アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
視界いっぱいに広がる緑豊かな草原、その生命に溢れた緑の世界に青が咲き乱れる。
蓮夜?『・・・。』
彼が刃を振るう度に周囲の数箇所で青が咲いた。
その緑と青の彩る世界に一点・・・彼の経つ場所だけが赤く染まっていた。
その赤は他の色を拒絶するかのように塗りつぶし辺り一帯を支配していく。
その中で1人舞う彼の周りには数え切れないほどの人の四肢が転がっていた。
しかし草原あるはずのないそれすらも赤が塗りつぶし支配する。
まるで元々そこにあったかのように、まるでこの違和感自体が違和感であるかのように、
蓮夜?『・・・。』
この狂気に塗れた場所で彼は舞続ける。
この光景に違和感を抱かず、
まるでこの光景こそが当たり前かのように、
この狂気の劇場をものともせず一体のヒュージが彼へと迫る。
その刃で彼の命を借り取ろうとするがその瞬間にはその体は深い切傷を受け動きを止める。それと同時に何が落ちる、
そこへ新たなヒュージが迫って来た為彼は再び刃を振るうがヒュージの体には何も起こらない。
それを見て彼が自身の右腕を確認すると彼の右肘から先が消えていた。
彼がヒュージから目を離した瞬間ヒュージは己の刃で彼を刺し貫く。
それによって宙を舞った彼は先程まで自身のいた場所の足元に歪な刃を握った己の右腕を見つけた。
彼にトドメを誘うともう片方の刃を振り下ろしたヒュージは塵になって崩れ落ちる。
それにより開放された彼は音もなく地面に立つと左腕で歪な刃を握った。
そして拾い上げるとまだ刃を握っている自身の右腕を引き剥がして投げ捨てる。
放物線を描きながら落ちる彼の右腕は赤の上へと落ちる。
彼はそれすらも気にせずに背後へ振り返りながら刃を振るった。
その刃は背後から迫っていたヒュージを切り裂きそれと同時に彼の周囲にいた数体のヒュージからも青が咲きその機能を停止させる。
不安定な体勢で刃を振るった彼は足に力を入れて体勢を整えようとするが足が地面に着くことなく彼の体は倒れる。
倒れた彼は視線を己の足へと向けるがそこには彼の足はなかった。
それどころか彼の腰からした全体が消えている。
彼は次に背後へと視線を向けた。
そこには赤を盛大に咲かせている己の下半身が存在した。その赤は先程投げ捨てた自身の右腕にまで届き周りのものと同じように赤く染めた。
赤を咲かせていたそれも数秒するとその勢いを失いそれと同時に後ろへと倒れた。
しかし彼はこの事態にすら動揺しなかった。
それは自身の両腕に力を入れて飛び上がる。それと同時にヒュージが襲い掛かるがそれを握る刃によって切り伏せる。
そして彼は新たに現れた左足のない下半身をバネにして着地した。何故か存在しない左足、その傷口から光が漏れ出した時彼の上から彼の鼻先を通って何が落ちてきた。それは彼の左足でありその傷口からは赤が流れ出ていた。
彼が立ち上がると消えていた左足が元に戻っており彼は地面を踏みしめる。
そして彼が前へと目を向けると己の狙うヒュージの凶刃が迫っておりそれは彼の左肩口に食い込む。
彼の左肩から入った刃が彼の腹部へと至る直前彼の姿が消えた。
標的が唐突に消えたヒュージは固まりそのまま動かなくなった。
その背後には刃を振り下ろした彼がおりその背には己の刃が突き刺さり灰を咲かせていた。
蓮夜?『・・・ついにここまで来たか、』
彼はそうつぶやく。
彼の周りを支配していた赤が突如灰色になってしまったのだ。
赤だけではない。
先程まで咲き乱れていた青も、
生命に溢れる緑も、
彼の視界にある全てが灰色へとその色を変化させていた。
それと同時に何が彼の左手には何が握られていた。
彼はそれを確認するとそこには一振の曲刀が握られていた。その刃は月の光に照らされて怪しく輝きその姿を消した。
蓮夜?『・・・これで何回目だっけ・・・もう2桁から数えてないや、』
彼は笑う。
しかしその顔には表情はなくその姿からは諦めのようなものが漂う。
蓮夜?『・・・もう何も残ってないな。・・・まだ行けると思ったんだけど、』
彼は辺りを見渡した。
すると彼の周囲にいたヒュージは全て溶けるようにこの空間から消える。
蓮夜?『・・・だけどまだ時間はある。』
彼は重い足取りで前へと進む。
その姿は先程までの彼の動きからは想像も出来ないほどに緩やかなものであった。
蓮夜?『まだ・・・れない。まだ・・・がいるから。』
彼は何かを呟きながら進み続ける。
蓮夜?『・・・帰るんだ。』
???(・・・蓮夜、)
彼の脳内に声が響く。
夢結(私は絶対に帰ってくるわ。だから蓮夜は心配しないで、)
蓮夜(・・・夢結。)
夢結(本当に貴方は心配性ね。・・・それなら・・・蓮夜?帰ってきたらお茶しましょう。私達がお茶する時は貴方のお菓子は必要なんだから、だから絶対に無事でいてね・・・私も絶対に帰ってくるから、)
蓮夜(分かった・・・約束だよ。)
夢結(ええ、約束よ。)
これは彼の彼女との最後の記憶だ。
蓮夜?『・・・守るんだ約束を、』
彼は歩続ける。
重い身体に鞭を打ち、自身に残った意志を力に変えて、
彼は森へと足を踏み入れる。
彼は暗い森の中を進む。
しばらく進むと彼は突然苦しみ出した。
蓮夜?『・・・嘘だ・・・もう何もないのに、』
彼は地面に転がる落ちる。
蓮夜?『・・・あと少しなんだ、』
彼は動かない体を必死に動かそうとするが、その身体はまるで言うことを聞かずただ震えることしか出来ない。
蓮夜?『・・・あとすこしで、』
彼は己に残る意志を総動員する。
彼の祈りが通じたのか彼の右腕だけが動いた。
彼は右腕で身体引きずりながら進む。
蓮夜?『・・・帰るんだ!』
彼は吠えるように叫ぶ。
己を鼓舞しそれを進む力に変える。
その時彼の前方に光が差し込んで来た。
彼はそれを見るとまるで縋り付くように光の方向へと進む。
彼が光に飛び込むとそこは彼がいつも彼女と会っていた広場であった。
木々の隙間から差し込む光がこの一帯だけを照らしている。
蓮夜?『やっと・・・ここまで来た。』
彼は再び己の右腕へと力を入れようとした時、
《 ビィー!!ビィー!! 》
彼の目の前に文字が出現する。
彼は慌てたように己の右腕を地面ではなく自身の懐へと伸ばした。
彼が右腕を引き抜くとそこには端末が握られていたおりその画面を確認する。
そこには『vital』という文字とその下には『黒鉄 蓮夜』と『川添 美鈴』と書かれた項目がありその中の彼女のvitalの数値が0になっていた。
蓮夜?『・・・姐さん、』
彼はそれを見て呆然とする。
蓮夜?『・・・行ってしまったんですね。』
それと同時に彼は安堵していた。
蓮夜?『・・・人間のまま居られたんですね。・・・お疲れ様でした、ゆっくりと休んでください。・・・あとは俺が、』
彼の意識はそこで途絶えた。
蓮夜?『うっ・・・。』
彼は目を覚ます。
そこは彼が意識を失った森の中でありすぐに自身に変化がないか確かめその兆候がないことに安堵する。
蓮夜?『まだ、無事みたいだな。』
彼は右腕に握られている端末を確認する。
そこには彼の意識を失った日から2日後の日にちが映し出されており彼の頭上には月が輝いていた。
蓮夜?『2日間も意識を失っていたのか、』
彼は身体を動かそうとするがやはり右腕以外は以前と動かない。
蓮夜?『あと少し休んだら!?』
彼は急激な痛みに襲われる。
蓮夜?『・・・嘘だろ。』
そこで彼は悟った。
蓮夜?『・・・限界なのか、』
彼は右腕を使い仰向けになると月を眺めながら端末を操作する。
蓮夜?『・・・謝らないと、』
そして端末を操作し終わるとついに右腕も動かなくなり端末を握ったまま彼の耳元へと落ちていった。
《 トゥルルル! 》
コール音が鳴り響く。
しばらく続いた経つとコール音がが鳴り止む。
蓮夜?『・・・夢結、こんばんは。』
夢結『・・・蓮夜。』
蓮夜?『夜遅くにごめん・・・君に、』
夢結『私に話しかけないで!!』
彼の言葉は彼女の声にかき消される。
蓮夜?『・・・ゆ・・・ゆ?』
夢結『話しかけないで!誰とも話したくないのよ!』
その言葉を最後に電話が切れてしまう。
彼は諦めのようなもの雰囲気を出すと目を瞑った。
蓮夜『最後に夢結の声・・・聞こうと思ったんだけどな・・・タイミングが悪かったかな・・・本当に空気読めないよな・・・俺・・・。』
彼の口調がたどたどしくなっていく。
言葉が途切れ途切れになりその声には生気がなくどんどんと声が平坦となっていく。
蓮夜『てか・・・俺バカ・・・ろう。そも・・・そも、俺はもう声・・・こえ・・・じゃんか。』
彼は仰向けになって倒れた。
蓮夜『もうげん・・・か、ごめんゆ・・・やくそ・・・かった。』
彼は瞳を閉じた。
蓮夜『だけ・・・君だけは・・・だから・・・。』
彼が瞳を開くとそこには壊始と生成の模様が浮かんでいた。
蓮夜『やっ・・・こわ・・・自分じゃ・・・るのは。本当・・・に・・・バカだ・・・あの・・・顔を・・・おけば・・・。』
彼の身体を結晶が包み始める。
蓮夜『そうすれ・・・すこ・・・だったの・・・かな?』
結晶が完全に包む直前。
蓮夜『あとは頼むよ・・・
そうつぶやくと彼はそっと目を閉じた。
彼を包んだ結晶は強い光を発したあと音を立てて砕け散る。
蓮夜『ああ、任せろ・・・絶対に
これが彼の始まりだった。
黒鉄 蓮夜が
彼は自分が完全に獣に堕ちる前に自身を切り分けたのだ。
まだ呑まれていない感情や記憶の残滓を切り離し、それらを集め
森の奥へと歩んでいく彼を見つめる人影があった。
蓮夜「俺が作った人形か・・・俺のことじゃないか。」
彼は笑う。
まるで自信を見下すように、
蓮夜「自分のことを棚に上げて罵倒してのか・・・最低だな、俺は。」
彼は近くの木に背を預け座った。
蓮夜「・・・もう少しで外かな。」
あれは頭上を見るそこには光輝く月とそれを優しく包む夜が映し出されていた。
蓮夜「・・・ごめんね夢結・・・君に酷いことを言ってしまって、」
彼は目を瞑る。
蓮夜「・・・これを知ったらきっと君は許してくれないよね。・・・だけどこうするしかなかったんだ。・・・俺のことなんか忘れて彼女達と幸せを・・・。」
彼は目を開く。
そして何かを決心したのか歪な刃を握る手には力を入れた。
蓮夜「・・・姐さん、夢結をよろしくお願いします。」
彼は自身の罪の象徴である歪な
蓮夜「・・・ごめん、夢結。・・・約束守れなかった。」
刃に左手を添える。
すると刃が彼の首に食い込み赤い筋が首を伝う。
蓮夜「・・・
彼は再び目を瞑る。
その顔は何かをやり遂げたかのような達成感に満ちていた。
そして刃はどんどんと彼の首の奥へと進んでいく。
蓮夜「・・・なんで、」
彼の手が止まる。
それにより首を切り進む刃も止まりその刃を血が伝い手を赤く染める。
蓮夜「・・・もう帰ってくるはずなのに、」
彼は困惑した。
蓮夜「・・・どうして世界が崩れないんだ。」
この世界は彼女が居なくなると同時に彼女の記憶と共に消えるように仕組んでいた。
経過時間から彼女はもう外に出ているはずなのに、それなのにこの世界は消えない。
それに彼は戸惑う。
蓮夜「・・・もしかして帰れてないのか?・・・だとしたら、もう力もないのに、」
もう彼には打つ手がなかった。
彼女を現実へと返すための手段を作ることで彼は自身に残っていた全ての力を使ってしまっていた。
だからもしも彼女がこの世界残っていたとしても彼にはどうすることも出来なのだ。
蓮夜「・・・どうにか彼女を帰さないと、・・・じゃないと・・・あっ、」
そこで彼の中に1つの景色が浮かび上がる。
それは幼い時の思い出、
日常的に行っていたお茶会で彼女が浮かべていた笑顔だった。
蓮夜「・・・今更すぎるでしょう。・・・まだ生きたいんだな、
彼の手が震える。
その手はまるで自身の意識を拒絶するかのように刃を推し戻そうとしていた。
蓮夜「・・・わかってくれよ
すると彼の手の震えが収まる。
そして再び刃が動き出した。
蓮夜「・・・だけど良かった。・・・これなら夢結は外に出てるな。」
彼は自身の頬を雫が伝っていることに気がつく。
蓮夜「・・・まだ涙を流せたんだ。」
蓮夜「・・・あと一押し、」
彼は
そして1度深呼吸をすると、
蓮夜「・・・君に出会えて本当に幸せだった。・・・夢結、さような、」
???「言わせないわよ!」
彼の手が再び止まる。
彼は驚愕する。
今度は自ら止めたのではないからだ。
蓮夜「嘘だよね。・・・どうして、」
彼はゆっくりと目を開く。
そこには、
蓮夜「なんでいるんだよ。・・・夢結!」
夢結「言わせないわ・・・絶対にその言葉だけは、」
自身の腕を掴む彼女の姿が映し出された。