「あぁ恭弥。この前日葵ちゃんと夏祭りに行ったんだろ? 何人だ?」
「それが子どもの人数のことを聞いてるとしたら、俺は父さんと縁を切らなきゃいけない」
「はぁ? 子どもの人数? 何言ってるんだ恭弥。俺は日葵ちゃんとの間にできた子どもは何人だって聞いてるんだぞ?」
「考える脳ついてねぇのかテメェ」
8月2日。父さんに呼び出されてリビングにきてみれば、いつも通りの父さんを見せつけられた。なんでこの男から薫みたいないい子が生まれるんだ? 母さんも父さんとほぼ同じだし、薫が生まれる理由がまったく見当たらない。俺が生まれる理由はわかるどころか俺が生まれるだろうなっていう両親であることは間違いないんだが。
「まぁこの話は本題じゃない。いや、未来の孫の人数が何人かは本当に気になるところだが、俺はお前を信頼している。どんな手段を使っても血のつながってない女の子を妊娠させるだろうとな」
「倫理観ぶち壊れ言い回しすんじゃねぇよ。結婚するでいいだろ? なんでわざわざそんな生々しい言い回しすんだよ」
「いつからこの国は事実を言っちゃだめになったんだ?」
「言ってもいい事実と悪い事実を覚えるのがこの国の大人なんだよ」
「僕子どもだもん!」
「出てくわ」
立ち上がってリビングを出て、リビングを出たところで母さんと出くわし、一本背負いされてリビングに引き戻される。いや、倒し戻される。何してくれてんだこのババア。俺が運動神経抜群じゃなかったら受け身とれずにとんでもないことになってたぞ? というか運動神経抜群でも息子に向かって出会い頭に一本背負いすんじゃねぇよ。
「恭弥、日葵ちゃんを妊娠させてしまったからって出て行くことはないわ。むしろでかした」
「いい年して脳内ドピンクすぎんだろ。違うからな? 責任をとるために出て行こうとしたんじゃなくて、クソ親父に愛想つかして出て行こうとしただけだからな?」
「あら、じゃあ私たちも恭弥と一緒に行きましょうか」
「家族旅行だな! よし、薫も呼ぼう!」
「どうやら俺の両親は話を聞けないらしいな……」
もう千里呼んで千里の戸籍を氷室家のものに変えて、俺は織部家の子になろうかな。織部家もメスがオスの頂点に変わるんだから将来安泰だって喜ぶだろ。あんなメスが息子だと心配だろうし、いやぁ俺はいいことを考えるな。頭がよすぎるし気が利きすぎる。天才か? 天才でした。
「冗談は置いといて、海だ海。どうせなら日葵ちゃんの誕生日に合わせて行こうと思ってな。7日~9日の3日間で友だちに予定を聞いておいてくれ」
「千里は行けるってさ」
「相変わらず仲いいわね。もう連絡したの?」
「いや、今『7日~9日なら空いてるよ』って一方的に連絡がきた」
「流石千里くんだな」
「そういえば千里ちゃんは生物学的に妊娠できるの?」
「息子の未来の妻にしようとしてんじゃねぇよ」
あと流石に怖かったから「お前どっかで見てる?」とメッセージを送ると、千里から『多分、行くなら泊まりで、夏野さんの誕生日に合わせると思ったから』と返ってきた。いや、そういうことじゃなくてそれを予想してたとしてもなんでドンピシャのタイミングでそれを送ってこれたのかって聞いてんだよ。
まぁ千里だしいいや。ゆりちゃんへの連絡は薫に任せるとして、日葵と光莉と春乃に連絡しよう。
ふっ、ここで気遣いも何もできない男なら、『海に行こうと思うんだけど、7日~9日空いてる?』って聞いて、海デートだと勘違いさせることだろう。しかし俺はちゃんと気遣いができるジェントルマン。ちゃんと『へ、変な意味じゃないんだけど、7日~9日、空いてるかな……? もしよかったら、海に行かない?』とメッセージを送る。元々海に行く話はしてたしちゃんと伝わるだろう。
メッセージを送ると、すぐに帰ってきた。光莉から『部屋割りは私が決めていい約束だったわよね?』、春乃から『日葵の誕生日に合わせてかー! 素敵やな! おっけー!』、日葵から『ふ、二人きりで?』。
一人わかっていない人がいますね……。
光莉には『お前だけ一人だぞ』と返し、春乃には『お前が素敵だよ』と返し、日葵には『前言ってた、薫が日葵と一緒に遊びたがってるってやつのことだぞ』とはっきり返した。今頃恥ずかしがってるところだろうが、仕方ない。いくら日葵だとはいえ嘘はつけないからな。俺も二人きりで行きたいけど!
メッセージはすぐに返ってきた。光莉から『ところで日葵の水着姿って全身セックス人間よね』、春乃から『恭弥くんも素敵やで』、日葵から『あー! あれのことね! 了解!!!!!! いけるよ!!!!!!』と返ってきた。一人付き合いを考えないといけないかもしれませんね。
「全員いけるってさ」
「おう。いやぁそれにしても、我が息子ながらモテモテだな。日葵ちゃんに光莉ちゃんに春乃ちゃんだったか? しかも全員可愛い、美人ときた!」
「一人を選べないならお父さんとお母さんが国の法律を変えるから安心しなさいね」
「俺のために国を動かそうとしてんじゃねぇってか、二人にそんな影響力ないだろ?」
「親は子どものためならなんでもできるんだよ」
「子どものピンチに駆け付けない親がどこにいるの?」
「もっと感動的な場面で言ってくれ」
ほんとこの両親は言うことだけは立派だな。シチュエーションが完璧だったらものすごいカッコいい両親なんだけど、その完璧なシチュエーションに出会ったことがない。生まれて17年間でだぞ? 両親の尊敬できるところといえば俺と薫を育ててくれていることだ。俺たち二人はもうほぼ勝手に育ったようなもんだけどな。
「でも実際誰が本命なんだ? 昔から日葵ちゃんが好きだとはいえ、あんな可愛い子たちに迫られたら男としてたまらないだろう?」
「一人しか選べないのが辛いところよね。日本はほんと狭い価値観の中でしか生きられないから苦痛なのよ。守る必要のない古い風習を守って進化はあるのかしら?」
「俺もう行くかんな」
「まぁ待て。特に話すこともないけど待て」
「もうちょと上等な誘い文句覚えてから話しかけてこい」
いけずー! と叫ぶ両親を放置して二階に上がる。薫は勉強しているところだろうから、海のことについて話すのはご飯の時でいいだろう。特にやることもないから部屋に戻って宿題でもするかと自室のドアを開けた。
「あ、恭弥。おはよう」
「おはよう。俺宿題しようと思ってたんだけど」
「そうだろうと思って僕も持ってきてるんだ」
「そうか。流石千里だな」
「だろう?」
得意気な表情で胸を張る千里を持ち上げて、窓を開ける。千里が俺の腕の中で首を傾げているのを無視して、窓の外に放り投げるジェスチャー。
「え?」
「いや、不法侵入じゃん」
「僕と君の仲だから、なんだかんだスルーしてくれるかと……」
「親しき中にも礼儀ありって言葉を知らねぇのか?」
「知ってるからってそれを遵守する人種だと思うのか?」
「今すぐ土下座して謝るか、窓から捨てられるか、ケツにふてぇモンぶち込まれて鳴くか選べ」
「今すぐ土下座するから下ろしてくれ」
「土下座できねぇなら二択だな」
「おい。僕を殺したいなら素直にそう言え」
殺したいわけがないので、ベッドに放り投げる。まったく、折角バカから逃げられたと思ったのに、またバカに付き合わなきゃいけないのか。俺の周りはバカまみれだな。日葵と春乃が恋しいぜ。やっぱりまともなやつはまともなやつとつるまないとな。千里と光莉はよそでよろしくやっといてくれ。
「あ、朝日さんから連絡きたよ。『あんたたち以外とよろしくできるわけないでしょって恭弥に伝えておいて』だって」
「スルーするにしては恐ろしすぎるだろ。なんで俺の考えてることと千里が俺と一緒にいることがわかったの?」
「恭弥の部屋のクローゼットに朝日さんがいるからじゃない?」
「おはよう」
「お前ら。現代にはインターホンっていう便利なものがあるってことを教えてやろう」
「ちなみに二人とも薫ちゃんに入れてもらったわ」
「薫がやったことなら仕方ないな」
「現代が差別を問題視してるってことを教えてあげようか?」
「メスは喋んな」
「これは教える必要がありそうね……」
クローゼットから光莉が出てきて、我が物顔で俺の勉強机の椅子を引っ張り出して座った。薫が入れたならまぁいいけど、どっちにしろ俺が考えてることわかった理由がわからない……まぁ光莉だしそんなもんか。
「なんできたんだよお前ら。俺はお前らに用がないけど、会えて嬉しいぞ」
「喧嘩売ってんのあん……売ってないわね???」
「僕も今どうせ恭弥のことだから罵倒してきたんだろうと思って、恭弥の恥ずかしい写真を全知り合いに送る準備をしてたよ」
「詳細を教えろ」
「さぁ?」
俺の恥ずかしい写真ってなんだ? 千里が俺の恥ずかしい写真を撮ることなんてないだろ。逆ならあるけど。おい光莉、興味津々に千里のスマホを見ようとするんじゃねぇ。何があるかわかったもんじゃないし、その言葉で釣ってとんでもなく下品なエロ画像を見せる腹積もりかもしんねぇだろ。キショ。友だちやめてくれますか?
「まぁ大したことない写真だよ。一年の時に、クラスのお店で女の子を侍らしてる写真だから」
「何が恥ずかしいんだ? 男として優れてる証だろ?」
「恭弥。こいつは自分がメスだから嫉妬してるのよ。みっともないわね。自分にできないことを恥ずかしいことだって決めつけて攻撃するなんて。だからあんたメスだって言われるのよ。ところで恭弥、この女ども今どこにいるか知ってる?」
「あぁ。全員俺が千里と話してるところ見た瞬間夢から覚めたよ」
「なんだ。まともな子たちだったのね」
まったく、失礼しちゃうぜ。俺はただ千里といつも通り喋ってただけなのに。クズ全開で男同士なのにカップルみたいな雰囲気を醸し出してただけなのに。だからダメなんだよアホ死ね。
「それで、結局なんできたんだよ」
「台本のことでちょっとね。まずあんたたちに許可が必要だと思ったから」
「あぁ、いいぞ」
「うん。元からそのつもりだったしね」
「そ。ありがと」
じゃあもうできてるから、と二冊の冊子を俺たちに投げ渡してきた。表紙には劇のタイトルだけが書かれている。
「……えぇ」
「ふぅん」
「何か文句あったら教えて。できる限り直すから」
「じゃあ俺に暴力を振るうのはやめてくれ」
「できないから無理よ」
「努力はしろ」
しっかし、なるほど。なるほどね。確かにこういう方向で進めるようにはしたけど、うん。
怖いなこれ。