【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第72話 なにする?

「文化祭の話だが、二年生は舞台で劇かなんやかんやする決まりになってるから適当に決めてくれ。学年で優秀賞に選ばれたら打ち上げの金を出してくれるらしい。俺は打ち上げめんどくさいからぜひ頑張らないでくれ。それじゃあ」

 

 そう言って担任は隅の方に椅子を持って行って、そこに座り沈黙した。

 

「清々しいほどクズだな。職務放棄じゃね?」

「え!? 恭弥がこの場を仕切る!? あんた、成長したのね」

「俺がお前に何をしたって言うんだ?」

 

 丸投げした担任に呆れ、同意を求めようと光莉に話を振ったらいきなり大声でこの場の仕切りにされてしまった。クラスのやつらが「氷室くんで大丈夫なの?」「いや、でも最近マシになったって話だぜ」「女子全員サンバ衣装でパンチングマシーン選手権とか言い出さないかしら……」と俺の仕切りに乗り気じゃないのが唯一の救いだ。あとサンバ衣装パンチングマシーン選手権やりそうに見える? 俺。どんな風に見えてんだよ。

 

「でもみんな、聞いてほしいんだ。恭弥の発想は言っちゃなんだけど飛んでる。誰もが思いつかないようなこと、思いついたとしても一つ二つ外れた発想ができるってことだ。だから、優秀賞を狙うなら恭弥を中心に置くのが一番確率が高い」

「流石彼女!」

「氷室くんのことよくわかってるんだね!」

「ヒュー! 見せつけてくれちゃって!」

「彼女がこう言うなら仕方ねぇな! 頼むぜ氷室!」

 

 お前、俺をひどい目に遭わせたかったんだろうけど、『彼女』って言われて傷ついてんじゃねぇよ。へらへらしながら「彼女じゃないよー」って言ってるのは流石というほかないが、あの顔は内心めちゃくちゃキレてる。

 

 仕方ないなとため息を吐きながら、全員が俺を求めているなら応えるのが男。立ち上がって教壇に立ち、クラスを見渡す。日葵、千里、光莉、春乃、井原、その他。こういう時クラスメイトの名前思い浮かばないのがマジで俺がクズなんだってことを実感させてくれる。

 

「さて、みんな。ここに立ったからには、俺にはこの場を仕切る責任があって、この場を仕切る責任がある。つまりそれはこの場を仕切る責任があるってことで、この場を仕切るしかないってことだ」

「今何言うか考えてるところやから待ったってな」

 

 よくわかってるじゃねぇか……。

 

 立ってみたはいいものの、何も思い浮かばない。正直文化祭って言ったら日葵に告白するって決めただけで、それすらも危うくなっている現状。日葵に告白するってことは、それまでに光莉と春乃との決着をつけなきゃいけないから、8月から10月まで、実は俺に余裕なんて一切ない。

 

「とりあえず何をするか決めたらいいんじゃね? 劇とか歌とか」

「みんな。とりあえず何をするか決めよう。まずこれを決めないと話が進まない」

「自分の意見みたいに言ったわね。恥ずかしくないの?」

「あれ? そういえば光莉は文芸部だったよな? 劇の脚本なんてお手の物じゃね?」

 

 言うと、クラスのあちこちから「そうじゃん」「朝日さんなら問題ないかも」「最近氷室と仲良さそうだし、相性いいんじゃね?」と口々に賛同の声。人間ってのは楽したい生き物だから、自分が楽できると思ったら平気で他人を祀り上げる。まだ猫を被っている(と思い込んでいる)光莉は「は? 調子乗ってんじゃないわよ」と言えるはずもなく、鬼の形相で俺を睨むのみだ。多分はやまったな俺。

 

 光莉が逃げ場を見つけられず立ち上がり、俺の背後に立つ。耳元でボソッと「どこからがいい?」と最初に切り刻む場所を選択させてくれる慈悲を与えてくれたが、まだ死ぬわけにはいかないのでさっき適当に思いついたことをべらべら喋り、なんとか誤魔化せないかなとクラスに提案を始める。

 

「まず一つ。光莉は文芸部だがほぼ幽霊部員。いい脚本を確実に書けるとは限らない」

 

 チョークを手に取って、俺の背後に立っていた光莉の肩に手を置いてどかし、みんなからは見えないからと光莉が俺の脛を蹴ってくるのに耐えながら黒板の上にチョークを走らせた。

 

「だから、脚本をカバーする要素が必要だ。まず、見ていて見苦しくない出演者」

 

 『顔』と書いてストレートすぎるなと思った瞬間光莉が消してくれたので、『容姿』と書き直して光莉と一緒に頷く。

 

「んで、ただ飯食うためには優秀賞に選ばれる必要がある。優秀賞は客の投票で決定されて、投票権を与えら得るのは公平を期すために学校外の人たち。それも学生以外」

 

 『ターゲット:学生以外』と書いて、一度みんなの方に振り返る。

 

「学生以外の人たちが見たいものは何だと思う?」

「夢?」

「千里、夢は見るもんじゃない。叶えるものだ」

「嘘言うてる顔してるで」

「名探偵は黙っててくれ」

 

 茶々を入れてくる二人は置いといて、みんなが口々に考えを言ってくるが、全部外れ。クオリティの高い劇? そんなもの今時ネットに転がってる。お笑いもネットに転がってる。

 

「そう、今はなんでもかんでもネットで見れる時代。そんな中で需要があるのは、ネットで見れないもの。もしくは、見れるとしても倫理観その他諸々が邪魔して見れないものだ」

 

 そして、黒板に『日常』と書く。光莉から「私ここにいる意味ある?」という目で見られたが、いつか出番渡すからちょっと待ってて。

 

「『日常』。高校生以下には高校生活への期待を、高校生以上には懐かしさを。俺たちド素人の高校生が優秀賞を狙うなら、この『需要』を攻めるしかない」

「ほんとうに」

「ほんとうに需要があるのかと思う人がいるのもわかる。ただ、自分からすれば普通でありふれた物語でも、他人からすれば劇的だ。日常っていうのは得てしてそういうものなんだよ。んで」

 

 新たに黒板へ『青春』という文字を刻む。

 

「高校生活と言えば『青春』だ。中学のころと比べて体も心も成熟して、恋に勉強に真っ盛り。この要素はターゲットの需要とも合致する」

 

 『日常系青春ラブコメディ』。黒板に大きく書いてからチョークを置き、その文字を強調するように黒板を強く叩いた。痛かった。

 

「俺たちがやるのは劇じゃない、日常をそのまま舞台上に持っていくだけだ。これなら下手な演技も必要ない。見苦しくもなんともない。脚本は光莉がなんとかしてくれる。こいつでただ飯食うぞお前ら!!」

 

 ノリだけはいいみんなは『ウオオオオオオオ!!!!!』と腕を突き上げて大合唱。その間に光莉の方へ近づいて、こっそり会話する。

 

「あんた、最後にさりげなく丸投げしたわよね」

「だって俺脚本無理だし。まぁここまで言えばお前もわかるだろ。一番全部見れてるのはお前だろうしな」

「流石に嘘は入れるわよ」

「じゃないと困る」

 

 大合唱が鎮まって、教卓の前を光莉に譲る。にやにやする千里、にししと笑う春乃、不安そうに光莉を見る日葵。この中で分かってるのは千里と春乃だろうな。日葵はちょっと鈍いところあるし。

 

「今の話で、大体の話は出来上がったわ。申し訳ないけど、独断でメインキャストも決めた」

「一体誰なんだ……」

「選ばれた人責任重大やなぁ」

 

 白々しく言う二人に、ドキドキして「誰なんだろう……」という表情の日葵。日葵可愛すぎる。ずっとそのまま純粋でいてほしい。

 

「メインキャストは恭弥、日葵、春乃、千里、そして私。この五人が中心よ」

「えぇ!? 私!?」

「うわー、まさか僕だったとは!」

「うそやん! 私にできるかなぁ!?」

 

 『日常系青春ラブコメ』。自分で言っておいてなんだが、こんなに当てはまるやつら、俺たち以外にいないだろう。

 まぁ正直劇をやるのはめんどくさいが、光莉が脚本やるってなら書きやすい方がいい。光莉が書きやすいのが何かって言ったらもう日常的なこと以外思い浮かばなかった。クラスのみんなが俺の適当な考えを受け入れてくれてよかった。馬鹿どもめ。

 

「これで書きやすいだろ? 感謝してくれ」

「そもそもあんたが私に脚本押し付けたんでしょ」

 

 覚悟しときなさい。と言い残し、光莉は自分の席に戻っていってしまった。俺殺されるの? 殺されたこと何回もあるから、まぁ仕方ないかと思ってしまっている自分が怖い。慣れちゃだめじゃね?

 

 その後、適当に他の役割を決めて解散した。そういえば脚本押し付けられてキレてたけど、そもそも俺を仕切りに推薦したの光莉じゃね?


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