【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第65話 名前で呼んで

「おはよう恭弥」

「おうおはよう朝日……ん?」

「どうしたの?」

「え、いや、ん? あれ? うん? うーん、うんうん」

「うんうんうっさいのよぶっ飛ばすわよ」

「あぁ、朝日おはよう」

「さっき挨拶したでしょ」

 

 いや、なんか『恭弥』って呼ばれた気がしたから、もしかしたら朝日じゃないんじゃないかって思って。でもこの罵倒は間違いなく朝日だな。安心した。

 

 日葵とよく話すようになって、岸ともつるむようになってから解散した朝の作戦室。なにやら今日はつづちゃんが渡したいものがあるということで、久しぶりに俺、千里、朝日、つづちゃんの四人で集まっていた。俺と朝日にだけ渡すもんあるっつってんだからテメェはどっか行けや千里。薫と仲良しこよしでもしてればいいんじゃないですか?

 

「ふっふっふ。いやーお待たせして申し訳ございませんでした! お二人に渡す誕生日プレゼントが出来上がったので、お渡ししようかと!」

「ありがとうつづちゃん」

「なんで千里がお礼言うのよ」

「え? あれ、うん? いや、いやいや? いやいやいや」

「いやいやうっさいのよ幼児じゃあるまいし。死にたいの?」

「あぁ、朝日おはよう」

「もしかして私挨拶してなかった?」

「いや、してた。うん。気にしないでくれ」

 

 いや、なんか『千里』って呼んでた気がしたから、もしかしたら朝日じゃないんじゃないかって思って。でもこの罵倒は間違いなく朝日だな。安心した。なんか千里が笑い堪えてるのが気になるけど、どうせ大したことじゃないだろう。考えてるように見えて脳みそ空っぽだからなこいつ。

 

「お二人に渡すプレゼントなのですが……じゃん!」

 

 言って、取り出したのは二つのアルバム。『氷室せんぱぁーい』と書かれたオレンジの表紙のアルバムと、『朝日先輩』と書かれた青色の表紙のアルバム。なんで俺だけ白バイに乗ったら性格豹変する人みたいな『先輩』の言い方なの?

 

「こっちは氷室先輩に、こっちは朝日先輩に!」

「……つづちゃん。俺は察しがいい方なんだけど、このアルバムの色の意味は?」

「氷室先輩には青が似合って、朝日先輩にはオレンジが似合うかなーって」

「それなら逆じゃね? 俺にオレンジで朝日に青って」

「ふっふっふ。なんと、お二人により仲良くなってもらうために、そのアルバムにはお互いのお写真が入っています!」

「ぶっ」

 

 千里が噴き出して、「失礼」と言いながら爆笑している。失礼するなら笑い堪えろや。何が面白いんだ? 『私の写真で盛るバカが。死ね』って朝日が今から俺を殺すからか? 覚悟はできてる。まぁつづちゃんからのプレゼントだから手放す気はないんですけどね?

 

「ふぅん。別に、こいつの写真貰っても……んーん。ありがとね、つづちゃん」

「はい! お二人が仲がいいのは知っていますが、喧嘩もよくしてるので! ムカついたらぐっとこらえて、家に帰って写真を一枚焼いてスッキリしましょう!」

「それより憎しみが増すと思うんだけど。え、しないよな? 朝日」

「それをやったら私の家が燃えるわ」

「アルバムごと燃やしてそれが燃え広がるくらい俺にムカついてるってこと?」

「……言わなきゃ、だめ?」

「そんな可愛らしいセリフ、こんなバイオレンスな場面で使ってんじゃねぇよ」

 

 胸の前でぎゅっとアルバムを抱きしめて、上目遣いで俺を見る朝日。正直可愛すぎるし形が変わったおっぱいが非常にグッドだが、これに飛びついてしまうと俺は一瞬で塵と化すので、誤魔化すようにアルバムを開いて「へー、よく撮れてるなぁ」と言って話を逸らす。

 

 あれ、写真の中の朝日可愛くね? だって写真なら暴力振るってこないじゃん。ただの可愛くておっぱいが大きい女の子じゃん。アイドルの写真集じゃんこんなの。

 

「あんた、写真の中ならただのイケメンね。アイドルの写真集じゃないこんなの」

 

 同じこと考えてんじゃねぇよ。いや、俺はカッコいいんだけどね?

 

「あれ、っていうか怒んないの? てっきり『私の写真で盛るバカが。死ね』って言ってくると思ったんだけど」

「別にいいわよ。つづちゃんからのプレゼントだし、それに怒るほど人間出来てないわけじゃないし。……ちょっと、恥ずかしいけど」

 

 あれ????? 朝日が可愛い????? 確かに今までも可愛かったけど、なんか違うぞ。今までの朝日と違うぞ。シンプルに可愛いぞ。なんだ今の。いきなり女の子らしさ全開にしてんじゃねぇよ。それやられたらただの魅力的な女の子だぞお前。いいのか。魅力的でいいのかお前。

 

 ……朝日が魅力的で俺が困ることってなんだ? 何もないよな。うん、何もない、はず。

 

「そういえばなんとなくお二人の似合う色は青とオレンジかなーって思ったんですけど、色相環で見たら青とオレンジって相性いいらしいですね!」

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「お前ずっと笑ってんな」

「いくら恭弥の顔が面白いからってそんなに笑うと失礼よ」

「さっき俺のことイケメンって言ってなかった? ってあれ、うん? んん?」

 

 あれ、また俺のこと『恭弥』って呼ばなかった? 気のせい? 俺疲れてる? 写真越しに見た朝日の幻影に囚われてる? それじゃあ俺が朝日に『恭弥』って呼んでもらいたいみたいじゃん。ないない。……ないこともない? やだ。仲良しみたいで嬉しいじゃない。うふふ。

 

「ところで朝日先輩。恭弥ーとか千里ーってお二人のこと名前で呼ぶようになったんですね! 素敵です!」

「だよな! 勘違いじゃないよな! 下の名前で呼んでたよな!」

「別に、もう苗字で呼ぶような仲じゃないでしょ?」

「まぁそうだな、光莉」

「き、気安く名前で呼ぶんじゃないわよ!!」

「おかしくね!?」

 

 思いっきりビンタされた。さっき苗字で呼ぶような仲じゃないって言ったよな? 聞き間違いじゃないよな? はっ、さては『呼び合う』じゃなくて『呼ぶ』だから、俺は名前呼びを許されてないってことか? クソ、光莉め。俺に暴力を振るいたいからハメやがったな?

 

 こうなったら心の中では光莉って呼んでやる。口に出すと殴られるからな。ふふふ、俺は小さい男なんだ。

 

「ち、千里。俺間違ってないよな? 今のそういう流れだったよな?」

「何言ってるの? 朝日さんを名前呼びしたら殴られるに決まってるじゃないか」

「それもそうか」

「何納得してんのよ!」

「テメェが殴ってきたからだろうが!」

「まーまー。朝日先輩も照れちゃっただけですよ! もう一回トライしてみましょう!」

「つづちゃん。俺が胸倉掴まれて殴る準備されてるのにもう一回言って無事だと思うか?」

 

 あとおっぱいがいい眺めなのでやめてください。お前そういうことするから男子におっぱい見られるんだぞ。激しい動きしすぎなんだよ。揺れたら男子は見ちゃうんだよ。みんなにも好きな子がいるだろうに惑わせんじゃねぇよ悪女め。

 まぁ見た目で言えば日葵と光莉と岸が3トップだから、光莉のことが好きな男子も結構いるだろうけど。

 

「名前呼ぶたびに殴られるんじゃ、一生名前で呼べないね。いやぁ残念だ。僕たちはこんなに朝日さんと仲良くしたいのに」

「いいじゃない。苗字で呼んでたのが下の名前に変わっただけよ?」

「いや、不公平だ。俺も朝日を名前で呼びたい!」

「そうだ! こんな横暴は許されない!」

「あんたが私のことを下の名前で呼んだら、日葵と春乃が……いや、そうね。別に、呼んでいいわよ」

「なら胸倉を掴むのをやめてもらおうか」

 

 思ったよりあっさり離してくれた。てっきり「いやよ」って言うと思ったのに。それで俺が名前で呼んでやっぱり殴られるみたいなのを想像してたのに。やっぱなんか変わったかこいつ? 調子悪いの? これは診察しないといけないかもしれない。いや、やましい意味はないんだ。

 

「もう殴るなよ」

「殴らないわよ。下の名前で呼ばれたってなんてことないし」

「光莉」

「……ん」

 

 あの、なんてことないならそんな恥ずかしがって目を逸らして頷くのやめてもらえません? お前今日死ぬほど可愛いぞ。どうしたの? 俺まで照れるんだけど。つづちゃんはいい笑顔で俺たちのこと撮ってるし。あ、あとでちょうだい。こんな可愛い光莉滅多に見れないから。

 

「いやぁ、光莉さんが名前呼びを許してくれて嬉しいよ」

「気安く名前で呼ぶな」

「いや、千里。びっくりした顔で俺を見られても……」

 

 なぜか千里は名前呼びを許されないらしい。確かに暴力は振るってないけど、あまりにもかわいそうじゃね? 俺としては薫が嫉妬する要素が減るならそれに越したことはないけど、もし光莉がそういう考えで名前呼びを許さないならむしろ俺だろ。光莉と名前呼び合った瞬間日葵と春乃に捕獲される未来が見える。ははは、モテモテだな俺。

 

「あれ、織部先輩は名前呼びしちゃだめなんですか? 氷室先輩はいいのに? あ、もしかして氷室先輩のことが好きとか!」

「好きよ」

「え?」

「わ!」

「へぇ」

 

 俺は単純にびっくりして、つづちゃんは可愛らしく笑って、千里は面白そうなものを見るように。

 どういう意味? 光莉が俺のこと好きって、あぁ、そうか。

 

「友だちとしてか。お前ややこしいこと言うなよ」

「どっちだと思う?」

「は? どっちって」

「どっちの意味で、好きだと思う?」

「さては俺のこと男として好きだな? まぁわかるよ。俺は男として大変魅力的だからな。カッコいいし頭いいし運動できるし優しいし、好きにならない理由がない」

「ばーか」

 

 光莉はアルバムを大事そうに抱えて、ドアの方に向かった。そして、予鈴が鳴ると同時に振り返って、見たこともないような可愛い笑顔で。

 

「知ってるわよ」

 

 そう言って、逃げるように部室から出て行った。

 

「……え?」

「織部先輩、大丈夫ですか? 笑いすぎて過呼吸になってますけど」

「いや、違うじゃん。もっとさ、こう、なんか、笑いというか、甘酸っぱいのは無しというか、今までそれでやってきたじゃん。ピンクな雰囲気なんてなかったじゃん。どういうこと? 前振りが長いタイプのやつ? 俺が調子乗ったところを仕留めようっていう作戦? オイコラ千里テメェ何か知ってんだろ笑ってねぇでなんか言えよ、なぁ」

「いやっ、まさか朝日さんがここまでなんて思ってなかったから……あははははははははは!!」

「待てコラ説明しろ! 逃げるな! なんで俺が、俺が! 四人の女の子から好かれるハーレム主人公みたいになってるんだ!!!??」

「おい。今まさか僕をハーレムの一員にしてしかも女の子ってハッキリ言いやしなかったか?」

 

 いや、だってさ。

 

 答えは決めてたはずなのに、こりゃねぇよ。俺は人の気持ち考えないタイプのクズじゃないんだから。

 

 心配なのは、日葵と光莉。俺の勘違いじゃなきゃ、なんかヤバイことになる気がする。

 俺の心配がわかったのか、千里は『わかってるよ』とでも言いたげにウィンクしてきた。ちくしょう可愛いなお前クソ。


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