アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
美鈴『・・・蓮夜・・・な、何を言っているんだい・・・。』
彼女は理解出来なかった。
彼の言い放ったたった一言が、
短文かつ簡単な単語、
それがどうしても脳が理解することを拒む。
彼女がただの空耳かと思ったその時、
蓮夜『・・・俺も前線に出るんですよ。』
美鈴『君は何を言っているのかわかっているのかい!!』
彼女は彼へと近づき力強く肩を掴んだ。
美鈴『どれだけのリスクがあるのかわかっているのか!!』
蓮夜『・・・わかっているつもりです。』
美鈴『いいや!わかっていない!』
蓮夜『わかっていますよ!』
美鈴『ならなんで!』
蓮夜『これしか手がないでしょう!』
美鈴『ッ!?』
彼女は口を閉ざしてしまう。
そう、彼の言う通りなのだ。
彼女だけではこの件は解決出来ない。
確かに手がない訳では無いがそれにはリスクが高すぎてしまい実行に移せない。
蓮夜『姐さんが動いてはバレてしまう可能性がありますが俺なら・・・元々その場にいないはずの俺なら正体がバレてしまうリスクを減らせます。』
美鈴『・・・。』
確かにその通りだ。
今回の甲州撤退戦では作戦の成功確率や被害の軽減ほため人員のバイタルや位置情報などが詳しく記録される。
それが彼女にとっての最大のリスクなのだ。
彼女の能力は自分自身を複製する。
確かに、この能力があればアリバイ工作は容易になる。
そしてこの能力は応用として認識阻害も使用できるのだ。
これだけを聞けば何らデメリットが無いように感じるだろう。
しかし、そうではない。
確かに周りから見えなくなりながら戦えば周囲の人間にバレるはずがない。
これは逆に周囲の人間に混乱を与えてしまうことと同義なのだ。
誰も相手をしていない相手が突如倒される。
そのようなことが目の前で起きればどうなるだろうか?
答えは単純だ。
その場を恐怖が支配する。
突如何も無いところで攻撃を食らうのだ。
例え自信でなくても、次は・・・という感情に支配される。
こうなってしまった場合いるかもしれない「見えない敵」に意識を向けてしまい帰って危険に晒してしまう可能性があるのだ。
そうなってしまわないように姿を見せればいいのだが、そうすると「複数箇所に川添 美鈴が存在する。」という真実が生まれてしまう。
そうなってしまった場合確実に彼女が何らかの力を隠していることがバレてしまうのだ。
そこから彼女が異能者であること・・・「異能」そのものの存在が明らかになってしまう可能性がある。
だから彼女は自身の能力を使うことができないのだ。
蓮夜『俺なら気付かれても正体はバレることがないんです。』
そう、彼は違う。
彼の場合元々その場に存在しないはずの人物なので元々情報がない。
確かにそこに誰かがいたという情報は残るのだが、それだけだ。
それもそのはずだ。
元々彼はそこにいるはずがないのだから、
それに彼の能力は多彩であり汎用性も高い。
美鈴のような自身の複数や存在を希薄させることでの認識阻害も出来ない。
だが、彼にも認識ではなく感覚情読を隠蔽する方法なら可能だ。
そして何より彼には彼女にはない圧倒的な戦闘能力がある。
その力ならアルトラ級も被害なく単独での討伐が可能だ。
それならば彼女の目的である被害を出さずに自分達の異能がバレることなくこの作戦を完遂できる。
しかし、
美鈴『・・・それでは、また君が・・・。』
だがそれは彼を1人で戦場に立たせなくては行けないということだ。
確かに彼は彼女と出会うまで1人で戦場に立ち続けていた。
そして彼女の知る中で戦闘経験、能力ともに彼は最高峰の実力者だ。
しかし、そうだとしても彼はまだ未成年・・・それも中学生というまだ友人と学び遊ぶ・・・そのような当たり前の生活をしているはずなのに、彼はその全てを捨ててこの血に濡れた道を歩んでいる。
そして彼も限界が近い。
まるで砂の塔のように、これ以上
彼にも後がないのだ。
そのような状態の彼を戦場に出したくない。
それが彼女の思いだ。
蓮夜『大丈夫ですよ・・・それに姐さんももう限界でしょう?お互い様ですよ。・・・それに失礼かもしれませんがこれは姐さんではどうにもできません。』
しかし、現実が彼女の思いを否定する。
これしか手がない。
それが真実なのだ。
彼を戦場に出したくないが出さなくては被害が想像を遥かに超えたものとなる。
その被害の中にもしも2人の
特に彼は彼女の想像も絶する悲惨の最後を迎えるだろう。
彼女は彼のそのような姿を見たくない。
だからこそこの選択肢しかないのだ。
夢結の安全と異能の秘匿を確実に成功させる方法が、
美鈴『蓮夜・・・。』
蓮夜『姐さん・・・姐さんは俺のことよりまずは自分の心配をしてください。』
美鈴『それは問題ないさ、今は安定している。』
蓮夜『・・・俺にはそうは見えませんが?』
美鈴『・・・ッ!?』
(しまった!)
彼女を後悔の念が襲う。
しかし悔やんでももう遅く、
蓮夜『・・・かなり精神的にも肉体的にも疲労が出ていますよ。・・・こんな状態で安定しているとは俺は考えられません。』
美鈴『これは急いできたことと急な司令で精神的にきつくてね。それが原因だと思うが?』
彼女は平然とした顔でそう言い放つ。
蓮夜『・・・それに、』
美鈴『・・・。』
蓮夜『存在核がブレてますよ?』
美鈴『そんなはずは!』
蓮夜『やっぱり・・・もう限界なんですね。』
美鈴『何を言っているんだい君は?・・・全然不安定になってないじゃないか?』
蓮夜『そうですよ、今は・・・なのになんで姐さんは慌てたんですか?』
美鈴『それは君がいきなりそのようなことを言うから・・・。』
蓮夜『慌てないはずですよ?・・・姐さんの方が存在核を・・・魂を知覚することに長けているんですから、』
美鈴『・・・。』
蓮夜『今は誤魔化しているんですね?・・・そうじゃないとさっきの慌てようが説明できません。』
美鈴『・・・。』
蓮夜『姐さん!』
美鈴『・・・その通りだよ。・・・もう僕には余裕が無い。』
蓮夜『やっぱりそうですか・・・それなら尚更見過ごせません。』
美鈴『だけど君には関係のな・・・。』
蓮夜『関係ないわけないでしょう!』
美鈴『!?』
彼の怒声が静まり返った森の中に再び響き渡った。
それは先程のものとは比べることの出来ないほどの怒気が込められておりその重圧に彼女は耐えきれず尻もちを着いた。
蓮夜『俺が人のことを言えないのは分かっていますが一つだけ言わせてもらいます。・・・あなたは自分のことをなんだと思っているんですか!・・・人形ですか?・・・それとも兵器ですか?・・・姐さんのことですからどうせ生け贄とでも思っているんでしょうけど・・・姐さんには姐さんを思ってくれている人がいるんですよ!・・・それなのに・・・夢結の気持ちはどうするんですか!』
美鈴『それは・・・分かっているさ。』
蓮夜『いいや分かってない!・・・「決して君に辛い思いをさせない」そう言いましたよね?もうその約束を破る気なんですか?』
美鈴『・・・そういう訳では。』
蓮夜『姐さんがそう思っていても俺にはそう感じて仕方がないんですよ!』
彼の自身の本音をぶつける。
蓮夜『それに姐さんが居なくなって悲しむのは俺だけじゃないでしょう?』
美鈴『・・・夢結。』
蓮夜『そうです・・・夢結は繊細ですからもしも親しい人がいなくなったら壊れてしまうかもしれない。・・・だから2人で夢結を守ろうと決めたんじゃないですか!』
美鈴『・・・蓮夜。』
蓮夜『・・・。』
美鈴『ごめん、僕がどうかしてたよ。・・・そうだ、夢結を守るんじゃないか。・・・何を考えているんだ僕は、』
蓮夜『・・・姐さん。』
美鈴『ごめん・・・やっとわかったよ。僕のしなくては行けないことを、』
蓮夜『・・・。』
美鈴『・・・蓮夜、手伝ってくれるかい。』
彼女は真剣な眼差しを彼に向ける。
すると彼は同じく真剣な眼差しを彼女へと向けて、
蓮夜『それくらいお易い御用です。・・・一緒にこの戦場を生き残りましょう。』
美鈴『・・・ああ。』
2人は拳を前に出してお互いの拳にぶつける。
その2人の表情は晴れ晴れとしたものとなっていた。