アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
『ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・。』
耳元で何かが歩く音が聞こえる。
その足音は重々しくまるで疲れ切っているかのようだ。
夢結「私は・・・。」
彼女が起き上がり目を開けると、
蓮夜『気を失ってたか・・・まじでギガント級とかふざけんな。』
彼が背伸びをしながら悪態をついていた。
彼は肩を回すなどして身体をほぐしながら腕時計へと目を向ける。
蓮夜『結構明るいけど今何時だ?・・・。』
空が明るくなってきたため朝なのだろうと彼女が考えていると、
時間を確認する彼が固まりながら冷や汗を流し出した。
その後すぐに彼が走り出したため彼女も慌てて追い掛ける。
蓮夜『あと30分で帰らないとバレるじゃねぇか!』
彼はそう叫びながら戦闘中に身につけていた装備をしまい始める。
彼はその間も足を止めずに森の中を駆け抜けた。
バレるとは彼の両親のことだろう。
このようなことをしていることは親にも話していないはずだ。
もしも理由はバレなかったとしても小学生が夜遅くに外に出ていたと知られれば監視をされてしまう。
そうなれば彼は昨夜のようなことが出来ないと考えているのか彼の顔からは焦りが滲み出ていた。
しばらく走ると森を抜けて街に着いた。
すると彼は近くにある民家の屋根へと飛び乗りそのまま行きのように屋根ずたいに家へと向かう。
蓮夜『あと15分!』
彼が再度時間を確認すると残り時間は半分になっておりこのままでは間に合わないのか彼の速度が増した。
彼女としてはこのまま見つかってあの場所に行けなくなって貰いたいところだがあいにく彼女には彼を足止めする術がないため何も言わずに彼の後を追った。
それから10分程経った頃彼は自身の家へと辿り着いた。
蓮夜『間に合った・・・。』
そのまま彼は窓から自室へと入っていき窓を閉める。
夢結「・・・。」
それを彼女は確認すると彼女は彼の家の壁に背を預けて考え始めた。
夢結「・・・どうしてこのようなことをしているのかしら?」
1番初めに思い浮かんだことはそれだ。
昨夜の戦いでの彼の動き・・・あれは確実にやり慣れている人の動きだ。
つまり彼はいつからしているか分からないがかなりの期間同じことを繰り返してきたのだろう。
夢結「どうしてあなたは平気なの?」
彼の言葉からギガント級クラスは初めてだったのだろうがあの時の彼の行動・・・肉を断たせて骨を断つという言葉すら生ぬるい本当の意味での自傷覚悟の突撃・・・なのようなこと同じような状況に幾度を会った人でもそうそう考えつかないはずだ。
再生能力があるからかもしれないがそれでも痛みや恐怖があるはずだ。
現在の彼女は先程まで見ていた彼・・・「過去の蓮夜」と感覚を共有している。
いいや・・・この場合は追体験と言った方が正しいか・・・つまり彼女が感じている感覚は彼がこの瞬間に感じたものだ。
昨日の昼に感じた痛み・・・あれは彼が能力を使用したことで彼の眼球が耐えられず破裂したことで起こったものだ。
あの時の痛みを思い出し彼女の身体が強ばる。
全身を貫くあの痛み戦場で傷つくことが多く痛みに慣れている彼女が蹲りただ耐えることしか出来なかったアレを彼は涼しそうな顔でいたのだ。
痛みに慣れているなんて簡単なことではない。
彼の場合はまるで痛覚が無いと言われた方がしっくりとくるのだ。
まるで痛みを感じていない。
そう考えるがそれをすぐに否定する。
彼女が意識を失う寸前に見た彼・・・その顔は苦痛に満ちていた。
彼は痛覚が無い訳では無い・・・ただ耐えているのだ。
ここまで来るまでどれほどの苦痛を体験したのか・・・考えるだけだ彼女の身体から熱が奪われたかのような感覚に襲われる。
耐えられるわけが無い。
こんなことが続けば気が狂ってしまう。
そのようなことを彼は続けていたのだ。
頼って欲しかった。
そんなこと無理だと分かってはいるが彼女の中でその気持ちで湧き上がる。
この頃の自分では足でまといにしかならない。
だが相談くらいはして欲しかった。
そこまで信じてくれていなかったのか?
頭の中でその考えが生まれるがそれは違うと直感的に感じた。
自分のことだもしもこのような話を聞いてしまえば勝手について行ってしまうだろう。
そうなった場合彼は彼女を守ろうとするだろう。
だが絶対に守りきれる保証がない。
だからこそ隠しているのだ。
大切な人達を守るために、
いつもそうだ彼は自身よりも大切な人を優先する。
自身が傷つくことも厭わずに・・・。
だから彼女は彼を支えようと決めたのだ。
傷つき続ける彼を・・・
夢結「・・・ふふっ・・・私いつから泣き虫になったのかしら?」
彼女の瞳からは涙が流れていた。
彼が傷つき続けることが悲しいのか?
それとも彼が何も話してくれないことか?
それとも彼の心の傷に気づいて上げられず彼が居なくなろうとしているからだろうか?
その答えは彼女には分からない。
ただ分かることは彼がどこか遠く・・・自分が行くことの出来ない場所に行ってしまいそうな不安感のみだ。
近くへは行けるだろうが決して隣へは行けない。
そのような場所に行ってしまう。
そう考えると胸が締め付けられるように痛む。
彼女は異能の力を手に入れた時表に出ていないが内心では喜んでいた。
彼と同じ場所に立てると、
元々彼は自分とは違う場所にいるように感じていたのだ。
彼と自分が違うのは当たり前だ。
けれど彼女には彼が自身と同じ・・・まるで双子のように感じることがあったのだ。
なのに何かが違う。
ほとんどが同じだが決定的に違う何かが、
それが何なのかは分からなかった彼女は異能を知った時に彼との違いは異能の有無だと思った。
そして彼女は異能を手に入れ彼と同じ場所・・・超越者の場所に立つことができたと喜びを感じていたのだ。
彼女はそうだとしても彼は違うのだ。
彼はこの力に苦しみ続けられている。
だと言うのに彼女は苦しんでいる彼に気づかずに彼の心を傷つけていたのだ。
そんな自分に怒りを感じるが今は怒りよりも悲しみの方が強い。
彼をここまで追い詰めたのは自分だと彼女は考える。
彼はいつも自分を気遣っていた。
自分はそれに甘えていたのだ。
夢結「それなのに私は・・・。」
思い返せば彼は彼女に対し弱った姿を見せたことがない。
だから大丈夫だと無意識に考えてしまっていたのだろう。
だから気づかなかったのだ。
思い返せば彼は自分と会わないようにしていた節がある。
これは彼女に自分の弱った姿を見せないようにするためだったのかと思ってしまう。
あの頃の彼女は誰かに気を使う余裕がなかった。
それは彼も同じだったはずだ。
なのに彼は彼女を心配させない為に自身を偽り続けていた。
その無理をしすぎた代償が今の彼なのだ。
支えると言いながら苦しめているこの矛盾、
それに気づかずに行動することで生まれる悪循環、
これを解消しなければ決して彼を救うことが出来ない。
だからこそ考える。
どうすれば彼を救うことが出来るかと?
今の自分ではダメだ。
ただ助けるだけでは彼を救うことは出来ない、
ただ癒すだけでは壊れきった彼の心は治せない、
ただ隣に居るだけでは彼と共にいる事が出来ない、
何が足りないのか分からない。
けれど、
夢結「・・・もう少し待っていて・・・絶対に迎えに行くから。」
彼女は諦めない。
それが彼女の
『彼を支えよう』これが彼女が
だからこそ折れることはない。
それが彼女の
その時、彼は家の扉が開いた。
そこから彼の両親が外に出てくる。
これから仕事に行くのだろう。
それを見た彼女はすぐさまその身体を扉に滑り込ませる。
今までドアに触れることが出来ず家の中には入ることが出来なかった彼女は彼のことを知るために彼のことを傍で見ることが1番だと考えたのだ。
夢結「・・・お邪魔します。」
扉の中には彼女もよく知る彼の家であり奥の方から光が漏れていた。
彼女の記憶が正しければあの部屋はキッチンだったはずだ。
中を覗くと彼がオーブンの前に立っておりその中を眺めていた。
蓮夜『あと少しで焼き上がるな・・・。』
彼の言葉から彼は今趣味であるお菓子作りをしているのだろう。
しばらく眺めているとオーブンが止まる。
すると彼はオーブンを開けて中身を取り出した。
トレイの上にはクッキーが乗っておりその香ばしく甘い香りが部屋全体に広がった。
蓮夜『うん、上出来だ。』
彼はクッキーの粗熱を取ると大きめの皿に盛り付けてそれをテーブルに置くと壁にかけてある時計で時間を確認した。
蓮夜『あと1時間くらいかな?』
そう言うと彼はどこからか本を取り出しそれを読み始める。
その本は世界の天使や悪魔のことが載っているものでありそれを興味深げに読んでいた。
蓮夜『こういう能力も・・・だけどそうすると・・・。』
何やら呟きながら彼が本を読み老けていると、
『ピンポーン!』
玄関の方からチャイムの音が聞こえた。
蓮夜『おっと、来たか。』
すると彼は立ち上がり玄関へと向かった。
そして彼が玄関の扉を開けると、
蓮夜『いらっしゃい!ゆゆ!』
そこには幼い時の彼女・・・白井 夢結がおり彼に笑顔を向けて、
ゆゆ『久しぶりね!れんや!』
彼女は彼の家の中へと入った。