【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい 作:とりがら016
恭弥はあまり嘘をつけない人間だ。十問目なんて適当に可愛いとか面白いとか書けばいいのに、全員自分のことを好きかもしれないってわかってるから、自分も真剣に書かなきゃなんて、クズのくせに真正面からぶつかりにいく男気もあるわけのわからない人なんだ。
恭弥が残していった答案用紙を拾い、みんなを見る。みんなの目は答案用紙にくぎ付けで、自分がどう書かれていたのか気になって仕方ないと顔に書いてあるどころか朝日さんは「私がどう書かれているのか気になって仕方ないわね」と口に出して言っている。もうちょっと隠せ。
「千里千里。まだ内容言わんでええけど、どんな感じのこと書いてるん?」
「すごい本心。単語とかで済ませるんじゃなくて、ちゃんと思ってること書いてるね」
「聞きたいような聞きたくないような……」
「千里のことクソ野郎って書くくらいだから、私のことはシンプルに『おっぱい』って書いてると思ってたんだけど……」
「自分のことシンプルに表したらおっぱいやと思ってたん?」
シンプルに表すと『可愛い』とかになると思うんだけど、そのあたり恭弥を信用していないというか、まだ女の子として恭弥と接することに慣れてないというか、岸さんならともかく、朝日さんって元々恭弥と男友だちみたいな距離で接してたからまだその感覚が抜けないんだろう。朝日さんは今でも恭弥に気を遣わせないようにその距離感を保とうとしてるけど、もうちょっと積極的に押していってもいいのになんて思っちゃったりする。
「みんな、聞きたい?」
「恭弥くんが恥ずかしがって逃げるくらいやし、しかも答案用紙置いて行ってるし、よっぽどのこと書いてるんやろなぁ」
「気が動転するとポンコツになるものね。もちろん聞きたいわ」
「で、でも悪いこと書かれちゃってたらどうしよう……!」
それはないでしょ。夏野さんのことを悪く書くなんて、恭弥が一生かけてもできないことなんじゃないかな。もしかしたら好きな人だからこそ書けるっていうのもあると思うけど、そもそも夏野さんに悪いところなんて一つも見当たらないし。岸さんも欠点ないし、朝日さんはクズ。
「大丈夫だよ。夏野さんの悪いところなんて見当たらないから。自分では欠点って思ってても、他人から見れば魅力的に映ったりするものだよ」
「……千里って優しい時はちゃんと男らしく見えるのよね」
「あ、わかる。恭弥くんとおったらほぼほぼメスやのにな」
「うん。恭弥といるときの織部くん可愛いもん」
「もしかして僕がメスメスって言われるのは恭弥のせいなのか?」
恭弥の前で可愛くなってる自覚なんてないけど……。ただ気を張らなくていいだけで、別にいつも通りだ。僕はそう思ってる。
そんな100%気を許している僕のことを『クソ野郎』と書いている答案用紙をスマホで撮って、それをみんなに送って個人個人で見てもらうことにした。僕が口で言ってもいいけど、今思ったら僕の言葉で聞くよりも、恭弥が書いた文字を見た方が嬉しいだろうし。気遣いできる僕最高にカッコよくない?
「……おぉ」
「……」
「……」
三人の反応を見ると、みんな嬉しそうだった。岸さんはにやけてしまうのを抑えようと口元に手を当てながら顔を赤くし、朝日さんは口をきゅっと閉じて、スマホを両手で握って俯き、夏野さんは顔を真っ赤にして目をぐるぐる回している。愛されてるなぁ恭弥。一緒にいると楽しいし、なんでもできるから職に困ることはないだろうし、身内はめちゃくちゃ大切にしてくれるし、好きになるのも無理はないと思う。僕には負けるけど、人間的に魅力的なんだよね。僕には負けるけど。
改めて答案用紙を見る。三人のことはしっかり書いておいてなんで僕は『クソ野郎』って書かれてるんだと思ったけど、それだけ仲がいいっていう風に捉えておくことにした。一人だけ特別感出てるっていう風にも見えるしね。ふふ、きっと恭弥はドストレートにクソ野郎って思ったからそう書いたんだろうけど、なんとなく僕のことをどう思ってるかを僕に知られるのが一番恥ずかしかったんじゃないかなって思ったりもする。女の子に普段思ってること伝えるより、男同士の方が恥ずかしいもんね。
「あいつ、よくこんな恥ずかしいこと書けるわね」
「ふふ。でも嬉しいなぁ。こういうのちゃんと書いてくれるんや」
「ね。一言でも嬉しいのに、こんなに書いてくれるなんて爆発しちゃいそう……」
「バカ真面目に書かなくていいのにね」
適当に書いたら失礼なんて思えるの、今どきの男子高校生には珍しい。なんか普通の道から外れてる気がするから今どきの男子高校生のくくりに入れていいのか疑問だけど、僕からすれば結構すごいことをしてる。自分でやらせておいてなんだけど。
ちゃんと読むと僕まで恥ずかしくなってくる。けど、みんなめちゃくちゃ何度も読み返してて僕に構ってくれなさそうだから、僕も読んでおこう。恭弥が戻ってきたらちゃんといじれるように。
岸さん。『性格がすごい好き。まっすぐで、ノリがよくて、関西弁だと言葉の強さがそのままツッコミの質につながるし、ちゃんと周りを見てくれてるから安心してふざけられる。春乃がいると場の空気が悪くなることがない。気持ちのいい人だなぁって思う。見た目はもちろん綺麗で、内面がカッコよくて、でもちゃんと女の子。照れても誤魔化すことなくしっかり照れるところを見せるのがずるい。あんなん可愛いに決まってるでしょ』。
朝日さん。『めちゃくちゃ気が合う。出会ってそんなに経ってないはずなのに、光莉ならこうするだろうな、光莉今こう思ってるだろうな、っていうのが大体わかる。クズだなと思うことはあっても根っこは俺と一緒でめちゃくちゃ優しいし、人のことを心から想って寄り添える素敵な人だなと思う。俺もそうだけど。普段あんな風なのに誰よりも乙女だからすごくずるい。あんなん可愛いに決まってるでしょ』。
夏野さん。『聖人。日葵を嫌いになる人なんて存在しないと思う。説明の必要がないくらい死ぬほどいい子。日葵を嫌いになる人なんて人じゃない。いつも隣にいるメスみたいなクズで汚れた心を一瞬で浄化してくれる。誰にでも優しくできる優しさの擬人化。日葵がいると安心する。いつも暴れて申し訳ございません。見捨てないでくれてありがとう。日葵が幼馴染でよかった。見た目は語るまでもなくパーフェクト。天は二物どころか死ぬほど物を与えた』。
「内面が真っ先に出てくるのが恭弥らしいね」
「外見褒められるより嬉しいなぁ」
「なんか私にだけ張り合ってきてるんだけど」
「僕はなんとなく恭弥の気持ちわかるよ。いつも大体朝日さんとふざけるから、純粋に褒めようとしてもなんかふざけたくなっちゃうんだよね」
「でもなんか特別感あって羨ましいんやけど」
「ふふん。しばらくこれをネタにいじってあげましょう」
それ多分いじろうとしたら自分も恥ずかしくなるやつだと思うよ。岸さんは普通にこれをネタにしていじれそうだけど、朝日さんって結構恥ずかしがり屋だから。あの日の文芸部室でのアレは奇跡っていうくらい押せ押せだったし。
「でもこう見ると、『クソ野郎』ってだけ書かれてる千里はかわいそうやな……」
「むしろ親友だからこそだよ。『言わなくてもわかってるだろ?』ってことだね。ふふ、恭弥ったら」
「単純にクソ野郎だと思ったからだと思うわよ」
「血も涙もないな君は」
「恭弥ってこういうの正直に書くしね……」
「最近思うんだけど、僕をいじるときって夏野さん積極的に参加するよね」
「恭弥くんの親友やからもっと仲良くなりたいんやと思うで」
「は? 可愛さの化身」
「あんた今日葵に色目使ったわね」
「岸さん。恭弥にはよろしく言っておいてくれ」
「抵抗くらいせえへんの?」
朝日さんの前で夏野さんを『可愛い』なんて言った時点で僕の負けだ。僕が悪い。もうそう思うことにした。色目なんて使ってないけど、そんなこと言ったって朝日さんは頭がおかしいから聞きやしないだろう。
「千里ちゃん」
「あれ、薫ちゃん。どうしたの?」
僕が朝日さんに胸倉を掴まれて殴られるかと思ったその時。薫ちゃんがリビングにやってきて僕に声をかけ、僕は殴られた。殴られるのかよ、普通止まらない?
「兄貴が答案用紙がー答案用紙がーって言って、下に下りないの? って聞いても下りようとしないから、どうしたのかなーって」
「あぁ。恭弥の理解度チェックテストやってね。その最後の問題に、みんなのことをどう思ってるかっていうのがあって」
「バカ正直に書いちゃったんだね」
薫ちゃんはそっと僕の隣に座って、答案用紙をのぞき込む。おいおい。みんなの前だぜ? そんな積極的にこられちゃあ僕も男を見せるしか、あ、夏野さん。なんですかその目は。はいはい、なるほどね? 慎みます。
「うわ、恥ずかしい」
「兄貴のこういうの見せられるってたまったもんじゃないでしょうね」
「完全に身内やしなぁ。でも私らはちゃんと嬉しいで?」
「うん。なにも恥ずかしいことなんてないよ」
「や、恥ずかしいよ。なんていうか、その、なんでこう、女性関連は真面目になっちゃうんだろ……」
「いいことじゃないか。だらしないよりは断然いいよ」
「うーん」
「もしかしたら薫ちゃんにとっての恭弥くんって『お兄ちゃん』やから、男っぽいのはあんまりよく思われへんのかもな」
薫ちゃんが一瞬固まって、恥ずかしそうに首をぶんぶん横に振った。可愛い。あと髪が当たって痛い。
「ち、ちがいます。ただ身内のこういうのを見ると恥ずかしいだけで、兄貴が兄貴じゃないみたいとかそういうのは一切ないです」
「は? 何この子。可愛すぎるからキスするわね」
「そこの夏だからって胸にスイカ二つ詰めた浮かれガール。欲望は抑えるように」
「あんたも失言は控えるようにしなさいよ」
「はぁ。薫ちゃん。このままだと僕が危ないから、朝日さんに『おねえちゃん。やめてあげて?』って可愛らしく言うんだ」
「どうぞ朝日さん」
「おねえちゃん。やめてくれない?」
「スイカ割りしてあげるわね」
「僕の頭蓋骨をスイカと見立てるのはやめてくれ」
朝日さんに頭を割られた。ちょっとふざけただけなのに、しくしく。