「さぁもう期末テストは来週ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか」
「僕は問題ないかな」
「私もまぁ」
「私もおっけーやで」
「むりぃ……」
案の定一人だけ問題ありの人を見つけた。
勉強できるかどうかで分けると、俺はできる、千里もできる、朝日もできる、岸はやればできる、日葵はやってもできないことがあるしできるやつはとことんできる。ただその振れ幅が大きいため赤点を取るのもちょくちょくある、というのは朝日情報。日葵は低得点が恥ずかしいらしく、まったく教えてくれない。
これが千里か朝日ならめっちゃくちゃにバカにしてやるのだが、日葵となれば話は別。ここはちゃんと俺が教えて「恭弥すてき。結婚して!」ってなるしかない。ふふふ。俺の未来は明るい。
「ふふふ」
約一名俺と同じことを考えているであろう乳デカクソお化けは無視して、日葵が座っている席に移動した。びくっと震えたのは俺のことが好きだから緊張して、だと思いたい。
「何が危なそうなんだ?」
「控えめに言うとね、ぜんぶ」
「国語もダメそうだね。控えめの意味もわからないらしい」
「は? 日葵が黒って言えば黒で白って言えば白、死ねって言ったら死ぬのよ」
「光莉が甘やかし続けてるのが原因ちゃうんかなぁ」
「日葵は甘やかしに甘えるようなやつじゃねぇよ」
「ほな実力ってことか」
「うえぇぇ……」
「日葵が泣いちゃったじゃない! 今パンツ脱ぐから待ってね」
「ちなみに涙では妊娠しないぞ」
え……? とスカートの中に手を入れて固まった朝日から目を逸らす。お前男が俺しかいないからって無防備すぎだろ。まったく、俺はお前なんかに興味がないからお前のパンツを見たってなにも思わないし、むしろ気持ち悪いくらいだから別にいいけど。ところで朝日次の休み空いてるかな?
「本気は置いといて、日葵って好きなことに対しては飲み込みすごく早いのよね」
「置いとくのは普通冗談ちゃう?」
「数学って何の役に立つの……日常生活で絶対使わないよ……」
「∀」
「あー! 恐らく数学で使う記号みたいな笑い方したー!」
「氷室、今のどうやったの?」
「いや、日常で使うよってことアピールしようと思って」
「使い方完全にちゃうやろ」
「このバカが勉強できるっていうんだから世の中不公平よね」
まぁでも俺は勉強したその時は問題なく試験突破できるけど、しばらくしたら全部忘れるからあんまりいい頭はしていない。その点千里なら一度覚えたことはほとんど忘れないし、勉強の仕方なら千里に聞いた方がいい気もする。
ほら、俺はなんとなくできちゃうけど千里はちゃんと理解してできるから。
「仕方ないわね。私が教えてあげるわ」
「夏野さん、やめた方がいいよ。きっと見返りにものすごいもの要求されるから」
「しないわよ。婚姻届けに判を押してもらうだけだから」
「人生の一番の選択を勉強の見返りに求めてんじゃねぇよ」
「光莉って日葵のこと引きずって一生結婚できなさそうやなぁ」
「日葵は私と結婚するんだもん!」
「しないよー」
「あの、なんだ。お前は可愛いしいいやつだし、絶対いい人見つかるって。な? だから泣くな」
「ふぇ、ひっ」
泣き出した光莉が泣きながら俺の方によちよち歩いてきたので、頭をぽんぽん撫でて慰めてやる。よしよし。日葵に結婚しないって言われるなんてこの世の終わりと一緒だからな。俺にも気持ちがよくわかる。だからひ、朝日も俺の気持ちをわかってくれ。今日葵と岸がめちゃくちゃ怖い目で俺たちを見てるから。
「ほら、なんなら俺が朝日に合うやつ探してやるよ。どんな人がいいんだ?」
「日葵みたいなひと……」
「日葵が子ども生むしかあらへんな」
「え? それって日葵が男とセックスするってこと?」
「ひ、光莉! はっきり言わないで!」
「許せない……あ、この世の男を根絶やしにすればいいんだわ」
「待て! 俺さっきまでお前のこと慰めてただろ!」
「せめてもの情けでおっぱいで殺してあげるわ」
「なんだって!?」
「アホが釣れとんな」
千里がシンプルに締め上げられているのを見て、やはり嘘だったということを確信する。おっぱいで殺すって言って釣っておいて普通に殺してくるなんて悪魔だあいつは。危うく「お願いします!」って言うところだった。
「次はあんたね」
逃げ切ったと思ったのに……。
「朝日、落ち着け。俺はお前のためならなんでもするし、足を舐めて忠誠を誓ってもいい」
「いやよ。あんた足に興奮するタイプの変態に決まってるからご褒美になるじゃない」
「どさくさに紛れてご褒美を貰おうとしたことは謝る! でも俺はお前の味方だ!」
「ほんまなんかい」
「足かぁ……」
いや、朝日ほど可愛い女の子なら正直便以外はご褒美にならね? 俺だけ? もしかして俺すごい気持ち悪い流れで特殊性癖暴露しちゃった?
おい岸、足組んでぷらぷらするな。お前基本的に何やってもエロいかカッコいいか可愛いんだから。ちなみに今は千里が復活するくらいエロい。
「ん? そういえばあんた、聖さんから靴下貰おうとしてたわね」
「恭弥。詳しく話を聞かせてもらおうか」
「違うんだ! あの、違うんだよ!」
「言い訳思いつかへんくらい事実なんやな」
いやほら、いやらしい気持ちはまったくないんだよ。ただいつも一緒にいるめちゃくちゃ可愛いけど男な千里によく似た正真正銘の女の人で美人で綺麗な聖さんから今はいてる靴下を貰えるってなったら誰だって頷くじゃん! 俺悪くないじゃん! むしろ男のくせに可愛くていい匂いして誘惑すらしてくる千里が悪いんじゃん!
「ちなみにちなみに、氷室くんはこの四人の中なら誰の靴下がほしいん?」
「特殊性癖AVの導入かよ。それ聞いてなんの得があんの?」
「ちょっと待って。今僕を数に入れなかった?」
「ぬ、脱いだ方がいい?」
「触ってみないとわからないこともあるから、その方がいいわね。私が渡すから脱いで私にちょうだい」
「渡すなよ日葵。そいつ日葵の靴下持って逃げるつもりのやべぇやつだぞ」
「食べるのよ」
「なおやべぇよ」
キショすぎだろこいつ。どう性癖を拗らせたらここまでおぞましくなるんだ? いい人見つかるって言ったけどこいつには一生見つからない。こいつのこういう部分を知ったら絶対逃げ出す。逃げ出さないのは俺か千里くらいのもんだろう。千里も「やばいねあさひさん」って棒読みで言ってるから、ちょっと理解できるところあるんだろうし。
「みんな落ち着こう。ちなみに僕は薫ちゃんの脚が綺麗だと思ってる」
「テメェ二度と薫に近寄るんじゃねぇぞ」
「土曜日勉強を教えるために君の家に行く約束をしています」
「薫。どういうことだ?」
『兄貴。いきなり電話かけてこないで。ゆりが死んじゃうから』
薫が一瞬で出るからいきなりになるんじゃないだろうか。そのせいでゆりちゃんが『お兄様の声!?』って八倍再生くらいで言って机をなぎ倒してぶっ倒れちゃうんだから。
『次の土曜日のことだよね? 千里ちゃんが教えてくれるって言うから、甘えよかなって』
「絶対邪魔してやる」
『兄貴邪魔だからお出かけしてて』
「もしもし薫ちゃん? 恭弥が死んじゃったからかわったよ。ちなみに織部くんは私が頼んで光莉と春乃に縛り上げて貰ってる」
「ヘルプ! ヘルプ!」
『……勉強してるんじゃなかったの?』
「あはは……」
もうだめだ。薫に邪魔って言われた。きっと千里とえっちなことするから俺に家にいてほしくないんだ。クソ、父さんに言ってやりたいが薫の邪魔をしたくない。俺だけは薫の敵であり最大の味方でいてあげたい。うぅうぅうううう。
『……集中できないならさ。土曜日日葵ねーさんの家で兄貴と勉強したら?』
「えぇ!!!?? わ、わた、私の家で、きょ、恭弥と!?」
「私も行くわよ」
「私も行くで」
「あ、そ、そうだよね……」
『日葵ねーさんかわいい』
「な、なにがぁ!?」
すべてが。
薫と話してる時の日葵は、なんとなく一番素が出る気がする。朝日や岸といるときも素っちゃ素だが、朝日はアレだし、岸はイケメンで頼れる感が強いし、なんだかんだ一番古くから日葵のことを知ってる女の子は薫だからな。気を遣う必要がまったくないんだろう。
『ふふ。別に強制じゃないからしなくてもいいよ』
「す、する。勉強しないと危ないし……」
『それならちゃんと頑張らないとね。兄貴。ふざけないでちゃんと教えてあげてね』
「薫ってもしかして俺のお姉ちゃんだったりする?」
「ちょっと出来すぎよね。ほんとに同じ遺伝子?」
「仕方ない弟を優しく見守る姉みたいな感じなっとるな」
「んー! ん-!」
『兄貴は兄貴ですよ。いっつも頼りにしてます』
「薫……」
感動したいところだけど、いつの間にか猿轡までされている千里が気になって仕方ない。そこまでしなくてもいいと思うんだけど、多分朝日が楽しくなっちゃったんだろう。ってか千里エロっ。女の子ですら出せないような色気出してやがる。今の千里を描写したら完全にR-18指定だ。
『じゃあね。ゆりを引きずって帰らないといけないから』
「あれ、もう完全下校時刻だったんだ」
『うん。日葵ねーさんも早く帰ってね。兄貴がいるから帰り道は大丈夫だと思うけど、気を付けて』
「私がついていくから大丈夫なのよ?」
「お前を送る手間が増えるからやめろ」
「ふーん。い、いい心がけね」
「光莉が女の子扱いされて照れとる」
マジでちょろいなこいつ。褒め続けた後に「おっぱい揉ませて」って言ったら揉ませてくれるんじゃねぇの?
頭の中でシミュレーションしてみたら俺の死体が見えたので、やめておこうと思う。ほ、ほら。俺は日葵一筋だから元々やる気なんてまったくなかったしね?
『兄貴も、みんなが許してくれるからってあんまり調子に乗らないようにね』
「薫も千里が家にくるからってハメ外さないようにな」
『はっ、外さないし!』
「外しとけ外しとけ。どうせ千里は血祭りにあげるんだから」
『……頑張ってね千里ちゃん』
その言葉を最後に薫との電話は終わった。千里が殺されないように目をうるうるさせて上目遣いで見てくるが、そんなことで俺たちの心が揺れるはずもなく拘束を解いて目いっぱいよしよしした。ずるいぞお前。