【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第76話 どうぶつのくに

 『どうぶつのくに』。巨大な施設の中にある動物園で、それぞれの動物に合わせた空調管理、環境整備など、まさに動物のためにあるようなところ。真夏でも利用できる動物園として有名であり、昔から大人気の施設だ。

 

 小さい頃何度かきたことがある。それこそ日葵と一緒に、家族ぐるみで。

 

「久しぶりだね!」

「日葵とくるのはそうだな。ちょくちょく薫にせがまれてきてたけど」

 

 薫は動物と触れ合えるこの場所が好きで、よく連れて行ってくれと頼まれていた。そのたび動物と一緒に写真を撮らされて、薫が可愛すぎて俺の心が持たない、天国であり地獄でもある場所。

 

「えー、でも恭弥ばっかりに集まって、薫ちゃん拗ねてたんじゃない?」

「薫も俺に近寄ってれば恩恵受けられるからな」

「ほえー。仲良しさんだね」

 

 おかげで周りの大人たちからはほんわかした目で見られていた。ぴったりくっついた兄妹に群がる可愛い動物。しかも俺はカッコよくて薫は可愛いときたもんだ。ここにきたときだけは薫が俺にくっついて離れないから、俺はここが好きすぎて仕方がない。

 ……日葵もくっついてくれないかな? 

 

「ワンちゃんのとこ行こ!」

「犬チクショウのところか。オッケー」

「あまりにもひどい呼び方……」

「あいつらが飛びついてくるのは、懐いてるんじゃなくて俺を下に見てるからかもしれないことが判明したんだよ」

 

 俺に懐いて飛びついてきてくれるならそりゃ可愛いが、俺を下に見てるなら話は別だ。可愛いなぁと撫でる行為が犬チクショウの中ではマッサージに変換されているということで、つまり俺は無意識にご奉仕させられているということになる。人間様である俺が、犬チクショウに。

 

「ん-、そんなことないと思うけどなぁ。みんな『恭弥だー!』って喜んでくれてると思うよ?」

「そんな千里みたいな犬いるか?」

「織部くんそんな感じなんだ……」

 

 だってあいつ俺のこと好きだし。俺がいるのといないのとじゃ態度結構変わるし。俺といるとテンション上がってちょっと暴走気味になったりするし。ったく、可愛いやつめ。

 

 隣同士、並んで歩きながらゲートをくぐる。その先には芝生が広がっており、様々な種類の犬が思い思いに駆け回っていた。

 そのうちの数匹が俺の姿を見つけると、勢いよく俺に向かって走ってくる。

 

「この瞬間いつも怖いんだよ!」

「あはは! やっぱり大人気だね!」

 

 あっという間に10匹程度の犬に囲まれて、じりじりと距離を詰められてから一斉にとびかかられる。俺はそのまま芝生の上に倒れこんで、体中を踏み荒らされ顔や手をべろべろ嘗め回された。もう狩りだろこれ。

 

「よいしょ」

「……!?」

 

 いつ解放されるのかと犬に身を任せていると、俺の隣に日葵が寝転んだ。日葵は俺を見てにっこり笑うと、俺の顔に貼り付く犬をひょいと抱き上げて自分の胸に抱える。は? 犬チクショウが日葵の胸に? ちょっと変わってくれませんかねお犬様。

 

 日葵に抱かれた犬が気持ちよさそうに撫でられているのを見てか、他の犬も徐々に日葵の方へ集まりだした。なんてことはどうでもよく、俺は今隣で寝ている日葵が気になって仕方がない。俺の隣に日葵が寝ている? これはもう実質セックスでは? だって字面だけ見たらもうそういうことだろ。ふっ、恥ずかしいぜ。まさかこの現場を千里と薫に見られることになるとはな。薫にはちょっと刺激が強すぎるかな?

 

「薫ちゃんの気持ちわかるかも」

「え? 恥ずかしいのか?」

「はずかしい?」

「こっちの話だ気にしないでくれ」

 

 びっくりした。兄と姉のように慕っている姉のセックス現場を見た時の気持ちがわかるって言ったのかと思った。危ない。千里は俺のこういうところを注意したってのに。思考が暴走するとよくない。ここは一旦犬を撫でて落ち着こう。

 

 そうと決めて撫でてみると、まず違和感を覚えた。毛というよりも髪のような、さらさらしていて柔らかな感触。こんな犬いるんだなと思ってそっちを見ると日葵の頭の上に俺の手。はははやべぇや隣に日葵が寝てるからって気が動転して日葵と犬間違えちゃったわ。顔真っ赤にして黙りこくってら。

 

「……」

「……」

「……いや、違うんだよ日葵。これはな、そう。違うんだ」

「……」

「おい犬ども。何空気読んで固まってんだ。踏み荒らせ。俺に構わず踏み荒らせというか俺に構って踏み荒らせ。あぁ日葵。俺はもちろん日葵を撫でようとしたんじゃなくて、犬を撫でようとしてたんだ。ほら俺は頭がおかしいだろ? 人と犬を間違えてしまうとんでもない大馬鹿野郎なんだ。だから決してやましい考えなんて一ミリもなくて」

「わんっ」

「うそだろ」

 

 顔を赤くして固まる日葵に長々と言い訳していると、犬の鳴き声の物まねとともに日葵が俺の肩を枕にした。ふわりと女の子特有(※例外あり)のいい匂いが犬の獣臭さをかき分けて俺の鼻を狙撃し、脳天まで撃ち抜かれる。俺の肩を枕にしたことでさらに真っ赤になった日葵を見て追い打ちをくらい、俺も黙ってしまう最悪の事態に陥った。おい、犬どもなんとかしろ。いや、俺たちを周りから見えないように囲うんじゃなくて。なんでそんな気遣えるの? って思ったらよく見たらお前らずっとここにいるやつらじゃん。久しぶり。元気にしてた?

 

 なぁ日葵。俺が悪かったよ。俺が犬と間違えて撫でるなんていうクソみたいなことしたのが悪いよ。でも慣れないアプローチして自滅されたら俺も困るよ。俺は大体なんでもできるけどポンコツなんだぞ? そこんとこわかってんのか?

 

「……ね、寝心地はいかがですか?」

「……さ、さいこう、です」

 

 それでも沈黙したままじゃだめだと思って聞いてみたら最高だって。ははは。この世の幸せを凝縮した世界がここにある。幸せすぎて怖い。助けてくれ。遠くでこの状況を見て爆笑しているであろう千里。耐えられないよ俺。今までこんなぐっと距離近くなることなかったのにいきなりこんなの耐えられないよ!

 

「た、助けて恭弥ぁぁあああ!!」

「え?」

「織部くん?」

 

 心の中で助けを求めた相手から助けを求められた。あいつ、遠くから見守って何かあった時サポートするって言ってたくせに……。

 

 日葵の肩にそっと手を回して一緒に体を起こして、千里を探す。あのメスを探すのは簡単で、なんかエロい雰囲気を感じる方を見ればすぐに見つかる。

 

 今回もすぐに見つかった。そして、見つけたことを後悔した。

 

 俺が視線を向けた先。そこには、めちゃくちゃでかくて強そうな犬に抑えつけられて腰を振られている千里と、その光景を子犬に囲まれながら無の表情で見ている薫がいた。

 

「恭弥っ、ごめん、ごめんね! 僕じゃどうにもできなくて、力も全然敵わなくて!」

「おい。俺の妹の前で情けない姿を晒してる気分はどうだ?」

「仕方ないだろ! 薫ちゃんの方には可愛らしい子犬が寄ってくるのに、僕はなぜか大型犬ばっかに襲われたんだから! ちくしょう、僕は犬から見てもおいしそうなメスに見えるのかよ!」

「ねぇ薫ちゃん。ほんとうに織部くんでいいの?」

「……う、んん」

「悩まないで薫ちゃん! あと恭弥早く助けてよ!」

「あ、あぁ悪い。結構エロくて見惚れてたわ」

「近寄るな」

「わかった。行こうぜ日葵、薫」

「うえええぇぇえええん!!!!!」

 

 千里が泣いてしまったので、急いで救出した。結構本気で怖かったみたいで、ぐすぐす泣いているところを薫に慰めて貰っていた。それ多分余計情けなくなるから放っておいてやれ。ほんとに。

 

 

 

 

 

「薫ちゃんの勉強の息抜きってことできたんだけど、まさか偶然会うなんてね。そういえばここ犬と触れ合えるらしいよ?」

「記憶から消そうとしてる……」

「しっ、薫ちゃん。こういうのはなかったことにしてあげるのが一番だよ」

「多分またあそこにいる少年の性癖歪んじゃったよなぁ」

 

 かわいそうに。もうノーマルじゃ満足できなくなってしまったんじゃないだろうか。犬と触れ合いにきただけなのに、新たな性の目覚めに触れるとは。こいつほんとこの世界がエロ漫画だったら死ぬほど犯されてんじゃねぇの?

 

「ごめんね二人とも。デートしてたんでしょ?」

「そっ、それなら私たちもごめんね? デート中なのに」

「ん-ん。日葵ねーさんと一緒に遊べるの嬉しいもん。謝んないでいいよ」

「ん-ん。千里と一緒に遊べるの嬉しいもん。ただ謝れクズが。僕がメス過ぎるあまり二人の邪魔をしてしまい誠に申し訳ございませんでしたと頭を下げろ」

「兄妹でこうも違うのか……」

 

 当然だろ。サポートしてくれるはずのやつが犬に腰振られてて助け求めてきたんだぞ。情けなさが服着て歩いてんじゃねぇよ。誰の許可得て人の形してんだテメェ。

 

 まったく。まぁ薫が日葵と遊べて嬉しそうだからよしとしよう。薫はほんとに日葵に懐いてるからな。もしかしたら千里もそれを察してわざと襲われたのかもしれないし。いや、ないな。素のポテンシャル一本で犬のオスを目覚めさせたんだこいつは。とんでもねぇ野郎、じゃない、メスだぜ。

 

「もっとさ、こう、襲ってこない動物と触れ合いたいと思わない? 僕が襲われるからとかじゃなくて、薫ちゃんも夏野さんも危ないと思うんだ」

「お前が襲われるから危ないんだぞ」

「千里ちゃんを襲わない動物……いるかな?」

「うさぎさんとかなら大丈夫じゃないかな。小さいし」

「確かにな。うさぎになら千里も負けることはないだろ」

「確かに。それなら薫ちゃんも夏野さんも安心だね」

 

 こいつ、頑なに認めない気か。さらっと薫の手を取って歩き始めた千里の背中を追い、「逆だぞ」と言うと千里が振り返って「試したのさ」とウィンクを一つ。あぁ、こいつ多分まだ心ボロボロだな、と察して、日葵と頷きあって万が一にでも千里が襲われないようにしようと固く誓いあった。


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