【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第60話 幼馴染はみた

 春乃から、ブレスレットが作れるところを教えてもらって、土曜日。

 この前織部くんをナンパから助けたルミナスにそれがあるらしく、私は下見にきていた。ほら、あの、どんなものが作れるかなーって見に行くだけで、春乃たちとは別のもの作れないかなーとも思っちゃったりして、あれは誕生日プレゼントだし、それとお揃いのものを作るのも違うかなーって思って。

 

 落ち着こう、深呼吸。

 

 うん、最近なんか春乃どころか光莉もちょっと怪しくなってきたし、恥ずかしがってなんかいられない。じみーに恭弥の隣行ったりしてるけど、向こうは意識してくれてるかわかんないし、光莉との距離すごく近いし、放課後教室で勉強してる時も二人でじゃれ合ったりしてるし。その時は織部くんも混ざるけど、やっぱり光莉は恭弥とだけ距離近いし。

 

 うー。やめよ。光莉は恭弥のこと好きになることはないって言ってたし、織部くんも言ってた。親友なら、信じないと。

 

 油断ならないのは、春乃。最近恭弥と距離を詰めていってる気がするから、警戒しておかないと……でもサポートしてもらったしなぁ。でも春乃も全力でぶつかりたいって言ってたしなほわああああああ。

 

 目の前に飛び込んできた光景に、慌てて物陰に飛び込む。いた。恭弥と春乃がいた。でーとだ。デートだ!

 

「光莉! ルミナスにきて!」

『もう向かってるわ』

 

 なんでも私から「ルミナスにきて」って言われる気がして向かっていたらしい。ちょっと怖いよ。

 

 

 

 

 

「さて、状況を説明してもらえる?」

「なんでメスがいるのよ」

「なんで僕がいないと思ったの?」

 

 やれやれ。恭弥いるところに僕あり。そもそも、僕自身恭弥の恋を応援しようと決めてるんだ。あらかじめ薫ちゃんに『恭弥に動きがあったら教えて』って言ってるから、今日だって朝に『兄貴が出てったよ。ルミナスに行くって』と聞いたからここにいる。元々恭弥と岸さんの姿を捕捉していた僕にとって、夏野さんと朝日さんを見つけるのは容易だった。天才過ぎるな、僕。

 

「ムカつくからあとで殺すとして、なんで私を呼んだの?」

「それがね、恭弥と春乃がデートしてて、それで」

「あれ、今僕の命があっけなく散ってなかった?」

「当たり前じゃない」

 

 当たり前? そう。僕もそんな気がしてたからこれ以上触れないでおこう。僕が傷つくだけだ。

 

 もじもじしている夏野さんに、朝日さんは腰に手を当てて呆れたようにため息を吐こうとして夏野さんの可愛さに負け甘やかしモードに入ろうとしていた。すかさず僕が朝日さんを止め、口を挟む。

 

「あのね、夏野さん。恭弥と岸さんがデートしてるのはわかるけど、それでどうしたいの? 邪魔したいの?」

「えっと、それは」

「ちょっと! 何日葵をいじめてんのよ!!!??」

「厄介乳だけお化けは黙っててくれないか」

 

 僕が黙らされた。処理を終えた朝日さんが手についた埃を払い、夏野さんに向き直る。

 

「でも織部くんの言うことももっともよ。日葵が氷室のことが好きっていう忌々しい事実は知ってるけど、春乃もそうじゃない。恋は平等よ。まぁその権利を掴みに行けばの話だけど」

「……」

「おい、僕と同じようなこと言うなら僕をぼこぼこにする理由ないじゃないか」

「厄介乳だけお化けって言ったわよね?」

「それか……」

「なんでそれ以外だと思ったのよ」

 

 言われなれてるかと思って。でもそうだよね。女の子に対する言い方じゃなかったね。君も男に対する扱いしてこないときあるからお相子だと思うけど、僕は男だから寛大な心で許してあげよう。クソ女め。

 

「あ、ちなみに僕も岸さんが恭弥のこと好きって知ってるからね。見てればわかる」

「状況的にそうなるものね。織部くんがバカなら話は違ったけど」

「っていうか恭弥に対する態度見てたら、大体の人の好感度わかるんだよね」

「こわ」

「あ、それはわかる」

「ひぃ」

 

 朝日さんが怯えてしまった。いや、でも考えてみてよ。夏野さんみたいな聖人ならみんな好意的に接してくれるだろうけど、恭弥みたいなドクズに対してはみんな好意的じゃない。むしろ好意的に接する人の方が少ないくらいだから、自然と恭弥に対する好感度が見えてくる。

 

 今のところ、夏野さんからは恭弥に対してすきすきオーラが出ていて、岸さんからもすきすきオーラが出ていて、朝日さんからはぼんやりとしたすきすきオーラが出ている。うーん、なんか朝日さん最近怪しいんだよなぁ。今度突っついてみようかな。いや、おっぱいじゃなくて。

 

「……なら、邪魔しちゃ悪いかな」

「逆よ。邪魔していいの」

「うん。今のところ恭弥は誰の彼氏ってわけでもないんだから、いいんじゃない?」

「で、でも、私が恭弥とデートしてたらって考えると」

 

 ぼんっ! と音を立てて顔が真っ赤になり、目をくるくる回し始めた夏野さん。自分が恭弥とデートしてたらって考えると邪魔されるの嫌だからって言おうとしたんだけど、恭弥とデートしてるところ想像して恥ずかしくなったんだね。なんだこの可愛い人は。朝日さんが可愛さのあまり吐血したじゃないか。

 

「それなら、今度夏野さんから恭弥をデートに誘うしかないね。それで岸さんとイーブンだ」

「わ、わた、わたしが、恭弥を?」

「な、なつ、夏野さんが、恭弥を」

「あんた、日葵をバカにしたわね?」

「か、かげ、過激派すぎる……」

 

 襟首を掴まれて持ち上げられる僕を見て、夏野さんが必死に止めてくれる。この感じだと夏野さんが恭弥をデートに誘っても朝日さんが邪魔しに行くだろう。それを止める権利は僕にはないけど、この親友の可愛らしい幼馴染のためなら僕は絶対に止める。

 そうすれば僕と薫ちゃんのこと認めてくれるかなっていう気持ちもなきにしもあらず。へへへ。

 

「うー、だって、今恭弥と春乃がやってるみたいに、ふ、二人でカフェに入って、二人で楽しくおしゃべりして、みたいなことしないといけないんだよね?」

「デートは人それぞれよ。楽しくおしゃべりしなくても心地いいってこともあるし、あぁいう風にする必要はないわ」

「はは。付き合ったこともないクセに知った風な口叩いてて滑稽だね」

 

 今僕首つながってるよね? よし。見えない速度でビンタされたから心配になってしまった。そんな怒らなくても、朝日さんの言ってることは間違ってないから自信持っていいのに。

 

「そうね、私が氷室と行ってもあぁはならないだろうし、日葵が思うようにデートすればいいのよ」

「なんで光莉が恭弥と行ったらっていう仮定が出てくるの?」

「……ただの例えよ。例え。人それぞれっていうね? だから落ち着きなさい日葵。織部くん。私の体の一部の写真、どこでもいいからあげるわ。助けなさい」

「僕に任せてほしい」

 

 パチン、と指を鳴らして夏野さんの前に出る。その瞬間、夏野さんに顎を指で支えられ、少し持ち上げられた。顎クイというやつである。

 

「いい子だから、どいて」

「はぃ……」

「このメス! 何へたりこんでるのよ! ほんとどうしようもないメスね!!」

 

 だって、無表情の夏野さんが怖カッコよかったんだもん! 僕悪くないもん! あんなのされたら誰だってメスになるよ! 僕が一際メスのポテンシャル高かっただけで……ぐすん。もういいし。僕には薫ちゃんがいるし。

 

「さぁ、私が納得するような言い訳してみて」

「言い訳していいわけ?」

「ふふふ」

「ごめんなさい! ちょっとふざけたくなっちゃって、ほら、こういう時ってユーモアが大事でしょ!?」

 

 そんな、朝日さんの激うまジョークが効かないなんて! まぁあんなゴミみたいなダジャレをよくこんな場面で言おうと思ったものだ。やっぱり朝日さんはおかしい。恭弥とタメを張れる。

 朝日さんが諦めたのか、胸の前で十字を切ろうとしておっぱいに邪魔されて、ぷるんと揺れた。よし。

 

「何ガッツポーズしてんだ千里」

「あ、恭弥。聞いてよ。朝日さんの胸が揺れたんだ」

「何……?」

「神妙な面持ちで『何……?』ちゃうねん。どういう状況?」

 

 結構前から僕たちに気づいていた恭弥と岸さんがへたり込んでいた僕を起こし、状況を聞いてくる。なんで気づかれたかって言うと、そもそも僕が二人からぎりぎり見えるような位置にわざといたからだ。恭弥なら、その意味を正しく理解してくれると思ったから。

 

「あ、氷室! 氷室ー!」

「おい、どうした朝日。なんか目の前に怖い顔した日葵がいるけど」

「ふふふ」

「光莉。日葵がなんか聞きたそうにしてるで」

「誤解なの! そしてここは二階なの! えっと、詳しくは何も言えないけどとりあえず助けなさい!」

「何をどうやって?」

「あとここ三階やで」

 

 朝日さんが恭弥を盾にしたから、夏野さんが余計怒っている。この前親友を信じたらって言ったけど、信用できないような動きめっちゃくちゃしてるしなぁ。二人は異性の親友って感じなんだろうけど、傍から見るとそうは見えない。自分に自信がなさそうな夏野さんからすれば、結構不安なんだろう。

 

「ん-、あ、そういやそうだ」

 

 その不安を取り除けるのは、この場では恭弥だけだ。あるいは僕でも可能かもしれないが、ここで僕がでしゃばる必要はないだろう。

 

「日葵。ちょうどいいからブレスレット作りに行くか? お揃いの欲しいって言ってただろ」

「ぇ」

 

 これをいつもやってればいいのに、と肩を竦めると、いつの間にか隣に来ていた朝日さんも一緒に肩を竦めていた。おいクズ。「逃げ切った」みたいな顔してんじゃねぇよ。

 

「岸もいいか?」

「ん? ええで! みんなで一緒の方が楽しいやろし!」

「ん、悪いな」

「気にせんでええって」

 

 笑いながら横腹をつつく岸さんを、羨ましそうに見つめる夏野さん。

 

 そんなに羨ましいって思うなら、そろそろ自分から行動すればいいのに。ほしいものには強欲に行かないと、ね。朝日さん。

 

「は? 何こっち見てんのキショいのよあんた」

「やってやろうじゃないか」

 

 負けた。腕一本に負けた。泣いている僕は恭弥に背負われ、周りの視線を一身に受けながらルミナス内を回った。

 いいし。あとで薫ちゃんに慰めてもらうし。あ、恭弥、なに? お前薫と連絡とってるだろって? ははは、恭弥の許可なしにそんなまさか。ただごめんなさいと言わせてほしい。

 

 許されなかった。僕の分のブレスレットには『メス』と刻まれた。泣いた。


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