【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい 作:とりがら016
ついに、この日がきてしまった。
日葵の家、日葵の部屋。そこにいる俺、日葵、光莉、岸。
気づいちゃったんだ俺。これが今どういう状況か。
俺のことを好きかもしれない日葵に光莉、俺のことが好きな岸。つまり俺は今、ド緊張している。
「何度きても思うけど、興奮するわね」
「なんでお前ベッドで寝てるの?」
「は? 興奮したからに決まってるじゃない」
「抑える努力をしろ」
あと今日あなたスカートなんだから、ベッドでごろごろするんじゃありません。見えちゃうでしょ? いや、もしかしてそういう作戦かもしれない。あえて見せることによって女を意識させる、みたいな。それなら見ても文句ないよね?
「恭弥、見ちゃだめだよ?」
「あ、はい」
「見ちゃだめというより止めへんの? あれ」
「前止めにいったら引きずり込まれたから……」
「お前ほんといい加減にしろよ」
「別に恭弥が止めにきてくれてもいいのよ?」
「そ、それはだっ」
光莉の言葉に慌てた日葵がベッドの方に行った瞬間、光莉が引きずり込んで布団をかぶった。漁がうますぎる。餌の撒き方と誰がどんな餌が好きかをちゃんとわかってやがる。
「止めにいかへんの?」
「はぁ、俺が二人の乱れた姿を見たいとでも思ってんのか? そんな浅はかな人間に見える?」
「ベッドから目ぇ離してへんで」
「それはほら、なんかあるじゃん」
「言い逃れできると思ってんか?」
からから笑いながら言う岸は、すすっと俺の隣に近づいてきた。テーブルの上に広げられた勉強道具が悲しそうにしている中、岸はそっと俺の膝の上に手を置いて、
「私らもベッド行く?」
「よしきた」
「楽しそうね二人とも」
「なんの話してたの?」
見事につられた俺は、いつの間にか服装が乱れた様子もなく俺たちの向かい側に座っている日葵と光莉に睨まれていた。にゃははと笑う岸は敵だと断定し、俺一人でこの場を切り抜ける決意を胸にスマホを取り出した。
「千里、助けてくれ」
『もう、僕がいないと何もできないんだね』
「あ、千里や。薫ちゃんおる?」
『恭弥から電話がかかってきて僕の隣から離れて行っちゃったけどちゃんといるよ』
「お前とはもう二度と口を利かない」
『うそだろ』
電話を切って『覚悟しておけ』と千里にメッセージを送り、『恭弥こそ』と返ってきたのを見て腸が煮えくり返る思いになり、去年の千里の女装写真を大量に送ってやった。男として死ね。
「あいつほんとクズだな。兄貴に対しての配慮がない」
「千里に『お兄ちゃん』って呼ばせればプラマイゼロじゃない?」
「は? 最高」
「え、じゃあ私はお姉ちゃんって呼んでもらえるの?」
「日葵、やめときなさい。あいつはお姉ちゃんって呼んで興奮するような変態だから」
「ここにお兄ちゃんって呼ばれて興奮する変態がおるで」
「殺してくれ」
俺は変態じゃないし。ただ千里が『お兄ちゃん』って呼んでくれたらめちゃくちゃ可愛いだろうなーって想像してうふふって思っただけだし。変態じゃねぇか。
いや、これはあれだよ。千里が悪いんだ。千里が可愛いのが悪い。俺は悪くない。
「待て。それならお前らは千里に『お姉ちゃん』って呼ばれて可愛いと思わないのか?」
「かわいい」
「は? 最高」
「かわええに決まっとるやろ」
俺の勝ち。俺は何も間違ってなかった。あと光莉、俺と同じ反応するな。そんなんだから俺と似てるって言われるんだぞ。え? 俺と似てる? 最高じゃん。なら俺と同じ反応するのも無理はない。
千里のメスを再確認したところで、本題の勉強に入る。次の月曜日にはもうテストなので、だらだらしている暇は……俺にはあるが、日葵にはない。流石にちゃんと勉強しないとマズいからな。光莉が「あんたのせいで日葵の点数が悪かったんだけど、どう思う?」って言って殺しに来るから。
白い丸テーブルを囲んで、淡い青色のカーペットの上でカリカリカリカリお勉強。俺の背中にもたれて「暇やー」と言っている岸に「勉強は?」と聞くと、「集中力のスイッチ切れてもうた」と一言。入ってすらいなかっただろ。
「ちょっと春乃。勉強しないのはいいけど脱いでくれない?」
「邪魔しないでくれない? って言いたかったんやな」
「日葵の部屋にいるからって邪念渦巻きすぎだぞお前」
「春乃! 暇なら私の勉強見てよ!」
「何がわからんか明確にしてから出直して」
「はい……」
「はぁはぁ、わ、私が、教えてあげましょうか?」
「同じいやらしいことなら、なんでこんなに胸おっきなるんか教えてほしいなぁ」
ジャパニーズニンジャのような動きで光莉の背後に回ると、岸が光莉の胸をそっと持ち上げる。と同時に、「んっ」と光莉がいやらしい声を漏らしたので、俺はあらかじめ自分を殴って床に倒れておいた。これで光莉の暴力から逃げられるはず。だってもう制裁されてるんだもん。
「……あの、ごめんな?」
「んっんんっ! 何が? 私は咳を抑えてただけよ。だから胸から手を離しなさいブチブチにするわよ」
「ほい。……そんな感度よかったかなぁ」
「や、やめて! 恭弥初心だから頭抱えて震えちゃってる!」
違うんだ日葵。決して俺が初心だからとかそんな恥ずかしいことが原因じゃなくて、ただ光莉の痴態を見てしまったがために制裁されないかどうか不安だから、『俺は見ても聞いてもないですよ』アピールしてるんだ。断じて光莉がエロ可愛くて見ることもできないくらい恥ずかしいからとかじゃない。
「あのとき光莉のおっぱい背中に押し付けられとっても平気やったのになぁ」
「押し付けるおっぱいないやつが何か言ってるわね」
光莉がやれやれと首を振った瞬間、岸は光莉の肩に手を回して抱き寄せて、指を光莉の顎にそっと添えて、耳元で囁いた。
「なんか言うた?」
「ひゃい……なにもいってません……」
「ほわー。春乃カッコいい……」
「恐怖と興奮で感情がぐちゃぐちゃになってる顔してるな」
自分の強みを見せつつ相手を封殺する最強の手腕。あれ俺もほしい。
っていうかもしかしたら光莉は俺のことが好きじゃないんじゃないか? 日葵と岸にもいつも通りだし、ちゃんと今だって顔赤くして岸をぽーっと見つめてるし、あれもからかっただけなのかもしれない。うん、そうだ。きっとそうに違いない。
「もう、二人とも。恭弥がいるんだからそういうことしちゃだめだよ?」
「……そうだったわね。この猿に発情されても困るし」
「は? 誰が発情すんだよ揉むぞコラ」
「発情しとるやん」
「ちなみに言っとくけど、まだ揉ませないわよ」
「まだ?????」
「そ、まだ」
ふふん、と笑う光莉を見て、日葵ががくがく震えている。わかりやすすぎるぞ日葵。ほんとにそのわかりやすいの可愛いからやめてくれ。なんで俺は今まで気づいてなかったんだ? そんなはずがないって思ってたとしてもわかりやすすぎるぞ。日葵に対する自己評価低すぎどころの騒ぎじゃない。
「きょ」
もし、俺の考えが当たっているのなら、日葵はずっと俺のことが好きでいてくれたのかもしれない。だからだろう。
「恭弥は、私のおっぱいが一番揉みたいんだもん!!!!!」
たまりにたまったものが一気に爆発した。そんな印象だった。顔を真っ赤にして、叫び、目がぐるぐる回っている。多分、自分で何を言っているのかも理解できてないんだろう。一つ言えることは、めちゃくちゃ気まずいけどめちゃくちゃ可愛いってことだけだ。
「おい岸。笑ってないで、なんとか言ってやってくれ」
「ぐっ、うひっ。な、なんとか言うんは氷室くんちゃうん?」
「ご、ごめんね日葵。私が変なこと言っちゃったから、思わず変なこと言っちゃったのよね」
たまらず光莉がフォローに回るくらいだから相当だろう。よかった。これで「どうなの恭弥!?」って聞かれたら俺は逃げるしかなかった。いや、そりゃ揉みたいけど、それをこの場で言うってどうなんだ? 無神経が過ぎるだろ。それを言ったら日葵も無神経ではあるかもしれないけど、日葵はいつだって正しいから無神経じゃない。無神経であったとしても無神経が正しい。つまりどういうことだ?
「……!!」
「恭弥。日葵がさっき自分が何を言ったのか気づいちゃったわ。でも恭弥は何も聞いてないわよね?」
「あぁ。実は昨日鼓膜が破れたんだ」
「じゃあなんで返事しとんねん」
負けました。
「う、え、えっと、ち、ちがうの。思わず言っちゃったっていうか、このままじゃ光莉が恭弥に揉まれちゃうって思ったから、その」
「や、ほんとに何も聞いてないわよ。というより日葵はさっき何も言ってなかったわよ」
「せやで。やから気にせんでもええよ」
「でもさっき春乃、自分の胸ぺたぺた触って気にしてたよ」
「おい、何攻撃してきとんねん」
「春乃の胸がないのはいつものことじゃない」
「顎ブチ抜いたらァ!!」
「待て、落ち着け! 胸がなくても尻や脚がある!」
「そこは小さくても素敵とか褒めろや!」
「そう言ったつもりだったんです!」
岸からヘッドロックを受け、そのまま床に叩きつけられる。フォローしたんですよ僕。ほんとに。あと密着するとドキッてするからやめてほしい。ちゃんと柔らかいし。普段イケメンなんだから女の子らしさが見えるとドキッてするんだよほんと。
「ふん……別に胸なくてもええし。胸だけが女の子のよさちゃうし」
「そうそう。岸はすっげぇ美人だし、脚長いし、めちゃくちゃ綺麗だなって思ってる」
「……ふふ。あかん、にやけてまう」
「ふーん。私のことはどう思ってるの?」
「わ、私のこともどう思ってるか聞きたいな」
「おい千里。助けてくれ」
『二度と口利かないんじゃなかったの?』
「それでも出てくれるお前が好きだ」
『僕も好きじゃなきゃ出ないさ』
このまま日葵と光莉を褒め千切ると羞恥心で死にそうになるので千里に逃げた。二人は不満そうにしているが、許してほしい。俺ヘタレなの。初心なの。可愛いでしょ?
『女の子三人に囲まれた気分はどう?』
「千里の大切さを実感した」
『離れてても僕に逃げるくらいだからね。でもみんなはいい気しないんじゃない?』
「千里ならしゃあないな」
「千里なら仕方ないわね」
「うん。織部くんなら仕方ないよ」
「らしい」
『もしかして僕、恭弥の正妻か何かだと思われてる?』
「親友だろ」
『……わかってるじゃないか』
電話の向こうの千里が嬉しそうにしていた。ほんと可愛いなこいつ。愛してるから今すぐここにきてくれ。俺がどうにかなって結果死ぬから。