気を取り直して、第六問目。なんか流されて普通に答え合わせしてるけど、これってやる意味あんの? 今のところ俺の人間性をバカにされてるとしか感じないから、俺にとって損しかない。もっとみんないい答えを書いてくれてたら「お前ら……!」ってなったのに、地味な言葉の暴力でボコボコにされてるだけだ。
「六問目。『将来の夢が特にない氷室恭弥ですが、何に向いていると思いますか?』なぁ、もう問題じゃなくね? アンケートだろこれ」
「ちなみに僕は『芸能界』って書いたよ」
「は? 嬉しいんですけど」
「芸能界っておかしい人たちの集まりでしょ?」
「じゃあ俺普通だから無理じゃん」
「おかしいのの地球代表がほざくんじゃないわよ」
「日本飛び出してんじゃねぇか」
日本代表じゃなく地球代表って、俺どこと戦うんだ? あと俺が地球代表ならお前らも地球代表だろ。何「やれやれ、仕方ないなこいつは」みたいな顔して肩竦めてんだクズ二人。常人の皮被れてすらいねぇんだぞお前ら。自覚してんのか?
「私は『何にでも向いてる』って書いたで」
「はい。春乃が正解しました」
「ぺっ、調子乗りやがって」
「あんたが何にでも向いてる? 寝ぼけてんじゃないわよぶん殴るぞ」
「わ、私は『先生』って書いたけど、光莉はなんて書いたの!?」
ただ春乃が正解しただけなのにクズ二人が荒んでしまった。春乃が正解したからというより俺が『何にでも向いてる』って調子乗った答えを書いたことがムカついたからだと思うけど、そんなに気に入らない? あまりにも態度が豹変したから日葵が慌てて話変えようとしてるじゃん。可愛いじゃん。あと先生って多分うちらの担任と俺を重ねてね? 今何してんだろあの先生。夏に弱そうだから死んでんじゃねぇか?
「私は『クズ』って書いたわ」
「向いてるっていうよりもうクズやしなぁ」
「もうなってるものにはなれないし」
「そうよね……ちょっと考えすぎたわ」
「きょ、恭弥。落ち着いて、ね?」
立ち上がって拳を握りしめた俺を見て、日葵が慌てて止めに入る。わたわた腕を振って必死な日葵がとても可愛いので怒りがどこかへ吹っ飛び、「まぁ俺クズだしなぁ」とニコニコ笑いながら座った。日葵が可愛かったらクズと言われてもなんとも思わないものなんだなぁ。クズどもとは大違いだぜ。
「七問目。『氷室恭弥は将来何人子どもが欲しいでしょう』……」
ちら、と千里を見る。にやにや笑っている。これ、かなり遠回しなドセクハラだろ。つまり『私はあなたと結婚したら何人ほしいです』って発表していくようなもんじゃねぇか。俺の希望を当てるように見せかけたセクハラじゃねぇか。最低だな。失望した。ところでみんな何人ほしいのかな???
「僕は『18人』かな」
「甲子園出場できるじゃねぇか。そんなに産んだら嫁壊れるだろ?」
「甲子園とお嫁さん、どっちが大事なの?」
「それ俺が甲子園に夢見てる前提の話じゃん。完全に嫁のが大事だって」
こいつさっきの問題もそうだけど、野球にハマってるのか? いや、18人ってワードから甲子園を導き出した俺が悪いのかこれ?
でも千里のことだから「野球って男らしくない?」って言って野球を始めだしてもおかしくない。そんでいざ入部したら着替えるときに全部員からの視線が突き刺さって泣きながらやめて俺のところに走ってくるんだ。仕方ないやつめ。
「恭弥くんは『二人』ちゃうかなー」
「私も『二人』って書いたわね」
「私は『二人で、お兄ちゃんと妹』って書いたよ!」
「日葵花丸。俺は『兄貴と妹の二人』って書いた。まぁ二人でも正解だろ」
「じゃあ夏野さんには5万点でいいかな?」
「おう」
「異論ないわ」
「待て待て。そういうの普通最後の問題でやるもんちゃうん? なんでこんな中途半端なところで大どんでん返ししとんねん」
「春乃この画像見て。色んな岩」
「しばくぞ」
いい音を鳴らして叩かれる光莉。あいつ時々クソしょうもないダジャレ言うよな。もしかしたらあいつには才能がないのかもしれない。俺たちクズは思いついたら喋ってしまうクセがあるから仕方ないと言えば仕方ないけど。全員直した方がいいなこの悪癖。
今のところ日葵がさっきの完璧回答で+2点して、日葵と光莉が二点、春乃が二点、千里が一点。千里はさっきの問題も当てられただろうが、俺に甲子園って言わせたいから18人って書いたんだろうし全員並んでるようなもんだ。
「八問目。『氷室恭弥は大体なんでもできることで有名ですが、そんな氷室恭弥が苦手なものはなんでしょう』」
これは結構困った。俺に苦手なものなんて存在しないし、天才すぎるから苦手なものを探す方が難しい。いいところなら死ぬほどあるのに。俺の苦手なものを探すなんて東大受験より難しいんじゃないだろうか。一応答えは用意したけどあんまりしっくりこないし、当てられるやつはいないと思う。
「僕は『恋愛』って書きました」
爆弾投げてんじゃねぇよテメェ。いや苦手っちゃ苦手だけども。得意だったらこんな事態には陥ってないけども。日葵のことがずっと好きだったのに一回疎遠になって、なぜかハーレム主人公みたいな状態になってる時点で恋愛が苦手なことは明らかだけどそこには絶対触れちゃダメでしょ。バカなのかこいつ。女の子三人が一斉に「そうなの?」って目で……あぁ、光莉と春乃は「でしょうね」って目してら。なんなら春乃も『恋愛』って書いてるじゃん。
「私は『人付き合い』……」
「おい日葵。俺がコミュ障だって言いたいならストレートにそう言ってくれ」
「確かに恭弥は喋れるタイプのコミュ障だけど、元々人が近寄ってこないんだから苦手とかじゃないわよ」
「だよねぇ。光莉はなんて書いたの?」
「『小学校中学校の頃の仲もよくないあまりしゃべったこともない同期との会話』」
「は? 正解」
「これ絶対光莉も苦手なことやろ。恭弥くんのサンプルを自分にしてるやろ」
「そんなことないはずがないじゃない」
じゃあそうじゃねぇか。
似てる似てるとは思ったが、二問もばっちり、しかも絶対合わないようなやつを当てられてしまうと、やっぱり俺と光莉は似てるんだなぁって思わされる。というか似てるどころの騒ぎじゃないだろ。もしかして薫は朝日薫で光莉は氷室光莉だったりしない? 誕生日一緒だし双子じゃない? ……まぁありえないか。光莉は可愛いけどうちの両親と似てないし。隔世遺伝だとしても光莉と似た容姿の人はいなかったはずだ。
「確かに恭弥って仲のいい人以外とはほとんど喋らないもんね」
「喋っても面白くねぇもん」
「わかるわ。私の貴重な時間を割いてあげてるんだから、面白い話の一つや二つしてほしいわよね」
「傲慢すぎだろお前。引くわ」
「わかるって言いなさい」
「わかる」
睨みつけるのは無しでしょ。俺どんだけ光莉にボコボコにされてきたと思ってんの? 睨まれたら条件反射で服従しちゃうに決まってるじゃん。千里もわからなくていいのに「わかる」って言っちゃってるし。俺たちはもう二度と光莉に勝てないのかもしれない。
「九問目。今のところ光莉が一番当ててるけど、別に一番だからとかビリだからとか、どうせ俺なんて理解できるはずないんだから気にすんなよ」
「でも恭弥に理解してるって思ってもらいたいもん」
「僕はこんなテストしなくても君のことを理解してるってわかってくれてると思うけどね」
「言っとくけどお前今のところビリだからな」
光莉が4点、日葵が3点、春乃が2点、千里が1点。まさかの親友がビリというとんでもない事態に陥っている。お前本当に俺とアイコンタクトできる人間と同一人物か? 薫に夢中で俺のことないがしろにしてんじゃねぇのか? ……いや、まぁそれでいいんだけど。
「九問目。『氷室恭弥は娘になんて呼ばれたい?』」
「『パパ』」
「『パパ』」
「『パパ』」
「『パパ』」
「はい正解正解。恥ずかしいよほんとなんなの? 辱め殺す気かよ」
「グーチョキパーで右手も左手もパーで『パパ』って娘に覚えこませてそうよね」
「もし俺がそうなってたら殺してくれ」
「わかったわ」
「今じゃない今じゃない!」
座頭市みたいな持ち方でペンを握りしめて立ち上がった光莉に、慌てて千里を盾にする。盾にするなら日葵が一番有効だが、日葵を盾にするのは俺が許せないし、盾にした場合光莉が怒り狂う。春乃を盾にするのも俺が許せないし、つまり盾にするなら千里しかいない。でも千里も簡単に殺されるから、盾としてゴミなんだよなぁ。
「でもそういえば薫ちゃん、チョキとチョキで『にぃに』ってやってたよね?」
「やってた。可愛すぎて俺は八回死んだ」
「将来的に僕は君の弟になるから、僕もやってあげようか?」
「多分可愛いからやってくれ」
「頼むから嫌がってくれ」
年齢的にきついけど、見た目は可愛いから大丈夫だろ。そこに薫がいたら軽蔑されるだけだし、子どもがいたら『もう一人のお母さん何やってるの?』って言われるだけだし。どっちにしろかわいそうだな薫。
「じゃあ十問目、最後の問題だな。……『あなたは氷室恭弥からどう思われていると思いますか。氷室恭弥はどう思っているかを答えなさい』」
はぁ。
「これは恭弥から言ってもらおうか! まずは僕から。ほら恥ずかしがらずに!」
「クソ野郎」
「またまた。ちゃんと書いてること言ってくれないと、書いてる……」
だって親友よりも先にクソ野郎が思い浮かんだから……。
千里は現実を受け止めきれないのか、「照れ隠しか。やれやれ」と肩を竦めて遠くを見つめだした。多分あれ結構ダメージ入ってるな……。あとでフォローしておいてやろう。
「ん-、次誰が言うてもらう?」
「わ、私はいつでもいいわよ?」
「わ、私もいつでも、いいですよ!」
怪しい答え方をした二人に苦笑して、春乃が男らしく「ほな次私が言うてもらお!」と笑顔を一つ。あの、順番決めるのはいいんですけど答えるこっちが一番恥ずかしいんですよ?
「あのですね」
「うん?」
「そのー」
「うん」
「えっと」
「うん」
「……」
「……」
「みなさん、あとで文章で送るので、勘弁してもらっていいですか?」
「へたれ」
「へたれ」
「へたれ」
「へたれ」
「うるせー! なんとでも言え! 薫に慰めて貰うもんね!」
俺はその場から走り去り、薫の部屋に突撃して一瞬驚いた薫に「うるさい」と部屋から放り出されて、自分の答案用紙を置いてきたことに気づいた。最悪だ。