【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第62話 さわげ!

「え? この顔で男? うそ神秘。どう見ても女の子なのにすごいかわいい」

「やってやろうじゃないか」

「ゆりちゃんが100%正しいからやめとけ」

「どっからどう見てもメスなんだから受け入れなさい」

 

 俺の家、リビング。薫の勉強を邪魔して申し訳ないと思いつつ、俺たち五人と薫、ゆりちゃんで駄弁っていた……と言っていいのだろうか。

 ゆりちゃんが俺たちを見ては悶え見ては悶え。どうやら見た目がいい男女を見るのが好きらしく、「やば、カッコよ。美しい。綺麗。可愛い」とぶつぶつ呟き続けている。俺たちは見た目だけはいいからな。日葵と岸は中身も完璧だけど。

 

「はぁ、ったく。年下の子がいるんだからちょっとはまともに振舞おうとは思わねぇのか?」

「恭弥。なんでスーツ着てるの?」

「は? 薫の親友がいるんだから当たり前だろ」

「恭弥ずるい。私もスーツ着たいのに」

「はぁああああスーツ姿のお兄様カッコいい結婚してほしい」

「薫ちゃん苦労してんねんなぁ」

「とても」

 

 正直、安心した。薫は友だちの話をまったくしないから、もしかして俺のせいで孤立してるんじゃないかって思ってたんだ。だから、ゆりちゃんが「すすすすす薫ちゃんの親友の天海ゆりですぅううう!!」って言ったとき心底安心した。急いでスーツを着た俺は何もおかしなことはない。

 

「まぁ確かにこいつら見た目はいいけど、騙されちゃダメよゆりちゃん。中身はとんでもなくクソなんだから」

「ほわあああ勝気な感じなのに身長低くて可愛くてお胸おっきいかわいい」

「薫。この子は話を聞かない子なのか?」

「私とも時々会話できない時あるから」

 

 顔がいい男女に目がないなら、当然薫もその対象だろう。学校に行けば毎日会うはずなのにまだ慣れないとは、筋金入りがすぎる。朝日が日葵のこと好きなのと同じレベル、いや表に出すぎな分ゆりちゃんの方がヤバいかもしれない。

 

「そや。また会えたし連絡先交換せえへん?」

「春乃様と!!!?? 私が!!!?? そ、そんな、いいんですか? 私の連絡先を春乃様のスマホに登録するなんて、クソ塗りたくるのと一緒ですよ」

「大丈夫でしょ。氷室の連絡先が入ってるんだから」

「ははは。朝日の連絡先も入ってるしな」

「「は?」」

「なかよし……むり、尊い……」

 

 立ち上がって睨み合っていると、ゆりちゃんが顔を覆って倒れてしまった。俺たちのどこが仲良しに見えたんだろうか。仲悪くはないけど、一触即発だったろ。どう見ても喧嘩一歩手前だったろ。

 ただ、仲良しと言われたら喧嘩してしまえばそれを否定してしまうことになるので、朝日と頷き合ってそっと座った。俺は年下には優しいんだ。素敵すぎる。

 

「なーなーゆりちゃん。連絡先交換してくれへんの?」

「ひぃ! 美しすぎる顔が近づいてきてる! ごめんなさい、私はあなた様の隣に立てる、ましてや同じ空間に存在してはいけない矮小な存在なのです。ゆるしてゆるして」

「えい」

「ぴゃあ!?」

 

 倒れているゆりちゃんの顔を覗き込んだ岸は、何やらぶつぶつ言っているゆりちゃんにそっと覆いかぶさった。あいつほんとおちょくるのというか、からかうのというか、いじるの好きだよな。朝日も千里もすぐターゲットにされていじくりまわされてたし、もうそういう趣味なんだろう。エッロ。

 

「残念だったな千里。いじくる対象が変わって」

「ははは。僕は男だからね。そもそも女の子にいじくり回されるなんておかしな話だったんだ」

「え? あっ、ごめんね?」

「ちなみに今の日葵の『ごめんね?』 はナチュラルに織部くんが女の子だと勘違いしてたことに対する『ごめんね?』 よ」

「嘘だろ……」

 

 体中の穴という穴から千里の魂が抜けていくのが見える。日葵って無意識に人の急所を抉ることあるからなぁ。急所抉った後慌てて「ちがうのちがうの!」って手をわたわたさせるのがたまらなく可愛い。俺の嫁になってほしい。

 

「ぐすん。傷ついた。慰めて薫ちゃん」

「いい度胸じゃねぇか」

「織部くん。私は暴力振るわないから安心してね?」

「朝日さん……」

「私でも止められないわ。安易に薫ちゃんの名前を出したことをあの世で悔いなさい」

 

 朝日がまた胸の前で十字を切ろうとして胸に当たり、ぷるんと揺れたのを千里が目を光らせて凝視していたことで薫にも見捨てられ、日葵の呪詛の如き囁きにより千里は抜け殻になった。一体何を言われたんだ……? っていうか日葵に耳元でぽそぽそ言われるの羨ましすぎる。やっぱ殺そうこいつ。

 

 朝日が既に手を下していた。早業がすぎる。

 

「おっしゃ連絡先ゲット!」

「汚された……いや洗われた? 春乃様と関わって汚れること絶対ないもん。洗われた。洗われちゃった私」

 

 死骸になった千里を薫がつついてるうちに、向こうの攻防も終わったらしい。満足気な岸が明るい笑顔で、顔を真っ赤にしたゆりちゃんが口の端から声を漏らしている。あの子本当に耐性ないんだな。あそこまで正直だと、普通だったりブサイクだったりの顔してる人がゆりちゃんと関わったらその人傷つくだろ。自分は美しくないんだって。

 

「今度遊ぼうな? でも受験生やっけ」

「受験なんて知ったこっちゃないです! 春乃様と遊べるのであればそれ以上に大事なことなんてありません!!」

「私は?」

「うそうそうそうそ薫ちゃんが一番大事すきー!」

 

 ちょっと寂しそうな薫に、ゆりちゃんが異次元の跳躍を見せ飛びついた。そのまま二人揃って床の上に倒れ、ゆりちゃんが薫の肩にぐりぐりと頭を押し付けている。

 

「氷室。私もアレを日葵にやろうと思う」

「胸が邪魔で無理だろ」

「あら、なんなら試してみる?」

「は? お願いしま」

「氷室くーん?」

「光莉ー?」

「「はいっ!」」

 

 にこにこ。笑いながら俺たちの名前を呼んだ日葵と岸に、俺と朝日は姿勢を正しながら縮こまる。あはは。違うんですよ。これは、ね?

 

「ちょっと、あんたがなんとかしなさいよ」

「お前が変なこと言うからだろ」

「あんたがセクハラするからでしょ」

「んなこと言ったらお前もセクハラだろ。ところで本当にやってくれるんですか?」

「あんたはウンコで体を洗えって言われてできるの?」

「夏野さん、岸さん。この二人は有罪だ。存分に裁いてあげて」

「テメェこのメス何起き上がってきてんだコラ!!」

「あんたは部屋の隅でケツひくひくさせて口から涎垂らす置物にでもなってなさいよ!!」

「生きる価値のねぇクズが!!」

「ほんと、死んだ方がいいんじゃない?」

「起き上がっただけなのにこの仕打ち」

 

 もちろん、俺たちは裁かれた。朝日は日葵に耳元で「変態」と囁かれ大興奮の後死滅し、俺は岸に「氷室くん、そういえば男の先輩に熱い視線送られとったで」と正面から言われ深く傷つき床に顔を擦り付けるくらいダメージを負った。そんな。その役回りは千里のものじゃないのか? 何? イケメンをとるか可愛いをとるか? 知らねぇよそんな世界俺に知らせないでくれ。

 

「ごめんねゆり。騒がしくて」

「ん-ん! 楽しくて綺麗で面白くて可愛くてカッコよくて、え? 私今から殺されるの?」

「死刑の前にいい思いさせるとかそういうのじゃないから」

 

 少し服装が乱れた薫を見る千里を日葵と一緒に処刑し、また落ち着いてテーブルを囲む。約一名また消えていったが、いつものことだから誰も気にしない。ちょっと前までは俺と一緒にやられてたのに最近お前ばっかだな。ざまぁみろ。

 

「にしても、こんなに褒められると流石にちょっと照れてくるなぁ」

「褒め足りないくらいですというか褒めてるつもりもなく事実をただ述べているだけです!! お兄様はカッコいいし春乃様はカッコよくて可愛いし日葵様はあったかくなるし可愛いし光莉様は乙女で可愛いし!」

「ちょっと、褒めても何も出ないわよ?」

「おいおい、ゆりちゃんはそういうつもりで言ったんじゃねぇよ」

「なんで二人とも財布から万札出してるん?」

 

 気分がよくなっちゃって……。

 

「でもすごいね。あんまり光莉と話してないはずなのに、乙女だってわかるんだ」

「え? だって私的に一番可愛いですもん。表に出ない可愛さって破壊力すごくないですか? 時々お兄様に対してすっごく可愛くなってますもんはぁすてき」

「へぇ」

「ふぅん」

「今のは私悪くないと思うの」

「俺もコメントしづれぇよ」

 

 何? 俺が悪いの? そりゃ朝日も女の子なんだから、異性に対して意識するときくらいあるだろ。この中で男って言ったら俺しかいないんだし許してやってくれ。あとゆりちゃんは正直すぎるし思ったことをすぐに言うクセを治してくれ。いや、治さなくてもいいけどちょっと気を付けてくれ。俺たち全員厄介なもん抱えてるんだから。

 

「それに薫ちゃんの新しい一面見れてすごく嬉しいですまさか薫ちゃんが千里様のこと」

「あー! わー!」

 

 珍しく大声を出してゆりちゃんの言葉を遮り、薫が慌ててゆりちゃんの口を抑えた。ゆりちゃんが白目を剝いたのは「美少女の手がくちに、むり、しあわせ」ってところだろう。

 

 それにしても、この慌てよう。別に好きじゃないなら「何言ってるの」って感じでいいのに、慌てて止めるってことはつまりそういうことなんじゃないか?

 

「ふぅ、やれやれ。モテる男はつらいな」

「恭弥ぁ。私たちの薫ちゃんが女の子のこと好きになっちゃったぁ」

「落ち着け日葵。千里はメスだ」

「僕は男だって言ってんだろ!!」

「男なら薫を渡さないために死んでもらおう」

「僕はメスです」

「ちなみにメスでも死んでもらう」

「そんなことだろうと思ったよ!」

 

 逃げ出す千里、日葵に褒めてもらうために足をかけて転倒させる朝日、怪我しないように優しく抱きかかえ、衝撃を逃がす様にそっと床へ千里を寝かせる岸、床に寝た千里にまたがり拳を構える俺、スマホでカウンターを用意する日葵。

 

「待て。君の言うことを何でも聞こう。だから落ち着くんだ」

「金輪際薫に近づくな」

「それは私がいや」

「薫ちゃんの拒否を受けて氷室くんが死んだ!」

「ちょ、僕の上で死ぬな! 重い!」

「あれ、なんで寝てるん光莉?」

「え? 日葵が乗ってくれるのかと思って」

「美しさと動きの情報量が多い……しあわせ……」

 

 後日聞くと、俺は本当に白目を剥いて泡をふいていたらしい。千里のフェロモンと柔らかさしか覚えてないわ。


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