アサルトリリィ Abnormal Transition   作:0IN

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過去㉑

身体を浮遊感が襲う。

幼いこの肉体はまるで木の葉のように宙を舞う。

上下が反転した世界の中でただ青く澄み渡った空だけが見える。

 

何かに包まれるかのような浮遊感・・・それはすぐに終わりを告げた。

力の入らない身体にありえないほどの衝撃が襲う

視界の端には木々が生い茂っており、その先から先程まで彼女達のいた崖があった。

 

 

喉の奥から熱い何かがこみ上げる。

ゴポゴポと喉から嫌な音が鳴る。

先程まで活発に動いていた身体が次第と寒くなっていき視界が霞む。

その視界の中に生物ではない何かが映った時彼女の視界は暗転した。

その時に何か、自身を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

???(・・・なんで?)

 

 

誰かの声が聞こえる。

だがその声は霞んでおりよく聞こえない。

 

 

???(・・・どうしてなの?)

 

 

その声は次第に鮮明に聞こえるようになる。

 

 

???(・・・いたいよ。)

 

夢結「この声は・・・。」

 

 

この声は先程まで彼女のそばにいた。

 

 

???(どうしてなの?ゆゆ・・・。)

 

夢結「・・・蓮夜?」

 

 

そこで視界が開けた。

歪んだ視界徐々に晴れていき映る景色が鮮明になっていく。

その視界の先には大きな切株があった。

周りを見渡そうとするが先程と同じく身体は動かない。

 

 

蓮夜(・・・ゆゆ・・・どうしておしたんだろう。)

 

 

耳元で彼の声が聞こえる。

 

 

蓮夜(からだがいたいよ。)

 

 

身体が動き始めて立とうとするが左腕に力が入らず体勢を崩して倒れてしまう。

 

 

蓮夜「・・・あれ?」

 

 

彼が自身の左腕を見ると、

 

 

蓮夜「・・・まがってる?」

 

 

曲がっては行けない方向へと折れており、裂けた皮膚から白い骨が顔を出していた。

 

 

蓮夜「いたい・・・いたい!いたい!いたい!いたい!いたい!いたい!」

 

 

彼は自身の左腕を抑えて転げ回る。

その転がった衝撃が傷口に響より身体中に激痛が広がる。

 

しばらく転がり回っていると神経が麻痺したのか痛みが薄れていく。

 

 

蓮夜「・・・あ"あ"あ"。」

 

蓮夜(なんで?なんで?なんで?なんで?)

 

 

深く呼吸をしながら脂汗を流し、彼は心の中で疑問を膨れさせる。

 

 

蓮夜(なんでボクは・・・いたいの?)

 

 

幼い彼には理解のできないこと。

だがその理不尽が彼を襲っている。

 

この理不尽が彼の頭を蹂躙しているその時、

 

大きな音が鳴り響き彼の前に何か大きなものが落ちてきた。

 

彼がそれを視認すると、

 

 

蓮夜「ゆゆ!?」

 

 

そこには夢結の姿があった。

痛みを忘れて無理やり立ち上がり彼女へと駆け寄る。

 

 

蓮夜「ゆゆ!ゆゆ!?」

 

 

彼女のそばに近寄るとそのまま彼女を揺さぶる。

しかし彼女は反応を示さない。

彼の手のひらにヌルッという感触に襲われた。

 

 

蓮夜「・・・えっ?」

 

 

彼が恐る恐る自身の手のひら見ると、

 

そこには、真っ赤になった彼の手があった。

 

そしてその赤の発生源を見ると彼女の胸の中央であり、

そこには反対側が見えるほどの大きな音穴が空いておりそこから赤が溢れかえっていた。

 

 

蓮夜「ゆゆ?・・・うそだよね?・・・ゆゆ?」

 

 

彼は再び彼女を揺する。

やはり彼女は反応しない。

 

 

蓮夜「ねむっちゃたの?・・・ならおきてよ?・・・ねぇ・・・おきてってば?」

 

 

彼は揺すり続ける。

その現実を認めないために、

しかし現実は残酷だった。

 

 

ゆゆ「・・・。」

 

蓮夜「ゆゆ!・・・ゆゆ!・・・おねがい・・・おきてよ。」

 

 

彼女の身体が冷たくなっていく、

手を握ってもいつもの温もりはなくただ冷たさだけしか残っていなかった。

 

 

蓮夜「・・・。」

 

 

その現実が彼を襲う。

 

 

蓮夜(なんでゆゆがつめたいの?・・・なんでゆゆはおきないの?)

 

 

それでも彼はその現実を認めない。

認めてしまったら壊れてしまうからだ。

 

肉体が壊れている中で精神まで壊れてしまったら戻れなくなってしまう。

それを感覚的に理解しているのだろう。

だから彼は認めない。

 

彼が必死に彼女の身体を揺さぶり続けていると再び大きな音とともに彼の前に大きな影が現れた。

 

そこには金属のような表皮を持つ生物のような何かがあった。

それは丸い胴体に三の大きな音鉤爪が伸びておりそのひとつには赤い何かが染まっていた。

 

そして彼は理解した。

あれが彼女が起きない原因なのだと、

 

 

蓮夜「・・・お前のせいか?」

 

 

理解した時、

彼の中にあった何かが弾けた。

 

その瞬間彼の頭を雷のような衝撃が迸る。

それと共にあらゆる情報が駆け巡り彼の脳に焼かれたような痛みが走る。

 

彼はその痛みを唇を噛むことで耐える。

あまりに強く噛みすぎたため口から血が垂れた。

瞳からも血が流れ始め強くその瞳を瞑る。

 

 

彼が無防備になっているところに謎の生物が近づいていく。

その赤く染まった鉤爪を振り下ろそうとした時、

 

彼の瞳が開いた。

そこには左目にいく重にも重なった歯車が、右目には何も映っておらず何もかもを吸い込みそうなほどの暗さを持っていた。

 

 

蓮夜「・・・早く夢結を起こしてよ?」

 

 

彼がつぶやく。

その声は何も感情がこもっておらずただ冷たさだけを感じる声だった。

その声に反応したのか謎の生物は後ずさる。

 

 

蓮夜「起こさないって言うんだったら・・・。」

 

 

彼はそこで1歩踏み出した。

そこで覚悟を決めたのか謎の生物は彼を威嚇するように鉤爪を振り上げた。

 

 

蓮夜「・・・消えてよ。」

 

 

彼はそのまま前へと進んで行った。

 

 


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