アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
蓮夜「・・・。」
彼は歩みを止めることなく思考する。
目の前には彼女に傷を負わせた生物がいる。
その生物はこの幼い身体を容易に引き裂くであろう凶刃を携えており、それがいつ彼に向かって振り下ろされるか分からない。
このような状況下に置かれた場合どのような人間であっても腰を抜かして動けなくなってしまうような空気が一帯を包み込む。
しかし、この状況でも彼は冷静にその生物を認識し思考を深めて行った。
蓮夜(・・・今俺に必要なものは?)
やつに近づくための
相手を知るための知識が足りない。
戦うための
やつの攻撃を凌ぐための反射神経が足りない。
恐怖に耐えるための精神力が足りない。
戦い続けるための体力が足りない。
そもそも、アレを仕留める為の全てが足りない。
蓮夜(・・・今の俺に何ができる?)
今から肉体が急成長することはありえない。
もしも可能だとしてもその急成長に肉体そのものが耐えきれず身体が
知識は可能だ。
確かに今得られるものは少ないがそこからでも知識を得ることはできる。
技術は身体能力と同じく長い時間をかけて育むものだ。
もしも技術を得たとしてもそれはただの
反射神経は可能だ。
人間は限界を超えて集中した時
その状態に慣れれば体感速度が上がり周りが遅く感じる。
そう慣れれば相手の動きを
精神力も可能だ。
今の自身には彼女を傷つけたアレに怒りがある。
それを利用すればアレに対しては恐怖を感じることなく動くことができる。
体力は不可能だ。
これも身体能力と変わらず急成長はありえない。
確かに火事場の馬鹿力と言われるアドレナリンを出すことで自身肉体を限界以上に行使することは可能だが現実的では無い。
蓮夜(・・・ならばどうすればいい?)
相手の全てを読み解く知識が必要だ。
相手の全てを見切る反射神経が必要だ。
何にも屈しない精神力が必要だ。
そして何よりもアレを仕留める為の
しかし、そのようなものなど幼い彼が持っているはずもない。
蓮夜(・・・いいや。)
はずだった。
蓮夜(あるじゃないか!)
先程認識した。
どうしてあるのか、いつから自身の中にあるのか分からないこの異常な力。
これには彼の望む全ての要素が備わっていた。
蓮夜(・・・まずは、)
相手の情報を探る。
相手の体の構成を、
相手の次行動の可能性を、
周りの空間の物体位置を、
相手の全てを読み解く。
蓮夜(・・・表皮の硬度は鉄以上・・・炭素結晶物質以下・・・。)
生物は動き出しその凶刃を振り上げた。
蓮夜(・・・表皮内の硬化は鉄と同等程度になるが伸縮性に優れる。)
その凶刃は振り下ろされた勢いとともに伸び彼へと襲いかかる。
それを上半身を倒すことで躱し数歩後ろへと下がる。
蓮夜(・・・碗部の収縮距離は約30m・・・。)
彼の前を凶刃が通り過ぎ。
彼がアレを確認すると振り下ろしたものとは別の刃を横薙ぎに振っていた。
蓮夜(アレの間合いは把握した。・・・次は、)
彼がアレを見ることに集中すると視界から色が消え失せる。周りの景色は白黒となりどんどんと周囲に存在するものを線としてのみ知覚出来るようになっていく。
完全に色が消え失せると次第と周りの動きが遅くなる。
生物が再び攻撃をするために腕を伸ばす。
その動きは先程とは比べることが出来ないくらいに遅くなっておりただ歩くだけでも躱すことが容易だと認識してしまう程だ。
それを避けるように身体を動かすと自身の身体の動きも遅くなっていることに気がついた。
この白黒の世界は自身の知覚のみが加速したことで生まれたものだと認識する。
彼は生物の振り下ろした凶刃を数mm単位の短い間隔で躱しより懐深くへと入り込む。
蓮夜(・・・ここまで来れば、)
あとは仕留めるだけだ。
彼は右手を前へと突き出し手を開く。
すると彼の掌に光が集まり始めた。
今の自分の
ならばどうすればいい?
答えは簡単だ。
作ればいい。
彼はすぐにイメージする。
この未熟な身体で振るうことの出来る武器を、
あの生物を仕留められる
今の自分には何が足りない?
あの生物に対抗出来るであろう重い武器を持つための筋力が足りない、
あの生物に攻撃を届かせるためのリーチが足りない、
戦闘技術を持たない自分では一撃では仕留めることが出来ないためそれを補う手数が足りない、
ならばどうすればいい?
何を使えば相手を仕留めることが出来る?
・・・剣か?
いいや、振るえたとしても重さが足りない、
ならば、大斧か?
いいや、重さは十分だろうが、そもそも満足に振るうことも出来ず逆に振り回されてしまう、
それならば、戦鎚か?
いいや、それでは重さと取り回しは両立出来るだろうが今度はリーチが足りない、
リーチを補うならば、槍か?
いいや、たしかにそれならばリーチもあり重さも足りる。
しかし、槍の特性上回すことで手数を稼ぐことは出来るが自分の体格と筋力では回すことが出来ず、取り回しも悪くなってしまう。
手数が足りないのならば、双剣か?
これもダメだ。そもそも自分には2つの武器を振るうどころか1つの武器を使うことすら出来るか怪しいのだ。
この状態でこの手を選択するのは愚策とすら言える。
剣の扱いやすさに、大斧の重さ、
戦鎚の取り回しの良さに、槍のリーチ、
そして・・・双剣の手数、
この全てを併せ持つ武器などあるのか?
結論から言うと存在しない。
あれば銃火器のない時代のどの歴史上の戦争にも使われているはずだからだ。
それがないということは存在しないと言うとこを指し示す。
そして銃火器も不可能だ。
そもそも銃火器に至っては構造が複雑すぎるため再現することは直接見た事のない自分には不可能だからだ。
蓮夜(・・・こうすれば、)
ここで1つの解へとたどり着いた。
1つにすることを考えては行けない。
複数を持てばいいのだ。
しかしそれは諸刃の剣である。
たしかに複数の武器を持ち状況に応じて使うことが出来ればこの問題は解決するだろう。
しかし、それには相応の技術と肉体が必要不可欠だ。
もしも、技術がなければ武器そのものを扱いきれず、
肉体が足りなければそもそも武器を複数持つことが出来ず持ったとしても動けなくなってしまう。
そのような隙を与えてはこの幼い身体はすぐに切り裂かれてしまうだろう。
・・・本来ならば、
蓮夜(そんなこと関係ない、)
武器を持てない?
ならば持たなければいい。
複数の武器を扱いきれない?
ならば使わなければいい。
これを聞けばほとんどの人が『不可能だ』と言うであろうこの矛盾・・・、
それを解決する方法を、彼は持っていた。
掌に集まりだした光を雷が走る。
その雷は光が大きくなる事に強さを増していき光はその形を変えていった。
蓮夜(・・・物理法則は不要だ、)
光が3つに別れ、1つは掌に留まり続け、残りは彼の左右に浮遊する。
蓮夜(・・・重くなくても斬れればいい、)
浮遊するふたつの光はそれぞれ、
鈍い鋼色の肉厚の持ち手のない片刃に、
透き通るような黒色の車輪に、
主の思いに答えるかのごとくその姿を変えた。
そして掌に留まり続けていた光にも変化が訪れた。
その光は彼の身長よりも長くなり色を得る。
その色は何もかもを吸い込むような黒でありその素材が何なのかすら分からない。
そしてその光は完全に姿を表した。
それは持ち手の両端に1m程の刃を持った両刀剣でありその刃は触れてしまっただけで折れてしまいそうな程薄くそして細かった。
武器を得たことで攻勢に出ようとした彼へと再び2つの凶刃が襲いかかる。
その刃が彼の命を刈り取ろうとするその時、
凶刃の内の片方が止まり、片方が生物の後方へと飛んで行った。
生物の前には彼が己の手にある武器を振り切った姿と、
凶刃の片方を抑えるように浮遊する車輪があった。
生物はすぐさま凶刃を引き戻し再び振り下ろそうとするが、
それは片刃を眼球であろう部分に突き刺さり妨害される。
蓮夜「・・・ァァァアアアアア」
その片刃に叩き込むように自身の持つ双刃を振るう。
2つの刃ばぶつかり甲高い金属音がなったその時、
生物はまるで元々そうであったかのように左右に両断されてその動きを停止する。
そして、役割を終えた片刃は重力に従いその刀身を落下させ地面へと突き刺さった。