【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい 作:とりがら016
テストが終わり、夏休みまであと一週間を切った今日。日葵は何科目か大丈夫と思える程度の手ごたえはあったようだが、数学は間違いなく追試だと泣いてしまっていた。そんな日葵の涙を舐めとろうとする光莉を止め、岸がイケメンを発揮して日葵を慰めているところに、俺と千里にある人物からメッセージが届いた。
土曜日、空いていますか。という簡素なメッセージ。その場で俺と千里は目を合わせ、空いていると送り、土曜日。
「あ、あわわ……アァ……」
ルミナス。その一階。
俺たちの目の前には、白目になりかけているゆりちゃんがいた。
「あの、ゆりちゃん?」
「ひぇえ! 急に声かけないでください千里様! あなたの鈴の音のように美しく可愛らしい声は私の耳には刺激的すぎまするゆえ……」
「ゆりちゃん。なんで俺たちを呼んだんだ?」
「びゃあ! お、おにおにおにお兄様! そ、そんなカッコいい声で私の名前を呼ばないでください孕んでしまいますひぃ」
「とてつもなく面白いなこの子」
「僕を呼んだってことは、ちょっと覚悟してたんだけどね……」
そう。千里は、薫をフった。許されざる行為だが千里のことだから何か理由があるんだろうと思い、薫もそこまで落ち込んでいなかったからまぁ許しはしないが殺すのはやめておいてやろう、と思っていたところにゆりちゃんからの連絡。
ゆりちゃんは人のことがよくわかっている。初対面で光莉を乙女だと言ったからそれは間違いなく、だとすると薫の変化にもいち早く気づいたはずだ。だから薫から『千里にフラれた』と聞いていてもおかしくはない。
てっきり、そのことに怒ったゆりちゃんからのお叱りを受けるのかと思っていたが……。
「はっ! そうでした! おのれイケメンと美少年。私を美しい容姿と美しい声でたぶらかすなんて、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「あぁそんなお兄様。私にどういたしましてなんて恐れ多いですどうか『この豚め。裸になってテメェのクソ汚ねぇ舌で床掃除でもしてろ』と罵ってください……」
「なぁ千里。俺はゆりちゃんが心配になってきた」
「顔がいいってだけの男に騙されそうな気が……」
なんだこの『どうしようもないから俺がついていないと』って思わされるとんでもない魅力は。薫が親友だって言うわけだ。薫もゆりちゃんが心配で心配で仕方ないんだろう。『私がいないとだめだから』って理由で一緒にいてそうだ。……あれ? 俺と千里と似てね?
「ん、んんっ! まったく、どこまで私を惑わせれば気が済むんですか。落ち着いて聞いてくださいね」
「ゆりちゃんが落ち着こうよ」
「誰のせいで荒ぶってると思ってるんで、」
「誰のせいなん?」
「ぴゃああああああああああ!!!!???」
ゆりちゃんの言葉を遮るように、そっと後ろからゆりちゃんを抱いた女の子。
岸である。ゆりちゃんを抱いたまま指をそっとゆりちゃんの顎に沿えて、肩ごしの自分が見えるようにそっと首の角度を変えた。
「久しぶり、ゆりちゃん」
「あ、あががが。ぐ、ぎぎぎぎぎぎ」
「おい岸、離れろ! ゆりちゃんが死ぬ!」
「ていうかなんでここにいるの?」
「ん-? もうすぐ薫ちゃんの誕生日やから、なんか用意しとかなあかんなーって」
「そ、そそそそそうです薫ちゃんの誕生日だから薫ちゃんが大好きなお二人をおよよよよよびししししし」
「なるほど。あれ? でもそれなら夏野さんも」
「俺たち二人であぁなって、岸でこうなってるんだから、顔のいい人を減らしたかったんだろ」
「ぷしゅう」
「お、ダウンしてもうた」
岸の腕の中でショートを起こし、がくりと脱力。ゆりちゃんもたまらないだろう。普通にイケメンな俺と、男のくせに女の子みたいに可愛い千里と、女の子なのに男よりイケメンでただ時折見せる女の子らしさが抜群に可愛い岸。ジャンルの違う良さに囲まれたらそりゃゆりちゃんならこうなる。
かわいそうに。俺たちの容姿がいいばっかりに。
「岸、薫の誕生日覚えててくれてたんだな」
「私記念日とか好きやからな。それに、そうやなくてもあんな可愛い子の誕生日、一回聞いたら忘れへんよ」
ゆりちゃんをベンチに寝かし、膝枕をしながら言う岸からなんとなく目を逸らし、逸らした先で千里と目が合って、『羨ましくなっちゃった?』と目で語り掛けてくる。べ、別に岸の膝枕羨ましいなって思ったわけじゃないんだからね!
「あとあと。そろそろええかなーって思ったんよ」
「なにが?」
「もう恭弥くんって呼んでもええ?」
「いいよ」
「なんで千里が答えんの?」
「やた! じゃあ私のことは春乃って呼んでな?」
「ちょっと待て。ちょっと待て」
「いやなん?」
「いやというか、なんか照れ臭いというか恥ずかしいというか」
「光莉を名前で呼ぶのは恥ずかしくないん?」
うっ、と言葉に詰まる。「ふこうへいだー!」と隣で騒ぐメスは二の腕を掴むことで黙らせて、考える。おい千里、体びくってさせるな。エロイだろうが。
確かに、光莉はすぐに名前で呼べた。名前で呼ぶ前から心の中じゃちょくちょく間違って名前で呼んでたし、抵抗がなかったというか、そもそもあの時点では光莉が俺に好意を持ってるってわかってなかったからというか。
でも岸は違う。最初から俺に好意があるってわかっていて、それで名前を呼ぶっていうのはちょっと、いやかなり照れ臭い。
「なんかその、状況が違うというか」
「ぶー。春乃ちゃんを名前で呼べるチャンスやのに」
「ほら、その、ね? あの、いやね? 改めて名前で呼んでって言われると恥ずかしいんだよわかるだろなぁ千里ダメだこいつメスだったわ」
「それに性格真っ黒やから名前呼びくらいどうってことないやろ」
「ねぇ。君たちさては僕のことが嫌いだな?」
「好きだぞ」
「好きやで」
「……そ」
頬をピンク色に染めてぷいっ、と顔を逸らす千里は完全にメス。お前もうメスじゃなくなることを諦めた方がいいって。男になるのは薫の前だけでしか無理だろ。無意識にメスすぎるんだよ。
「っつかその『恭弥くん』ってのが照れくさいんだよ。なんでくんづけなの? 呼び捨てでいいじゃん呼び捨てで」
「ん-。その、ちょっと恥ずかしいんやけどな? 日葵も光莉も千里も『恭弥』って呼び捨てやん? やから、うん、私だけ『恭弥くん』って呼んだら、特別感出てええなーって思って」
おいおいおい。おいおいおい。おいおいおいおいおいおいおい。
岸が可愛すぎて思わず三三七拍子を刻んでしまった。応援団長か俺は。
は? 俺の好意を持ってるってわかってる女の子からのアプローチ可愛すぎだろ。これに耐えられる日本男児いるの? いたらそいつは人間じゃないし男じゃないし4番打者でもねぇよ。
「なぁ、あかん? あかんなら、我慢する」
「……春乃」
「!」
「これでいいんだろクソ! おい千里笑ってんじゃねぇテメェ!」
「うひゃひゃひゃひゃ! 恭弥、まるでラブコメ主人公みたいだね! うふふ、似合ってると思うよ?」
「犯す」
「え、あ、やめてほんとに。ねぇ許して」
「本気で怖がってんじゃねぇよテメェ俺が本気みたいになるだろうが!」
周りの人も俺を見てくるし。いや、違うんですよみなさん。こいつ女の子みたいだけど男なんです。え? なお悪い? 俺もそう思います。
「……」
「……おい春乃。なんか喋れよ恥ずかしいだろうが」
「ん、ふふ。なんや照れるなぁって」
「おい千里。俺を殴れ」
「わかった」
「躊躇しろよ!」
ノータイムでグーを突き出してきたので、慌ててその拳を手のひらで受け止める。相変わらず柔らかい千里の手にやっぱメスだなこいつと思いつつ、少し恥ずかしさが誤魔化されたのを感じる。危ない危ない。岸……いや、春乃が女の子らしいとものすごい破壊力だから死ぬほど困るんだよな。それは光莉もそうだけど。
ちなみにその時々出る破壊力を常に弾き出し続けるのが日葵。とんでもねぇよ。
「ん……。あれ、私ふぁああ!?」
「あ、ゆりちゃんがまた気絶してもうた」
「春乃、もうやめてやれよ。膝枕してたら一生起き上がれねぇって」
「そうだよ岸さん。いたずらの度が過ぎてる」
「千里は薫ちゃんの膝枕から離れたいって思うん?」
「恭弥。君がおかしい」
「お前は起きた瞬間寝るだけのおもちゃになりたいのか?」
でも、確かに。日葵の膝枕と光莉の膝枕と春乃の膝枕なら離れたくない……俺何ナチュラルに光莉と春乃の膝枕のこと考えてるの? ん、あぁ、多分身近な女の子だからだそうに違いない。俺の気持ちが揺れてるとかそんなんじゃない。俺は一途、俺は一途。
「とりあえずどうしようか。ゆりちゃんが起きないと動けないし」
「起きるまで待ってても起きた瞬間寝るし」
「ん-、残念やけど膝枕はやめとこか」
言って、岸は自分のバッグにタオルをかけて、枕のようにしてゆりちゃんの頭の下に差し込み、立ち上がってぐっと伸びをする。綺麗な体のラインが浮かび上がり、咄嗟に目を逸らすとまたにやついた千里がいた。お前ずっと俺のこと見てるな?
「あ、そや。夏休み海行くって言うてたやん? ゆりちゃんも一緒にって思ったんやけど」
「多分死ぬぞゆりちゃん」
「服着ててこれだからね。水着姿なんて見たら人生終わるでしょ」
もしかしたら水着姿見る前に、着替えの段階で死ぬかもしれない。日葵と光莉と春乃と薫と一緒に着替えるって、ゆりちゃんからすれば天国であり地獄だろ。仕方ないから俺が変わってあげようかな?
「でもゆりちゃんかわええし、一緒に行きたいなぁ」
「ん……あれ? 膝枕は?」
「お、ちょうどええわ。ゆりちゃん、私らと一緒に海行かへん?」
「ミッ!!!!!???」
「もう人殺しだろお前」
起き上がったゆりちゃんがまた殺された。一緒に海って言葉だけでこれなんだから、実際に海行ったら絶対死ぬだろ。
……でも、薫も喜ぶだろうから一緒にきてもらいたい。日葵も、薫の親友と仲良くしたいだろうしな。