「わ。結構広いんだね」
「人も結構いるんだな」
花火の時間が迫ってきて、展望台に移動。展望台はとあるタワーにあり、360度外を見渡せるようになっていて、少し下を見れば祭りの様子が見える。あの中に千里たちがいるんだろうなと思ったが、そういえば光莉もチケット持ってたなぁということを思い出し、ふと周りを警戒し始めた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
光莉のことだから、「私の日葵と今日一日一緒にいられて幸せだった? じゃあ地獄に行きなさい」と言って窓をぶち破って俺をここから突き落としても不思議じゃない。常に背後は警戒しておかないと俺の命が危ない。
まぁ、光莉なら千里と薫にチケットを渡すこともありえるけどな。あいつ、根っこがめちゃくちゃいいやつだし、自分を優先するように見えて基本的に他人優先だし。
「……カップル多いね」
「ペアチケットっつーくらいだからな。狙ってる客層がそこなんだろ」
周りを見れば人目を気にせずいちゃいちゃするカップルだらけ。「やっと二人きりになれたね」と二人きりじゃないのに二人きりのつもりになっている異常者もいる。彼女も彼女で「え? 二人きりじゃないけど……」みたいな顔してるし。そこは乗ってあげようよ。ほら、気分とか雰囲気とかあるじゃん。
でも、あれは男が悪い。例えば春乃が「やっと二人きりになれたな」って言ったらほんとに二人きりになった感じがするだろうし、事実二人きりなんだろう。二人だけの世界を作ってしまえばいいんだ。その世界を作れなかった男が悪い。いい男なら女の子を夢中にさせないとな。あれ? 春乃は女の子だぞ???
「わ、私たちも、カップルに見えてるのかなー、なんて」
「見えてるだろ。腕組んでるし、美男美女だし」
「……じゃあ、さ」
日葵が「こっち見て」と言わんばかりに俺の腕をそっと引いた。視線を下げると、不安げに俺を見る日葵と目が合って、その可愛さに精神をぐちゃぐちゃに犯される。
じゃあ、なんだ? ほんとのカップルになってみない、とか? 俺の勘違いじゃなきゃ日葵は俺のことを好きでいてくれている。だったらそう言われてもおかしくない。
おかしくない、けど。なんとなくここでそれを言われたくないと思った。いや、なんとなくなんて逃げた言い方をしていても、なぜかなんてはっきりわかってる。
日葵が、ゆっくり口を開いた。やめてくれ、と言いそうになるが、ここで日葵を止めたら日葵の気持ちはどうなるんだ、そもそも日葵は俺が思ってることを言おうとしてくれてるのか? そうじゃなかったら俺めちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃね? でもこの表情って確実にそうだよななんてぐるぐるぐるぐる考えていると。
「日葵と一緒に生活とかけまして、数分先の恭弥と説きます」
「その心は?」
「どちらもしたい(死体)でしょう」
俺が、
「光莉、春乃」
「やっほー日葵。花火楽しみね。空に咲く綺麗な花火と、地上に咲く真っ赤な汚い花火」
「命が燃える瞬間なんやから多分綺麗やろ」
「待て! せめて春乃は止める側に回ってくれ! おかしいじゃん。俺日葵と一緒にいただけじゃん!」
「一緒にいただけ? 私を差し置いて腕組んでるのに?」
「ち、違うんです。こうしてもらわないと俺両腕と両脚を一緒に出して、歩く度変なジャンプしちゃうんです」
「ほんまに? 日葵、ちょっと離れてみて」
「え……」
「あかんて光莉こらあかんわ。何あの残念そうな顔。可愛すぎてキスしたくなってもうた」
「するわね」
「待てや」
目の前で暴れる二人を見て、自分がどこかで安心してるのを感じた。日葵もどこか残念そうにしながらも、やはり安心している気がする。なんで安心しているかまではわからないが、多分、俺と似たような理由だと思う。
「日葵、もしかして恭弥から離れたくないの?」
「そ、そういうわけじゃないけど、ほら、ね? 両腕両脚同時ジャンプって恥ずかしいから、恭弥が可愛そうだし」
「ほな離れて恭弥くんがそれをせんかったら問題ないわけやな?」
「え、あ」
「はい、離れましょうねー」
「あぁー!」
光莉の怪力により俺から日葵が引きはがされる。俺に手を伸ばしてぱたぱたしている日葵の可愛さに悶絶している俺は、両腕両脚同時ジャンプをすることなく、ただその場に平然と突っ立っていた。
「嘘をつきましたね?」
「違うんです」
「日葵とくっつきたいからって嘘をつきましたね?」
「いや、薫に聞いてみてくれ。これは本当なんだ。なんなら駅までは薫に腕を組んでもらってた」
「薫ちゃんとくっつきたいから嘘ついたんか」
「聞いてみてくれ! ほんとに! 俺は嘘なんかついてないんだ!」
「そうなの? 恭弥」
「クソ、今から電話するから待ってやが」
れ、と言ってスマホを取り出し、そっとポケットにしまう。そうだよな。今光莉と春乃がここにいるってことは、薫は千里と二人きり。邪魔しちゃ悪いか。薫も多分平気そうな顔してても緊張してるだろうし、今は二人だけの世界を守ってやることにしよう。忌々しい。
「あんた、そういうとこずるいわよね。あんたみたいなクズは家族想いじゃない上に友だち想いでもないのが普通なのに」
「千里と二人きりやから気ぃ遣ったんやろ? ええお兄ちゃんやなぁ」
「……」
「日葵、邪魔しに行こうとするなよ」
「だ、だってぇ」
そっとスマホを取り出そうとした日葵の手を掴んで、めっ! と注意する。まったく、薫がやっと俺のお守りをやめて好きな人を見つけたのに。邪魔したくなる気持ちはわかるが、千里なら心配いらないだろう。人間出来ていないところはあっても、あいつはいいやつなんだからってことがわかってても薫が可愛すぎて邪魔したくなるんだよな。わかる。やっぱ邪魔しようかな?
「そういえば千里が寂しそうにしてたわよ。自分だけいつも五人からはみ出してるみたいって」
「確かに寂しそうにしとったけど、そんなはっきり言うてた?」
「なんとなくわかるのよ。あいつ、周りのこと気にしすぎるし寂しがりだし、めんどくさいわね」
「薫と一緒が不満ってことか? ヤリモク掲示板にあいつの写真のっけてやろうか」
「世界を支配できるレベルで人集まるからやめた方がええで」
千里を奪い合う戦争とかマジで笑えないけど笑えるな。でもあいつメスメスしいから全然ありえる。女の子も千里のこと好きになるってことが薫で証明されたし、大阪でも普通にお姉さんにナンパされてたし、男女問わず大人気になって奪い合いが発生してもおかしくない。俺は遠くから見て爆笑する役になって、千里がそれに腹を立てて「僕には恭弥がいるんだ」って争ってる全員に言って、俺が殺される。は?
「薫ちゃんと一緒にいるのに寂しがるってすっごい失礼! 薫ちゃんが優しいから許してくれるけど、他の女の子なら……光莉と春乃は置いといて、他の女の子なら絶対怒ってるよ!」
「私なら『なら、私に会いたいって毎日寂しくなるような思い出作ったるわ』って言うかなぁ」
「私なら『その寂しさと私のおっぱいを天秤にかけてみなさい』って言うわね」
「春乃の大勝利。勝負にもならん」
「実際は?」
「ジャンルは違うけどいい勝負です」
「へぇ」
「ふーん」
日葵と春乃からすごい目で見られたので、光莉の後ろに隠れる。殺気が強まった気がした。バカじゃん俺。光莉の後ろに隠れたら自然と光莉の胸に二人の目が行くじゃん。デカいじゃん。怒るじゃん。
「おーよちよち。怖いでちゅねー。男の子なら仕方ないのにねー?」
「はんっ。胸にしか自信ないからそんなことしか言われへんやろな」
「胸以外も自信あるわよ。人間性も素晴らしい……」
光莉はそこで言葉を切って、日葵と春乃を交互に見た。そして頭を下げて、「負けました」と降伏宣言。負けてないって、負けてないって! 光莉もいいやつだから! ただあの二人が常時聖人なだけで、光莉もいいやつだって! 基本クズだけど! あぁ負けてるわ。敗北者が頭さげてらぁ。
「さぁ気を取り直して花火を見ましょう。せっかくきたんだから見なきゃ損よ」
「楽しみやなぁ。綺麗なもんは日葵とか光莉とか普段見てるから見慣れてるけど」
「わ、ありがと。ふふ。春乃も綺麗だよ?」
「おい光莉。俺はついさっきまで日葵と二人きりだったんだけど?」
「あの、その、気を落とさないで。明らかに今の日葵と春乃が今日イチでいい雰囲気だけど」
「俺があえて言わなかったことをはっきり言うんじゃねぇよ」
「これも優しさよ」
何も優しくない。男として明らかな敗北をつきつけられることがどれだけきついことかわかってないんだ。あれ、でも春乃は女の子だから男として負けたわけじゃない? イケメンとして負けた? あれ? どういうこと?
難しいから考えるのはやめにした。とりあえずデートは俺より春乃の方がうまそうだってことが判明した。へへへ、情けねぇや。
「なぁ日葵。今日楽しかったか?」
「? うん。楽しかったよ!」
「そか」
ただちょっと不安になったので聞いてみると、一度首を傾げてから、笑って頷いてくれた。
それと同時に、花火が打ち上がった。色とりどりの花火が空に打ち上がり、空を様々な色で塗りたくっていく。俺の方を見ていた日葵は最初の花火を見逃したようで、「わ、もうあがってる!」と目を輝かせて花火を見始めた。
「……花火を背にした日葵がこの世の頂点だったわ」
「あぁ、感動した」
「二人とも、花火見ようや」
いやぁ、一発目にとてつもなく綺麗なもの見ちゃったからさ。
なんて言ったものの、四人で見る花火は特別に綺麗だった。ここに千里と薫がいないことが残念だが、あの二人はあの二人で特別な花火を見ていることだろう。
「あ、ごめん光莉、春乃」
「なによ」
「んー?」
「浴衣、似合ってる。可愛いし、綺麗だぞ」
「しね」
「ありがとー!」
「今しねって聞こえたぞ?」