ダンジョンでアトランティスが続くのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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筆がのった。勢いでやったら出来た。――等と申しており


その力の名は

「神様、エイナさんと何を話していたんですか?」

「ん。まあ、ちょっとね」

 

 神様と出会い、シルさんを探す為闘技場の周辺を一頻り見て回った僕は、また東のメインストリートに戻ってきていた。催しの本丸であるショーが始まったことで殆どの人が闘技場へ入場したのか、大通りの人影は随分とまばらだ。

 

「ところでベル君、あのアドバイザー君に何かあるのかい?」

「へ!?いや、そんな事は…」

「こーら。神に嘘は通じないよ。それにそんなのがなくても随分と気まずそうだったじゃないか」

 

 しまった、と顔を硬直させる。普段そんなことが起きないから忘れかけていたが、神は下界の人達の嘘を見抜くことが出来るのだった。何か弁明しようとしたが、それももう遅い。こうなったら僕から言うまで神様は待ち続けるだろう。そのため大人しく曝け出す事にした。

 

「あの、実は…エイナさんには到達階層を誤魔化していて……本当は12階層に潜っているんですけど、まだ4階層って伝えてます」

「ふむふむ。まあ、半月でここまで潜るなんてありえないからねぇ。更にはランクアップ出来ると来た。僕は流石に受け止めたけど、普通は半月じゃ5階層に行っただけでも無謀って言われてるんだろ?」

「そうらしいですね」

「でも魔石とか換金額とかでバレるんじゃないかい?」

 

 その事は僕だって考えたし、あまり造詣に深くない神様ですら考えつく。ギルド職員であるエイナさんが気づかない道理はない。勿論対策はしている。

 

「それなんですけど…魔石ってギルド以外でも売れるんですよね。僕はバベルにある換金所で大半を換金したり、物によっては持ち帰ったりした後、ギルドに4階層相当の魔石やドロップアイテムを持ち込んで怪しまれないようにしてるんですよ」

「……何か君、密売人とか脱税とか、その手の類みたいな事をしてるね」

 

 言わないでください…僕だって薄々思ってたんですから…!

 

 こちらを責めるような半眼で見つめる神様に何とか許してもらい、シルさんを探しに円形闘技場まで歩もうとして――

 

「――?っっ!!」

「……どうしたんだい、急に…」

 

 咄嗟に身構えた僕に怪訝な表情を向けるがすぐ理解したのか目つきが鋭くなる。

 

「……まさか、何かあったのかい?」

「……今、向こうの方から悲鳴が上がりました。それも沢山の」

 

 そう。歓声でも怒声でもなく悲鳴。明らかに祭りの喧騒とは一線を画す、切迫した恐怖の叫び。これには何かあったとしか考えられない。ホルダーから手持ちで一番いいナイフを抜き、迫りくるであろう脅威へ備える。

 直後、それを肯定するかの様に割れんばかりの大音声が響き渡った。

 

「モ、モンスターだぁあああああああっ!?」

 

 それを筆頭に、平和な喧騒に満ちた大通りは凍りつき一瞬の静寂に身を浸す。

 そして見えた。向かっている闘技場方面から伸びる道の奥、石畳を大きく震わせながら猛進してくる存在を。

 

(あのモンスター達は正気じゃないっ…!!)

 

 そう、ベルは確信した。人類の敵たるモンスターに正気云々を求めるのは無駄だと分かっているが、それでも様子が明らかに可笑しい。

 

 普通、モンスターとはダンジョンから生まれ、そのモンスターの種類が違おうとも基本は敵視する事はない。しかしそれが人間となると話は別だ。彼らは人間を視界に捉えた途端に目の色を変え襲いかかってくるのだ。これらの生態は解明されておらず、今もダンジョンの構造やモンスターの発生同様に広く研究されているが、どれも成果は芳しくない。

 

 そんなモンスター達が逃げ惑う住民などには脇目も振らずに直進してくるのである。眼の前の者には反応するが、それも少しでも進路からズレたりすれば途端に襲わなくなる。

 その行動のお陰で未だに目立った負傷者は居ないが、それもいつどうなるか分かったものではない。

 

「神様、この財布を持って下がってください。それと、住民の避難も出来ればお願いします」

「……やるんだね」

「ええ。これは英雄とかじゃなくて、僕がやりたいと思ったからやるんです」

 

 既に感覚は戦闘用に研ぎ澄ませ、闘いにおけるパターンは構築した。切っ先を眼前の脅威に向け、低く腰だめに構える。

 モンスターは三体。一体は純白の毛並みを持つ大猿『シルバーバック』。これは僕は何度も倒した事がある。しかし問題は後の二匹だ。剣のような角を雄鹿『ソードスタッグ』。ぶくぶくと肥大した様に見え、その実殆どが筋肉という大型の人型モンスター『トロル』。

 資料で見た限り、この二体は中層である20階層以上から登場するモンスター。その階層の到達基準はレベル2。ステイタス基準はCからSと、中層に於ける最後の関門とも言える地に棲むモンスター達だ。まず間違いなく、どちらもミノタウロスより強い。

 

『イアソン様、緊急事態です。街にモンスターが発生しています。今、僕の目の前にも、格上が二体…。いざとなったら、令呪で呼び出すかもしれません』

 

 経路(パス)を通じて、イアソンへと念話を飛ばす。

 

『…ベルか!それは俺も知っている。言っておくが俺は戦闘に参加する気は無いぞ!?ただでさえロキ・ファミリアとやらに目をつけられた。ここで目立ってでもしてみろ!逃げられなくなるぞ!?相手は大派閥だ。対してこっちは正規のメンバーは貴様しか居ない零細ファミリア!握りつぶされるに決まっている!更に相手は二体が格上だと!?貴様が死ねば俺も死ぬんだぞ!?船長命令だ。退け!お前よりも強い奴らも動いている筈だ!そいつらに任せて貴様は教会に籠もっていろ!』

 

 確かに、イアソン様が言うとおり。口封じに殺されるという可能性も無いわけではない。団員は一人で交友も狭い為、秘匿する。或いはダンジョン内であればどうにでもなるだろう。それだけでなく、モンスター自体も僕より格上だ。二つの危機にさらされていると言っても過言ではない。

 

『……でも、僕はやるって決めました。それに、どれほど手札が少なくとも、勝負のテーブルに着くことくらいは出来るんじゃないですか?』

『……ッッ!』

 

 モンスターにも、ファミリアにも。そんな意味を籠めて返答する。イアソン様からの返事はない。

 きっと怒られるのだろう。ひょっとしたらイアソン様の言うとおりに揉み消されてしまうかも知れないし、それよりも先にこのモンスターに殺される可能性だってずっと高い。……それでも後悔はしない。これが僕が選んだ道だから。

 

『貴様…どこでそれを……!いや、いい。…ああもうクソったれ!何で俺の部下は船長の命令を聞かない奴等ばかりなんだ!!』

『…僕、船に乗ってないですよ』

『比喩に決まっているだろう馬鹿め!……ええいっ!俺も向かう!それまで持ち堪えろ!死ななければヤツに治させる!命令は一つだ!生き残れ!死んだら勘当だ!分かったか!……クソっ、俺も焼きが回ったか……チッ、これも全部奴らのせいだっ!』

 

「イアソン様…」

 

 最後の最後まで恨み節で相変わらずだな、と思う。

 でも今のでハードルは幾分か下がった。肩の荷が下りたとは言わないが、希望は見えた。

 蒼雷を身に纏い、最大限力を込める。目をかっと見開き、その僅かな挙動すら見逃さない。

 唐突に膨れ上がる敵意に反応したのか、シルバーバックがその豪腕を眼前の小さな白兎へと振り下ろす。

 

 それは何度か見た。故にこそ効果範囲も十二分に把握している。

 

「シッ!」

 

 そのギリギリを見定め、身を捩り最低限の動きで躱す。叩きつけられるそれのインパクトと同時に全力の踵落とし。

 ミシリ、と音を立て手の甲は砕け、石畳の更に奥深くへと潜り込む。

 

『ゴアァ!??』

 

 あまりにも緻密に計算されたその一撃に、シルバーバックは何が起こったか理解出来ず。襲い来る痛みと抜けない腕に困惑の吠え声をあげる。

 無論、モンスターであるからには痛みにある程度の耐性はある。怯んだのは一瞬、されどベルにとっては十分な時間だった。叩き込んだ足をそのままに腕を伝い駆け上がる。

 その存在を知覚した瞬間、眼前を白刃がすれ違う。嗚呼、嗚呼、シルバーバックは崩れ落ちる自身を認識することすら叶わず、その命の鼓動を永久に停止させた。

 

「よしっ…!」

 

 空中で姿勢を維持しながら、シルバーバックを仕留めたことを確認する。そのまま地上に待ち受ける二体のモンスターを視界に捉え、弛緩しかけた気をより一層引き締める。

 着地したベルを襲う猛攻は凌ぐだけでも精一杯だ。これが一体ならやりようも在っただろうが、まるでお互いの隙を埋め合うように攻めたてる二体に苦戦は必至。むしろレベル1がこれを凌いでいるだけで十分に褒め称えられる偉業に違いないだろう。

 一合、トロルの表皮を削り取る。二合、ソードスタッグの突撃をいなし、続きトロルの脛を蹴りつける。その時に身に纏う蒼雷を放出して皮膚を焦がし、筋肉を硬直させて動きを止める。

 

――躱し、流し、蹴りつけ、殴り、跳び、駆け、伏せ、登り、躱し躱し躱し受けて放電し肉を削る。

 

 当のベルに疲労の影は見えこそすれ、未だ無傷。たった数秒ですら神業に近いその動きを、あろうことか既に数分続けていた。

 

 何もかもがベル・クラネルより上手だ。力、速さ、硬さ、数。戦略における最重要要素全てが欠けている。

 しかし、ベル・クラネルの目に恐怖の色は無い。ただ真剣にこの戦況を眺めている。負けを疑う気持ちは無いわけではない。顔に出ないだけで恐怖心も無いわけでもない。

 

 何故戦えるのか?それはたった一つ、単純な答えだ。――彼は優しかったのだ。だから恐怖を押し殺して立ち向かうことが出来た。ただそれだけの些細な違いだ。

 

 式もなく、質量もなく、形もなく、けれど確かにそこに在るエネルギー。誰にだって備わっていて、人の輝きの象徴にして、未来へと翔ける為の翼。

――その力を、人は“勇気”と呼ぶのだ。




急いで書いたから色々とアレな所が多いと思う…。

ここまで読んでくれた方へ。この小説の文字数とテンポはどうでしょうか?

  • 文字数もテンポも丁度いい
  • 文字数はいいけどテンポが遅い
  • 文字数はいいけどテンポが早い
  • テンポはいいけど文字数が多い
  • テンポはいいけど文字数が少ない
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