ダンジョンでアトランティスが続くのは間違っているだろうか? 作:食卓の英雄
実を言うと火水木に熱が出てたんですが……アッ、言い訳ですねこれ。
すいません許してください!何でもしますから!(何でもするとは言ってない)
「……えっ―――と、何ですかこの状況?」
――今現在、豊穣の女主人は正に
椅子は倒れ、内装は滅茶苦茶になり、息を荒くしたロキ・ファミリアの冒険者がこぞってアイズを押さえつけている。
よく見れば、体をぐるぐるには縛られた何かが床にめり込んでいるし、屈強なドワーフが青い顔で蹲り、何よりイアソンが料理の中に顔面を突っ込んで突っ伏しているのだ。
「いや、ホントに何があったんですか!?」
ホームから全速力で戻ってきたベル・クラネルは己が双眸の写し出す光景に思わず困惑の声を上げた。
死屍累々、正にその言葉が相応しいだろう惨状になった理由とは?
それはベルが豊穣の女主人から飛び出した直後まで遡る。
―――…
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
「……」
流石に口が回りすぎたのか、ベートは皆の手で拘束され始めており、見事な手際で縄でぐるぐる巻きにされている。
今回の様な事に慣れているのだろうか。
「……」
「さあさあアイズたん。ベートなんてほっといてウチと飲もうや。そんでやけど…酌を頼めへんかなーって思てな。な?ええやろ?」
「……」
テーブルが空いたことをいい事に、いつの間にかアイズの隣に来ていたロキがアイズに酌を頼み込む。
しかし返答は無く、ロキはこっそりとアイズの背に手を回し、これまたいやらしい手付きで撫で付ける。
「……」
「…ん?いつもならこの辺で手を出してくるんやけど……」
不審に思ったロキのセクハラはエスカレートしていき、とうとう胸元に手が伸びる。
「アイズたーん。ええんかー?胸揉んじゃうで?そりゃもう凄い揉みしだくでー?」
「………」
「…返事が無いってことはいいってことやな。………いざ、アイズたんの聖パイ目掛けて、ロキいっきまーす!」
ロキがそんな事を宣い、ベートがリヴェリアに頭を踏まれたその時、ティオナが言った。
「あれ、アイズ顔赤くない?」
「「え?」」
見ると、アイズの顔は真っ赤に染まり、焦点は何処にもあっていない。そしてみなが恐る恐る手元を見ると、そこにはアイズのものではないジョッキ。勿論中身は酒である。
「うへへ、アイズたんの聖パイはウチだけのもん”っ”っ”っ”!!?」
まず真っ先に、最も近い神物であるロキがテーブルに叩きつけられる。その一撃は全知零能たる身ではとても耐えうるものでなく、言葉を言い切る暇もなく気絶した。
「………うにゅ」
「確保しろー!」
こうして緊急クエスト、酒乱アイズの拘束が始まった。
「はっ、やっ、このっ!」
「無駄にはっやいわね!」
前に出るのは同じレベル5のヒリュテ姉妹、だが悲しいかな、俊敏はアイズの方が上であり、酔っているとは思えない動き、むしろ捉えどころの無くなった体運びでのらりくらりと交わし続ける。
勿論、他の客や従業員は避難しており、残っているのはそれを見世物とする野次馬や、店主であるミア・グランド位のものである。
「アイズに酒を飲ませた奴は誰だ!」
後方で待機しているリヴェリアが叫ぶが、今回は誰のせいでもない。強いて言えばベートとベルが悪い。
「ガレス、頼む!」
「おう!」
ここで投入されたのはこのオラリオでも僅かな第一級冒険者の中でもさらに一握りのレベル6『ガレス・ランドロック』。ロキ・ファミリアの最古参のメンバーであるドワーフだ。
俊敏こそ低いが、そこはレベル差でなんとか食らいつく。ガレスは耐久に関してならばドワーフという種族特性とスキルのお陰で丸々1レベル差のある猛者とも渡り合えるのだが……
「おぅふっ!??」
「「「あっ…」」」
「うわぁ…」
股の間をすり抜けられ見失った瞬間、アイズが剣を手に取り股関を強打する。
幸いにも、鞘はつけられていて切断されることこそ無かったが、酔って力に任せた剣戟は芯に響いており、ガレスは股間を抑えて沈黙する。
これでアイズにまともに追いつくことがさらに難しくなった。この場で明確にアイズよりも早いのは団長であるフィンと同レベル帯ですら見失う速度を誇るベートだけである。
しかしながらフィンは武器を携帯していないし、無手も得意とするベートは簀巻き状態の所を鞘でボコボコにされている。
「あがっ、うぐっ!待っ、アイ…ぐぇっ!あぶっ!」
何故かベートへの攻撃が苛烈だが特に意味はない。無いったら無いのだ。
すでにボコボコにされ続けたベートの顔、情けからか柄を側頭部に叩き込み、ミシミシという音を立てて凶狼は落ちた。
「んっ…」
沈んだベートを足蹴にし、そして抜刀。流石の一同もこれには冷や汗を流す。
「アイズ!やめるんだ!」
「アイズさーん!」
「アイズーー!」
必死に呼びかけるもこのバーサーカーには一切届かない。
アイズは混濁した意識の中、白い髪と赤い目を持った少年を思い返し……そしてその少年と共にいた金髪の男へと視線が向けられる。
「……」
「…ん?おい、アイツこっち見てないか…?」
ふらりふらり、と幽鬼の様に歩くアイズ。最初は意図が理解出来なかったフィンが声を上げる
「まずいっ!アイズを止めるんだ!彼は恩恵無しのレベル0だ!」
「えぇっ!?何でレベル0がこんなとこに残ってんの!?」
「逃げてー!!」
慌てて追いすがるも既に時遅し。アイズはその剣を振りかぶり――
「おい、貴様…この私に命令か?」
「嘘!?」
男を切り裂くかと思われたその剣は彼の目の前で止められていた。いや、その実力もさながら驚いたことが一つ。
(何だ…!?虚空から剣が現れた!?)
皆が呆気にとられる中、イアソンとアイズの剣戟は続く。
「……」
「そらそらそら!」
いくらアイズが酔っていて本来の戦い方ではないとはいえ、イアソンは互角に渡り合えていた。
「あいた!くそっ、あっちょ、ぬわっ!?」
情けない悲鳴を上げながらだが……。
「おい、貴様らの仲間じゃないのか!?何故何もしない!」
自ら剣を交えたのにも関わらずこの言い草。確かに事実なのだがなんとも言えない空気が漂い出す。
奇妙な展開になったな、と思いながらもいつでも介入出来るようにするフィン達。そしてその機会は直ぐに訪れた。
「…!?」
「おぐぉべ!?」
埋まっていたベートの尻に激突したのだ。酔っていたアイズはレベル5のケツの硬さに姿勢を崩す。それを見たイアソンはすかさず手元を払い握る剣を振り落とす。
「おい、剣は払ったぞ!」
「今だ!」
剣を失ったアイズはロクな抵抗も出来ずに確保された。しかしそれでも意識はあるようで抑えるのには苦労している。
それを見届けたイアソンはさっさと席につき酒を飲み始める。
「ふう、女将よ。今のを抑えたんだ。…何かサービスとかは無いのがぁっ!??」
しかし返ってきたのは拳骨であった。イアソンは顔から料理の中に沈み込み沈黙。
拳骨をした張本人、ミア・グランドはこう言い残した。
「ウチの店で真剣なんぞ振り回すんじゃないよ」
「な、何で…俺だ……け…」
―――…
だいたいこんな感じである。色々と酷い。ベートはもう自業自得だが巻き込まれた方は溜まったもんじゃない。
「イアソン様!?それにロキ・ファミリアの皆さんも……」
駆け寄るのはこの騒動を知らないベルただ一人。純粋な彼は善意100%で心配し、何事かと駆け寄る。
「彼は?」
「あの男の人の知り合いみたいですけど……」
「兎みたい…」
上からフィン、レフィーヤ、ティオナ。イアソンを揺すり起こす姿を見て、関係性だけは掴めたらしい。
「う、うーん…。…ベルか」
「大丈夫ですか?」
「イテテ…クソッ、ヘラクレスには遠く及ばないがなんていう力で拳骨をするんだあの店主…。俺は剣で襲われたから自衛の為にやりたくもない剣戟をさせられたというのに……!」
イアソンが頭を擦りながら恨みがましくミアを見つめて復活する。レベル6の拳骨を食らってこの程度で済んだというべきか、サーヴァントである身にこれ程のダメージを与えたというべきか。
「ええっ!?け、剣戟って…どうしてそうなったんですか!?も、もしかして傷をつけたりなんか……」
「貴様の目は節穴か!?そこの金髪が酔って斬りかかってきたんだ!むしろ俺の方が傷をつけられたぞ!ほら見ろ、俺の腕に結構ざっくりと!」
実際はそこまで深くなく、うっすらと血が滲んでいる程度だがイアソンは本気で痛がる素振りを見せるため、本当に深いのかも、と思い始めてきたベル。
だが忘れてはいけない。まだ
「『
「わっ!」
「嘘でしょ!?」
酒を飲む直前、強く思っていた少年を目にしたアイズは活性化。魔法まで用いて拘束から脱出してしまう。むしろ目覚めるのはお前だ。
突然の事に頭が追いつかないロキ・ファミリアの主力達。
幸いな事に抜け出した時点で魔法の効力は切れており、勢いは衰える。が、レベル1のベルにとっては些細な違いだ。勿論、圧倒的格上という意味で。
逃げる?不可能だ。受け止める?無理。死ぬ予感しかしない。ならば避けるか?まだ可能性はあるが、まあ無理だろう。
ならばどうするか?
(“受け流す”!)
ベルから見て左から降り下ろされる剣の鞘。
それを視認する事は出来ないが、そこに来ると確信していたベルは腰だめに構えると、左拳を握り締め、右腕を前に構える。
「!あの構えは……」
ここにただ一人、イアソンのみがその構えを理解し、それと同時にありえないと口を零す。
左手で突貫してきたアイズの腕に食らいつき、鞘は顔を反らしてなんとか回避。そしてベルは突撃の勢いを殺すことなく巧みに体重を移動させ―――
「へぶぅっ!!?」
――る事は無かった。なんとか避けたと思った鞘はそのまま肩からベルの体を強打し、嫌な音を立てながら崩れ落ちた。
その直後、アイズは暴れ足りたのか眠りに落ち、ロキ・ファミリアによる弁償が始まり、騒動は終わりを告げた。
その作業を進めながら、フィン・ディムナは異常な二人組みに目を向ける。かたや恩恵無しでアイズと互角に打ちあった金髪の男に、名無しにも関わらずアイズを投げようとした白髪の少年。レベル0というのは嘘かもしれないが、無名という事は少なくともオラリオでは活躍していない人物なのだろうと予想はつく。頭も相当にキレる様だし、何処か場馴れしている様にも見えた為納得はいく。しかし、少年の方はまた違う異常さが際立つ。
まずその若さだ。自分達のファミリアにも、7歳で冒険者を始めたアイズがいるのだが、この少年はどうにも場馴れしている様に見えず、今までに幾度も見た新人冒険者。それもまだ半年も経っていないだろうと推測出来る態度だったのだが、アイズを投げようとした時、シンプルな構えながらに研鑽された業を感じた。さらに言えば、途中で力尽きたとはいえ、あの速度で襲い来る一撃を回避し、さらには手首を掴んだ。
目の前で白目をむき気絶する姿ではとても想像出来ず、どうにもちぐはぐな印象を覚えるのだった。
―――…
「う、うーん」
「起きたか。立てるな?ならばさっさと降りろ」
目を覚ましたベルはその言葉で自分がイアソンに背負われていることを自覚し、慌てて地に足をつける。
「痛っ!な、なんで…?」
「そりゃあ、肩が砕けてるからな」
「えっ!?」
お、思い出してきたぞ…!確かアイズさんに技をかけようとして……
「し、失敗しちゃった……。夢で散々見たのに……」
「むしろ何故お前がパンクラチオンを知っているのかと思ったが……経路が繋がったことで記憶が流れ込んだのか。まあ、そう落ち込むな。直々に教えを乞いた訳でもないのに中々上手かったぞ?……どうした、何故引く」
いや、だってイアソン様が素直に人を褒めるなんて、裏があるとしか…
「声に出てるぞ」
「えっ、す、すいません!」
「まったく、俺とて人を褒めること位はある。アルゴーではそれが当たり前だったからだ。あいつ等の様な事をお前如きに期待すると思うか?無いな。それは優秀な船長ではない」
どうやらイアソンにはイアソンなりの拘りがあるらしく、注意するように語る。
「その肩ではダンジョンには行けないだろ?」
「あっ、ど、どうしましょう…!?僕が安定した収入を出さないと神様が…!」
「フン、それで責めるような奴ではない。それに金は暫く暮らせる位は貯まっているだろう?ならば明日は大人しく魔力を上げることに専念しろ。ダンジョンには潜れなくともその位は引きこもっていても出来るはずだ。……そうだな、明日中に魔力がSに辿り着いたらいいものを見せてやろう」
何処か自信に溢れた様な顔で語る『いいもの』にベルの興味は津々だ。
「よーし、やってや痛ッ!?」
……肩が折れてるの、忘れてました。
イアソンはこんな事を言っていますが危機に陥ると普通にアルゴノーツが良かっただのヘラクレスがいれば…。とか言い始めます。
《追記》
このお話は後に繋げるため。ぶっちゃけて言えば借りを作らせる為にあえてこのようなことにしてしまいました。
いくら後の展開の為とはいえ一部キャラを貶めるような表現や行動がいくつか見られますが、これも全てこうでもしなきゃ話が思いつかなかった作者が悪いです。
ここまで読んでくれた方へ。この小説の文字数とテンポはどうでしょうか?
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文字数もテンポも丁度いい
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文字数はいいけどテンポが遅い
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文字数はいいけどテンポが早い
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テンポはいいけど文字数が多い
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テンポはいいけど文字数が少ない