「薫の好きなもの?」
「はい! いっつも一緒にいますけど、あんまり知らないなーって思いまして!」
「いっつもあんなリアクションしとったらそらそうやろな」
「意識保ってる時間の方が短そうだしね」
今も俺たちとは逆の方を見て喋ってるしな。通行人がびっくりしてるからやめておきなさいと言おうとしても、俺たちの方を見たらまともに喋れなくなるかもしれないからこの状況を許すしかない。この子、この先まともな生活できるのか?
「この中で薫ちゃんの好きなもの一番知ってるの恭弥くんちゃう?」
「好きなものなぁ。別にゆりちゃんが選んだものならなんでも喜ぶと思うけど」
「どうせなら目いっぱい喜んでもらいたい! じゃ! ないですか!」
「かわえぇなぁゆりちゃん」
「ひぃかわいいとかやめてくださいほんと私にはもったいないおことば可愛くないです私なんか、え? そういえばあなた方の中に私が入っていいんでしょうかぜんっぜん釣り合っていないのでは!?」
「んなことないぞ」
「うん。ゆりちゃん可愛いしね」
「あぐぅ」
余計なことを言った千里をしばきつつ、ゆりちゃんが気絶していないか確認する。ゆりちゃんに対して可愛いとかそういう褒め言葉は禁句だ。いや、言いたくなるのはものすごいわかるし実際めっちゃ可愛いけど、キャパオーバーでまた気絶されても困る。千里と春乃は面白がってゆりちゃんを攻め立てようとするから、俺がしっかりしておかないと。
「う、うぐぐ。可愛いなんてお世辞でも嬉しいですほんとにありがとうございます」
「いや、『可愛い』は『可愛い』だろ。お世辞でなんて言わねぇよ」
「むり」
「恭弥。根っこの善さを出す場面間違えてるよ」
「実は恭弥くんも楽しんどるな?」
だって面白いしこの子……。裏表がなくて可愛い。あと真正面からイケメンって褒めてくれるから非常に気分がいい。ほら、俺って結構褒められるけど、侮蔑の目向けられることの方が多いから。
ゆりちゃんが気絶から復活して、俺たちはぶらぶら歩き、薫への誕生日プレゼントを探していた。元々俺と千里は用意しているものがあるから、春乃とゆりちゃんが薫に渡すプレゼントを探しているんだが、春乃はもう決めたようでにこにこ笑いながらゆりちゃんいじりを楽しんでいる。悪魔め。ぜひ俺もいじってください。
「色々考えたんです。アクセサリーとかどうかなーって思ったんですけど、薫ちゃん可愛いから私なんかがあげたアクセサリーつけて可愛さが減ったら申し訳ないなーとか、でも薫ちゃん何でも似合っちゃうんだろうなーとか」
「アクセサリー……。恭弥、薫ちゃんの指のサイズ教えてくれる?」
「なんで知りてぇか言ってみろ」
「え、襟首掴むのは無しじゃない? 落ち着こう。一旦落ち着こう」
「千里千里。薫ちゃんと結婚したいん?」
「したい! あ」
「なるほどな」
「ハメやがったな!?」
ハメられるお前が悪い。あと千里がハメられるってなんかエロイよな。
死体を引きずりながら歩く俺たちに向けられる視線を右から左へ。「わ、わたしも引きずっていただいても……」と危ない目をしているゆりちゃんの声も右から左へ。俺の手をちらちら見ている春乃の目には気づかないフリをして、薫は何をもらったら嬉しいかなと考える。
薫の好きなものと聞いて一番最初に浮かぶのが家族、友だち。物欲がほとんどなく、寂しがり屋の薫は誰かと一緒にいれたらそれでいいっていう天使みたいな子だ。もしかしたら天使なんじゃないかって思ったがあの両親から天使が生まれるわけがないので、人間でありながら上位存在に近しい崇めるべき存在だと俺は認識している。
「だから、薫の誕生日ってちょうど夏休みだろ? いっぱい遊んでいっぱい構って、他の日よりも特別な一日にすればそれだけで満足だと思うけどなぁ」
「薫ちゃんと一緒に過ごす日はいつだって特別です!」
「千里、薫はゆりちゃんに任せることにするわ」
「女の子みたいな男が女の子に負けるってそんな惨めな話ある?」
「引きずられてる今が惨めやないとでもいうんか?」
春乃にナイフを振り下ろされ、深く傷ついた千里は沈黙してしまった。いや、その、千里にも男らしいところあるって。惨めなんかじゃないって。ほら、体ふにふにするしいい匂いするしめちゃくちゃ可愛いし、「僕が男だって意識させればギャップでカッコいいのでは?」って筋トレし始めてもまったく効果が出ない人類の神秘だし。
情けねぇなこいつ男として恥ずかしくねぇの?
「ゆりちゃんはほんとに薫のことが好きなんだな」
「大好きです! 薫ちゃんに彼氏さんができたらちょっと嫉妬しちゃうかもってくらい好きです! でもでも、彼氏さんと一緒にいる薫ちゃん絶対可愛いから応援します! 薫ちゃんが選んだ人なら絶対にいい人でしょうし」
「まぁ僕はいい人だからね。任せてほしい」
「テメェこの前薫のことフっただろうが」
「薫ちゃん泣いてるかもしれんのやぞ。わかっとんのか?」
「それを言われるのは本当に心にくるからやめてくれ」
「あ、あの!」
言葉のナイフで春乃と一緒に千里をズタズタにしていると、ゆりちゃんがこっちを向いてぎゅっと両手を握って何かを必死に伝えようとしていた。俺が隙を見せた瞬間に千里はすっと立ち上がり、埃を払ってゆりちゃんの背後に回る。お前ゆりちゃん盾にしてんじゃねぇよクズが。恥ってもんを知らねぇのか?
「薫ちゃん、千里様にフラれちゃったって言ってて、それを聞いた時はなにー!? って思ったんですけど、ぜんぜん悲しそうじゃありませんでした。にこにこ笑って、仕方ないなーみたいな感じで……でも!」
ゆりちゃんは振り返って千里を見る。そして人差し指を立てて、少し責めるように千里にそれを向けた。
「あんまり女の子を待たせちゃだめですよ! 薫ちゃんはいい子だから待っててくれますけど、だからっていつまでも待たせていいってわけじゃないんですから!」
「……うん。ありがとう」
「薫ちゃんを悲しませたら、お兄様もそうですけど私も許さないんですからね!」
「なぁ春乃。どうにかしてゆりちゃんを俺の妹にできねぇかな?」
「薫ちゃんとゆりちゃんが結婚すればええんちゃう?」
「は? 天才」
「お、お兄様が私のお兄様に!? 素敵すぎるもうやだ私をころして……」
さっきまで凛としていたゆりちゃんは、いつもの調子に戻ってふらふらとし始め、俺の方にもたれかかってくる。倒れないように肩を支えると、「ぴゃあ!?」と言って遠くへ逃げ、遠目で見てもわかるくらい深呼吸してからこっちに戻ってきた。
「し、失礼いたしました!! あまりにも素敵すぎるお兄様との家族生活を想像し、脳がパンクしてふらふらしちゃってお兄様にご迷惑を……」
「いや、全然悪い気しないから何も気にしてない」
「恭弥との家族生活って、まるで恭弥とゆりちゃんが結婚するみたいだね」
「けっ!!!!!?????」
「お、ゆりちゃん満更でもないん? でも恭弥くんは渡さへんで」
「かっ!!!!!!?????」
『結婚!?』『可愛すぎる!?』ってところだろう。ゆりちゃんは俺と春乃を交互に見て、目をぐるぐる回して顔が真っ赤になっている。ゆりちゃん見てるとめちゃくちゃ和むな。
春乃はいきなりのアピールやめてください。心臓に悪いので。あとそういうことしたら千里が面白がって笑うからめちゃくちゃムカつくし。こいつ俺の色恋を面白いものとしか見てねぇだろクソメスが。親友なら素直に最高のサポートしてくれよ。何春乃の前で俺と春乃以外の女の子を結婚させようとしてんの? 春乃が神対応してくれなかったら俺慌てるだけだったぞ?
情けないのは俺もだった。誰か殺してくれ。
「ふぅ、ふぅ……お兄様、モテモテなんですね。日葵様に光莉様に春乃様。薫ちゃんのお兄様ですから当たり前といえば当たり前なんですけど、物語みたいで憧れちゃいます」
「あれ、わかるの? 薫ちゃんから何か聞いた?」
「はい! 薫ちゃん、お兄様の話いっぱいしてくれるので!」
「え、やだ、嬉しい」
俺の話をしてくれてるなんて、なんて可愛いんだ。今日帰ったらいっぱいよしよししてあげよう。それで「何触ってんの。キモい」って言われるんだ。薫は俺のことが大好きだけどボディタッチ系のスキンシップは恥ずかしがるからな。俺が感動のあまり抱き着いたりとかしたときは「仕方ないなぁ」みたいな感じで受け止めてくれるけど。女神か?
「お兄様の文句言うんですけど、いっつもにこにこしてて可愛いんです。お兄様に親友ができてよかったとか、やっとわかってくれる人ができたとか、いっつも可愛いんですけど、お兄様の話をしてくれる時は特に可愛くて」
「愛しすぎかよ」
あまりにも愛しくなったので薫に『愛してるぞ』と送ると、すぐに『知ってる』と返ってきた。千里に見せると千里も対抗して『愛してるよ』と送ると、『付き合ってもないのにそんなこと言わないで』と返ってきていた。千里は泣いた。そりゃそうだろ。
「そういえばこの前、『花火断っちゃった』ってちょっと拗ねてましたよ」
「恭弥。僕が薫ちゃんと一緒に行くから安心してくれ」
「当日までお前の命があると思うんじゃねぇぞ」
「でも、その日は日葵と一緒にお祭り行って、そのあと私らに乱入されるんやろ? その後に薫ちゃんと花火見に行くん?」
「乱入する側が普通乱入されるって受け身の言葉使わないと思うんだよ俺」
「二人とも。ゆりちゃんが多分浴衣姿を想像してショートしちゃった」
「この子多分世界一幸せだな……」
でも、そうか。祭りは日葵と一緒に行って、途中で乱入されて、そのあと花火。光莉と俺がペアチケットを一枚ずつ持ってるから、俺は薫と一緒に行けばいいと思ったが、そうなると光莉は日葵を誘う。つまり、春乃があぶれるんだ。
そうならないためには日葵を選ぶ……日葵と光莉と春乃がいる状況で? 無理だろ。俺そんな図太くねぇよ。心に決めた相手とはいえ、俺に好意を持ってくれてる二人の前でそんなことできねぇって。
「……あ」
「どうしたの恭弥?」
もしかしたらお前を選ぶかもしれない。ごめん。謝罪を込めて「なんでもねぇよ」と言うと、千里は納得した様子で「いいよ、別に」と答えた。