夜。一旦光莉と別れ、千里と一緒に俺の家へ行き、半ば強引に家族だけの薫誕生日パーティに千里が参加して、両親から俺が選んだのは千里だと勘違いされ、「あとは若いものだけでゆっくり……」「私たちは二人でホテルに行ってくるから」と聞きたくもなかった行き先を教えられ、薫と一緒に複雑な気持ちになり、千里から「三人目も可愛いんだろうね」と言われてからしばらく。
「おじゃましまーす!」
「おじゃまします」
「おじゃまします……あれ? おじさんとおばさんいないの?」
「いらっしゃい。父さんと母さんは俺たちに気を遣ってか自分たちのためにかどっちかは知らねぇけど、外に泊まるってさ」
「兄貴。余計なこと言わなくていい」
余計なこと? と首を傾げる日葵とは違い、光莉と春乃はすぐに合点が言ったようで春乃は苦笑い。光莉は「三人目のお祝いも考えないといけないわね」と一言。自分の親のそういうの想像するの無理だからやめてほしい。いや、俺が余計なこと言ったから悪いんだけど。
「とりあえずあがってくれ。リビングで千里が待ってる」
「今日の主役は薫ちゃんちゃうん?」
「あいつ人の家で図々しいわね。骨の形変えましょうか」
「そんな怖い言葉使うんじゃねぇよ。見ろ、お前がそんな怖い言葉使ってる間に薫が日葵に抱き着かれて可愛いことになってるだろ」
「私もまざっていやらしいことしてくるから、恭弥と春乃は先行ってて」
「なんだって!?」
「バカのメスが釣れたじゃねぇか。戻れ戻れ」
メスを蹴り倒してリビングの隅に転がし、全員を迎え入れる。こいつからしたら薫がいやらしいことになるならめちゃくちゃ見たいのも無理はないが、日葵と光莉がいやらしいことになっているのは見せられないし、そもそもいやらしいことをさせないし。妹の誕生日に俺の家族全員が性的なことしてるって最悪だろ。欲望濡れすぎる。
「恭弥。僕は薫ちゃんの隣に座ろうと思うんだけど、どう?」
「見ろ。日葵が薫の隣に座って薫を撫で繰り回している。つまりどういうことかわかるか?」
「え? 僕も薫ちゃんを撫で繰り回せばいいの?」
「お前に人並みの知能を求めたのが間違いだったな。すっこんでろカスって言ったのがわからなかったのか?」
「醜いお兄ちゃんたちね。薫ちゃん、私もそのいやらしい触れ合いに参加してもいい?」
「可愛らしいじゃれ合いがいやらしく見える光莉も十分醜いやろ」
日葵と春乃以外は薫に近づけると危険だと判断し、日葵と春乃に薫の隣に座ってもらって、日葵の隣に光莉を座らせると本末転倒もいいところなので春乃の隣に座ってもらい、万が一が起きた時のために光莉の隣に俺が座って、その隣に千里が座るという形でテーブルを囲む。これで千里が何かしようとしても止められるし、光莉が何かしようとしても止められる。薫の誕生日にとんでもないことが起きたら最悪だからな。もう身内で最悪なこと起きてるけど。
「じゃあ改めて、薫ちゃん誕生日おめでとー!」
「俺たちを代表して千里からパラパラのプレゼントです」
「よしきた」
本当にパラパラし始めた千里を無視してケーキを取りに行く。テーブルの上にケーキの箱を置くと、元々誰も見ていなかった千里のパラパラへの興味が全員から消えうせるのを感じた。
「これあそこのやつ! あの、高くて普段行けないケーキ屋さんの!」
「『オラクル』やっけ? 恭弥くん大奮発したんやなぁ」
「井原があそこの息子らしくてな。薫の誕生日があるって言ったら、特別に安くしてくれた」
「え、うそ。あとでお礼言わなきゃ」
「電話はするなよ。俺と千里と父さん以外の男の声は極力聞かないようにしろ」
「そうだよ。井原くんは人がよさそうに見えて女の人をすぐいやらしい目で見る性欲の塊なんだから」
「井原くんの視線をおっぱいに感じたことはないわね」
「はい千里の負け。男なら一度は光莉にバレるレベルでおっぱいを見るはずだからな」
「うそだろ……? あ、薫ちゃん違うんだ。薫ちゃんも一度は太陽に目を向けるでしょ? それと一緒なんだよ。あと僕のパラパラどうだった?」
「知らない」
「恭弥。今度薫ちゃんにパラパラについて教えといて」
「そういうことじゃねぇんだよ」
なんでこいつは軽蔑されたってことがわからないんだ? いや、わかってるけど現実から目を逸らしてるのか。でも今のは千里悪くないだろ。光莉が変なこと言うから千里も乗るしかなかったんだ。俺も乗ってたし。そのせいで日葵から微妙な視線送られてるし。春乃は「しゃあないなぁ」みたいな感じでいてくれてるけど。素敵です春乃さん。
「全員の好みわかんなかったから適当に買ってきたわ。薫は抹茶で光莉はミルクレープ、千里はチョコでいいよな?」
「ん、ありがと」
「はぁ? ミルクレープ? いちばんすき」
「僕がチョコなんていう子どもみたいなやつ好きなわけあるんだよなこれが」
「なんか悔しいんやけど」
「うー、ずるい! 私も恭弥が選んでくれたやつがよかった!」
「全部俺が選んでるぞ」
「違くて!」
「これじゃないかなって自分に合わせて選んでほしかったってことだと思うよ。日葵ねーさんも春乃さんもかわいそう」
「日葵はショートケーキが好きだったよな」
「……うん」
自信がなかったし外したら恥ずかしかったから言わなかったけど、小さい頃はケーキならショートケーキをよく食べていたことを覚えている。最後にいちごを残しておいて、いちごをじーっと見てくる薫によくあげていた。自分も食べたいはずなのに、薫がいちごを貰って喜んでいる姿が見た過ぎて、日葵はショートケーキに乗っているいちごを食べたことがないんじゃないかってくらいあげていたはずだ。
どうやら当たっていたようで、日葵は嬉しそうに笑いながら頷いた。よかった。一応買うときにみんな何が好きかなって考えておいて正解だった。
「えー。私だけ考えてくれてないん?」
「いやさ、薫は妹だし、日葵は幼馴染だし、千里は親友だし、光莉は同類だからなんとなくわかったけど、春乃はもう想像するしかなかったんだよな。だから外してるかもしんねぇけど」
「ちなみにチーズケーキが好きやで」
「俺は今自分の才能が恐ろしいよ」
「うそ。もしかしてチーズケーキ買ってくれたん?」
答え合わせと言わんばかりに俺が箱を開けてケーキを中から取り出すと、ミルクレープ、抹茶ケーキ、チョコケーキ、ショートケーキ、そしてチーズケーキ。見事全員の好みをドンピシャで当ててしまった。俺もしかして天才なのでは? もしかしてどころか確実に天才だろ。いやぁ、本当に信頼できる人間ってのは、人の好みも容易く当てることができるんだよな。
「あれ、そういえば今日泊まるのが決まったのにいつ買ったのよこれ」
「ん? 父さんと母さんが出て行った時、千里と薫に気を遣って俺も一瞬出ていってな。そん時に」
「え、恭弥くんが自ら二人きりに?」
「薫の誕生日だしな。ちょっとくらい好きな人と二人きりになってもいいだろ」
「恭弥、ありがとう。僕たちは一生親友だ」
「千里ちゃん、『しめしめ。あのバカ薫ちゃんと僕を二人きりにしやがった。バカなやつだね。今日を薫ちゃんの女としての誕生日にもしてあげよう』って一人で笑ってたよ」
「千里、話がある」
「この中に僕を助けてくれるもの好きはいる?」
「織部くんほんとやだ」
日葵からの「ほんとやだ」は流石の千里でも効いたようで、血反吐を吐く勢いで倒れこんだ。この中で薫と並んで常識人だし、本気で「ほんとやだ」って言われたらめちゃくちゃ傷つくだろう。俺も言われたら立ち直れる自信ないし。でもお前そんくらいのことやったから仕方ないぞ。っていうかそれを聞いても普通に接してくれる薫に感謝しろよ。
「薫ちゃん、考え直しなさい。確かに千里はそこそこいいやつだけど、それが全部帳消しになるどころかマイナスに振り切るくらいのクズよ」
「そういうところもぜんぶひっくるめて好きだから好きな人なんです」
「ねぇ恭弥、考え直しなさい。明らかにあんたと血がつながってないわ」
「俺もそう思う」
「ほんまにそやんな。日葵の妹って方がしっくりくるわ」
「日葵の妹か。それならディープキスしてもいいかしら?」
「なんで日葵の妹だったらディープキスしていいことになんの?」
「だめだよ光莉! 薫ちゃんにそんなことは一生させません!」
「それはどうかな」
「黙ってろ万年発情期のクソメスメガネ」
こいつ、俺に対して「薫ちゃんとセックスしたんだ」って平気で言ってきそうで怖いんだよ。俺そんなこと言われたらマジで泣くからな。千里なら薫を任せていいって思ってるけど、妹が男のものになったって知ったら体中の水分が絞り切れるまで泣くし搾り切れてからも泣く。
でも、千里は俺が本当に嫌がることはしないはずだから大丈夫だとは思う。どっちにしろ俺が勝手に想像して泣くんだけど。あ、想像したら泣けてきた。
「ちょっと。せっかく薫ちゃんの誕生日なのに、千里と薫ちゃんがセックスしたら薫ちゃんが完全に千里のものになったって思っちゃってそれを想像して泣きそうになってるんじゃないわよ」
「お前怖いんだけど。俺の考えてること100%ぶち抜いてくんのやめてくんない?」
「でも確かにきついよなぁ。よー考えたら恭弥くんにとっては親友が自分の妹とそういうことするんやから、付き合い方変わってまいそうやわ」
「す、薫ちゃんの前でそんな話しないで! ケーキたべよ、ケーキ!」
「ねぇ恭弥。僕を嫌いにならないでね?」
「ならねぇって。ほら、フォーク配るぞ」
「……あれ? 僕のは?」
「手で食え」
「嫌いになってるじゃねぇか」
許せ。妹の相手を嫌いになるのは可愛い妹を持つ兄の宿命なんだ。