8月7日。この日が何の日かと言われれば、全人類が『日葵の誕生日の前日』と答える事だろう。ちなみに昨日は『日葵の誕生日の前々日』と答えるのが全世界の常識。そう答えないやつは人類じゃない。ちなみにいつものメンバーに『今日は何の日?』とわざわざ送ったところ、全員『日葵の誕生日の前日』って答えたから全員人類。
「安心したぜ」
「君がわざわざ送ってくるってことはそういうことでしょ」
「恭弥を知ってる人なら全員わかるわよ」
「そもそも同じ家にいたのになんで私にも送ってきたの?」
「だって喜びを分かち合いたくて……」
「それよりゆりちゃんもう死んでもうたけど、大丈夫なん?」
大丈夫じゃないでしょ。だって合流した瞬間にぶっ倒れて日葵が慌てて駆け寄って、目を覚ましたかと思ったら「あ」と呟いてまた倒れちゃったんだから。ほんとに海行って大丈夫か? 全員の水着姿見たら絶対死ぬだろ。死ねて本望だろうけど。
父さんと母さん相手なら大丈夫かなと思ったけど、認めたくはないが両親ともに美形だし、「え? 薫ちゃんのご両親?」と死にながら呟いてたし、多分無理だ。
「あらあら。顔がいい人に弱いっていうのはほんとだったのね。大丈夫?」
「アがが」
「姉さん。ゆりちゃんの顔掴むのはほんとにやめてあげて」
海に行く、というので車を運転できる人間が複数必要だったため、聖さんにもきてもらった。聖さんは顔のいい人間に弱いゆりちゃんが面白いらしく、自分の顔を見せては遊んでいる。オイ春乃、やれやれみたいな顔してるけどお前も似たようなことしてたからな。むしろお前のが罪重いし。お前がゆりちゃんを助けたばっかりに、ゆりちゃんは命の危険を晒すことになるんだから。
「よし、どう分かれる? 俺と母さんはラブラブだから一緒だとして」
「あんまり子どもの前でそういうこと言うなよ。俺は父さんと母さんと一緒はいやだから、聖さんの車に乗せてもらう」
「僕と恭弥が離れることはあり得ないし、薫ちゃんと離れることもあり得ない上、ゆりちゃんが薫ちゃんから離れることはあり得ないから、これで決定だねよし行こう」
誰かに何かを言われる前に聖さんの車に乗り込む。6人は余裕で座れる大きさだから、助手席は千里に譲って俺は一番後ろに座ろう。薫とゆりちゃんが隣同士になればあとはどうでもいいだろ。
「あれ。なんで千里が隣に座ってんの?」
「姉さんの隣何て、この年になって座りたくないに決まってるじゃないか」
「俺は薫の隣に座りたいぞ」
「きもいこと言わないで」
「はぁん! 薫ちゃんがきもいっておっしゃってる……」
「薫、そこの変態どうにかした方がいいぞ」
「身内の変態をどうにかしなくてもどうにかなってるから大丈夫」
「言うじゃん?」
「仲良しねぇ。準備はいい?」
はーい! と俺だけが返事して、車が出発した。おい、返事しろよ。
「さて、みんなは恭弥のどこが好きなんだ?」
「そ、そそそそそそそそ」
「そんなこと何で聞くんですか!? って言ってます」
「あら、息子のことだから気になって当然じゃない?」
「い、いいいいいいいいいいい」
「いや、いやいやいやいやって言ってます」
「ほな通訳せんでもよかったやろ」
恭弥が聖さんの車に乗り込んだ時点でなんとなく察しはついてたけど、なるほど。確かに恭弥の両親なら、恭弥がいたとしてもこの話題振ってただろうし、そりゃ一緒に乗りたくない。恭弥からすれば気まずいことこの上ないし。
「あれ、そういえばなんで私らが恭弥くんのこと好きって知ってはるんですか?」
「見ればわかる。恭弥のこと好きな頭のおかしい人間だってな」
「ごめんなさいね。お父さんデリカシーのないカスゴミ野郎なの。ご容赦お願いねジャリガールども」
「もうデリカシーとかの次元ちゃうやん」
「ジャリガールって初めて現実で聞いたわよ」
「え?」
恭弥の幼馴染のあんたはそりゃ聞いたことあるでしょうけど。普通の人生を歩んでたらそんな言葉聞かないのよ。大体ジャリガールって何? 砂利ってこと? 確かに春乃の胸は砂利みたいなものだけど、私も一緒にしてほしくないわね。私は砂利どころか地球なんだから。アースガールって呼んで欲しいわ。
「なんで好きかって、そらおもろいしあんな人他におらんって思ったんで」
「俺」
「あら浮気? 最近三人目を作ろうと頑張ってるのに」
「今の恭弥と薫ちゃんには言っちゃダメよ」
「聞かなかったことにするね」
「高二と中三が聞いたら複雑以外の何物でもないやろうしなぁ」
年の離れた弟妹は絶対に可愛いし、この二人の遺伝子なら年が離れていなくても可愛いに決まってるけど、そんなこと関係なく両親がこの年で子どもを作ったっていう事実が嫌だ。反抗期真っ盛りだったらもう反抗に反抗を重ねて犯行することだろう。あ、私うまい。かわいい。うまかわ。
薫ちゃんっていうめちゃくちゃいい子が育ったのは奇跡だから、今度生まれてくる子もいい子に育ってほしい。まぁ恭弥は下の子を大事にするだろうし、薫ちゃんも大事にするだろうからそのあたりはあんまり心配していない。薫ちゃんを見習って恭弥を反面教師にして育てばすべてうまくいく。
「いやぁ、この中の誰かが未来の娘になるって考えたら興奮してきたな。母さん、今夜どうだ?」
「いいわね」
「海の中で」
「離婚しましょう」
「じゃあ結婚してくれ」
「はい……!」
「なにあのバカども。ムカついてきたわね」
「こら。ええやん仲良しで。羨ましいなぁって思うで?」
「私も恭弥に結婚しようって言ってもらいたいなぁ」
私も、と言いかけて咳払い。私はそういうキャラじゃないからだめだ。むしろ日葵に結婚しようって言ってもらいたいというか言いたい。言おうかな? 言ったらワンチャンあるんじゃない? だって私日葵に絶交されるくらいのことは何回かしてるし、それでも一緒にいてくれるってことは私のこと好き意外ありえないでしょ。あ、すごい興奮してきたな。
「恭弥に頼めば言ってくれるんじゃないか?」
「無理ですよー。そんな簡単に言うような人じゃないですし」
「あいつそういう言葉は大事にするタイプ……いや、ふざけて言いそうではあるけど、女の子には絶対言わないわね」
「千里に言うのはセーフ?」
「メス相手だからアウトに決まってるじゃない。何言ってるの?」
「千里ちゃんってどこでもそういう扱いなのね」
千里がメス以外の扱いされるところなんてあるんだろうか。絶対ない。あんな一から百までメスの化け物は、メスって言われる以外の選択肢がない。なんであんなにメスなのかしら。私にあのメス力があれば全人類の男は私に虜になっていたに違いないのに。まぁ今でも虜なんだけど。ふっ、美しすぎるっていうのは罪ね。
「それよりほんまによかったんですか? 宿泊代も全部だしてもろて」
「あぁ。未来の家族だと思えば全然苦じゃないし、なによりいつも恭弥と薫と仲良くしてもらっているお礼だ。全身全霊をかけて受け取ってくれ」
「お父さん。それだと重く感じちゃうわよ」
「すまん。神に感謝しろ」
「お父さん。それだと軽く感じちゃうわよ」
「色々謝れ」
日本人が神に感謝とか言い出したら軽く感じるのはわかるけど、本気で信仰してる人もいるからね。ちなみに私は自分の家の宗教を全く把握していない。千里みたいに他の家の宗派を知ってることもないし、いたって普通の日本人だ。日葵はお焼香とかで気にして自分の家の宗派を勉強してそうだけど。
「それと、部屋割りはこっちで勝手に決めたからな。心配しなくても、ちゃんと男女別にしておいた。俺と母さんは一緒だけどな。ハッハッハッハッハ!!!!!」
「お父さん前見なきゃだめよ」
「あかん。なんかこの車乗ってるのこわなってきた」
「すぐ慣れるよ」
「日葵って常識人のフリして死ぬほど頭おかしいわよね」
「誰が言うとんねん」
「私は常識人のフリしてないもの」
普段猫被ってるけどもうバレてるだろうし。それもこれも恭弥と千里のせいだ。あいつらが変なことをするから私も素を出さなきゃいけなくなって、男子から変な人気が出て、恭弥と他の男子を比べてしまって悪循環に陥る。クソ、あのスルメ人間め。また殺してやろうかしら?
「まぁ、俺からは多くは言わないが」
首を傾げる私たちの方に振り返って、恭弥のお父さんはにかっと笑った。
「三日間、頑張れよ。あいつは初心だから、積極的に行けばチョロいぜ」
「お父さん、前見なきゃダメよ」
今言わないであげてください。