴衣着ていく?」

「えー、めんどくさい。私が浴衣なんて来たら男どもを悩殺しちゃうに決まってるじゃない」

「千里のが破壊力高いで」

「確かに……」

 

 あいつ、メスだから女の私より普通に破壊力あるのよね。女の子じゃないのに女の子みたいだからこその破壊力。可愛いと思っちゃいけないのに明らかに可愛い。色んな感情で見る人を殴りつけてくる人間兵器。

 でも流石に浴衣でこないでしょ。もし着てくるなら絶対負けるから私は絶対に浴衣を着ていかない。むなしくなるだけ。絶対私より織部くんのがナンパされるし。絶対に助けてやんないしむしろ人気の少ない場所をナンパしてきた人に教えてあげよう。

 

 なぜか氷室が颯爽と助けにくる場面が思い浮かんだ。やめよやめ。

 

「……氷室くんって、浴衣好きやと思う?」

「それは日葵か織部くんか薫ちゃんに聞かないとわかんないわよ」

「光莉は好き?」

「好き。可愛い」

「じゃあ着ていこ」

「おい。私を仮想氷室にするな」

 

 いくら似てるからってそんなとこまで一緒なわけないじゃない。似てるところと言えば性格と好きな人と食の好みとだめだめ。似すぎてる。仮想氷室にされても仕方ない。終わり終わり。私は氷室光莉です。氷室恭弥の双子です。おっぱいが大きいです。あ、隣にない人がいるわね。かわいそうに。

 

「どしたんこっちみて」

「殺さないで」

「?」

 

 よかった。うっかり憐れんでしまったから察せられるかと思ったけど、春乃にその能力はないみたいだ。氷室あたりなら「今おっぱいのこと考えてた?」ってデリカシーの欠片もなく言ってくるけど、あれがおかしいんだ。春乃が普通。ちなみに織部くんは「おっぱいのにおいがするな……」って言いながら近寄ってくる。あいつ薫ちゃんのことが好きなら本当にいい加減にした方がいい。

 

 まぁ私が魅力的すぎるのが悪いっていうのもあるんだけどね? ふふふ。

 

「いきなり笑いだしてどうしたん。キショいで」

「ひどい」

 

 こんな美少女にキショいなんて。そんなこと氷室と織部くんくらいしか言ってこないのに。結構言われてるわね?

 

「はぁ、とりあえず、私はどっちも応援してるから。何か協力してほしいことがあったら遠慮なく言いなさい」

「うん。頼りにしてるで。って、あれ? なんか連絡きてへん?」

 

 春乃に指摘され、ポケットに入れているスマホから鳴る音に気付く。学校が終わると同時に通知をオンにしてるのに、自分で気づかないなんて流石、可愛いわね私。

 

 春乃に断りを入れてからスマホを取り出し、届いたメッセージを見る。相手は氷室からで、それを伝えると春乃もスマホをのぞき込んだ。

 

「……『話したいことがあるから、戻ってきてくれないか』やって。私のこと応援してるんやっけ?」

「ははは」

 

 不穏な空気を感じ取った私は、その場から走って逃げた。あれ、こんなことしたらやましいことがあるって言ってるようなもんじゃない? でもやましいことないから、一切ないから。

 

 あの場にいてそのまま殺されるよりはマシだ。

 

 

 

 

 

「お、悪いな。わざわざハンカチ取りに来てもらって」

「……話したいことってそれ?」

「おう。渡すの忘れてたと思って」

「明日でよくない?」

「バカかお前。明日になったら忘れてるに決まってるだろ」

 

 肩で息をしながらきた朝日にびっくりしながら、朝日に借りたハンカチを返す。そんなに返してほしかったのか。そんなものなら貸さなきゃいいのに。

 

「あんたねぇ、ややこしいのよ」

「だって普通にハンカチ返すって言ったら、明日持って来いって言うだろ?」

「信じられないほどクズね。安心したわ」

「朝日が安心してくれてよかったぜ。ところでなんで俺の腕を掴んでるんだ?」

「曲げるのよ」

 

 左腕の感覚がなくなった。利き手を残してくれたのはせめてもの優しさだろう。まったく、朝日は優しいやつだな。

 俺に制裁を与えた朝日は、「もう用済んだわよね?」と言って俺に背を向け、帰ろうとする。外は暗くなり始めていて、朝日は女の子。ふむ。

 

「……なんでついてきてるのよ」

「送ってこうかと思ってな。こんな時間に女の子一人で帰らせんのもなんだし」

「こんな時間に女の子一人でこさせといて?」

「さっきと今では気分が違うんだよ」

 

 朝日は俺から目を逸らして、頬を赤くしている。こいつ、女の子扱いされるの実は好きだしな。俺相手でもときめいてしまうくらいだから、乙女濃度高すぎる。将来ろくでもねぇ男に騙され……騙されたらぶちのめすだろうから安心っちゃ安心か。

 

「ったく、あんた今日誕生日でしょ? 家でゆっくりしとけばいいのに」

「お前も今日誕生日だろ。万が一があったら俺がお前の両親に顔向けできねぇよ」

「会わないで。二人があんたにあったら、なしくずしで婚約させられそうだから」

「両親まで似てんの?」

 

 俺の両親は俺が日葵のこと好きって知ってるから婚約させるなんてことはないが、もし俺に好きな人がいなければ俺が女の子を家に連れていった瞬間に式場を予約することだろう。おかしすぎねぇかうちの親。

 

「……それと、これ」

「?」

 

 朝日がいる方とは逆の方を向いて、差し出す。牛のキーホルダー。

 

「なんか、誕生日って知ったのに何も渡さねぇのは気持ち悪くてな。さっき千里を送るついでに買ってきた」

「私のプレゼントをついでにするなんていい度胸じゃない。しかも牛って、どういうこと?」

「パイはない」

「他意はないって言いたかったのね」

 

 俺の手からキーホルダーをひったくり、不機嫌そうに鼻を鳴らす。牛みたいな乳だから牛を買ったわけじゃないのに。ったく、考えすぎも困りもんだぜ。牛みたいな乳してるくせによ。

 

「……ま、まぁ、ありがとね」

「お前ずっとそうしてりゃめちゃくちゃ可愛いのにな」

「は? いつも可愛いでしょ」

「おう」

「……」

「千里直伝、朝日を照れさせる方法」

「死になさい」

 

 牛のキーホルダーを付けた鍵で刺されそうになったので、まだ感覚が残っている右手で受け止める。こいつこんなに手首細いくせしてどっからそんな強靭なパワー出してんだ? 体の使い方ってやつだろうか。それにしても体の使い方ってどことなくえっちじゃね?

 

「まぁまぁいいこと教えてやっから。ここらへん日葵の家近いんだよ」

「私が知らないとでも?」

「ちなみに遊びに行ったことは?」

「ない頃から知ってるわ」

「こわ」

 

 ──気づける要素はいくらでもあった。日葵の家が近くにあって、俺たちは隠れもせずにじゃれあって、しかも全員が解散した後に二人きりで。

 

 これが原因で、また勘違いが生まれるなんて、俺はどうやら勘違いってやつに愛されてるらしい。


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