【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第56話 勘違い潰し

 昼休み。なぜか、僕は夏野さんに呼び出されて、校舎裏まで連れてこられた。

 夏野さんが僕を呼び出すのは珍しい。いつも大体朝日さんが飛びついてきて岸さんもそれに乗っかり、朝日さんか岸さんのどちらかが僕らを呼ぶっていうのがお決まりだったのに、今日は夏野さんが僕のところに一直線にきて、有無を言わさず連れてこられた。恭弥と朝日さんが授業を思い切り寝て過ごしていたから止められることはなかったけど、この状況をあの二人に見られたら僕の未来はないのでどうか一生目を覚まさないでほしい。

 

「ね、織部くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

「何? 薫ちゃんのこと?」

「ん-ん。や、それもちょっと気になるけど」

 

 じゃあ恭弥のことか、と僕はあたりを付けた。夏野さんが僕に話があるなら、十中八九氷室兄妹のことだ。恭弥の親友は僕だって自負してるし、薫ちゃんのことだって大好きだから、同じく恭弥と近しい存在で薫ちゃんが大好きな夏野さんなら、氷室兄妹のこと以外ありえない。

 

「恭弥のことなんだけどね」

「恭弥がどうかした? 何かひどいことでもされた?」

「ん、ん-。どうだろ?」

 

 え、マジかあいつ。デリカシーの欠片もないクズだと思ってたけど、夏野さんを傷つけることだけはしないと思ってたのに。いやでも待て。夏野さんが勝手に傷ついてるだけで、なんてことないことかもしれない。夏野さんに関係することなら恭弥は信用できる。

 

「昨日ね。解散した後、すぐに家に帰ったんだけど」

「うん」

「しばらくしたら恭弥の声が聞こえたから、もしかして会いに来てくれ……今のなし。えっと、お、お散歩でもしてるのかなーって」

 

 夏野さんって絶対恭弥のこと好きだよね。わかりやすすぎる。恭弥もわかりやすいし、なんだ、あの付近で育つとわかりやすくなるのかな? 薫ちゃんもわかりやすくて可愛いし。

 

「で、話しかけようと思って外見たらね。……恭弥と光莉がいて、恭弥が光莉の手を掴んで、見つめあってたの」

「うん、なるほど」

「ね、織部くん。二人って、付き合ってるのかな」

 

 悲しそうに俯いて、声を震わせる夏野さん。

 夏野さんにとって恭弥は好きな人で、朝日さんは親友。もしそうだとしても、納得できないところはあってもどこか一歩引いてしまうところがあるんだろう。夏野さんはきっと、嫌だと思っても言うことができない。裏切られたと思っても、きっと朝日さんを許してしまう。だって、それくらい恭弥と朝日さんはお似合いに見えるから。二人が付き合ったら、幸せになるだろうなって自然と思えるから。

 

「いや、そんなことはまったくないよ」

 

 でもそんなことはありえない。二人が付き合うなんて考えられない、までは行かないが、恭弥に「朝日さんと付き合える?」って聞いたら「犬に首輪つけられて散歩に連れていかれる方がマシだ」と答えるに違いない。つまり、それほど屈辱的ってことだ。

 

 僕が否定すると、夏野さんは少し顔をあげた。まだその顔には不安が貼り付いていて、信じ切れていないみたいだ。はぁ、まったく。

 

「あのね、夏野さんって恭弥のこと理解してるようであんまり理解してないよね」

「なっ、理解してるもん! いっつもずっと見てるし!」

「僕だってずっと見て……んん。違うんだ。あの、見てて面白いからね?」

「織部くんとも付き合ってる……?」

「いや、落ち着くんだ夏野さん。どちらかと言えば僕は突かれる側だし何言ってんだ僕はほら、僕の好きな人は薫ちゃんだから。恭弥となんてありえないから」

「つかれるがわ?」

 

 夏野さんが何か考え始めたので、どうしたのかな? と待っていると、みるみる顔が赤くなって僕から気まずげに目を逸らした。

 

「た、たしかにね」

「おい夏野さん。そこを広げないでもらえないだろうか」

「ひ、ひろげ」

「夏野さんってもしかして結構むっつり?」

「ち、ちがう! 光莉が私の反応楽しんでよくそういう話してくるから、その、変に知識ついちゃったっていうか」

「とんでもないことしてるね朝日さん」

 

 この絵に描いたような純真無垢な夏野さんになんてこと教えてるんだ。「ふふ、日葵を汚せるのは私だけなのよ」なんて優越感に浸ってそうで非常にムカつく。やっぱりクズだ。あのクズは二度と薫ちゃんに近寄らせないようにしよう。

 

「……ふぅ、ご、ごめんね。ちょっと慌てちゃったっていうか」

「いや、僕もごめん。先に大慌てしたのは僕だ」

 

 顔の熱を冷ますように手でぱたぱた仰いで小さく息を吐く夏野さんはなるほど可愛い。朝日さんも可愛いし岸さんも可愛いと思うが、こうも純粋に可愛いと思えるのはものすごいことだと思う。なんというか、言動や行動に裏がないというか、そこにいるだけで人に安心感を与える何かがあるというか。

 

 恭弥がずっと好きでいるのも頷ける。こんな人が幼馴染だったら人生壊れるでしょ。ただまぁ、親友の好きな人だから評価が高くなってるっていうのはあるかもしれないけど。

 

「話を戻すね。恭弥は絶対朝日さんと付き合うことはないし、朝日さん側からしてもそう」

「わかんないじゃん」

「わかるよ。あの二人は確かに息ぴったりで、からかい合うしボディタッチ多いし話も合うし信頼し合ってるけど……ん?」

「ほんとに付き合ってないの?」

「怪しくなってきた……」

 

 いや、怪しくはない。僕からすれば、っていう枕詞はつくけど。

 僕は恭弥が夏野さんのことが好きってことを知っている。恭弥のそれは単純な好きじゃなくて、決してブレることのない、恭弥っていう人間を形成する一本の芯として存在しているほどの、人生の核と言っていいほどのもの。だから僕からすれば恭弥が夏野さん以外と付き合うなんて思えないし、いくら迫られたって付き合わず、絶対に夏野さんを選ぶって思ってる。……アプローチの仕方によっては、ちょっと怪しい部分があるけど。

 

 ただ、それも『夏野さんにフラれたら』っていう前提がいるんだ。どれだけアプローチしても、夏野さんと付き合える可能性が少しでも残っていれば、恭弥は絶対に夏野さんを選ぶ。

 

 でもそれを夏野さんに説明することはできない。つまり今、僕は『息ぴったりでからかい合っててボディタッチが多くて信頼し合っている男女』を、『君のことが好きだから絶対に付き合わないよ』というリーサルウェポンなしで『付き合っていない』ということを証明しなければならない。フェルマーの最終定理くらい難しい。

 

 なんであの二人あんなに仲いいの? そのせいで夏野さんが傷ついてるんだけど。恭弥もさ、夏野さんが好きなら他の女の子といちゃいちゃなんかするなよ。そういう人だって思われてもいいの? 僕はもうそういう人だって思われてるけど。

 朝日さんもさ。夏野さんが恭弥のこと好きって知ってるならちょっとは気を遣おうよ。夏野さんのことが大事なのはいい。夏野さんから男を遠ざけるのもいい。でも君が恭弥の隣にいたらダメじゃないか。遠ざけるなら、君が夏野さんの隣にいないとダメじゃないか。結局さ、恭弥の隣が居心地いいんでしょ。でも君にとっての一番は夏野さんなんじゃないのか? まぁ僕も今夏野さんと二人きりなんですけどね。

 

 おい、人のこと言えないじゃないか僕。クズが。ぜひ死んでくれ。

 

「でも、考えてみてよ。恭弥も朝日さんもいっつも付き合うのはないって言ってるでしょ?」

「それは隠したいだろうし、口ではなんとでも言えるよ?」

「いや、わかるんだよ、僕にはね。これでも恭弥の親友やってるし、朝日さんとだって気が合う」

「私は恭弥の幼馴染だし光莉の親友だもん!」

「確かに、朝日さんに関しては夏野さんの方が理解してるかもね。でも、恭弥に関しては僕の方が上だ。恭弥の考えてることなんて手に取るようにわかるし、何なら行動の予測だってできる」

「じゃあじゃあ、今恭弥がどこで何してるのか当ててみてよ」

「ん-、そうだね。ちょっといいかな?」

 

 スマホを取り出し、恭弥に電話をかける。ぷ、というコール音の始まりの音を少し聞いただけで、恭弥は電話に出た。

 

「やぁ恭弥。今屋上にいて僕らを見下ろしてるところだと思うんだけど、どう?」

『言いたいことはそれだけか』

 

 屋上を見ると、修羅二人と隣で爆笑している女の子がいた。ほらね? と目だけで夏野さんに伝えると、悔しそうに肩を震わせて僕を睨みつけてくる。

 

「ちなみにやましい話は何もしてないよ」

『殺してやるって言ったのが聞こえなかったのか?』

『氷室。もうそいつに喋らせる必要はないわ。いえ、そうね。織部くん、地獄で会いましょう』

『アハハハハハ! 逃げた方がええで千里! 足速いんやろ? ククッ』

 

 会話が通じなさそうなので電話を切る。屋上の方を見ると、僕を見下ろしてから二人が屋上から姿を消した。恐らく僕を消しに来るんだろう。あーあ。僕はここで終わりだ。

 

「じゃあそういうことだから。僕は逃げるね」

「……あれ? なんで、恭弥が怒ってたの?」

「僕が薫ちゃん好きって言っておきながら、夏野さんと二人きりになってたからでしょ」

 

 納得する夏野さんに、相変わらずよく回る口だなと自分で思う。別に、どっちもお互いのことが好きなんだから言っちゃってもいいんじゃないかって思ってしまうが、こういうのは自分で気づくものだろう。

 それに、岸さんのプランもある。それがどんなものかはわからないけど、僕はあくまで中立だ。誰の味方でもないけど、誰の味方にもなる。結局、僕にとっては恭弥が幸せならそれでいいんだ。

 

「あ、あとさ。まだ恭弥と朝日さんが付き合ってるって思うなら、考えてみてよ」

「え、なにを」

「朝日さんがさ。夏野さんが本当に傷つくようなことすると思う?」

 

 あ、と小さく声を漏らして夏野さんが固まった。

 

「親友ならさ、信じてあげなよ。疑ってもいいけど、今までの自分たちを考えてみたら最後には絶対信じられるから」

 

 僕の親友だって今は怒って僕を殺しにこようとしているが、頭の片隅では僕が夏野さんとやましいことをしていないってわかってる。まぁ、今回の場合は夏野さんと二人きりになったっていう事実だけで殺しにきてるんだろうけど。

 

「織部くん!」

「ん?」

「ありがと!!」

 

 夏野さんに背を向けて走り出すと同時に声をかけられて、振り向くと綺麗な、太陽に照らされる花のような笑顔でお礼を言ってくれた。それに手をひらひら振って返すと、殺人鬼二人から逃げるために必死で足を動かす。

 

 ほんとにさ。親友どもは、親友のありがたみをわかってほしいもんだ。

 

「そう思わないかい?」

「選ばせてやろう。生きるか死ぬか」

「じゃあ」

「死になさい」

「選ばせろよ!」

 

 あっさり恭弥と朝日さんに捕まった僕はまた殺された。ループもの主人公かよ。

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