【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい 作:とりがら016
「ねぇねぇ聞いて聞いて土曜日私美人に助けられちゃってぐふぅ薫ちゃん今日も可愛いむり……」
「もう慣れて」
月曜日、教室。家では兄貴がうるさいから、その分できない勉強をしていると、仲良しの友だち……兄貴風に言うと親友である
出会いは中学二年生の時。ゆりが転校してきて、私を見つけた瞬間膝から崩れ落ちて「この世の宝……」と言ったことから。おかしな人をどうにも放っておけないようになっているらしい私は、ゆりと一緒にいるのが普通になった。
「それで、どうしたの?」
「あ、そう! 土曜ね、ルミナスでね、美人さんにね、ナンパから……ナンパから助けてもらったの私。あぁぁぁしぬ。今思い出しても美人すぎてしぬ。薫ちゃん。一人は寂しいから、私の葬式では隣で寝てて」
「一緒に火葬されろってこと?」
「あぁー!! 薫ちゃん死んじゃやだー!!」
座っている私に飛びついて、大股開いて私の上に乗って体を擦りつけてくるゆりに男子の目線が集まるのを感じ、一睨みして男子から視線を外させる。まったく、油断も隙も無いというかゆりは油断も隙もありすぎる。かわいい女の子なんだから、もっと自分が見られてるってこと意識しないと。
「落ち着いてゆり。美人さんに助けてもらったの?」
「助けてもらったのぉおおお。あのねあのね、金髪で身長高くて、すっごいカッコいいのにすっごい可愛くて!」
何か思い当たる節がある。兄貴からよく聞く友だちの話でイケメンで可愛い女の子がいるって聞いたことがある。
日葵ねーさんは金髪じゃない。朝日さんも金髪じゃない。千里ちゃんも金髪じゃない。ってなるとっていうか最初から選択肢は一つしかなかった。
岸さん。すっごくカッコよくて、すっごく可愛い人。見た感じ兄貴のことが好きみたいで、その趣味はどうかと思うけどあの人が兄貴のお嫁さんになってくれるなら安心だ。それは日葵ねーさんにも同じことが言えるけど。
「そしたらね、デートの待ち合わせしてたみたいで、すっごくカッコいいお兄さんが、あぁ美男美女。あの時あの場所がこの世の果て。あれ薫ちゃん、なんで死んでるの?」
「ゆりは死んでないから。幸せで極楽浄土に行ってないから」
ぽんぽんと背中を叩き、頭を優しくなでると「むふー」とご満悦。感情が常にクライマックスなジェットコースターみたいな子だけど、ゆりはすごくいい子で可愛い子だから好きだ。でも、兄貴にゆりの話をすると絶対「何? 薫の親友? スーツで挨拶するか」と言いかねないし、ゆりも兄貴は顔がいいから「ウェッ、薫ちゃんのおにいたま美男すぎ……すき……」ってなりかねない。お互いのために知り合いにならない方がって。
岸さんがデートの待ち合わせで、相手が美男? もしかして、
「ねぇゆり。その男の人がどんな人だったかって覚えてる?」
「えっとね。身長高くてスタイルよくて、髪が短くてキリッとした目で、でも全然怖くなくて優しそうな感じで」
今のところ全部当てはまっている。兄貴は身長高くてスタイルがいいし、質の固い短めの髪にキリッとした目つき。そして全然怖くなくて優しい。ほぼ決まりだろう。
「あ、それでね。お礼したいなーって思ってお名前聞こうと思ったんだけど、『次会った時、いっぱい仲良くして?』っておねーさんに言われちゃってあがががががが」
恐らく岸さんであろう人のイケメンをその身に受け、それを思い出したゆりが壊れてしまった。よくあることなので放置し、ゆりの体越しに勉強を再開する。
恐らくというか、絶対岸さんと兄貴だ。兄貴はルミナスに行くって言ってたし、その日の夜千里ちゃんから『恭弥と岸さんと合流。夏野さんと朝日さんもいるよ』って楽しそうに騒いでる五人の写真が送られてきたし。
どうしよう。私としてはゆりと兄貴を合わせたくないんだけど……兄貴がクズ過ぎて幻滅されても困る、というか私が嫌だ。ほんとは優しいのに、クズが目立つから兄貴が悪く言われるのは嫌い。ゆりがそんな子じゃないってわかってても、万が一を考えたらちょっと怖くなる。
「はっ! どうぞご指導ご鞭撻のほど!」
「おはようゆり」
「えっ、薫ちゃんからおはようって言ってもらえた幸せこれで悔いはない」
「ゆり、起きて」
「しゃきーん! 薫ちゃんの目覚ましでゆりちゃん完全復活! あれ、何の話してたっけ」
「美人さんなおねーさんと美男のおにーさんの話」
「そー! 私どうしてもお礼したくてというよりどうしてももう一度会いたくて! これじゃあ勉強にも手をつけられないの! お願い薫ちゃん! 協力して!」
「……今日の17時から空いてる?」
気は進まないけど、大丈夫だとは思う。ゆりと兄貴を信じよう。
「ん? 空いてるよー!」
「ん。ちょっと待ってて」
ほんとはよくないけど、スマホを取り出して兄貴に電話する。コールが鳴った気配すらなく兄貴が神速で電話に出て、『どうした?』と聞かれる。私が朝学校から電話をかけることなんて一度もなかったから心配してくれてるんだろう。なんとなく焦りと心配が伝わってくる。
「兄貴。今日家に友だち連れて行ってもいい?」
『ん? いいぞ。懐石料理作って待っとくわ』
「やめて。それでね、岸さんも連れてこれる?」
『岸を? なんで……あぁ、もしかして土曜日の?』
「ん」
『おっけ。ちょっと待っててな』
電話の向こうから「おーい岸ー」と岸さんを呼ぶ兄貴の声が聞こえる。しばらくすると、てってってっと軽快なリズムを刻んだ足音が聞こえ、「岸さんやでー」という岸さんの可愛らしい声が聞こえてきた。多分兄貴から呼ばれて嬉しいんだろうな。かわいい。
『薫が今日家にきてほしいって。ほら、土曜日の』
『ん-? ほえー。すごい偶然もあるんやなぁ。薫ちゃんのお友だちやったんや。もちろんおっけーやで!』
「兄貴。岸さんにありがとうございますって伝えておいて」
『聞こえてるで!』
「もしかしてスピーカーにしてない?」
『あぁ。朝日に見つかって千里にも見つかって、スピーカーにしろって二人からシャーペンを首に突き付けられたんだ』
『おはよう薫ちゃん。今日は私も行くわね』
『もちろん僕もね』
『私も行くねー!』
やっぱり日葵ねーさんもいたんだ。ってなるとこれはまずい。
ゆりは可愛いとかカッコいいとか美人とかそういうのに弱いどころの騒ぎじゃない。で、あの五人は美男美女の集まり。多分ゆり死んじゃうんじゃないかな。
「ありがとね、兄貴」
『ん? 気にすんな』
じゃあ、と言って電話を切る。最近、放課後学校に残って勉強してることは知ってるからちょっと申し訳ないけど、兄貴のことだからそんなことを言っても「場所が変わるだけだろ?」って言うに決まってるから、自己満足のお礼だけ伝えた。ほんとに、私には優しいから。
「おにーさんと話してたの? すっごいにこにこしてたけど」
「……うん。あとにこにこはしてない」
「してたよー。みんな薫ちゃんが可愛すぎて悶え死んじゃったんだから」
え、と周りを見てみると、男子は一斉に私から目を逸らし、女子はうふふと笑っていた。顔が熱くなる。ほんとににこにこしてるつもりはなかったのに。
「おーよしよし。恥ずかしかったねー。あ、可愛い薫ちゃんが私の腕の中にだめだしんだ」
「むぐぐ」
私の頭の後ろに腕を回し、意外と大きい胸に顔を押し付けられる。恥ずかしがってる私の顔を周りから隠そうとしてくれてるんだろうけど、これはこれで恥ずかしい。あと私を抱きながら死なないでほしい。
……これで死にかけてるんだから、放課後どうなるんだろう。供養の準備はしておこうと胸に誓い、息が苦しくなってきたのでゆりの腕をタップした。
「ナンパから助けた?」
「そう、岸がな」
放課後、帰り道。五人一緒に住宅街を歩き、そういえば今日家に行く理由を説明してなかったなと思い、別に千里と朝日だけだったら説明しなくてもよかったが、日葵がいるから説明する。感謝しろよクズ二人。
「ルミナスって結構多いよね、ナンパ。中学の頃から一人で行かないようにって言われてたし」
「は? 日葵ナンパされたことあるの? 教えなさい。そのナンパしたやつを絞め殺すから」
「私はないよー」
「はぁ!? 日葵をナンパしないなんてほんと見る目ないわね!」
「お前をナンパするなんてほんと見る目ないよな」
右足がないんじゃないかと思ってしまうくらい感覚がなくなったので、千里に肩を貸してもらう。そんなに怒らなくてもいいじゃん。冗談だって。朝日は魅力的で素敵でおっぱいが大きいからナンパされるのも無理はない。ここポイントな。
「そういえば朝日さん、恭弥にナンパから助けてもらったんだよね」
「そうなん? やっぱ氷室くんでも人の心はあるんやな」
「岸は俺を植物かなんかだと思ってるのか?」
「助けてもらったっていうか、氷室のおかしさに向こうがビビッて逃げていったっていうか」
「えー、でも助けてもらうのいいなぁ」
「ん? 羨ましいん? 日葵」
「あ、えと、ナンパから助けてもらうのって女の子の憧れというか、ね!」
「それ私に聞くん?」
イケメンの岸に聞いても無駄だぞ。岸は絶対に助ける側だから。ナンパされたとしても絶対にうまいことかわすから。ほんとに弱点ないなこいつ。弱点まみれの千里を見習えよ。まず男なのにメス。最大の強みであり弱みでもある。
この中でナンパに弱いのは千里と朝日だな。千里はメスだし、朝日は気が強いけど意外と怯んだらそのまま、みたいな感じになりかねない。まったく、二人とも俺が守ってやらねぇとな。
「もう帰ってるかな薫」
「開けたらわかるでしょこのゴミ。さっさとしなさい」
「乳くせぇな。ちゃんと搾ってきたか?」
後ろで修羅が誕生した気がするが、その対応を日葵と岸に任せて鍵を開ける。ちなみに千里は鍵を開ける俺の前に逃げ込んだ。お前、そんな縮こまったら可愛いからやめろ。
修羅から逃げるためにドアを開け、中に入る。うしろで「光莉、落ち着いて。ね?」と優しく日葵が言うと「ばぶぅ」と光莉が気色の悪い声で鳴き始めたので、多分もう大丈夫だろう。
「ん? あぁ、薫の友だちか」
ドアを開けると、ちょうど階段から降りてきた、土曜日岸が助けた女の子と目が合った。俺の後ろからみんなが続々と「おじゃまします」「ただいま」と言って入ってくると、女の子がガタガタ震え始める。
「お。やっほ。思ったより早く会えたなー」
「あ、あぁ」
女の子だけ地震に遭ったんじゃないかと思うくらい震えたかと思うと、目の焦点が合わなくなり、やがて膝から崩れ落ちて階段を転がり落ちる。なんとなくそうなるだろうなと思ってあらかじめ階段下に待機していた俺は、女の子が怪我をしないように受け止めた。俺、この体勢に日葵となりたいのに。
「ば、うわぁあああああ!! 神級美男美女アイドルグループだぁああああああ!! 神様お父さんお母さん私をこの世に生み落としてくれてありがとうもう死ぬね私死ぬねうふふふふ」
「仲良くできそうだね」
「間違いなくこちら側だわ」
クズ二人と同時に、俺も頷いていた。向いてるよ、俺たちに。