アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
夢結「・・・蓮夜。」
この長い時を探し求めた彼の姿、
その身はコート同様にボロボロになっていた。
蓮夜「・・・。」
彼女の前に佇む彼はいいまで見ていた
これはいいまでなかった現象であり、それはここにいる彼が本物であるという確信を与えた。
夢結「やっと・・・やっと出会えた。」
彼女の瞳から雫がこぼれ落ちる。
この時を待ち続けた彼女は彼の姿を見ることで安堵を感じる。
しかし、その緩んだ気持ちはすぐに消え去った。
夢結(まだ、気を抜いてはだめよ!)
そう、まだ出会えただけだ。
ただ出逢えただけでは目的である彼を救うことが叶わない。
これはまだ第一段階に過ぎないのだ。
そして、これからが1番の難関でもある。
どうすれば、彼を救うことが出来るのかそれがわかっていないのだ。
夢結(・・・大丈夫。)
彼を救う方法に確信を持っていた。
そのためには彼に会わなくては行けない。
そして、今彼は目の前にいる。
夢結「・・・迎えに来たわ。一緒に帰りましょう。」
蓮夜「・・・。」
彼女の呼び掛けに彼は応じない。
そこに彼女は違和感を感じた。
夢結「・・・蓮夜?」
蓮夜「・・・。」
夢結「・・・どうしたの?」
蓮夜「・・・。」
いくら声を掛けても反応を返して来ない。
そこに彼女は不安感を覚える。
そして、先程頭に過ぎった恐怖感を思い出す。
夢結「・・・私よ、夢結よ?分からないの?」
蓮夜「・・・。」
再び彼へと、呼び掛ける。
やはり彼は反応を示さない。
いくら声を掛けても無言のまま佇む彼に不安を覚えた彼女は彼へと歩みよった。
そして彼女は手を彼の肩へと伸ばす。
その手が届く寸前、
彼女の手は弾かれた。
弾かれた手を目で追うとそこには、
夢結「・・・どう、して?」
彼女の手を弾いたであろう彼の手がそこにあった。
蓮夜「・・・何を考えてるか分からねぇえが・・・消えてくれ。」
夢結「・・・えっ?」
彼女の脳内は彼の放った一言で真っ白になる。
彼は今なんと言った?
消えて?
誰が?
この言葉が脳内を埋め尽くす。
夢結「・・・どうしたの?・・・私よ!ゆ、」
蓮夜「・・・消えてくれ。」
彼女の言葉は彼に遮られる。
彼女が彼の肩を再び掴もうとした時、視界に彼の瞳が映りこんだ。
その瞳を見て彼女は自身の手を止めてしまう。
彼の瞳・・・そこには何も写っていなかった。
何も感情の篭っていない無機質な瞳、
何にも興味のないようなその瞳に彼女は恐怖を覚える。
蓮夜「お前が何を考えてるか知らないが、居なくなってくれよ。」
夢結「・・・どうしてなの?」
蓮夜「・・・どうしてもないだろう?お前に消えて欲しい、ただそれだけだ。」
夢結「・・・蓮夜、」
蓮夜「俺の事を名前で呼ばないでくれ、寒気がする。」
彼が彼女へと向けた感情、
・・・それは拒絶だった。
まるで、関心の無いかのように、
その表情からは彼女と関わりたくないという感情が滲み出ていた。
夢結「・・・蓮夜?・・・今は冗談を言う時ではないわよ?」
これが本心である事は彼の雰囲気から明白であった。
しかし、彼女はそれを認めない。
いいや違う・・・認められないのだ。
もしも、ここでそれを認めてしまっては壊れてしまう。
彼女の本能がそう囁く。
だから、彼女は認めない。
もしも壊れてしまえば、私は立ち直れるのだろうか?
もしも壊れてしまえば、私はどうなってしまうのか?
もしも壊れてしまえば、彼はどうなってしまうのか?
もしも壊れてしまえば、誰が彼を救うことが出来るのか?
しかし、
蓮夜「何を言っているんだ?冗談なんか言ってないぞ?」
この意思は早々に崩れ去った。
現実を見せつけられる。
この単純だ行動で、
彼女の内側から何が壊れる音が聞こえる。
夢結「・・・どうしてなの?」
蓮夜「どうして?・・・そんなこと思い出したからだ。どうして俺がこんな目にあったのかを、」
夢結「・・・思い出したってどういうことかしら?」
彼女は恐る恐る彼に尋ねる。
蓮夜「・・・お前もいたなら見ただろう。俺が初めて異能に目覚めた時のことを、」
夢結「・・・。」
蓮夜「それの時俺は自身の精神を保護するためかお前に記憶処置をする時に自身の記憶まで封印した。」
夢結「・・・。」
蓮夜「もしくは俺の異能が安定しないで堕ちかけることが多かった理由・・・それを隠すためだったのか・・・もしもそうだとすれば自身の事だが大したものだ。
俺の異能が安定しないその理由がお前にあったんだよ。
お前に俺の片瞳を入れたから、」
夢結「・・・片瞳を、」
蓮夜「あの時、俺は何をとち狂ったのか片瞳に消滅の力を載せた状態で心臓へと作り替えた。この意味が分かるか?」
夢結「・・・。」
彼女は口を閉じてしまう。
蓮夜「・・・その消滅の力でお前の死を消し去ったんだよ。そしてそれを定着させるためにその力を心臓に残して、」
夢結「・・・。」
蓮夜「つまりお前の身体の中に俺の異能の一部が埋め込まれているってことだ。それじゃぁ安定しないのも当たり前だ。なんせ、欠けてるからな・・・ただでさえ制御が難しい異能を欠けた状態で扱うんだ。そんな状態で使い続ければズレが起こる。・・・それが俺の異能の不安定さの原因なんだよ。」
聞きたくなかった。
再び何が壊れる音が聞こえる。
夢結「・・・嘘よ。」
蓮夜「いいや、嘘じゃない。」
夢結「・・・嘘よ。それなら私は、」
蓮夜「・・・ただ俺の異能で生かされているだけの人形だ。」
自身の中からだけでなく周囲全体から壊れたような音が聞こえた気がした。
蓮夜「死んでいるその肉体で、ただ俺の言葉に従い動き続けるただの人形だ。」
先程よりも大きな音鳴り響く。
蓮夜「特に俺は命令した覚えはないが・・・俺に対して絶対的な信頼性などが心のどこかにあるだろう?」
夢結「・・・。」
確かに存在する。
しかし、それは自身の本心であるはずだ。
蓮夜「俺の近くにいると安心感を覚えることがある・・・違うか?」
夢結「・・・。」
確かにある。
しかし、それは彼のことを信頼しているからだ。
蓮夜「俺の言うことなら聞き入れてしまいそうになることもあるはずだ。」
夢結「・・・。」
確かにある。
しかし、それは・・・
それは・・・
それは本当に自身の本心なのだろうか?
夢結「!?!?」
彼女は声にならない悲鳴をあげた。
それと同時に何が崩れ去る音が鳴り響く。
蓮夜「・・・あるんだな?そうなんだろう?・・・その答えは簡単だ。」
夢結「・・・やめて、」
聞きたくない。
彼女は自身の耳を塞ぐが彼の声はまるで脳内に直接響くように彼女の鼓膜へと伝わる。
蓮夜「・・・お前は、」
夢結「お願い、もう・・・やめて、」
蓮夜「・・・俺に作られただけの存在だからな。」
彼女は膝から力なく崩れ落ちる。
その瞳には何も写っておらず、ただ涙だけが流れ続けていた。
蓮夜「・・・安心しろ、俺はお前をどうこうする気は無い。」
夢結「・・・。」
蓮夜「確かに俺がこうなったのはお前が原因だが・・・お前をこうしてしまったのは俺だ。」
夢結「・・・。」
蓮夜「・・・だから、俺はお前を恨まないし・・・だから、お前は俺に関わるな。」
夢結「・・・。」
蓮夜「・・・これは初めての命令だ。帰れ、そしてこの世界に二度と来るな。」
夢結「・・・。」
蓮夜「なに、心配するな。・・・ここを出る時にお前の記憶は消してやる。・・・それが俺がお前にする最後の慈悲だ。」
夢結「・・・。」
蓮夜「だから早く消えろ。おまけとして、迷わないように道標を作ってやったからな。」
彼女は力なく立ち上がると振り返りそのままどこかへと歩き出した。
その身体には精気を感じさせずただ彷徨い続ける亡霊のようであった。
そして彼女が森の奥へと消えて行った時、
蓮夜「・・・ごめん。」
彼は何かを呟き、背を向け歩き出した。