「薫。お兄ちゃんと日葵の誕生日プレゼントを考える気にはならないか?」
「甲斐性なし。恥ずかしくないの?」
「薫は俺を傷つけるのが本当にうまいな」
「妹だから」
「え? 好き」
「きらい」
「え?」
なんで俺は今嫌われたんだ? いや、気のせいだろ。薫が俺のことを嫌いになるはずがないからな。俺が薫を嫌いになることくらいありえない。つまり100%ない。なら安心だな。薫が俺を嫌いになることなんてあるはずないから。
「日葵ねーさんならなんでも喜んでくれるよ。物がどうこうよりも気持ちが嬉しいってタイプだし」
「それでもいいものをあげたいっていうのが普通だろ?」
「兄貴が普通を語らないで。大嫌い」
「俺が何かしたか? 薫からの大嫌いは死刑と一緒だぞ」
「ごめん。ちょっと軽率に嫌いって言っちゃった」
「ほんとは?」
「きらい」
「おい。好きって言うところで嫌いって言うところも俺は好きだぞ」
「へぇ」
「薫なんかしらない!!」
薫がつれなさすぎるので部屋を飛び出し、千里に『薫が冷たい!』とメッセージを送ると、『海には僕も行くから、そのことで頭がいっぱいになってるんじゃない?』と返ってきた。当たり前のように『死ね』と送っておいて、光莉に『千里がお前のこと乳だけの脳無ドデカパパイのパイって言ってたぞ』と送り、春乃に『千里がこの前絶壁を見て「あ、岸さんだ」って言ってたぞ』と送った。死ね千里。
一人の最低野郎をぶち殺したことで清々しい気分になり、さてどうしようと頭を悩ませる。日葵が何をもらっても喜ぶ子だということは百も承知だが、好きな子相手だからいいものをあげたいというのが本音。でも俺は女の子の気持ちなんてわからないし、何が一番喜ぶかなんて一ミリもわからない。ここは「俺がプレゼントだよ」って首にリボン巻いて光莉に絞められて死のうかな? 待て、なんで今俺は死んだんだ?
悩みながらひとまず外に出て、地球温暖化に喧嘩を売りたくなるような暑さを感じて絶望しつつ、遠くの方に見つけた千里を見て逃げるために走り出す。やばいよ。遠目で見たけどあいつの顔めちゃくちゃキレてたもん。さっき光莉と春乃に送ったメッセージが原因だって絶対。
俺が走り出すと同時に着信音。千里からだろうなと思いながら出るとやはり千里の声。
『覚悟しろ』
「覚悟して死ななくて済むなら覚悟するぞ」
『じゃあ覚悟してもしなくてもいい』
「つまり俺を殺すってことだな。理解した」
通話を切って、全力で走りだす。それと同時にスマホを取り出し、光莉に『さっきのは冗談だ。ごめんな?』と送り、春乃にも『さっきのは冗談だ。ごめんな?』と送った。
着信音。
『つまりそれはあんたが私のことをそう思ってるってことね?』
「敵が増えた」
通話を切って、走り出す。着信音。
『恭弥くんほど頭回るなら、言葉はいらんよな』
「実は冗談ってのも冗談だ」
『千里から位置情報送られてきてるんやで』
「うそでしょ」
通話を切って、耳を澄ます。すると俺を追う足音が増えていることに気づいた。早すぎだろあの二人。なんでもうきてるの? 元々俺に会いに来る予定でもあったの? 千里も千里で早かったし。もしかしたらみんな日葵のプレゼント買いに行こうって誘いにきてくれたとか?
だとしたら俺はなんてことをしてしまったんだ……! みんなが純粋な気持ちで俺を誘おうとしてくれていたのに、みんなにひどいことをしてしまった。これは謝らなきゃいけないなって思ったけど、あいつらなら謝ったところで殺してくるに決まってるからほとぼりが冷めるまで逃げよう。冷めないほとぼりはない。
いやでもどうしよう。千里と光莉からは逃げられるとして、春乃から逃げられるビジョンが全く見えない。一対一なら逃げられるとしても、千里と光莉がいるなら連携して追い詰めてくる智将プレイは絶対するだろうし、なんだよあいつ。頭が回って運動もできるって化け物かよ。誇らしくないの?
しかしそれは春乃をどうにかすれば俺にも生き残るチャンスが生まれるってことだ。春乃さえどうにかすればあとはメスと乳。メス乳なんてとるに足らない。メスは近づかれてもどうにでもなるし、光莉は近づかれなければ大丈夫だ。近づかれた瞬間に終わる。純粋なパワーで捻り潰される。やっぱあいつもおかしいって。
そうと決まれば、春乃をどうにかしないといけない。じゃあどうやってどうにかする? 春乃の性格を考えてみよう。イケメン。さらにちょっと怒っていても面白いことをすれば大抵は許してくれる面白い至上主義。つまりは俺が面白いことをすれば春乃は許してくれる!
振り向いてみると、気づけば見えるところに春乃と光莉、千里がいた。俺は体を後ろに向けて、春乃の目を見たまま爆笑ジョークを叩きつける。
「ぱつんぱつんのおぱんつ!!!!!!!」
春乃の足が速くなり、光莉の足が遅くなった。千里は呆れながら光莉を見て、速度は変わらない。
おかしい。春乃に笑ってもらうはずだったのに、光莉のツボに入ってしまった。そういやあいつ時々わけのわからないところでしょうもないこと言い出すし、しょうもないことが好きなのかもしれない。いや、俺のさっきのやつは爆笑ジョークだからしょうもないことじゃないんだけどね? 春乃の笑いのセンスがずれてるんだろう。可哀そうに。笑いの聖地で育ったがばっかりに笑いに対してとがってしまって。
「恭弥くん。こんにちは」
「あ、こんにちは。もう隣まできてたんですね」
「さっきのなんなん? 全然おもろないけど」
「面白くないやつに面白くないって言うなよ。面白いだろ」
「おもんないって言うとんねん。ブチ転がすぞコラ」
「もっと一般人らしいことば使ってくれない?」
今は夏。そして全力疾走しているからか、春乃は汗を流しており、シャツがぴたりと肌に張り付いている。非常にえっち。俺の視線は自然と春乃の体に注がれると思いきや、なんとなく恥ずかしくなったので目を逸らしてペースを上げる。
春乃が難なくついてきた。なんなの君。
「なんで今目ぇ逸らしたん?」
「何にやにやしてんだお前。その様子じゃなんで目を逸らしたかって気づいてるだろ」
「春乃ちゃんの体が気になったん? 恭弥くんのえっち」
「え? 汗を飲ませてくれるって言った?」
「一撃目」
足を蹴られて、走った勢いのまま地面をごろごろ転がる。しゃれにならん。俺が超人的な身体能力だったからよかったものの、これをやられたのが千里だったらいい感じに服が破けて超えっちなことになっていた。俺でよかった。俺だったから傷もなにもなかったんだ。傷も何もないのってやばくね? ほんとに人間か俺?
「春乃から誘惑してきたんじゃん! にやにやしながらそんなこと言われたら誰だって汗飲ませてくれると思うに決まってるもん!」
「頭おかしい恭弥くんの感性を一般て思うのやめてくれへん?」
「いや、一般的だって! なぁ光莉!」
「春乃。これは春乃が悪いわ」
「なぁ千里!」
「ほんとに。これは僕にも汗を飲ませるべきだ」
「人の道から外れた三人衆が喋っとんちゃうぞ」
「喋るのは許してくれ」
人の道から外れた三人衆って酷い呼称だな。早く人間になりたい者たちか俺らは。配役もちょうど……女の子が一人にメスが一人に男が一人。ちょうどよくないですね。
「さて、春乃の汗は私も後で飲むとして」
「誰にも飲ませへんけど?」
「間違えたのよ。春乃の汗で私の体を洗ってもらうとして」
「酷く魅力的になってるね」
「単純に酷くなっとんじゃ黙っとれ変態どもが」
「そうだぞ」
「発端は誰やと思っとんねん」
「どうも、発端です」
「きゃっきゃっ」
「不用意にノリがいいとこうなります」
「「はい……」」
きゃっきゃっと楽しそうにした千里が殺されてしまった。どう考えても一番罪が軽そうな人間を殺すのは、罪の重い俺たちに対する見せしめ。これはどうにかして切り抜けるしかないと思い、同じことを考えている光莉と目を合わせて頷き合った。
「落ち着け春乃。いくら光莉が春乃の汗を舐めようと舌を出して必死だからってやっていいことと悪いことと拭いちゃいけない汗がある」
「落ち着いて春乃。いくら恭弥が春乃の汗だくの姿に興奮して必死に匂いを嗅ごうとしててもやっていいことと悪いことと消臭しちゃいけない汗がある」
「「裏切ったな!!」」
「まぁ二人とも死ねばええか」
とてつもなく怖い春乃の言葉を最後に、俺たちは殺された。殺された後起こされて、春乃から「日葵の誕生日プレゼント買いに行かへん?」とのお誘い。これを断るとまた殺されるので二つ返事で頷くと、春乃に担がれて連行された。あれ? 千里と光莉は?
「この横暴を許しちゃいけないわ」
「そうだ! 僕たちを一方的に殺しておいて、自分は恭弥とデート何て横暴がすぎる!」
「私たちはただ春乃の汗が欲しかっただけよ!」
「そうだ! 僕たちはただ岸さんの汗が欲しかっただけだ!」
「千里ちゃん……?」
「朝日さん。僕はどうやらここまでみたいだ。二人のデートの邪魔は一人で行ってくれ」
「千里……」