【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第90話 初めの屋台

「……ね、ねぇ。ほんとにこうしてなきゃだめなの?」

「……だめなんだ。ほんとに。なぜか知らないけど歩こうと思ったら両腕両脚が一緒に出ちゃうんだ」

「そうなんだ……」

 

 腕を組んで、祭りの会場に向かう。俺たちと同じく祭りに行くであろう人たちが大勢おり、満員電車ほどとは行かないが、人混みが苦手な人はたまらないだろうという程度の人で道が埋め尽くされている。この中に薫がいるのかと思うと心配になるが、千里たちと合流していれば朝日か春乃が守ってくれるだろうから心配いらないだろう。千里? 無理無理。

 

「薫ちゃん大丈夫かな……光莉もちっちゃいし、人混みに流されてないといいけど」

「光莉はパワフルだし、薫も守ってくれるだろ。大丈夫だ」

「ん、春乃もいるしね」

 

 日葵も千里の名前を出さない辺りちゃんとわかってるんだな。千里が役に立ちそうにないってことを。

 多分、千里は薫が人混み流されそうになったら慌てて手を掴むけど、力が足りなくて一緒に人混みに流されるタイプだ。それはそれで離れ離れにならないから心配いらないんだけど、そうなると次はナンパされるんじゃないかって心配が出てくる。祭りなんかそれ目的のやつらがちょこちょこいるだろうしな。光莉と春乃は、まぁ、光莉はともかく春乃は心配いらないだろう。ナンパされても切り抜けられるイケメンさだから。

 

「……で、できれば、今日はずっと二人きりがいいね」

「……えっと、どういう意味で」

「た、誕生日プレゼントだから! 私と一緒にお祭りに行けるっていうプレゼントだから、私一人で恭弥を楽しませたいなって思ったり、思わなかったり」

 

 ちらちら。時折俺を見ながら、恥ずかしそうに俯いてぽそぽそ話す日葵。可愛いオブ可愛い。俺を悶え殺す気だろうか。ただでさえ今腕組んでるから色々限界だっていうのに。ほら、俺って健全な男子高校生だし? 女の子にずっと密着されて思うところがないほど枯れてないし? 俺の俺が俺になっても仕方ないだろう。日葵めちゃくちゃ可愛いし。

 

「恭弥、織部くんとか光莉とか春乃とかと一緒にいる方が楽しいだろうけど……」

「え、なんで?」

「だって、私って面白いこと言えないし、性格だってその、飛んでないし」

「性格に対して『飛ぶ』って言葉使う時点でしっかり影響受けてるから大丈夫だろ」

「うそ」

 

 なぜか日葵はちょっとショックを受けていた。自分が一番まともだと思ってたから、染められつつあることが信じられなかったんだろう。でも一番まともって言ったらなんとなく春乃な気がするんだよな。イケメンだし運動能力高いし、個性は強いけどそんなにおかしなことをするわけでもない。少なくとも日葵と春乃を比べてどっちがまともかった聞かれたら悩むくらいにはまともだ。

 千里と光莉? 今クズの話はしてねぇんだよ。

 

 祭りは街の一区画を会場にした大規模なもの。結構有名で、学生が夏休みどこに行く? って話をしたら真っ先に話題に上がるほど定番でもある。俺も何回かきたことあるし、去年は確か千里ときたはずだ。行く屋台行く屋台でカップルと勘違いされたことを覚えている。あの時の千里は人混みの熱気と気温で汗かいて死ぬほど色っぽくなってたから仕方ない。

 

「やっぱりすごい人だね」

「あぁ。離れないようにしないとな」

「……離れる心配はない、けど」

「あぁぁああぁ。そうだな」

 

 慌てすぎて『あぁ』に少しビブラートがかかってしまったが、気にしていないはずだ。俺いつもこんな感じだし。

 腕組んでるのが当たり前みたいな感じになっててちょっと忘れてた。そうだよ、離れる心配ないじゃん。さっきの俺の発言、腕組んでること意識させる変態みたいじゃなかった? 最悪だ。きもすぎる俺。こんな男絶対に死んだ方がいい。

 

「やっぱり、恭弥の体ってしっかりしてるんだね。ぎゅってしてると安心感あってふわふわしちゃう」

「特に鍛えてるわけでもないんだけどな。天性ってやつ?」

 

 あぁぁぁあぁあああぁあぁぁあ。もっとぎゅってしてください。俺の腕を日葵の一部にしてください。照れ笑い可愛すぎるのでやめてください。なんだ、今日が命日か? ここが俺の死に場所か? ならば悔いはない。いさぎよく散るだけだ。南無。

 俺は何も感じていませんよ? っていう風にカッコつけるのがきつい。ほんとだったらさっき声に出して「抱きしめていいか?」って言いたかったのに。言いかけたのに。相手が光莉ならもう何も聞かずに抱きしめてぶち殺されてたのに。世の中難しいぜ、まったく。

 

「い、一応聞くけど変なとこあたってないよね?」

「あたたたたたたたたたぞ?」

「恭弥?」

「あ、聞こえづらかったか。当たってないぞ」

「そっか、よかった」

 

 いきなり変なことを言うから動揺してしまった。咄嗟に『俺はちゃんと言ってたけど聞こえづらかったからもう一回言うぞ』ムーブできたから切り抜けられたものの、このままじゃいずれボロが出てカッコ悪い俺が晒されてしまい、結果俺の価値は日葵にとってゴミにまで成り下がる。ぐすん。そうなったらゴミを見るような目で俺を見てくるんだ。え? 興奮してきたな。

 

「ん、ついた! 何から見に行く?」

「日葵は?」

「任せるよ。恭弥が行きたいところが一番楽しくなるだろうし」

「は? 可愛い」

「???」

「??????」

 

 思わず口走ってしまった言葉に、日葵が首を傾げて固まった。あの、傾げるなら俺がいる方とは逆の方に傾けてくれませんか? 俺の肩に頭を預ける感じになっちゃってますよ。だから俺も困惑してるんですよ。

 

 いや、しまった。あまりにも可愛いから可愛いって言ってしまった。恋人同士でもないのに。日葵は恥ずかしがり屋だからこれから先ずっと沈黙してしまう可能性すらある。今も顔を真っ赤にして俺の肩に頭を預けてぷるぷる震えてるし。クソ、可愛いの一言だけでこれって更に可愛いじゃねぇかその自覚はあるの? 可愛いんだぞお前は、コラ!

 

「まずは腹ごしらえするか!!!!!」

「えっ、あっ、うん!!!!!」

 

 俺に合わせなくてもいいのに、混乱しているからか大声で返事する日葵。周りから注目が集まるが、『俺は何も言っていませんよ?』みたいな顔して不思議そうに周りを見てやったら全員怖がって俺から目を逸らす。勝ったぜ。

 

 どこかぎこちない日葵を連れて、俺もぎこちなくなりながら何か食べるものがないかと探す。祭りと言えばたこ焼きとか焼きそばとか、頭の悪い人間の食べ物とは思えないこれでもかと濃い味を追求し、味覚を冒涜する食べ物が真っ先に思い浮かぶ。もう固形のソース食ってるのと同じで繊細さもへったくれもないものでも、祭りの時に食べるとなぜかおいしく感じるんだよな。俺は元々味覚しっかりしてないからなんでもうまいんだけど。

 

「日葵って苦手な食べ物ないよな?」

「うん。げてもの? じゃなきゃなんでも食べれるよ」

「祭りにゲテモノはないだろうからなんでもよさそうだな」

 

 明らかに街を歩いていたら職質されそうな人が店番をしている『蜂の巣の東区』という屋台を無視して、定番の屋台を探す。ちくしょう気になるじゃねぇか。蜂の巣の東区ってどのあたりだ? 区によって味が違ったりするの? というかよく考えたら蜂の巣ってゲテモノでもないよな。高級なはちみつは巣ごと食べるって言うし。でも祭りだぞ? 祭り一発目で『蜂の巣の東区』を食べることってあんのか? いや、ないだろ。気をしっかりもて俺。

 

「東区と西区って味が違うんですか?」

「明日は昨日の一昨日で今日だよぉ」

 

 ダメだ。ちょっと気になって店番してる人に話しかけてみたけど話がまったく通じない。俺の軽率な行動のせいで日葵が「あの人、ここにいていい人なのかな……」といらない心配と恐怖を覚えてしまった。なんだよさっきのセリフ。哲学か? 俺に意味深な問いをしてたのか?

 

 しばらく歩いているとたこ焼きの屋台を見つけた。ただ不思議なのは、たこ焼きの屋台が二つ隣同士並んでいる。大きな祭りだから離れたところに同じ屋台があるのはわかるが、なんで並んでいるんだろうかと思ってよく見ると、片方のたこ焼きの屋台には、『たこ焼き かもしれない』と小さく『かもしれない』と書かれていた。

 

 はぁ、俺がそんなもの食べるわけないだろ? ちょっとかもしれないって部分が気になるけど、そんなギャンブル性祭りにはいらないし、ふざけすぎだ。俺以外の人に買ってもらってくれ。

 

「かもしれないってどういうことなんですか?」

「お、いらっしゃい! そんなに不思議なことはしねぇよ。ただたこじゃない何かが入ってるかもしれねぇってだけだ!」

「たこ焼きかもしれないやつを一つ!」

「あいよ! たこ焼きかもしれないやつを一つね!」

 

 気づけば俺はたこ焼きかもしれないやつを一つ買っていて、しかも8個入りだった。これにゲテモノ入ってたら最悪だぞマジで。イカとか普通に食べれるやつにしてくれよ?

 

「よかったの? 千円したけど」

「え、そんなにしたの?」

「え、うん。気前よく払ってたからいいんだろうなとは思ったけど、ちょっと気になって。半分払うね?」

「いや、いいって千円くらい。んなことより食べようぜ。たこ焼きかもしれないやつ」

「ん、ありがと」

 

 たこ焼きかもしれないやつを二人で覗き込む。見た目は普通のたこ焼きで、パブロフの犬が如く見るだけで唾液が出てしまいそうになるくらいおいしそうな見た目をしていた。だしとソース、鰹節と青さの香り。食欲をこれでもかと刺激してくる、兵器と言っていい食べ物。しかしその中にはたこ以外のものが入っているかもしれない。

 

「……まぁ、変なものは入れないよな」

「い、一緒に食べてみよ。死なばもろとも!」

「応!」

 

 お互いつまようじを持ち、たこ焼きを一つずつ刺して同時に口へ運ぶ。変なものは入っていないだろうと思いつつも、少し警戒してしまうのは仕方ないと思う。

 口に運んでまず感じたのは、甘さだった。たこ焼きの生地にしてはふわふわしていて、噛めば溶けていくチョコの味。少ししてから、ホットケーキの生地と味が似ていることに気づく。当たりな方かと思ったが、甘いやつにたこ焼きと同じトッピングがされている時点で外れだ。口の中がぐちゃぐちゃになっている。

 

 日葵は何が入っていたんだろうと見てみると、日葵は微妙そうな表情で首を傾げていた。

 

「……? どうしたんだ日葵」

「うなぎ……」

「うなぎ……」

 

 喜んでいいのか悪いのか、多分おいしいはおいしいんだろうけど微妙なんだろうな、と想像して、俺も微妙な顔をしてしまった。

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