ダンジョンでアトランティスが続くのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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ふう……難産だった……


限界のその先へ

◆◆◆

 

「よし、面舵いっぱーい!進めぇ!アルゴノーツ!」

 

 それは古の英雄船団。それぞれが一騎当千、万夫不当のメンバー達。50名の英雄を纏めるのはこのヒョロくて偉そうな、なんとも反感を買うような人物だった。

 現に、その態度に不満を持つ者はいるし、マトモに戦ったら負けるはずもない。では何故誰も反対しないのか。

 

 それはその男の事を皆が認めていたからだ。普段は小物もかくやという人物だが、操舵の技術は誰よりも高く、風を読む能力も優れていた。それだけではない。人間真に追い詰められた時程力を発揮出来るとは言うが、この男はその一種の完成形にあった。

 

 そんな彼だからこそ、親友であるヘラクレスが、他人に厳しいアタランテが、医術バカのアスクレピオスが、傲岸不遜なカイネウスが、人間嫌いのカストロが、物腰穏やかなポルクスが、人類最初の詩人オルフェウスが、テセウスが、ピロクテーテースが、ペーレウス、カライス、ゼーテース、アウトリュコス、メレアグロス、パライモン、イオラオスが―――彼に従ったのだ。

 

 彼の名はイアソン。アルゴノーツ船長にして人任せなギリシャの勇者である。

 

 

◆◆◆

 

「…気がついた?」

 

 パチ、と目が開く。頭がクラクラする。何でこんな所で倒れて……ああ、ミノタウロス。そっか、倒せたんだ…!ここでようやく、あの猛牛に打ち勝ったという実感が溢れ出す。思わず叫びたくなった所で、はたと気がつく。

 

(あれ?僕ってうつ伏せに倒れて……柔らかい?)

「……大丈夫?」

「!!!!!????」

 

 ベルはようやくこちらを覗く金の瞳に気がつく。むしろ何故気が付かなかったのか不思議ではあるが……。

 起きがけに知らない美少女に覗き込まれて冷静でいられるほどベルの女性耐性は高くはなかった。声も出せず、咄嗟に背後へ転がる。

 

 その少女は、見れば見るほど可憐な乙女にしか見えなかった。美しい金の砂の様な髪に、同色の瞳。表情は読み取り辛いが、そこが却ってその少女の神秘性を高めているのは言うべくもない。

 

 その少女――アイズ・ヴァレンシュタインは突然転げたベルをポカン、と眺める。離れた今なら気づく。なにやら膝を畳んで地面に座っていることに。

 

(ま、まさか今のって…ひ、ひ、膝枕!?)

 

 何が起こっているかも分からず困惑するベル。ベルは驚愕と困惑で、アイズは素の性質から、お互いに押し黙る。体を動かすこともままならず、膠着状態に陥る。

 

「「ごめんなさい!」」

 

 どちらが先に口を開いたか、それは定かではないが両者が共に謝罪する。

 

「え、えーと、どうして謝るんですか?」

 

 先に問うのはベル。相手の深刻そうな顔から空気を読んだのだ。

 

「…ミノタウロス、私達のせい」

「…へ?…あー、もしかしてあなたのファミリアがミノタウロスと戦ってて……勝てないと思ったミノタウロスはこの階層まで逃げてきた……って事ですか?」

「ん、そう。ごめんなさい」

 

 またも顔を伏せる。これは女心に疎いベルでも落ち込んでいるのが分かる。

 

「だ、大丈夫ですよ!ミノタウロスは倒せましたし、足も腕も動きますので!……あれ、足は折れてた筈じゃあ……」

 

 見た目こそ同じ血まみれだが、明らかに傷が癒えている。折れていた足や限界まで酷使した腕、ベルは気づいていないが割れていた頭骨までもが回復しており、先程までの姿は見る影もない。

 

「危なそうだったから万能薬(エリクサー)を使った」

「エッ…万能薬(エリクサー)!?良いものなら40万は下らないというあの!?そ、そんな…今ある分を換金してやっと半分にいくかどうか…」

 

 一応言っておくが、慣れてきたレベル1冒険者の平均収入は5000ヴァリス程度、今のベルのポケットマネーは13万ヴァリス程になる。今ある分を売れば手元に7万は手取りで貰えるのだが…。冒険者歴半月の稼ぐ額ではない事をよく自覚して欲しい。

 

「ううん、私達のせいだから…」

 

 それでも尚頑なに否定し続けるアイズ。

 

「で、でもファミリアの人に怒られないんですか…?」

「うっ…、……説得する」

「やっぱり駄目じゃないですか!」

「でも…」

 

 お互い譲らず、払う。払わなくていい。払う。払わなくていい。と続いたので、ベルが妥協案を出す。

 

「…じゃ、じゃあっ…半々にしましょう!僕が半分出して…あなたがもう半分を!これでファミリアの人も納得するんじゃないですか!?…はい!これで終わりです!ありがとうございました!!」

 

 美少女と顔を向き合わせての会話、という状況にとうとう耐えられなくなったのか、言うだけ言って荷物を担ぐと、全速力で逃げてしまう。

 

 その後、ベルは見覚えのある道に出て、地上へ向かい、残されたアイズも仲間と合流して地上へと帰ったのだった。

 

「「あ………名前」」

 

 ちょっとしたうっかりを残しながら……。

 

◆◆◆

 

 オラリオ北西部【第七区】

 ベルが血まみれでギルドに突入して暫く、冒険者通りと呼ばれるそこに人だかりが出来ていた。

 

「くぅ……ここはこうだ!」

「残念、チェックメイトだ」

「逃げ道は……無いな。…リザイン」

「おいおい、アイツ今ので何連勝だ?」

「いや、最初から見てたが全部勝ってる。挑んだのが……19人だから19連勝だな」

「マジかよ…イカサマでも使ってんじゃねえのか?」

「いや、チェスでイカサマは無理だろ」

「それもそうだな…」

 

 そこで行われていたのは小規模なチェス大会と言うべきか、挑戦料が1000ヴァリスで、勝てたら勝ち取った総額を全て手に入れられる。という内容だ。男はずっと勝ち続けたので、今貯まっている賞金は19000ヴァリス。小遣いにしては高額な為、一か八かで多くの者が挑んだのだ。

 ある時はたまたま通りがかった一般人と、またある時は冒険者と、とにかく誰でも挑戦出来るが、男が強く誰も勝てないのであった。

 

(そろそろ潮時か…)

 

 やはり勝ち続けると挑戦者は尻込みする様になる。そう考えたは男――イアソンは引き上げようとする。

 

「じゃあこの位で――」

「――ちょっと、いいかな?」

 

 その時、イアソンに尋ねる者がいた。すわ挑戦者か?と見た所、周囲のギャラリーがザワザワと口々に困惑の言葉を吐く。

 

「おい、アレって……『勇者(ブレイバー)』と『怒蛇(ヨルムンガンド)』…だよな?」

「あ、ああ。天下のロキ・ファミリアがこんな事に口を出すなんてな…」

「いや、ひょっとしたら挑戦するかも…」

「それこそ無いだろ。向こうは金はあるし、現場の指揮も地頭もいいんだからよ」

 

 周囲は当人達そっちのけで色めき立つが、イアソンは目の前の少年の、いや、少年の様な外見の男に尋ねる。

 

「どうした?ロキ・ファミリアの団長とやら、文句でもあるのか?言っておくがこれは相手の同意もあるし騙しも誤魔化しも無いぞ?」

「ああ、うん。少し前から見ていたけどそんな事は無かったね。つまりあなたの純然たる実力な訳だけど……店じまいをする前に、僕が挑戦したいと言ったら?」

「団長!?」

 

 共に来ていたアマゾネスの少女、ティオネ・ヒリュテは声を上げる。そんな事をしなくても…と宥めるがフィン・ディムナの意思は変わらない。

 

「……本気か?なんでまたこんな路端の勝負に挑むおつもりで?」

「いや、ただ上手いだけなら感心するだけで挑もうとはしないさ。でもそうだな…強いて言えば……指が疼いたから、かな?」

「指、ねえ……。フィン・マックールかよ…」

「…?確かに僕はフィンだけど…受けてくれるかい?」

 

 さてこのフィン・ディムナだが、実のところそう言う訳でもない。確かに普通の勝負を見かけただけならば、こうはいかない。自らの言った通りに、眺めただけで終わっていただろう。遠征から帰還した当日の為、やることがあるのだが、どうにも指が疼くので勝負を持ちかけたのだ。

 

「………まあいいだろう。見てたなら分かると思うが普通のチェスだ。ルールは分かるか?」

「ああ、ボードゲームじゃチェスが一番得意だよ」

 

 ルールを確認しながら駒を並べていく二人。それを眺める野次馬ではボソボソと様々な事が呟かれる。

 

「なあ、どっちが勝つと思う?」

「そりゃさすがに勇者(ブレイバー)だろ、ロキ・ファミリアの司令塔だぞ?戦略やら先読みやらが絡むなら圧倒的だぜ」

「じゃあ勇者(ブレイバー)が勝つのに賭けるぜ」

「俺も」

「俺も」

「ちくわ大明神」

「いや、俺は大穴で金髪に賭ける」

「誰だ今の」

 

 お祭り好きの神々まで加わり、賭け事まで始まる始末。これもひとえにフィン・ディムナの知名度故だろう。

 

「ははは…何だか悪いね」

「いや、気にしなくていい。負けた時に文句を言われてもアレだしな。ギャラリーは多い方がいいだろ」

 

 ダン、と卓を叩き挑発的に笑う。

 

「…へえ、言うねぇ」

「なっ…!テメェ団長が負けるとでも…」

「ティオネ、落ち着いて。こういう掛け合いはあるから。……ただ、一つ条件を飲んで欲しい」

「何だ?手加減して欲しいとかなら聞かないぞ?」

「いや…逆だ。本気でやって欲しい」

 

 先程までニヤニヤとした笑みを浮かべていたイアソンが真剣な顔つきになる。

 

「ほう……中々いい目しているな」

「そりゃあね。無駄な駒がやたら多くあるのに、決めるときは外していないからもしやと思ったらね」

 

 この会話は喧騒の激しいギャラリーには聞こえておらず、二人だけの会話が続く。

 

「ふーむ本気か……嫌だね」

 

 断られるとは思っていなかったのか、不思議そうに尋ねる。

 

「それはまた、何でだい?」

「あまり本気出しすぎると挑戦者が居なくなるだろ!俺は暇つぶしと金稼ぎを同時にしたいんだよ」

 

 投げやりに放つイアソン。ならば、とフィンは条件を出す。

 

「じゃあこっちは10万ヴァリスを参加料として出すさ。程々で切り上げるつもりだったよね?それなら5万も稼げればいい方。ならば倍の額出すさ」

「…仕方ない、いいか?負けても恨むなよ?」

「こちらも負けるつもりは無いよ」

 

――――こうして、オラリオの勇者(ブレイバー)対ギリシャの勇者のチェスが始まった。

 

 

 一方その頃、説教を乗り越えてヘスティア・ファミリアに帰り着いたベルはというと、ヘスティアに肩を揺さぶられていた。

 

「き、君ってヤツは〜!何で戦おうとなんてしたんだい!君は成長が早いとはいえレベル1!ミノタウロスはレベル2だから勝てるはずもないんだぞ!?」

 

「ご、ごめんなさい…。で、でも倒せましたよ?」

「でもボロボロだったんだろ?ならその間にモンスターが出たら、それこそ良からぬことを考える輩までいるんだぞー!……まったく、心配させないでおくれよ」

「はい…すいませんでした」

 

 ベルも流石に悪いと思ったのか、13層にいくのはもう少し後にしよう、と思った。……つまり行く気はあったらしい。

 

「さて、説教はここまでにして…と。それだけの事をしたんだ。ステイタスの更新でもしようじゃないか」

「はい!」

 

―――…

 

 

「さて…今のベル君は…と」

 

 以前と同じく、ベルの背中に跨り神血を垂らす。背に刻まれたステイタスが更新され、変動する。その変動値は常軌を逸したものであり、他の神が見れば驚き戸惑うことだろう。

 だがしかし、今回に限ってはそれ以上の変化だ。

 

「…………」

「…か、神様?」

 

 突然沈黙し、動かなくなったヘスティアにベルは不安になる。

まさか何か異常でも起きているのではないか―と。むしろお前の成長スピードが異常だよとは言ってはいけない。

 

「ベル君………何言わずに聞いてくれ。君、レベルアップ出来るよ。スキルと魔法も発現してる…。僕はもう寝る。休ませてくれ。説明は後でするから……」

 

 そう言うと、のそのそとソファに倒れ込み意識を失った。

 

「え、ちょっ、神様!神様ー!?」

 

 その炉の紋章を刻んだ背には、神聖語でこう記されていた。

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 

 力:A859→S999(+140)

 耐久:A803→SS1162(+359)

 器用:A843→SS1094(+251)

 敏捷:S957→SSS1232(+275)

 魔力:D522→D554(+32)

 

《魔法》

【エレクト】

・付与魔法

・雷属性

 

《スキル》

【英雄憧憬】

・早熟する。

・憧れの続く限り効果持続

・憧れる英雄の数に応じて効果上昇

・その英雄への理解が深い程効果上昇

英雄(偽)(アルゴノーツ)

・能動的行動アクティブアクションに対するチャージ実行権

・[イアソン]に心の底から認められる事で進化

【求めし英雄の影】

・任意発動。対象を回復後、弱体化状態をランダムで1つ解除

・使用後、6分のインターバルが必要

・魔力を消費して発展アビリティ「精癒」「治癒」の一時取得。持続時間は一日。

 

 たった半月でレベルアップ可能。挙げ句にSすら超えた限界突破したアビリティに強力すぎるスキル。この中では霞んで見えるものの、魔法すらも発現した。

 ヘスティアが寝込むのも無理は無いのであった。




はい、サブタイトルはヘスティアの胃のことを表していたんですね。すごいね〜限界突破だってよ?

ここまで読んでくれた方へ。この小説の文字数とテンポはどうでしょうか?

  • 文字数もテンポも丁度いい
  • 文字数はいいけどテンポが遅い
  • 文字数はいいけどテンポが早い
  • テンポはいいけど文字数が多い
  • テンポはいいけど文字数が少ない
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