【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第77話 うさぎ

 もふもふ。もふもふもふ。

 

「ぶばぶぶぶぶ」

「また囲まれてる……」

「うさぎまみれ……かわいい……」

「顔の上に乗られてるけど、あれ息できてるのかな?」

 

 普通に窒息しそうだったので顔の上にいるうさぎをどけて、すぐ側に座っていた薫の膝の上に乗せる。薫の表情がふにゃりと笑顔になったのを見て頷くと、別のうさぎが俺の顔の上に乗ってきた。何? 俺の顔の上順番待ちでもされてんの?

 

 またも窒息しそうになっている俺の顔の上からうさぎをどけたのは、日葵。自分の膝の上に乗せて慈悲深い笑みでうさぎをなでなでしている。俺もなでなでしてほしい。

 

「恭弥ってなんでそんなに動物に好かれるんだろうね。人からは人気ないのに」

「動物ってのは人の内面を見るんだよ」

「内面見られたから人が離れていくんじゃないの?」

「兄貴ってクセあるからね」

「俺はお前らがいるだけで十分なんだよ」

「そんな大事に思ってくれてるならどうか殺すのはやめてくれ」

「今現在兄貴の前で可愛い妹の隣陣取ってるカスを殺すなって?」

 

 こいつ、開き直りやがったのか俺の前で堂々と薫といちゃつこうとしてやがる。お前フッたクセにそれはどうよ。薫が満更でもなさそうだからひとまずは許してやるが……。ふん。俺に似て心が広い薫に感謝するんだな。

 

「でもほんとに羨ましいよねー。私もうさぎさんに埋もれてみたい……」

「兄貴の隣に寝たらいいんじゃない? さっきもしてたじゃん」

「み、見てたの!?」

「あんな桃色の空気出されたら見るよ。目の前が地獄だったし……」

「あの、忘れてくれない? 普段男らしい僕の痴態は恥ずかしいんだ」

「どうやら俺とお前じゃ男らしいの意味が違うらしい」

 

 俺の前で千里が男らしかったことなんてないだろ。大体メスかメスで、時々メスで稀にメス。つまりいつもメスだ。フェロモンまき散らして恥ずかしくねぇの? 男らしいっつったら俺のようなやつのことを言うんだよ。好きな女の子の前でドギマギしたり、女の子からのアプローチにドギマギしたり、普段べらべら喋るのにそういう雰囲気になったら言葉が何も出てこなくなったり。

 

 ……今度春乃に男らしさってやつを教えてもらおうかな。

 

「うー……薫ちゃん、他の人に言わないでね?」

「別に。あんなこと、昔はよくやってたじゃん」

「む、昔でしょ昔! 小学生とかそれくらいのとき! 今とはその、ちょっと、状況が違うと言うか……」

「へぇ。恭弥、へぇ」

「ちなみに薫も一緒になってやってたぞ。あれは可愛かったなぁ」

「余計なこと言うな」

 

 ぺち、と薫におでこを優しく叩かれるという幸せダメージ。今も可愛いけど、あの頃も可愛かったなぁ。俺のことも日葵のことも大好きだから、日葵が俺の隣にくると薫も慌てて俺の隣に来て、俺の手を掴んで自分の頭に持って行って「撫でろ」って目で訴えてきてたっけ。は? 可愛すぎて死ぬんだけど。

 

「薫ちゃんはずっと可愛いよねぇ。後ろちょこちょこついてきて、振り返ったら手を握ってきて。うちに連れて帰りたいもん」

「僕も」

「何同じ感じで同意してんだテメェ。日葵は純粋さマックスだけどお前は邪マックスだろ。何年か後にしろ」

「はは。わかったよ義兄さん」

「調子乗んなよ腕と脚つなげるぞコラ」

「なにその怖い言葉……」

 

 せめて呼ぶならお兄ちゃんにしろよ。義兄さんも可愛いと言えば可愛いけど、やっぱりお兄ちゃんが一番可愛い。時々薫に「呼んでくれない?」って言っても「は? キモ」とすごく軽蔑した目を向けられるから、もう千里しか呼んでくれる人はいないんだ。

 まぁでも俺はわかってる。薫は「お兄ちゃん」って呼びたいけど、年齢を考えると恥ずかしいから呼べないだけなんだ。ほんとは「兄貴」よりも「お兄ちゃん」って呼びたいに決まってる。

 

「そういえば薫ちゃんっていつから恭弥のこと『兄貴』って呼ぶようになったの? 『おにーちゃん』っていうの可愛かったのに」

「いいじゃんべつに。この年でお兄ちゃんって恥ずかしいし……」

「じゃあ僕をお兄ちゃんって呼ぶのはどう?」

「なにが『じゃあ』なんだよ。どさくさに紛れて俺からお兄ちゃんの称号を強奪してんじゃねぇぞ」

「あとお兄ちゃんって感じじゃないし」

「あぁ確かに。爽やかイケメンで優しかったらお兄ちゃんって呼びやすいかもね。僕のような」

「お前血のつながってない年下の女の子に『お兄ちゃん』って呼ばせるヤバさわかってんのか?」

「犯罪じゃないから」

「犯罪じゃないからオッケーって人としてどうよ?」

 

 薫の妹力強いから『お兄ちゃん』って呼んでもらいたい気持ちはわかるけどな? でもお前そろそろ危ないぞ。薫は心が広いから大抵のことは許してくれるが、しつこすぎると嫌われる。今だって「呼んでみようかな……」って悩んで、何悩んでんの? お兄ちゃん許しませんよ俺以外の男をお兄ちゃんって呼ぶの。

 

「でも夏野さんは『ねーさん』って呼ばれてるじゃないか。不公平だと思わない?」

「日葵は小さい頃から薫と一緒だったんだ。お姉ちゃんみたいなもんだろ」

「そうだよ! 私は薫ちゃんのお姉ちゃんだもん!」

「一時期疎遠だったのに?」

「的確に嫌なこと言ってんじゃねぇよ」

 

 心がないのかこいつは。日葵が「それは、その……」って返す言葉なくなってるじゃねぇか。それに疎遠だったのは俺と日葵で、日葵と薫は別にそんなことなかったし……薫が俺に気を遣って日葵と会わなかっただけだし……。

 

「日葵ねーさんは日葵ねーさんだもん。疎遠だったとか関係ない」

「薫ちゃん好き……」

「僕も」

「おいクズ。そろそろ便乗するのやめろ」

 

 なんでこいつは姉妹(仮)の美しい愛情に割って入れるんだろうか。これは男らしいっていうのか? いや、ただクズなだけだ。俺は光莉を含めた三人の中で千里が人間的に一番クズだって思ってる。死ぬほどクズな根っこを立ち回りでどうにかカバーしてるだけだろこいつ。

 光莉はクズと言えばクズだけど、根っこの善良さが透けて見えるしな。俺も同じく。むしろ俺は周りがクズだって言ってるだけでクズじゃない可能性すらある。いつの時代も先頭を走る人間は、最初は誰にも理解されないもんだからな。

 

「ねぇねぇ薫ちゃん。将来ペット飼うなら何がいい?」

「メスがいるからいい」

「おい恭弥。お宅の妹の教育はどうなってるんだ?」

「至極まともだぞ」

「ほ、ほら。織部くんがいるからいいって意味だよ! 織部くんをペット扱いしてるんじゃなくて」

「どういう意味であろうと薫ちゃんが僕を『メス』だって言った事実は変わらない」

 

 ここは僕のオスを見せてあげるべきか、と悩み始めた千里にうさぎの大群を突撃させ、もふもふでノックダウンさせる。千里可愛い動物似合いすぎだろ。日葵と薫と張り合えるレベルで可愛いじゃねぇか……。

 

「ん-、ペットかぁ……。ね、恭弥はペット飼いたいって思う?」

「ペットなぁ。犬飼うと千里が襲われるし……」

「子犬なら大丈夫だよ」

「いや、俺デカい犬のが好きなんだよ。カッコいいから」

「君との友情はここまでだ」

「トラウマ植え付けられてる……」

 

 どうやらデカい犬を飼うと千里が家に寄り付かなくなるようなので犬は無し。いや、別に千里のことは考えなくてもいいと思うけど、やっぱり親友だし。結婚してからも仲良くしたいし、千里がくるってことは薫も一緒にきてくれるだろうし。

 

「猫は?」

「多分平気な顔して一日中乗ってくるから無理だ」

「兄貴、猫に一番好かれるもんね。今はマシだけど、小学校の頃野良猫の大群引き連れてたし」

「あれ可愛かったなぁ」

 

 可愛かったけど恐ろしかった。普通に歩いてたら後ろが騒がしくなって、振り向いたら野良猫が列作ってたんだぞ。俺が気づいた瞬間に飛びかかってきたし、なんだ。俺は野良猫に親近感持たれる何かがあるってのか? 多分だけどあんまりよくないだろそれ。野生が一番似合ってるってことじゃねぇのか?

 

「でも見てみたいかも。恭弥がお仕事行くとき、絶対『いかないでー!』って足にしがみつくよ」

「かわいい……。兄貴と一緒に住もうかな」

「多分僕の方が可愛いよ」

「お前にプライドはないのか?」

 

 いくら薫と二人切りがいいからって、プライド投げ捨ててのそれはどうよ。確かに千里のが可愛い気もするけど。仕事行くときにしなだれかかってきて「行かないで……」って言われたらすぐ寝室に行くけど。俺千里と一緒に住もうかな?

 

「うん、ペットは飼わなくてもいいかもな。子どもできたら考え変わるかもしんねぇけど、生活に支障をきたす未来しか見えん」

「いいなぁ。私もペットで生活に支障きたしてみたい……」

「いや、実際ものすごいぞこの体質。鳥とかはまだマシだけど、哺乳類に異常な好かれ方するんだ」

「千里ちゃんと一緒だね」

「僕のは本当に異常だから比較対象に持ってこないでほしい」

 

 千里は、その、ね? メスとして見られてるっていうかなんというか。アレは流石の俺もちょっと気の毒になったし。千里は一生ペット飼っちゃダメだろうな……。多分年とっても若々しいままな気がする。それかとてつもない美人になるかのどっちかだ。こいつに自分の息子を会わせるのだけはやめておこう。性癖を歪められる。

 

「ケージに入れられるうさぎさんならいいかもね! 家で放し飼いにしてみたい!」

「一瞬で矛盾してるぞ。結局俺の上に乗ってきて生活に支障きたすじゃん」

「うさぎなら大丈夫じゃない? 体小さいし、千里ちゃんじゃないから負けないでしょ」

「流石の僕でもうさぎには負けないよ?」

「うさぎにもフレミッシュジャイアントっていうデカいうさぎがいるぞ」

「それには負けるけど」

 

 負けるのかよ。

 

 ……って、あれ? というか今自然と俺と日葵が一緒に暮らす前提みたいな会話してなかったか?

 日葵を見てみる。にこにこして首を傾げた。どうやら気づいていないらしく、無意識だったんだということがわかる。それはそれで恥ずかしいんだよチクショウ。

 

 にやにやしてる千里の顔にうさぎを押し付けて、熱くなった自分の顔にもうさぎを押し付けた。やだやだ。脳内桃色の男子高校生はこれだから。


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