明日、明日だ。
明日、俺は日葵とデートに行く。実際には千里と薫もいるけど、二人には遠くにいてもらって俺が変なことしないか見張ってもらう役だ。俺も変なことをする気なんてまったくないが、人間っていうのは自分でやらないと思っていてもやってしまうもの。俺や光莉なんてその節しかない。
デート、デートである。日葵と二人きりになることなんて、あの日のカラオケ以来じゃないだろうか。手とかつないじゃったりするのかな? いやまだそれは早い。というより今の中途半端な状態、気持ちのままそんなことはできない。
俺は、もしかしたら日葵、光莉、春乃の三人から好意を寄せてもらっている。信じられない話に思えるがこれは多分マジで、マジなのかと疑ったがマジである。
春乃は確定、光莉はほぼ確定、日葵はほぼほぼ確定。そして俺はクズのくせに誠実でいたいから、付き合ってもいないのに手をつないだりとかそういうことは、俺に好意を寄せてくれている女の子に申し訳ないからできない。光莉をおんぶしてたのはノーカン。あれはお守りみたいなものだ。おっぱいは柔らかかった。
俺は、日葵が好きだ。それは絶対だし、変わることはない。ただ、他の二人からの好意を簡単に切り捨てられるかと言えばそうじゃない。
光莉。クズで日葵が好きで、おっぱいが大きくて可愛くて身長が低くて、誰かを心から想えるとてつもなくいいやつ。一緒にいると楽しいし、俺と似た思考をしていて俺なんじゃねぇかって思うくらい俺。私たち、元々一つだったんだねというやつだ。
春乃。イケメンでカッコよくて可愛くて美人で、何事にも真正面からぶつかっていく気持ちのいいやつ。一緒にいると楽しいし、面白いことが好きだから人の道を外れない程度には倫理観を無視することもある。
贅沢すぎやしないか。全員文句なしに素敵な女の子で、誰か一人とだけ親交があったら間違いなくその子を好きになるような容姿と性格。俺はのほほんと真剣な恋愛をしたかったのに、俺が恋愛をすることによって誰かを傷つけてしまう。なんて罪作りな人間なんだ俺は。クソ、俺がいい男であるばかりに。
なんてふざけちゃいるが、俺はいい男なんかじゃまったくない。自他ともに認めるクズだ。身内以外の人間に興味なんて微塵もわかないし、どうなったっていいと思ってる。その代わり身内はめちゃくちゃ大事にするし、めちゃくちゃ優しくする。というか勝手にそうなってる。だから俺のいいところは身内に甘いところだけ。あとカッコよくて頭がよくて運動ができる。
は? こんな男好きにならないやついるの?
いないな。そうか。俺が好きになってもらえるのは必然だった。なんであんな素敵な女の子たちが俺を好きになってくれたんだろうと思っていたが、俺が素敵だったからだ。うんうん。それなら仕方ないよな。
そういうことじゃないんだよ。どういう風に立ち回れば傷つけないで済むかってことだ。俺が世界で一番苦手なものは女の子の涙。悲しくて泣いてるところなんて見てられない。つまり、悲しいだけじゃなくて清々しい涙ならいいんだ。
一人一人と真摯に向き合って、ちゃんと気持ちに応える。正面からぶつかる。俺はヘタレだヘタレだ言われているが、そんなことができないほどヘタレ。ダメじゃん。
でも普通そうじゃない? 俺普通の男子高校生……いや普通とはちょっと外れてるかもしれないけど、特殊能力を持ってるわけでも世界を救えるわけでも体の構造がおかしいわけでも人の気持ちを踏みにじれるわけでもない。そんなやつが自分に好意を向けてくれてるってわかってて、うまい立ち回りなんてできるか? 千里みたいな人でなしならできただろうが、俺には無理だ。
日葵といたらめっちゃくちゃ緊張するし、光莉といたらいつも通り振舞おうとしてもやっぱりどぎまぎするし、春乃は狙って押してくるからどぎまぎするし、光莉と春乃がいいやつすぎて好意が一切ないなんて言いきれなくなってる。
光莉のおっぱいが大きいところと日葵が大好きなところと、他人を思い遣れるところと乙女なところと、そういうちゃんと乙女なところが出た時にめちゃくちゃ可愛いところが好きだ。
春乃のカッコいいところと気持ちのいい性格と、笑いを大切にするところと周りをよく見ているところとエロいところと、時折見せる俺に対しての華が咲いたような笑顔が綺麗で可愛くて好きだ。
日葵の、すべてが好きだ。
うん、好きだから好きだ。だから俺の中での答えが揺らぐことはない。日葵が本当は他の男が好きで、その男と付き合ったとしたらもしかしたら光莉か春乃のどちらかを選ぶかもしれないけど。
それならそれで、光莉と春乃は応援してくれるんだろうな、と思う。日葵が他の男が好きだからチャンスだと思うんじゃなくて、俺が日葵のことを好きだから他の男に取られるんじゃないって背中を押してくれると思う。完全な想像だが、確信でもある。
だって、光莉と春乃は俺が日葵を好きだってことがわかってる。それでもアプローチしてくれてるから。
「幸せ者だと思わないか?」
「びっくりしたよ。僕がいるのに一人で黙って何か考え始めるから」
俺のベッドで寝転がっている千里に話しかけると、「やっと帰ってきた」と呟いて俺の方に体を向ける。ごめんね? 明日日葵とデートだと思ったら色々考えちゃって。でも俺が何を考えてるのか察して、俺が考え終わるまで口を挟んでこない千里のそういうところ、好きだぜ。
「モテる男は辛いんだね」
「つらい。めっちゃ悩む」
「そんなに難しく考えなくていいと思うよ。君は夏野さんのことが好きなんだろ? じゃあそれだけでいいじゃん。それさえ間違えなければ、君なら君にとって正しい選択はできるはずだから」
「簡単に言ってくれ」
「今そうやってうだうだ悩まなくても、実際そういう状況になれば君は人を傷つけないように立ち回ることができる。不器用に見えて器用なんだから、大丈夫だよ」
「千里が言うならそうなんだろうな」
「ん。親友の僕が言うんだから間違いないよ」
お前ベッドで横向きになって寝て俺に微笑みかけるんじゃねぇよ。お前もしかして俺に好きになってほしいの? うっかりベッドインしようとしてベッドインしちゃったじゃねぇか。
「恭弥?」
「変な意味はないんだ」
「なんで僕の隣で寝るの? 座ってればいいのに」
「まぁまぁ親友。いいじゃねぇか、男同士が一緒にベッドで寝てもよ。俺たちは親友なんだから」
「……仕方ないなぁ」
チョロすぎ。親友だから百万貸してくれっつっても「仕方ないなぁ」って貸してくれないかな。これは俺と千里の勝負だ。俺がいかに千里の許容範囲を見極めるか。脱いでくれは多分アウト。自分に実害さえなければいいはずだ。ただ、仲良しな感じがすることならセーフな気もする。一緒のベッドで寝るなんて男同士なら気持ち悪さしかないはずなのに、千里にとってはこれが仲良し判定になっている。頭おかしいんじゃねぇのこいつ。いい匂いするし。
「ねぇ恭弥。もし明日夏野さんに告白されたらどうするの?」
「……どうすっかなぁ」
「なんで悩んでるの?」
「ほら。光莉と春乃が俺のこと好きでいてくれてるだろ? それなのに二人がいないところでその告白をオッケーして、次会った時付き合いましたって報告するって、二人からしたら嫌だろ。同じレースに参加してたのに、いきなり失格にされたみたいな」
「なるほど、難儀な性格だね」
「でも断りたくないし。俺どうすればいい?」
「もし告白されたら僕が狙撃してあげるから大丈夫だよ」
「俺の命の心配がでてきたんだけど」
「まぁなんとかなるでしょ」
「俺の命をその程度の言葉で済ますな」
あとお前日葵と薫の前で俺を殺すってどんなド外道だよ。サイコパスじゃねぇの? あれか、そんなことができるのは親友である僕だけだろうからとか? ふざけんじゃねぇよテメェクソメスが。俺はしようと思えばお前で欲情できるんだぞ?
「あとさ。夏野さんなら恭弥と似たようなこと考えてると思うんだよね。二人がいないところで私だけ告白するなんてって」
「……お前、いつの間に日葵のこと理解できるようになったの?」
「恭弥は夏野さんの幼馴染で、僕は恭弥の親友。そりゃ理解もするし仲良くもなるさ」
こいつ、日葵が薫とちょっと似てるからって手ェ出そうとしてんじゃねぇだろうな? もしそうなったら俺はお前に手を出すぞ。二度と男に戻れねぇような地獄を見せてやる。俺を見る度体が震えるようにしてやる。
まぁ、千里だから心配はいらないだろう。日葵と二人きりになっているところをみるとつい激昂してぶち殺してしまうこともあるが、千里に限って俺を裏切るような真似はしないって信じてる。こいつもクズで性格悪いけどいいやつだから。
「ま、難しいことは気にしないで、明日は普通に楽しんだらいいと思うよ。せっかくのデートなんだから」
「お前絶対俺を見捨てるなよ。俺は日葵と二人きりになったら途端にポンコツになるんだから」
「夏野さんと二人きりだとただのイケメンになるもんね」
「元々死ぬほどイケメンなのにな」
「死ねばいいのにね」
え?
「僕らも僕らで楽しませてもらうけど、ちゃんと見てるから安心して」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、気のせいだよな」
「変な恭弥」
なんか死ねばいいのにって言われた気がしたが、くすくす笑う千里が可愛いので気にしないことにした。