ダンジョンでアトランティスが続くのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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ギリ一週間やぞ!


鍛冶師に武器を注文するのは間違っていない筈だ

◆◆◆

 

 イアソンがかつての船員を呼び出し、ガネーシャの宴から二日。

 ヘスティアは神友ヘファイストスの目の前で土下座し続けていた。

 下界に降りた時の自堕落で飽きっぽい様子からは考えられないその行動にヘファイストスは心中で舌を巻く。

 

(一体何があんたをそうさせるのよ……)

 

 神とはいえ地上ではただの人間と同じ肉体能力でしかない。眠らなければ健康に悪いし同じ体勢を続けるのにも体力は消耗する。ならばそれをする程の何かがあるに決まっている。

 それは今までにも頼られたことはあるが、今回のはある一種の執念さえ感じる強い意志が伝わってくる。

 

 目の前でこのような事をされ続ければ、流石のヘファイストスも、いや、善良なヘファイストスだからこそ仕事に身が入らない。

 夕日の光は薄らいできている。もうじき夜が近いというのに、それを気にする素振りすらない。どうやらこれはこちらが承諾するまで続くのだろう、と確信した。

 ヘファイストスは一度右目を覆う眼帯をなぞり声を飛ばす。

 

「……ヘスティア、教えて頂戴。どうしてあんたがそうまでするのか」

 

 ヘスティアはその問いに顔を挙げずに答える。

 

「……あの子の、力になりたいんだ!」

 

 間髪入れずにヘスティアは続ける。

 

「今あの子は進むべき道を模索し、劇的な速度で成長しているんだっ!それこそ、短期間で今の武器がベル君の力に追いつけない位に!それにあの子は冒険を続けるだろう!きっと、ボクの思う以上に高く険しくっ、辛い道のりの筈だ!」

 

 そこですうっと息を吸う。口に出した事実に押し潰されそうになりながらも、固く、芯の通った言葉を紡ぐ。

 

「ボクは、あの子の力になりたいんだ!!」

「―――っ!」

 

 果たしてこの様な表情を見たことがあるだろうか。顔を上げた彼女は今までに幾度も見た戦士の様相に酷似している。

 まさかあのヘスティアが――。とヘファイストスは後に語る。

 ヘスティアは、元々争いとは無縁とも言える女神である。他の神が争った時も、ラグナロクが起きかけた時も。彼女はそれらに関心を持たず、ただ己の守護するものに尽力していた。

 その時の彼女はまるで鉄で出来ているかのように表情は固まりまさしく己の守る者への絶対的で客観的な愛情を与えていた。――要するに、全てを愛すると謳いながらも、そのどれにも執着していなかった。

 

 地上に降りた時の自堕落な様子には思わず呆然と安堵が入り混じったものだ。仕事が関わらないヘスティアはここまで人間らしいのか(感情豊かなのか)、と。

 そのヘスティアが、自分に見せる初めての本気の懇願。同じ立場の神(十二神)として、一人の親友(神友)として、それに応えたいと思った。そうなるともう誰にも止められない。

 

「―――いいわ。あなたの言うベル君とやらに冒険する為の(武器)を与えましょう!」

 

 ギリシャ随一の鍛冶神は、そう宣言した。

 

(―――とは言ったものの、どうすればいいかしら)

 

 これは個人的な事で、自分の子供達の作品をあげるのは勿論アウト。何よりそれでは持ち主の為にもならない。一応自らが鍛つ事も視野に入れるが、それこそ本当に最後の手段だ。

 適当に造る等職人としてあり得ないし、本当に悩む。もういっその事ミスリルでも使って―――と、ふと最上級鍛冶師である己の子とのやり取りを思い浮かべる。 

 

―――…

 

『なあ、主神様よ。赤というのは、鍛冶と密接な関係にあるのではないか?』

『何よ急に。椿がそんな事言うなんて、何かあった?』

『鍛冶に必要な炎や熔けた鉄の色でもあり、主神様やヴェル吉のとこのクロッゾ一族、それに■■殿の様な鍛冶師の髪の色でもある』

『へえ、面白いことを言うわね。考えたこともなかったけど……確かにそういった意味では鍛冶によく関わる色ね。それにウチ一番の最上級鍛冶師(マスター・スミス)の貴女が入ってないじゃないの』

『いや、手前にもあるだろう?ほら、この紅玉(ルビー)の様な瞳に、下の袴も―』

『流石に服は含めないでしょ。ところでその―――』

 

―――…

 

「うん、うん」

 

 腹は決まった。これならいい。後に繋げることも出来るし、ちょっとした心残りも解消できる。

 

「………確認しておくけど、あなたの眷属ってレベル1よね」

「えっ……!あ、まあ…一応そう、だね……うん」

 

 レベルを問われた途端、先程までの決意の籠もった表情はどこへやら、その蒼い双眸は忙しなく動き回り、指を合わせては離しを繰り返す。

 明らかに挙動不審になったヘスティアに胡乱げな目を向けるヘファイストス。

 

「……何か隠してるわよね?ステイタスの事…レアスキルでもあるのかしら?」

「ビクッ………あ、あのさ、その……他の誰にも言わない?」

「当たり前じゃない。そんな非常識なマネ、私がすると思う?」

 

 冒険者のステイタスとは秘匿すべきものだ。それこそ同ファミリア内でも明かさない者がいるほどに。幾ら友神とはいえ何の契約も無く安々と教えられるものではない。―が、ヘスティアはヘファイストスを信頼し、告げることにした。

 ヘファイストスはそれを受け止めるつもりで紅茶を口に含み――

 

「あのね。ベル君なんだけども、実はもうレベルアップ出来るんだよね」

「ブッ!」

 

 ――吹いた。

 

「ゴホッ!ケホッケホッコホ、ゲフッッ」

 

 そして咽る。余裕綽々といった様子は一呼吸の間に崩され、そこに居るのは慌てふためく見た目は普通の一般女神である。

 

「ど、どういうこと!?確かあんたに眷属が出来たって言ったの二週間と少し前よね!!?もうステイタスがDに…改宗(コンバート)……?いや、でもお互い初めてで……えぇ?」

 

 下界においてかなりのベテランであるヘファイストスのその姿を見て、ヘスティアは冷静になる。ああ、これが普通の反応。っていうかやっぱりDでもおかしいよね。

 最近こんな事ばっかで自分の常識を疑い始めたヘスティアには特効薬だった。しかしそれは逆に言えば異常過ぎるほどに異常だということを証明しているのであって、決してヘスティアの心労が減った訳ではない。むしろ悪化した。

 

 ヘスティアは今まで誰にも相談出来なかったこの事を言える唯一の相手が見つかったのだ。もうそれはぶっちゃけた。正直徹夜土下座でまともな思考力が低下していたとも言う。

 

「ふっ、残念だったね。もう全アビリティSを超えていったさ。何かよく分からないSSとかSSSとかが今のステイタスだよ」

「エッ…!??ちょっ、何よそれ!?そんなのこの千年間一度も無いわよ!?」

「レベルアップはミノタウロスの単独討伐!魔法は無詠唱!スキルは三つ全部レアスキルだーい!」

「はあっ!!??待って!情報量が多い!ミノタウロス?無詠唱?スキル三つにレアスキルっ!?一体あんたのとこの子どうなってんのよ!?」

「ボクが一番知りたいよ!!何であんなになってるんだよー!??うわぁぁぁん!!」

 

 女三人寄れば姦しいとは言うが、たった二人でここまで喧しくなるのも稀だろう。

 そのままわちゃわちゃと戯れること数分、何とか情報を処理出来たヘファイストスが己の案を出す。

 

「ふぅ…。取り敢えずは分かったわ。未だに信じられないけど、嘘はついてない様だしね」

「普通嘘でもこんな事は言わないよ…」

 

 疲れ果て、ソファに突っ伏するヘスティアが力無く応えた。

 

「さて、それじゃあ私の案なんだけど、私のファミリアの子に鍛ってもらうってのはどう?」

「へ…?でもそれはいいのかい?」

「一応、聞いて駄目だったら次の手があるわ。それにその子にもいい機会になるだろうしね」

 

 そう言うと軽く身嗜みを整え、カツカツと硬質な音を響かせて退室する。

 

「……ちょっと、あんたも着いてくるの」

「は〜い」

 

◆◆◆

 

「俺が?その冒険者に?」

「ええ、あなたに頼んでいるの。この子、神ヘスティアの眷属の装備を作ってくれないかしら?」

 

 所変わって鍛冶場。ヘファイストスはある眷属の元に訪れていた。その名は『ヴェルフ・クロッゾ』かの有名な魔剣の一族の末裔で、レベル1でありながら魔剣に於いては他の追随を許さない程の腕を持つ鍛冶師だ。

 

「………」

「えっと、ヴェルフ君。ボクの眷属に武器を作ってくれないかな〜…なんて」

 

 ヘファイストスの紹介に預かり、顔合わせはしたものの、当のヴェルフは無言でヘファイストスとヘスティアの顔を見るだけで何も言わない。その威圧感に負けそうになりながらも声をかける。

 少しの間訝しむ様な視線を向けたヴェルフは最後にヘファイストスの顔を見て「はあ……」と息を吐いた。

 

「嫌だね」

「ええっ!?へ、ヘファイストス!?」

 

 すごく嫌そうな顔で拒否された。神であるが故にその言葉に嘘が無いことが分かり、より肩を落とす原因になっている。

 

「…ヴェルフ。何でか理由を聞いてもいい?」

「俺は魔剣は作らないって言っただろ。たとえ、それがヘファイストス様の願いでもな」

 

 より一層目に険のあるシワを作り、今度こそ敵を見るような目で睨みつける。

 

「……?魔剣…?」

 

 と、ここで唯一両者の情報を持つヘファイストスは認識に相違があると判断したので、詳しい訳を話す。

 

「…何?俺にクロッゾの魔剣を売れってことじゃなかったのか?」

「ええそう。このヘスティアの眷属用の武器を作って欲しいってこと。この子は最近降りてきたばっかだからクロッゾの魔剣なんて知らないわよ」

「むっ、失礼な。そのくらいはボクだって知っているさ。ただその末裔がこんなところに居たとはねえ」

 

 ヴェルフは誤解が解けたことで先程よりは自然体の様だが、それでも完全に脱力している訳ではない。

 

「それで、そのヘスティア様はどんなのを望んでるんだ?言っとくが俺は鍛冶スキルを持ってないからな?」

「うーーーーん…………。いや、君に任せるよ。ボクってばあんまり武器や戦いに詳しい訳じゃ無いし、ナイフってことだけ知ってくれればいいからね。ほら、それに君はあまり他につべこべ言われたくないタイプだろう?」

「誰だってそうだとは思うが…まあ、そうだな」

 

 口ではこう言っているが、実際ヴェルフは過去の経験からそういった事に人一倍過敏になっており、それを見抜かれたことに驚きながらもポリポリと頬を掻く。

 善神であるヘファイストスが信を置いている事と、何よりもこの表裏のない性格で、悪い神物ではないのだろうと何となく理解した。

 だがしかしそれと仕事では話が別だ。例え主神が善神であっても素行の良くない眷属がいるのも事実。さてどのような人物かと身構えたが、それも杞憂に終わった。

 

「ベル君っていって、白髪に赤目の只人の少年で――」

「ん?何だ、ベルのとこの主神だったのか」

 

 どうやら、既に二人は知り合っていたらしい。何でも、ダンジョンでたまたま出会ってそのまま少し臨時のパーティーを組んだ仲だとか。魔剣に対する姿勢もヴェルフの気に入る点だったらしく、そこからの話はトントン拍子に進んだ。

 

「なるほど、暫く専属鍛冶師みたいな真似をすればいいのか。それで体験して、気に入ったらそのままなってしまえばいいって事か」

 

 うんうんとヴェルフは頷く。相手がよく知っている相手で、経験も積めるという事で断る理由もない。今にも上達したいヴェルフにとっては正に渡りに船だったと言う事だろう。

 

「よし、引き受けた。ナイフの素材はどうする?」

「ありがとう!素材はいくつかあって、それを持ってきたんだけどね、やっぱり鍛冶師本人に選んでもらった方がいいよね!」

 

 そう言うと、そのばに風呂敷を広げてモンスターのドロップアイテムを並べ始め、早速とばかりにヴェルフはそのアイテムの選別を始めた。

―――ベルに内緒のサプライズが今始まった。

 

(何で風呂敷をと思っていたけど、まさかドロップアイテムが入っているなんてね………。というか最初からそのつもりで…)

 

 真顔で眺めるヘファイストスを残しながら…。




危ねー。

ここまで読んでくれた方へ。この小説の文字数とテンポはどうでしょうか?

  • 文字数もテンポも丁度いい
  • 文字数はいいけどテンポが遅い
  • 文字数はいいけどテンポが早い
  • テンポはいいけど文字数が多い
  • テンポはいいけど文字数が少ない
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