アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
梨璃「勝てたと思ったんですけどね。」
美鈴「いい線は行っていたよ。・・・だけど、爪が甘かったね。」
自身の敗北に気づいた梨璃はCHARMを下ろすと美鈴へと振り返る。
彼女に戦意が無いことを把握した美鈴も彼女にならいCHARMを下ろすと、苦笑している彼女の頭を撫で始め、それに梨璃は困ったように頬をかく。
二水「・・・えっ?」
雨嘉「当たったように見えたけど・・・どうして?」
梅「・・・逸らしたんダ。」
梨璃の勝利が確実であったはずの状況からの敗北、あまりにも一瞬の出来事に状況を理解出来なかった二水達が頭を悩ませていると、梅が確信の籠った口調で言葉を紡ぐ。
楓「逸らした・・・ですか?」
梅「ああ、梨璃の攻撃を逸らし、その勢いを利用して背後に移動したんダ。」
普段から高速機動戦を得意としている梅は、それにより鍛えられた動体視力にて瞬きの合間に行われた2人の攻防をしっかりと捉えていた。
まず、梨璃が美鈴へとCHARMを振るう瞬間、彼女の右手からブリューナクが姿を消える。
それと同時に左手が霞、それと同時に彼女の左手には先程のブリューナクが握られていたのだ。
そして、彼女は迫る刃にCHARMを添わせるとその勢いを利用して梨璃の背後へと移動し彼女の首筋へと己の刃を当てたのだ。
現実的に不可解な部分もあるが、この刹那の時間の中でそれを実行した美鈴に尊敬の眼差しを向けながら、梅は他の面々に自身の見たものを説明する。
梅「・・・最後の最後で梨璃が欲を出した感じだナ。」
美鈴「その通り流石は梅だ、よく見ている。」
梅「アハハ・・・元々速さには自信がありますからね。」
梅の言葉が聞こえていたのか、美鈴は梨璃を連れて彼女達の元へと歩いてくる。
美鈴「そう謙虚にならなくていいんだけど・・・梨璃。」
梨璃「は、はい!」
美鈴「・・・梅が言ったように、君の詰めの甘さが今回の敗因だ。」
美鈴は梅と軽く会話を終えると梨璃へと振り返り、
辺り全体に冷たい風が吹き荒れた。
先程までの優しい雰囲気は存在せずただただ冷たい何かが彼女達を撫でる。
梨璃「・・・はい、わかっています。」
美鈴「今回はそれの慣らしを兼ねた模擬戦だったから良かったが・・・これが実戦だったら死んでいたのは君だよ。」
梨璃「・・・。」
楓「美鈴は流石に言い過ぎでは!?」
美鈴「言い過ぎではないよ・・・。」
楓は梨璃を庇おうとするが、美鈴は諭すようにしかし感情の感じられない声で言葉を紡ぎ続ける。
美鈴「楓、君は梨璃の状況を把握しているのかい?」
楓「・・・狙われる可能性があるのでしょう?」
美鈴「・・・可能性じゃない、確実にだ。これから彼女は常に狙われ続ける。今は気づかれてないからであって、表面化していないだけで確実にその事態は起きる。」
二水「で、でも気づかれなければ!」
美鈴「彼女の性格でそれが可能だと思うかい?」
二水・楓「「・・・。」」
美鈴「そもそも、梨璃は決して裏に関わらないで生きていくことが出来ない。・・・リリィである時点でね。」
神琳「リリィである時点で・・・。」
俯きながら紡がれた美鈴の一言に神琳は何か思い当たる節があるのか真剣な表情で思考に耽ける。
神琳「・・・そういう事ですか!」
思考の中である一つの可能性に行き着いた彼女は勢いよく顔を上げると、それを見た美鈴は一瞬表情を緩めるがすぐさま元の表情に戻ってしまった。
ミリアム「どういうことじゃ?」
神琳「私達リリィはCHARMなどのヒュージに対抗できる武器を使いますよね。」
ミリアム「当たり前じゃのう。」
雨嘉「・・・当たり前じゃないかな?」
神琳「それではCHARMの情報はどのような扱いにあっているでしょうか?」
ミリアム「そうじゃのう・・・モノによって違うが、機密事ッ!?」
鶴紗「・・・そういうことか。」
雨嘉「えっ?なに!?」
ミリアムを始めたした面々が、神琳の言いたいことに気づくと彼女達の表情は引き締まったものとなる。
ミリアム「守秘義務じゃよ。」
神琳「はい、私達リリィにはCHARMの使用許可と同時にCHARMについての守秘義務が課せられます。これはそこまで多くの制約はありませんがそれでもある程度の期間での監視や個人情報の管理がなされます。」
美鈴「その通り、本来の目的はテロリストなどの反政府組織にCHARMの情報が漏洩しないようにする対策なんだけど・・・意味があるとは言えないね。」
神琳「これは個人を守るものでもありますが、逆に情報を知られてしまうことでもありますからね。」
美鈴「普通のリリィなら別に気にすることでもなんだけど・・・私達みたいな異能者や鶴紗や結梨みたいな強化リリィにとってはかなり危険なことだからね。」
神琳「黒鉄さんも予想外のようでしたし、対策も遅れているでしょうから隠蔽も不可能に近いでしょうね。」
梨璃に起こりうる可能性、先日に見せられたあの光景を彼女達は思い出す。
そして想像よりも深刻である梨璃の現状に彼女達は危機感と共に、それは自身達にも降り注ぐものでもあることを思い出す。
二水「・・・今思うとわたしたちってかなり危ない状況なんですね。」
梅「まぁ、蓮夜も言ってたしナ。」
ミリアム「・・・かなり念押しで確認されたからのう。」
鶴紗「今更後悔しても遅いだろ・・・。」
二水「い、いえ・・・後悔というよりも現状を再認識したと言いますか、」
神琳「実感がなかったということでしょうか?」
二水「・・・は、はい、わたしの場合は実際に見た訳ではありませんから、」
ミリアム「・・・寝てたからじゃろう。」
美鈴「・・・それについては人のことを言えないな。」
不安そうな表情の二水へと新雑な言葉をミリアムが放つと、思うことがあった美鈴は苦笑しながら元の雰囲気へと戻る。
その横には疲労の色を見せる梨璃の姿があり、2人の雰囲気から美鈴からの総評が終わったことがわかる。
神琳「そちらは終わったのでしょうか?」
美鈴「あぁ、ごめんね・・・キツかっただろう?」
神琳「確かに精神的に辛い部分もありましたが、改めて私達の状況を認識し直す良い機会になりました。」
美鈴「ならいいんだ。・・・だけどこれだけは覚えて置いて欲しい、今君達が見出した可能性・・・それは決して可能性ではないということを、」
美鈴の放った言葉が彼女達に重く伸し掛る。
可能性ではない・・・それはかなりの確率で起こりうるということなのだから、
部屋一帯に暗い空気が流れる中、彼女達の耳に電子音が鳴り響く。
発信源を探すとそれは皆の端末であり、その画面には黒鉄 蓮夜という文字が映し出されていた。