【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第89話 両腕両脚

 緊張する。

 

 夏祭り当日。緊張して歩く時同じ側の腕と脚が出るならともかく、両腕両脚を一緒に出して歩くというよりジャンプし始めた俺を見て、薫は頭を抱えていた。

 

「緊張するのもわかるけどさ」

「どうしよう薫。俺このままじゃ愉快なおもちゃと勘違いされちまうよ」

「似たようなものだから勘違いされても別にいいとは思うけど」

 

 そうなの?

 

「このままじゃ隣を歩く日葵ねーさんが可愛そうだし……」

「早くどうにかしてくれ」

「自分でどうにかしようとは思わないの?」

「日葵に対しての緊張をどうにかできてたら、今頃俺と日葵はカップルになってるだろ」

「たしかに」

 

 クソ、緊張の表れ方が特殊すぎる。せめてうまく喋れないとかならいいのに、口は面白いくらいに回って、体が思ったように動かない。いや、むしろいいのかもしれない。日葵と二人きりで夏祭りを満喫ってなったら、勢い余って抱きしめてしまうかもしれないし、犯罪者になるくらいなら歩くとき両腕と両足が一緒に出る方が断然いい。

 問題は、不審者として通報されるかもしれないからどのみち犯罪者になるかもしれないってことだ。

 

「……仕方ない。ほら、いこ」

「お?」

 

 薫が俺の腕とって、玄関に向かう。両腕両脚が同時に動きそうになるが、薫が腕を組んできているからそれをやってしまうと薫を吹き飛ばしてしまう。なんとか俺の体に言うことを聞かせて、ガチガチになりながらもなんとか普通の人間らしい歩行に成功した。

 

「お祭りの会場までこうしてあげるから、それまでになんとかしてよ」

「……成長したな」

「せくはら」

「そういうことじゃないんです!」

 

 思い切り足を踏まれた。違うって。あの、なんかこう、こうして側にいるとやっぱり大きくなったんだなぁって思っただけで!

 でもセクハラだって思われるってことは、俺の普段の言動がとんでもないってことだろう。薫の前では気を付けることにするか。無理だな。

 

「でもいいのか? 同級生に見られたりするんじゃねぇの?」

「別に。兄貴をあんな状態で日葵ねーさんの隣に送るよりマシだよ」

「あんなのが兄貴って思われるよりマシか」

「それに、嫌じゃないし。兄貴見た目いいから男除けになるもん」

「俺から離れるって言ってなかったっけ?」

「時と場合によります」

「ずっとくっついててほしいよぉ……」

「きも」

「シンプルに傷つくからやめろ」

「シンプルにきもいからやめて」

「ごめん」

「よし」

 

 まったく、いい妹を持ったぜ。どうせ男除けになるとか言いつつ俺とくっつきたかったんだろ? ふふ。俺はきもいな。ぜひ死んだ方がいい。

 男除けっつったら、ちょっと心配なことがある。もし薫が千里と付き合うようになってデートに出かけたとして、めちゃくちゃナンパされそうなんだよな。千里は普段俺と一緒にいるからされなかっただけで元々ナンパされやすいし、薫は可愛いし、二人一緒にいたら女の子二人にしか見えないし。俺、毎回デートについていこうかな?

 

「もうすぐ駅だから流石に恥ずかしいだろうし、一旦離していいぞ」

「はい。だめそうだね」

 

 薫が離した瞬間両腕両脚を同時に動かしてジャンプし始めた俺を見て、薫はすぐに腕を組んでくれた。いつもすまないね……。

 

「ちなみに腕を組んでほしいからってわざとやってるわけじゃない」

「もしそうだったらぶっ飛ばすから」

「悪くないね」

「日葵ねーさんに、兄貴に襲われたって言うよ」

「死刑判決しかしない裁判長より残酷なことすんじゃねぇよ。ごめんね?」

「いいよ」

 

 日葵は信じないだろうけど、薫にそんなことを言わせてしまった俺を日葵は軽蔑するに違いない。もしかしたら信じるかもしれないし、そうなったら終わりだ。俺は色々終わる。多分最初の方はみんな俺の味方になってくれるけど、勘違いに勘違いが重なって結果俺一人になる。なんか俺はそういう星の下に生まれてる気がする。そして明日には何事もなかったかのように元通りになってると思う。

 

「……! 兄貴、隠れて」

「ん?」

 

 腕を強く引っ張られ、ビクともしなかった俺は悔しそうにしている薫の頭を撫でながら物陰に移動する。ごめんなお兄ちゃん化け物みたいな身体能力で。基礎能力値が違うんだよ。

 

「友だちか?」

「うん。ゆりもいたから、見つかるとちょっと……」

「あれ? 薫ちゃんのかほり……」

「おい。ゆりちゃんは大丈夫な子なのか?」

「ゆりはいつも大丈夫じゃないよ」

 

 ゆりちゃんは冗談で言っているわけではないようで、友だちを数人引き連れて俺たちのところへ歩いてくる。なんだあの子恐ろしすぎねぇか? 俺と千里がお互いの居場所をなんとなくわかるくらいとんでもないぞ。

 

「……仕方ない。ここは私だけ出て行くから、ちょっと待ってて」

「お兄様のかほりもする……」

「恐怖っていう感情の意味を理解した」

「なんなのあの子……」

 

 香りじゃなくてかほりって言うから余計怖いんだよ。変態感増してんだよ。普段めちゃくちゃ可愛らしい子なのに、追われる立場になるとこうも恐ろしいのか。

 

「……まぁいっか」

「いいのか?」

「どうせブラコンだって思われてるし、関係ない」

「でも思われるのと確定するのじゃ違うだろ」

「もう。私がいいって言ってるんだから」

「あ! き、きききききききき気のせいだったかも!!!!????」

 

 むすっとしながら薫が出て行こうとしたその時、様子がかなりおかしくなったゆりちゃんが爆走して俺たちから離れていった。どうしたんだろう……。

 

「……多分、私たちがいることに気づいて、私が兄貴と一緒にいることをみんなに知られたくないってことにも気づいて、離れて行ってくれたんだと思う」

「俺たちの周りに集まる変態はいいやつらばっかだな」

「ほんとにね」

 

 俺たちに気づいたからあんなことになってたのか……。ゆりちゃん祭りにきて大丈夫なのか? うっかり春乃たちに会ったら死ぬんじゃねぇの? いつも会ってる薫にですらあぁなるのに。

 

 せっかくのゆりちゃんのサポートを無駄にはできないので、少し時間を離して電車に乗り込む。周りからは人前でも腕を組む恥ずかしいカップルだと思われているようで、微笑ましく見られたり妬みの目で見られたり、とにかく視線が集まって気持ちがよかった。まぁ美男美女だからな。でも男に薫が見られるのは気に入らないので、俺の背中で視線から薫を守る。

 

「壁ドン?」

「あ、ほんとじゃん。初?」

「初。家族からってきもいね」

「なぁ。きもいって言うのどうかやめてくださいませんか?」

「傷ついてる」

「いくら家族からでも、女の子からのきもいは傷つくんだよ」

「そう。ごめんね?」

「すぐ謝ってくれる薫すき」

「きも」

「え?」

 

 今もしかしてきもって言われたかな? まさかな。と思いながら電車を降りる。駅前で待ち合わせだったから、もしかしたらもう日葵はいるかもしれない。

 

「兄貴、緊張してる。落ち着いて」

「お、おう」

 

 意識しだした途端、腕を組んでくれているのにも関わらず両腕と両脚が同時に出そうになり、慌てて修正。うわ、ぎゅって腕組んで俺を見上げる薫が可愛い。ほんとに俺の妹か? 俺の妹だな。俺の妹じゃないならこんなに可愛いわけがない。

 

 駅を出て、日葵の姿を探す。流石に集合時間の40分前ともなるといるはずもなく、普通にいた。いるじゃねぇか。

 

「なぁ、なんであんなに早いの?」

「さぁ、楽しみだったんじゃない?」

「マジか、可愛すぎかよ。第一声どうしたらいいと思う?」

「浴衣似合ってるな、とか」

「浴衣を褒めた途端日葵が恥ずかしくなって、俺も恥ずかしくなって、沈黙が訪れる未来が見える」

「ダメ男女め……」

 

 仕方ないじゃん。深い青がベースの生地に、白い花柄の浴衣。まさに日葵って感じの、清楚で落ち着いた可愛い浴衣。というか日葵が可愛いから何を着ても可愛いに決まってるんだけど。薫もそう思わない? そう思う? だよな。遠くの方で「ひっ、ま!!!!!????」って死にかけてるゆりちゃんもそう思うよな。多分駅を出た瞬間に日葵を見てしまったんだろう。ゆりちゃんは祭りに参加する前にリタイアだ。

 

「それより兄貴、また緊張してるから。このままだと私も一緒に行かなきゃだめになるよ?」

「もうそれでもいい気がしてきたんですが、いかがでしょうか?」

「私も兄貴と日葵ねーさんと一緒に回りたいけど、それはだめ」

「だよなぁ」

 

 三人で回るのも昔みたいな感じで楽しいと思うけど、それはだめだよなぁ。今回は日葵が俺の誕生日プレゼントとして用意してくれたやつだし、二人きりじゃないとおかしい。乱入してくる気満々の人たちがいるけど、それはそれとして。

 

「とにかく、なんとか両腕と両脚を一緒に出さないようにしないと。日葵ねーさんに引かれても知らないよ?」

「俺はすでに惹かれてるさ。ふっ」

「あぁ、そう」

「おい。本当に興味がなさそうな反応はやめろ」

「だって面白くなかったし……」

「正直は時に刃となるんだぞ。しかと胸に刻め」

「あれ、恭弥? 薫ちゃん?」

「「あ」」

 

 腕を組みながら顔を寄せ合って会話していると、すぐ側まで日葵が来ていた。あ、やばい。近くにいるとほんとすごい。可愛いとか美しいとか通り越して神々しい。天界から降臨なされた方ですか?

 

「ひ、日葵ねーさん。これは違うの。別に私も一緒に回るってわけじゃなくて」

「別に三人でもいいよ?」

「そうやって緊張しなくなることに安心するからだめだって言ってるんだよ?」

「うっ」

「薫?」

 

 薫は俺の腕を引っ張って、空いた手で日葵の腕をとって、有無を言わさず俺の腕に日葵の腕を絡ませる。

 

「色々説明省くけど、こうしておかないと兄貴は両腕と両脚を一緒にだしてジャンプしちゃうから、今日一日はこの状態で!」

「え」

「それじゃあ二人とも、楽しんでねー」

「え」

 

 去っていく薫。腕を組んでいる俺と日葵。柔らかい感触。ふわりと撫でるような甘い香り。気温とは違う暑さ。

 

「……似合ってるな、浴衣。可愛い」

「え、あ、う……」

 

 そして俺は気まずさをぶち壊すためにとりあえず喋ろうと思って、更に気まずい雰囲気にしてしまった。でも恥ずかしがる日葵がとてつもなく可愛くて俺の命のストックが一つ減るくらいだったので、よしとしよう。

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