「乱入はやめておきましょう」
「お」
「せやなぁ」
「あら」
駅に集合した僕たちは、隠れて恭弥たちについて行っていた。途中で薫ちゃんと合流して、恭弥と夏野さんがたこ焼きかもしれないものを食べ、くじ引きでポケットティッシュとつまようじを当てて、腹いせに射的で景品を荒らしつくした頃。
朝日さんと岸さんは恭弥と夏野さんに背を向けた。
「いいの?」
「あんなにくっついてたら、乱入するのもね。今までが今までだったし、今日ぐらいはいいわよ」
「みんなで楽しみたい気もするけど、また今度海行くしな。なー? 薫ちゃん!」
「わぷ」
「は? 薫ちゃんを独り占めする気?」
朝日さんと岸さんは薫ちゃんに抱き着いて、くしゃくしゃに撫でまわし、薫ちゃんが目を回している。
うん、そうか。確かに今乱入したところで、恭弥からも夏野さんからもあんまりいい風には見られない。元々乱入するとは言ってたし、あの二人も許してくれるとは思うけど本音では二人きりでいたいはずだ。
けど、そんなこと気にせず自分に正直に生きればいいのに。朝日さんも岸さんも、恭弥と夏野さんを二人きりにするのは嫌なはずだ。あの二人に限って急激に進展することはないとは言っても、お互いがお互いのことを好きなんだから万が一がないとは言い切れない。
それに、花火のチケットもあるし。二人にとってのチャンスはいくらでもある。
「あーあ。これで恭弥と夏野さんが林の中でえっちしても知らないよ?」
「ここら辺に林がないから大丈夫よ」
「林あってもせんやろ。あの二人考えてることがピンクなだけで、小学生くらい初心なんやで?」
「わからないよ。お祭りとかそういうイベンドってタガが外れてもおかしくないからね。ところで薫ちゃん。人気のないところって興味ない?」
「ある」
「ちょっとゴムハメしてくるから二人とも待っててね」
「行かせへんし、仮に行かせてヤってきたとしても合流するわけないやろ」
こんなところで『ゴムハメ』って言うな、と岸さんにビンタされ、岸さんが『ゴムハメ』と言った事実に少し興奮しつつ、「薫ちゃんが悪いんだよ」と責任転嫁すると、「恋人になってからね」とウィンクしてくれた。は? 骨抜きにする気か?
「千里、どうしたの? メスみたいな顔して」
「いつも通りやん」
「いや、違うのよ。いつもメスだけど、いつもより性的というか……発情してる?」
「僕を性欲の化身みたいに言うのはやめてもらおうか」
「周り見て見なさい」
なんでだろう、と思いながら周りを見てみると、僕から目を逸らす大量の男の人。何人かは彼女に怒られていて、僕と目があったのにも関わらず逸らさない人もいる。欲望濡れの目だ。
「あんたが発情すると危険なのよ。淫気まき散らすから」
「女の人が一人も見てない気がするんだけど」
「そらメスやからやろ」
「僕ってそんなに性的かなぁ……」
薫ちゃん含めて三人全員頷いた。嘘だろ。
確かに去年の夏祭りでもすごい視線感じるなーって思ってたけど、これだったのか。恭弥がしきりに汗拭いてくれるからありがたいなーって思ってたけど、あれは汗をかいてる僕が性的だったからか。あの時も全屋台でカップルと勘違いされたし、なんで僕は男に生まれてきたんだろう……。
いや、でも男でよかった。女の子だったら間違いなく恭弥に惚れてたし、そうなると勝ち目のない戦いに身を投じることになってた。ちゃんと女の子である僕なんて魅力半減だから、絶対に勝てないだろうし。
「というか、私たちが乱入したら恭弥が困るだろうし。ほら、聖さんから花火大会のチケット貰ったでしょ? 今のままなら日葵一択だけど、選択肢増やすとあのヘタレのことだから花火大会終わるまで悩むわよ」
「朝日さんなら、乱入して花火大会のことになったら恭弥は僕を誘うってこともわかってると思ってたんだけど。そうしたら朝日さんも同じチケット持ってるから、薫ちゃんと一緒に行って恭弥を独り占めにできたのに」
「き、気づいてたわよォ? さぁ、乱入しに行きましょうか」
「行かせるわけないやろ」
多分気づいてなかったんだろう。その手があったか! と目を見開いた朝日さんはすぐに乱入しようとして、岸さんに羽交い絞めにされた。羽交い絞めにされるとおっぱいが強調されるから大変よろしい。あ、薫ちゃん。どうも、へへへ。なんでもないんですよほんとに。見てないしね。見てないよ?
「そういえば光莉さんは誰と一緒に行くつもりだったんですか?」
「ん? 千里と薫ちゃんにあげるつもりだったわ」
「それはだめですよ」
「だめだめだね朝日さんは。ねー薫ちゃん」
「は?」
「ちょ、キレないで」
まだ羽交い絞めにされてるから僕は無事だけど、羽交い絞めにされてなかったら殺されるところだった。そんなにすぐブチギレなくてもいいじゃん。そりゃあいきなりだめとか言われたらムカつくだろうけどさ。
別に、僕もふざけてだめだって言ってるわけじゃない。これは単純に、朝日さんと岸さんのためを思って言うことだ。
「ほら、恭弥と夏野さんが朝日さんと岸さんの知らないところで付き合うことになっちゃったらどうするの。いつの間にか負けてたって、それで納得できるの?」
「みなさんいい人ですから、我慢はしてほしくないんです。ステージにあがる権利を自分から手放すなんて、だめです。だめ!」
「え、可愛い……私と一緒に行かない? 薫ちゃん」
「おい待て今の流れでなんで私誘わんねん」
「目の前にあんな可愛い薫ちゃんがいて誘わないなんて、ありえる?」
「ありえへんな。行ってこい!」
「おい岸さん。ノリで負けても後悔するんじゃないぞ」
「春乃さん。絶対行ってください」
「あ、はい。すんません」
行ったところで、恭弥と夏野さんの邪魔はしないと思うけど。もし万が一あの二人が展望台でいい雰囲気になって、帰ってきたら付き合ってましたなんてことになったら、この二人は納得できない。ちゃんとぶつかってちゃんとフラれたならまだしもね。
でも、恭弥もそれをちゃんと理解してるから、きっとそういう雰囲気になっても告白はしないと思う。夏野さんから告白されても、一旦保留にすると思う。向き合わなきゃいけない子がいるからって。ほんと難儀な性格してるよね。昔から好きならすぐに付き合えばいいのに。
普段クズで、変なとこ真っすぐだからみんな好きになったんだろうけど。
「さ、もうすぐ花火の時間だから行ってきたら?」
「ん。ありがとね、千里」
「二人もハメ外さんようにな!」
「ハメる場合って外さないことになるの?」
「だまれ」
薫ちゃんにだまれと言われてしまったので黙って、離れていく二人に手を振る。そんなにひどい下ネタだったかなぁ。ひどい下ネタだったなぁ。
二人と別れ、薫ちゃんと二人きりになる。さぁここからが僕の時間だ。好きな女の子と二人きり。恭弥もその状況だけど、ややこしさが段違いだ。これが勝利を約束された男の余裕。僕のことを好きな女の子が少なくて助かったぜ。
……いや、羨ましくないけど? ほら、僕はメスらしいし。男として恭弥に負けてても何の不思議もないし。
ただ、いつもの五人から僕だけがはみ出したようで、やっぱりちょっと寂しい気もする。
「そんな顔するなら、行かないでーって言ったらよかったのに」
「そういうわけにもいかないんだ。僕が自分勝手好き勝手できないほど、僕はみんなのことを好きになりすぎた」
自分の面白さ優先なら、どうにかみんなには我慢してもらって、恭弥の幸せだけを優先して好き勝手やってたのに、今はどうにかしてみんな幸せに、みんな納得してみんな笑顔で終われないか、そればっかり考えている。もちろん自分は抜きで、できればそこに自分もいればいいなと思いながらも、やっぱり少し遠慮がある。
「……むぅ」
「あれ、どうしたの?」
「仕方ないけどさ。私より他の人を優先してるとちょっとむってしちゃう」
「はは、ごめんね。でも、僕は恭弥の親友だからさ。恭弥と、恭弥の周りにいる人の笑顔を優先しないとなーって」
「兄貴は介護されすぎ」
「そうしたくなるくらい魅力的な人なんだから、仕方ない」
「……千里ねーさん?」
「絶対にやめてくれ」
なんか僕も言いながら「あれ? なんか僕めちゃくちゃ正妻っぽくないか?」って思ってたけど。最後は「お前はいつも俺を見てくれてたよな」って恭弥から告白される未来まで見えたけど。恐ろしい。そんなことされたら僕も頷かない自信がない。いや頷かないけどね? 僕男だしね?
「ね、これからどうするの?」
「もしものすごい修羅場になった時のためにこの近くにいるのは確定として、ん-、何か気になる屋台とかあった?」
「くじ引き。なんかね、お揃いのアクセサリーみたいなのがあったの」
「おいおい。薫ちゃんはフルスロットルで可愛いな。僕を殺す気か? 初めて見た時から天使のような可愛さだと思ってたけど、まさか本当の天使だとはね。僕を天国に連れて行こうとしてるんだろう。ただどうかな。このまま地上で『愛』という名の天国を僕とともに築くって言うのは……まぁもういないよね。まってよ薫ちゃん」
そういえば僕と腕は組んでくれないの? と聞くと、顔を真っ赤にした薫ちゃんがきゅっと手を握ってくれた。さいかわ。