ダンジョンでアトランティスが続くのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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半年ぶりの更新!忘れられてる気がビンビンするぜ!
言い訳をさせてもらうとアヴァロン・ル・フェで設定が一回全部死んだので放置せざるを得なかったんですよ…。


冒険野郎の邂逅〜神代じゃ割と普通〜

 朝のオラリオ。その都市を高速で疾駆する一つの影があった。

 人々はその異様な外見に眉を顰め、次にその異常な素早さに度肝を抜く。暗い外套をはためかせ、機械的なその人型は風を切っていた。

 蒼い閃光を眦に宿し、黒い軌跡を描いているのは何者か。そう、汎人類史における稀代の軍師にして冒険者、オデュッセウスである。

 

 さて、このオデュッセウス、ベルとの対面も放ったらかして何をしているのか。それは彼が追っている存在にあった。

 

 少し時を戻して、廃教会(元)1階。サプライズの為と、ヘスティアに言われて律儀に待っていたその最中、自分に向けられた視線に気がついた。

 顔を上げると、復元された教会の窓ガラスのその外に、一匹の梟がじっとこちらを眺めている。「さて、俺に動物会話などあったかな…」等と言いながら手を振ると、梟は飛び去ってじい、瞳が陽に照らされ光を反射し……そこに魔力の輝きがある事を見抜く。

 

(使い魔か!)

 

 アスクレピオスの神殿と比べると、余りに微細な魔力の波長は、オデュッセウスの判断を一瞬だけ遅らせた。

 恐らくは、事前にこの世界での常識を教わっていたが故の意図的なものもあったのだろう。通常の聖杯戦争とは違い、魔力に過剰に反応する必要は無いと踏んでいたのだ。

 しかし今のは明らかにこちらを監視する目的のものだ。あの独特の視線。全く同じ場所から同時に向けられる意識は視界の共有あってこそのものであろう。現に、オデュッセウスが過去に出会った魔女も用いていた事もあり、裏付けも取れている。

 

 誰がどのような目的で放ったにせよ、見過ごすはずもない。この世界がいわゆる人類史とは異なっていても他人の拠点を勝手に覗き見る行為が褒められたものではないことは共通している。ともすれば、良からぬ思惑を抱く者、あるいは聖杯戦争関係者であるかもしれない。

 

 そうと決まれば、この男が飛び出さない理由にはならない。

 

「アイギス、起動!」

 

 鎧に宿る機能の一部を開放し、内に巡る魔力を発起する。

 

(方向は北北東、彼我の距離約250m、時速にして80km。魔術による強化幅はほぼ無し。霊体化は…するべきでないな、何が起こるか分からん)

 

 刹那の間だけ思考し、即座に街道を走る。空を飛ぶのは無し。どうやらこの世界では飛行、或いはそれに準ずるレベルの行為は人間で確認されていないらしい。

 石畳を踏み割らない程度の加速を幾度となく繰り返し、地上のルートからの追跡を試みる。

 

 誰しもが奇異の目線を向けるが、それは冒険者に向けるそれであり、オデュッセウスという一個人に対するものではない。恐らく明日には詳しい姿も忘れ、フルプレートで走っている冒険者として処理されるであろう。

 

 フクロウは追跡されている事に気がつくと、複雑奇怪に入り組まれた都市の各所に身を滑らせ、時には戻ってやり直す。

 空を飛ぶ鳥類は建造物などは無視できるが、オデュッセウスはそうも行かない。地の利は向こうにある。隠れ場所は無限、対して自分は制限がかけられている。

 あらゆる面で見て圧倒的に不利。

 

 だからどうした。

 

 この程度、英霊となった者ならば飽きるほどくぐっている。自らの人生がかかっているわけでもなく、転移も行わないただの使い魔など、ギリシャ一の知将にとっては児戯そのもの。かつて見た魔術の煌めきとは比べるべくもない。

 

「この程度で俺を撒けたと思うなよ」

 

 活動を再開した使い魔を察知し、オデュッセウスは仮面の内に好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

◆◆◆

 

 ギルド地下。

 大きな石版が床に敷かれ、いかにも秘匿された神殿を彷彿させる。暗闇を照らすのは魔石灯の無機質な光ではなく、四炬の松明からなる陽炎が揺らめきを伴って神秘性を増している。

 冒険者や民間人はおろか、一般のギルド職員すら立ち入れないその場所に、二つの人影があった。

 

 一人は全身を黒衣に包み、部屋の雰囲気と合わせて不気味な様相を醸し出している。黒衣の人物は焦った様子で水晶玉を除き込み、もう一人の人物、神座に佇む巨体の老人へ向けて警告の意を示す。

 

「ウラノス……まずい、気づかれた。今追われている。ギリギリの所で躱しているが、時間の問題だ」

 

 ウラノスと呼ばれた老人――否、老神はフードの奥から蒼色の瞳を向けた。

 ニMを超すたくましい体はローブに包まれ、深く刻み込まれた皺と、顎には白髭を蓄え同色の髪がちらついている。老人ながらに整った彫りの深い顔はまるで彫像の様だ。

 太い両腕を肘掛けに乗せ、巍然として構えるその姿は、かつて人々が思い描いた『神』そのものだ。

 そんな神は、狼狽える黒衣を視界の端に捉え、静かに言の葉を紡ぐ。

 

「…やはり、想定はしていたが……」

「知っているのかウラノス!?」

 

 明らかな速度、見知らぬ姿。全ての冒険者の情報を把握している筈のギルド……ひいてはヘルメスからの情報提供もある彼らの未知。

 黒衣の魔術師――フェルズはそれへの警戒と驚愕を顕にする最中、ウラノスはどこか達観したように沈黙を貫いた。

 

「……よし、振り切れた。使い魔は一時オラリオの外まで飛ばして撹乱した甲斐があったか…」

「どうやら遅かったようだな、フェルズ」

 

 安堵の息を零す部下に、残念ながらといったように嘆息する。何を…と疑問符を浮かべるフェルズを尻目に、ウラノスは虚空を凝視する。

 ウラノスの視線の先、何もない筈の虚空を見つめるウラノスを怪訝に思いながらも、すぐに姿を現すと見て、レベル4に違わない速度で戦闘態勢を整える。

 右手に携えるのはこの世界でも所持者は二人といない砲塔。魔力を弾として衝撃波を生み出す攻撃はまさしく『魔弾』と言って差し支えないだろう。

 しかし、待てどもその謎の人物は姿を現れない。レベル4の知覚にもかからず、人が生きている以上生まれるはずの呼吸もない。あの鎧姿から見れば音を立てない隠密行動には不向き。姿が見えない理由については自身の魔道具という前例があるものの、それですら音や匂い、気配を誤魔化せるほどのものではない。

 

 フェルズには自負があった。たとえステイタスで劣っていようと、この悠久の研鑽を超えられる存在は未だ存在しないという自負が。これは驕りではない。客観的な事実である。自身の戦闘力や出来る範囲は弁え、その上で道具作成能力の高さは神のお墨付き。よもや自身を超える技術力など、大国の国家プロジェクトでもなければ…と考えを巡らせれば、その影は現れた。

 

 ウラノスが見据えていた場所に、空気から滲み出すように現れた影は眼晶で見た通りの全身金属鎧(フルプレートアーマー)

 だが、使われている金属は一切不明。800年の内に数多の冒険者の装備、道具を見てきたフェルズから見ても未知の物質が使われているその鎧は隙間に青い燐光が走り、とんでもない魔力を伴った物質であることだけは理解できた。

 武器に特殊属性を付与するのは上級冒険者の間ではそう珍しいことではないが、防具はあまり見たことがない。それも武器と違って属性付与が定着し辛いという法則から見ても伺えるが、それほどの代物を用意できる相手だ。今まで噂話にもならなかったことを踏まえ、気を抜いていい筈もない。

 

「……なるほど、そういう事か」

 

 低い男性らしい声が響く。全身鎧、ましてや兜も完全に密閉されているというのに明瞭に聞き取れるのはこれまた防具の特性故か。

 ただ一言発すると男は手を首元に伸ばす。

 が、魔化されている装備、また未知の存在の行動にはより一層の注意を向けているフェルズが許すはずもない。

 

「待て、それ以上動いたら…「よい」だ、だがウラノス…」

「よいと言っているのだ」

「わ、分かった」

 

 ウラノスが許可を出すと、鎧の男が行動を再開する。首元の何か押す仕草をすると兜が何処へか収納され、白と黒の2色染めの頭髪に4本の赤メッシュ。渋さと若々しさが混同した大人の男というべき風貌だ。これほどの伊達男であれば神のような…と形容されても可笑しくはないだろう。

 

「感謝する、ウラノス神よ。といっても、私がここへ来た理由は使い魔を送った術師を追ってきたが為なのだが…ここへは足を踏み入れないほうがよかったか?」

(神ウラノスを知っている……?)

「良い。元よりこちらの不手際だ。そこは謝罪しよう。……だが、何故貴様の様な存在がここにいる。サーヴァントよ」

「それは私にも預かり知りません。いつの間にか召喚されていたが、マスターも当初は居らず、土地に結び付けられているわけでもない。かといって、世界に呼ばれたわけでもないらしい」

 

 やれやれと頭を振る男はどこか親しげに、けれど敬意を払った物言いをするが、既にフェルズの知らない単語ばかりが上がっている。

 

「その身に授けられた恩寵、神体結界アイギスを鎧として纏う者……。私は終ぞ見えることは無かったが、貴様、オデュッセウスか」

 

 無言の肯定。男は剣呑な空気こそ纏っていないが、表情は硬い。

 

「一つ尋ねさせて貰うのだが、ウラノス神、貴方は私達の敵となり得るか」

「………」

 

 「敵か?」ではなく「なり得るか?」と問うた真意はウラノス、ひいては神としての意見と、目指すべき指標を訪ねているのだろう。

 オデュッセウスと呼ばれた男は鋭い視線でウラノスを貫いている。

 

「……おまえ達が都市の秩序を脅かさない限りは敵ではない。とだけ言っておこう。無論、私達の目的の障害になるというのならそれなりの対処はするが、始末するといった考えはない」

「随分と素直に話すのだな?」

「貴様のような音に聞く知将にはこの程度で丁度よい。悪神めと違って実行が早い貴様だからこそ、な」

「そうか、今の発言、嘘はないな?」

 

 威圧。

 信じられないほどの魔力をこの空間内に迸らせ、異形に等しい圧迫感で締め付ける。フェルズが固唾を飲んで立ち尽くす中、ウラノスは平然と、「是である」と答えた。

 途端、神威に近しき圧力は霧散し、元の静謐な空気が帰還する。

 

「そうか…。いや、申し訳ない。この様な真似をしてしまい。そちらの魔術師も、少し堪えたかな?」

 

 先までの高圧的な言動は鳴りを潜め、気さくな調子で話し始める男。あまりの落差に一瞬拍子抜けをした矢先、フェルズの黒衣がずれ、無機質な白――伽藍の頭骨が顕になる。

 混乱と不信感を抑えるために隠してきていたが、ここでは不味い。…そう考えたが、オデュッセウスはそれを一瞥するとなんてことないようにこう言った。

 

「む…死者、いや、延命術者か。貴方にも謝っておこう。何、使い魔を差し向けた理由は分かる。本格的な魔術工房が存在しないこの街に突如として現れた神殿クラスの超抜的領域。魔術師であるのなら気にしない筈もない」

「魔術工房…。いや、私のこの姿に何も無いのか…?」

「…?然程珍しくないと思うが。ああいや、そちらを侮辱する意は無いが、私のところにも巨人や不死者、神の子などもいたしな…。様々な神秘溢れる常世に置いては同じく等しいものと見えるのだが」

「そ、そうか」

 

 どこかズレたように返答した男は、今度こそこの場を去った。 嵐のように現れ、特に何もせず帰っていく。これが冒険者、オデュッセウスクオリティである。

 

 残された二人、隠れているような気配はない。というか、気がつけない以上本当にいないと思いこむ他ない。

 

「……私は普通なのか?」

 

 その問いに、主神は答えなかった。





神代じゃ割と普通。

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