「誕生日おめでとう! これ『一日なんでも言うこと聞いてあげる券』!」
「はい」
7月28日。意気揚々と薫の部屋に入って誕生日プレゼントを渡すと、突き返された。何々? 兄貴がいるだけで十分だよって? へへへ、嬉しいな。
「友だちくるから出てって」
「俺が何をしたって言うんだ?」
ゆりはいいけど、他の友だちに会わせたくないということで俺は本当に放り出されてしまった。おい、夏だぞ今。夏に無計画で放り出されるやつの気持ち考えたことあんのか? スーツも着替えさせられるし。これじゃあ薫の友だちに会えないじゃないか。
仕方ない。こんな時は千里に連絡だな。どうせあいつのことだから暇してんだろ。あいつ俺以外の友だち……いるにはいるけど、夏休み一緒に遊ぶような友だちはいないはずだ。まったく、あいつは俺がいないとダメなんだから……。
スマホを取り出して千里に電話をかけるとすぐに出た。俺もそうだけど、出るの早すぎて少し気持ち悪い。
「おい千里。薫に家から放り出された」
「だと思って迎えに来たよ」
「メリーさんかよお前。俺の背後とってんじゃねぇぞ」
電話越しと背後からと二重に聞こえた千里の声に振り向くと、爽やかな笑顔を貼り付けた千里がひらひら手を振っていた。俺もある程度千里の行動は予測できるけど、もうこいつのは異常だろ。盗聴器でも仕掛けられてんの? マジか、じゃあ昨日やった俺のオペラごっこも聴かれてたってこと? 恥ずかしい!
「薫ちゃんから友だちがくるって聞いてたからね。絶対恭弥と会わせたくないだろうから放り出すと思ってた」
「なんで俺に会わせたくないんだ?」
「君、見た目はいいからね。でも中身がとてつもないから、友だちに変に思われたくないんでしょ」
「俺が薫の友だちの前で変なことすると思うか?」
「どうせスーツ着てたんでしょ。十分変なことしてるよ」
「は? 薫と仲良くしてくれてる子と無礼な服装で会うわけにはいかないだろ」
「その考えが変だって言ってるんだよ」
「出た出た。勝手に自分の物差しで普通を決めつけて、それで測れないものを変っていうやつ。お前、変わっちまったな」
「恭弥が変わってるんだよ」
「俺は常にこうだぞ」
「だから変わってるって言ってるんだよ」
家の前にいて薫の友だちと会ったら薫がブチギレる可能性があるので、家の前から離れながら会話する。クソ、寂しいな。薫は俺よりも友だちを優先するんだと思ったけど俺より優先したい友だちが薫にいて嬉しい。これはやはり挨拶するべきでは? もしかして薫の出てっては菓子折りを買ってきてってことでは?
「千里。この付近の高級和菓子店を調べろ」
「そう言うと思って調べておいたよ」
「有能」
「一件もなかった」
「は? 使えねぇなお前。ほんとに義務教育終えたのか?」
「これは僕のせいなの……?」
俺があってほしいと思ってるんだから見つけなきゃだめだろ。この付近にないとか関係ねぇよ。そういう時は『この付近にはないけど一番近いのならここ』って提示しろ。そんな遠いとこ行きたくねぇから跳ねのけるのは間違いないけどな。
「そういえばさ、夏野さんはいいの? 薫ちゃんの誕生日なんていち早く祝いたいだろうに」
「夜プレゼント渡しに来るってさ。ちなみにこれ『夜日葵ねーさんがプレゼント渡しにきてくれるって』って言ってきたときの薫の笑顔の写真」
「すべての国境にこれを設置したら争いはなくなる」
「そして薫の争奪戦が始まる」
「武力を行使された時点で僕は負けるなぁ」
「お前の争奪戦も始まるぞ」
「恭弥の争奪戦は始まってるよ」
「その話はやめてくれ」
夏祭りが近いからあえて考えないようにしてたのに。あのテストやって以来なんとなく顔合わせづらいフリして平気で会ってるし。でもこの前光莉がいじってこようとして自分で恥ずかしくなって「い……う……」ってなってたのは面白かった。「赤ちゃんかよ」って言ったら「あんたのが赤ちゃんでしょ。おっぱいに夢中じゃない」って返ってきたからものすごく安心した。やっぱり光莉は光莉だぜ。
「うーん、夜、夜か。僕も行こうかな」
「言っとくけど俺も両親もいるぞ」
「邪なことは10割しか考えてないよ」
「『しか』じゃねぇよ。10割考えてたら他の思考は存在しねぇんだよ」
「むしろさ。夜に好きな子と会えるっていうシチュエーションで邪なこと考えない男が存在するの?」
「負けました。俺を殺せ」
「ちょうど夏祭りに花火があるね」
「打ち上げようとしてんじゃねぇよ」
うっかり綺麗な花火になってそれを見たすべての人を魅了してしまったらどうするつもりだ? 俺のことだから十分あり得る。でもあの花火打ち上げるやつって人も打ち上げられるのかな? 今度千里で試してみるか。多分千里ならなんだかんだ生き延びることできそうだし、殺され慣れてるし。
「いやね。どうせ夏休みだし、そのまま泊まるのもいいなって思って」
「あー。いいんじゃね? 千里ならいきなりきていきなり泊まっても許されるだろうし」
「流石に連絡はするよ」
「いいってさ」
「もうしてる……」
泊まる話が出た瞬間に両親へ連絡すると、二人から『避妊はするなよ』と返ってきた。あの両親ワンチャン千里が女の子だと思ってんのか? だとしても避妊はするなってのはおかしな話だけど。あの二人孫の顔見た過ぎだろ。教育に悪い代表だから子ども生まれても絶対会わせてやんねぇ。千里の次に会わせるの嫌だわ。
「じゃあ適当に遊んで、僕の家寄ってそのまま恭弥の家にいこっか」
「だな。とりあえず飯食おうぜ飯。もうすぐ昼だってのに、昼飯食わねぇまま放り出されたし」
「何食べたい?」
「回るお寿司を楽しみたい気分」
「だと思って調べておきました。こっちだよ」
「もう結婚してくれ」
「ふふ。考えといてあげる」
「は? 犯す」
「悪ノリしたのは謝るから本当にやめてくれ」
悪ノリしてオッケーしてくれるかと思ったのに……。オッケーされても絶対やらないけど。だって千里男だし。エロいし可愛いし女の子みたいだけど男だし。夏なのに汗臭くないどころかいい匂いするけど男だし。お前ほんとに男か?
てくてく歩いて回転寿司へ向かう。そういえば千里と二人きりで遊ぶ機会ってめっきり減ったなぁ。最近は大体五人だったし、結構久しぶりで嬉しいかもしれない。千里と二人きりだと気を張る必要まったくないし、居心地がいい。
「はぁ。千里には一生隣を歩いてもらいたいな」
「何? プロポーズ?」
「いや、千里と二人だと一番力抜けるからな」
「ふーん。そっか」
あらあら嬉しそうにしちゃって。そういえばごめんな、あの時『クソ野郎』って書いて。あの時はそう思ったし今もそう思ってる。でもほら、男同士って褒めるの照れ臭いじゃん。女の子の方が素直に褒められるじゃん。千里ならわかってくれてるだろ。むしろ俺の行動予測できてそれが理解できないって意味がわからない。
寿司屋に到着し、店内に入って待合室に向かう。
「でもさ、恭弥のこと理解できるっていうなら、朝日さんも変わらないんじゃない?」
「あー、まぁな。思考回路ほぼ俺だし。もしかして寿司食いに来てるかもな」
「ははは。もしそうだったら男らしさを強調するために残してる陰毛を全部脱毛してもいいよ」
「あら、あんたたち偶然ね」
「おう光莉。一人できたのか?」
「台本作るリフレッシュにね。それより千里どうしたの? えらく落ち込んでるけど」
「あぁ気にするな。今さっき千里から陰毛が消えうせることが決定しただけだ」
「あの、恭弥。さっきのはなかったことにしてくれない?」
「よくわからないけど、男らしくないわよ。どうせ自分から言い出したことなんだから、男らしくパイパ」
「おい待て。流石の俺でも寿司屋でそんな卑猥な言葉は言わないぞ」
「むぐむぐ」
とんでもないことを言おうとした光莉の口を慌てて塞ぎ、何か言いたげに動く唇にくすぐったさを感じて手を離す。陰毛も結構アウトだけど、その言葉は完全にアウトだろ。俺より考えなしだなこいつ。
「乙女の唇に気安く触れるなんて、これは奢ってもらうしかないわね?」
「は? お前の唇に触った手をべろべろ嘗め回さないだけありがたく思えよ」
「ちゃんとした大犯罪者じゃん。君との縁はここで切ろうと思う」
「いいけどちゃんと脱毛しろよ」
「頼むから逃がしてくれ」
「別にいいじゃない脱毛ぐらい。どうせ千里のことだからあったとしても極薄なんでしょうし」
「朝日さんは僕がどれだけ男らしさに固執してるか知らないんだ」
「というかそもそも陰毛って男らしいのか? 陰ってついてるから男らしくなくね?」
「あんたって時々ものすごいバカな理論振りかざすわよね。一理ある」
「バカが二人いますね……」
「三人だぞバカ」
モニターのパネルを操作して、三人で予約を取って椅子に座ると、千里と光莉が俺を挟む形で俺の隣に座った。両手に華とはこのことだな。
「あ、そういや光莉。今日の夜日葵が薫にプレゼント渡しにきてくれるんだけど、どうする?」
「夜に行っても邪魔でしょ? また別の日にちゃんと渡すわよ」
「ちなみに僕は夜行ってそのまま泊まるよ」
「日葵は?」
「どうだろうなぁ。家近いし、帰るんじゃね?」
「あ、泊まってってお願いしたらいいよって言ってくれたって」
「春乃も呼びましょうか」
「でもそんなに大勢いいのかな」
「『精力は持つのか?』って言ってるから多分オッケーだな」
「あんたの両親早く何とかした方がいいわよ」
俺もそう思う。