ダンジョンでアトランティスが続くのは間違っているだろうか? 作:食卓の英雄
《追記》
ちょい修正しました
「はっ!せいっ!てやぁっ!」
分かる。分かる。分かる。
自分の知らない戦い方が。敵の隙が。何処が脆弱で何処が硬いかすら。
(あの夢のお陰だ――)
妙にリアルで、賢者の教導、華華しい冒険や無双の英雄と征く船旅。その感覚は朧気ながら彼は覚えていた。
――ベル・クラネルは今、12階層で死闘を――否、風の様に舞っていた。
相対するは複数のシルバーバックに盾役と言わんばかりに立ち並ぶハードアーマード。
しかし、その大半の体にはいくつもの切り傷が付けられており、弱々しい息を吐いている。
「ゴアアアアアァァァァァッッ!」
ここで一匹のシルバーバックが我先にと飛び出す。それは防御を捨て目の前の存在を叩き潰すための攻撃態勢。
しかしそれを見逃すベルではない。
「そこっ!」
腕を振り上げた瞬間、身をより低くし、股を滑り抜ける。その際、アキレス腱を切り裂くのは忘れない。
アキレス腱を裂かれたことにより、シルバーバックはその場に倒れ込む。
その瞬間、地面へ向かう首筋へナイフが振り抜かれる。鮮血が迸り、血を赤く染める。
地面へ倒れる事すら理解できなかったシルバーバックに、それに対応しろというのが酷な話だ。
そして一匹が倒されたことにより、均衡――いや、ただの時間稼ぎにしかなっていなかったそれのバランスは崩れだす。
振り切った勢いそのままに身を翻し、ハードアーマードの顔に砂をかける。当然、目を塞いだソイツは、そのまま目を開くことはなかった。なんてことない。ただ甲殻の隙間を貫いただけである。
言うは易し行うは難し。確かにハードアーマードは上層のモンスターであり、ある程度以上の力があれば甲殻など豆腐のように切り裂く事だって出来るだろう。しかし、常に動き回るそれの隙間に刃を立て心臓部を突き刺す。そのような芸当が出来るものがこのオラリオに一体どれだけいるか。
ベル・クラネルという少年は異常だ。
それはまだ彼の主神しか預かり知らぬ事である。
ちゃっかり今の群れを殲滅したベルは、魔石を取り出す作業に移る。そこでも苦戦はせずに、手際よく魔石を取り出していく。
「やった!ドロップアイテム!こっちにも!あそこにも!?す、凄い…!これだけあれば色んな事が出来そう」
それはもうドロップアイテムが出るわ出るわ。既にこの時点で『幸運』の予兆が出ているのか、あるいは『幸運A+』というステータスを持つ者のマスター故か。あるいはその両方が作用しているのか、それは神すらも預かり知らない事だろう。
「フンフフフ〜ン♪フフフフフフフ〜ン♪フフフ〜ン♪フン♪」
気分は何処ぞの狩人。ホクホク顔でバックパックに仕舞い込むと、ダンジョンの壁に亀裂が走る。
これはダンジョンにおいてはよく見る風景であり、これこそがダンジョンが生きていると言われる所以。
モンスターの誕生だ。
ダンジョンでは、壁から次々にモンスターが誕生する。なので辺りを狩り尽くしたと思っても油断をすれば思わぬ事故の繋がる。なので普通は壁に傷をつけ、そちらの修復にリソースを割かせるのが冒険者の常識なのだが…。生憎とドロップアイテムに目が眩み、忘れていたようである。
「グルルルル……」
それは小さな竜だった。小さいというと語弊を生みそうだが、竜にしては小さいと言うことである。
この階層に現れるドラゴンなどベルは一体しか知らない。
『インファントドラゴン』
11、12階層に希に出現する
まずレベル1がソロで勝てる相手ではない。本来なら現れた時点でファミリアの垣根を越えて対峙すべき敵だ。
しかし生み出し途中というのが悪かった。
「グルルゥォ……?」
居ない。先程まで視界の先にいた獲物が居ない。どこに逃げた。食ってやる。殺してやる。何処だ、何処だ。
「よいっ……しょっ!」
インファントドラゴンの頭に、それは降ってきた。
振り落とそうとしているそれは、紛れもなくベル・クラネルであった。
これはトリックも何もない。ただインファントドラゴンの生まれる位置より高い場所にナイフを突き刺し、そのまま頭に落下しただけである。
「おわぁっ!?おっ、あぅっ!」
暴れるインファントドラゴン。しかしベルは負けじとそれに食い下がる。眼窩を探り当てたベルは持っていた2本のナイフの内、一本を揺れる勢いを乗せて突き刺した。
「ギャアアアアアアアッッ!!?」
インファントドラゴンは想像を超える痛みに絶叫する。より一層暴れるが、まだ完全に出現出来ていない為壁にぶつける事すら出来ない。
そんな中途半端な状態で暴れた為か、直ぐに息は切れ、揺れは大分収まった。ここが狙い時だ。そう判断したベルはもう一つのナイフを逆手に取り、柄で思い切り眼球に刺さるナイフの柄を叩く。
またも絶叫するが、これでもかというほどにベルは叩き続ける。
少しして、インファントドラゴンは完全に沈黙した。その場には無傷の白兎ただ一人。
信じられない。状況が良かったとはいえ、冒険者になって僅か半月の少年がインファントドラゴンを無傷で倒す等と吹聴した所で、誰も信じはしないだろう。…嘘を見抜ける超越存在以外は。
そして魔石を取り出すと、またもやドロップアイテムが落ちる。この幸運には喜ぶべきか引くべきか…。
インファントドラゴンの魔石とドロップアイテムを回収したベル・クラネルはパンパンのバックパックを見て、一度地上へ帰還する。全速力で走りながら。
というのも、イアソンに『ヘラクレス、いや、俺の船の奴らはこの程度軽いウォーミングアップ程度にしかならない』と言われたのだ。ならばそれをやってみようと思うのが男の性。強くなるに越したことは無いと、体力の残っている日はこうして帰っていたのだった。
そうして5階層に差し掛かった所で、何かおかしな音が聞こえる。それは到底人間とは程遠い程の重さを持つ足音で、モンスターかと思ったが、担当アドバイザーのエイナによると、この階層にはその様なデカブツは出るはずもない。
警戒態勢に移り、何が起きてもいいように周囲を見渡す。
足音はますます近くなり、その曲がり角からひょっこりとその正体を現した。
――毛に包まれた筋肉質な肉体、雄々しく天を衝く双角。手に持つ自然武器が処刑道具のようにも見える。何より、その圧倒的な存在感はこのインファントドラゴンすらも優に超えている。
「ミノタウロス…!」
それは本来中層にいるべき存在ではない。推奨レベルが2以上だといえば、その異常さが分かるだろう。
「ブモ!?」
ミノタウロスは目の前のベルに驚き声を上げる。しかし目の前の人間が弱そうだと見るとたちまち獰猛な笑みに変わる。
普通のレベル1ならば、このあまりに突然の遭遇に対処出来なかっただろう。しかしベルは違う。すぐにUターンし、別路から上へ上がろうとする。
しかしミノタウロスも黙っている訳では無い。咆哮轟かせ、眼前の人間を追い始める。
「はあっ、はあっ、ツイてると思ったのに…!」
「ブモオオォォォ!!!」
暫く追いかけっこは続いたが、未だに差は縮まらない。一見するとこのまま逃げてしまえばいい様に思えるが、それがそうも行かない。とにかく差をつけるために滅茶苦茶に走り回ったせいで現在地が分からなくなってしまったのだ。
それに体力も残り少ない。連戦につぐ連戦。そしてその後の全力疾走。荷物の重みも加わって少しずつだがベルの速度が遅くなる。そこに追い打ちがかかる。
「行き…止まり…」
逃げた先は不運にも行き止まり。道を引き返そうにも背後からはミノタウロスが迫る。
その顔は愉悦と喜色に彩られ、ベルと同じ紅の双眸が爛々と輝いていた。逃げ場は無い。引き返すことも出来ない。…ならば導き出す答えは一つ。
「…ここで倒すしかないっ!」
邪魔になる荷物は端に置き、闘志を滾らせナイフを握る。
「ブモオォォォォォォォ!」
「避け……れるっ!」
本能のままに振り回されるそれを小さな体を捻って躱し、懐に潜り込む。僅かな硬直の隙にありったけの力で左胸を突き刺す。狙うは魔石。されどミノタウロスも伊達に恐れられているわけではない。
(硬い…!)
ナイフは浅い部分で止まり、軽い傷を作るだけに終わった。
いつまでもここにはいられない。通り抜けるようにして攻撃範囲を抜け出す。ナイフは刺さったままだが仕方ない。あそこに留まっていれば死んでいたのだ。
そこからはただひたすらにそれの繰り返しだ。ミノタウロスは斧を縦横無尽に叩きつけ、その隙を逃さず少しずつ傷を増やしていく。
ベルは一撃も喰らわず、ミノタウロスは傷だらけで血を全身から垂れ流している。状況はベルに味方しているように見えるが、実のところそうでもない。
単純に、生物としての違いである。
ベルは一撃も喰らっていないが、これまでの疲労は積み重なり、こちらの攻撃はロクにダメージを与えられないばかりか、少しでもミスをすれば死ぬという極限状態で常に行動していた。反して、ミノタウロスは一撃でも当たれば勝ちと言う事が本能的に理解しており、体の傷もモンスターにとっては然程重いわけではない。即ち余裕があった。
――そしてその時は訪れた。
またもや抜けようとした時、今までとは違った行動を見せた。両手で空気を斬って振られていた斧は地面に突き刺さり、何者も触れてはいない。
ならばその手は何処に?
「しまっ……!」
ベルの華奢な足は剛腕に掴まれていた。なんてことは無い。学習しただけだ。
ニィッと笑ったような気がする。ひょっとしたらそれは本当に笑っていたのかも知れない。だがそれも関係のない事だ。
叩く。叩く。叩く。叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩きつける。
「あぁっ!!…がっ!ごふっ!ぎっ!?ぬぅごっ!!?…ふぐっ、ガハッ!……ぐっ…!う…あ"ぁ"ぁ"っっっ!!!」
それはもはやただの攻撃ではない。リンチだ。ベルの体はミノタウロスの剛力で岩へ激突する。
ドロリ
何かが目にかかる。前が見えない。ああそうか、これは僕の血か。…このまま……死ぬのかなあ。
(痛い、痛い、痛い。初めて叩かれたときよりも痛い。あの時のモンスターよりも怖い。………でも)
ベルは意識の覚醒も共に手から離れかけていたナイフを強く握り直す。
(まだ、夢を叶えてない!イアソン様と、神様に恩返しも出来てない!)
ならばやることは一つ。
「っうあぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
ミノタウロスが掴んでいた足を無理矢理に動かす。ゴキリと嫌な音を立てるが、今はそんなことに気にしていられない。振り被った空中、さっきと同じ要領で目に突き刺す。
「ブモォォォ!!?」
すると慌てて手を離す。思わぬ所からの攻撃で、ミノタウロスは混乱している。
もうナイフは無い。解体用ならあるが、戦闘に耐えられる代物ではない。ならばどうした。そこにあるだろう。自分の求める武器が―――!
「うおおおぉぉぉぉっっっ!!」
手にしたのは斧型の自然武器。取り回し等分かる訳もなく、力任せに振り回す。ぐるんぐるんと回転し、高まりに高まった遠心力は今開放される。
「狙いはッ、胸ぇっっ!!」
迫る、迫る、岩の戦斧が。制御等出来ていない。正確に狙える筈もない。だがしかしそれは一直線に突き刺さるナイフの束へと吸い込まれ――
パキン
「…ブモォ……」
軽い音を立て、ミノタウロスの魔石を破壊され、灰と化す。その場にいたという証は何処にも残っていない。
ベル・クラネルは
「や、やりましたよ…。神様、イアソン様…」
その一言を最後に、ベルはその場に倒れ込んだ。
意識を失う直前、視界の端に、淡く輝く金色が見えた様な気がした。
今やるもんじゃないわこれ
ここまで読んでくれた方へ。この小説の文字数とテンポはどうでしょうか?
-
文字数もテンポも丁度いい
-
文字数はいいけどテンポが遅い
-
文字数はいいけどテンポが早い
-
テンポはいいけど文字数が多い
-
テンポはいいけど文字数が少ない