アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
蓮夜「・・・。」
彼の目の前にある光景、それは本来なら有り得ないものでありこの光景そのものが最悪を意味していた。
天葉「・・・。」
脚のないはずの天葉、だが彼女は立ち上がっていた。
彼女の目には生気を感じられず、その光を失った濁った目はただただ樟美のことを見つめていた。
元々足のあった場所からは青白いモヤのようなものが伸びており、それが彼女の体を支えるようにして浮いている。
そして手には彼女のシルトである樟美の首が握られており指が食い込むほどに強く握りしめられている。
樟美「・・・天葉姉様・・・どう、して?」
樟美彼女の手を抑えながら弱々しい声で天葉へと呼びかけるが彼女からの反応はない。
壱「依奈様!どうしてしまったんですか!?依奈!!」
依奈「・・・。」
依奈は天葉とは逆に地面に横たわっているが足をばたつかせ暴れている。
それを壱は必死に抑えるが依奈の力が強いのか彼女の身体自体も大きく揺れていた
天葉「・・・。」
樟美「お願い・・・正気に、」
樟美は瞳から一粒の雫を零すと、その身体から力が抜ける。
それにより阻むもののなくなった天葉はの指がより深く食込み、
蓮夜「・・・ごめんね。」
樟美の首にかかっていた圧力が消えた。
樟美「・・・カハッ!」
空気を得られるようになった彼女の肺は酸素を求め一心不乱に空気を吸い始める。
それにより意識が回復した彼女が霞んだ視界で天葉のことを見る。
そこには糸状の光で拘束された天葉とその首に太刀を添える連夜の姿があった。
樟美「黒鉄さん!?なにを!?」
蓮夜「・・・。」
樟美は今起きていることを理解出来ず一瞬硬直してしまうが、すぐに正気に戻り彼へと問いかける。
しかし彼は彼女の言葉に反応を示さない。
彼の目には感情がこもっておらずその視線は目の前の少女にのみ注がれていた。
その瞳はただただ冷たくそこからは彼が何を思っているかは分からない。
しかし樟美にはこれだけはわかった。
樟美「黒鉄さん・・・まさか、」
蓮夜「・・・。」
樟美「ダメです!天葉姉様は、」
蓮夜「・・・もう間に合わないよ。」
樟美「えっ・・・?」
ここで彼は初めて口を開く。
その声はただ平坦でありその中には感情が入っていない。
蓮夜「こうなってしまったらもう助からない。」
樟美「分からないじゃないですか!」
蓮夜「・・・もう人ではなくなっていたとしても?」
彼の口から紡がれた言葉、それは彼女には分からなかった。
樟美「人ではない?」
蓮夜「さっき襲ってきた少女達と同じだ。・・・わかっているんだろう?」
樟美「・・・。」
その言葉に彼女は口を閉じてしまう。
言い返せないのだ。
蓮夜「もうアレ等と同じ・・・何かに作り変えられているんだよ。」
樟美「・・・そんなこと、」
蓮夜「・・・あるんだ。今はまだ人としての部分も残っているが・・・、」
樟美は彼の言葉を聞くと壱の方へと視線を向ける。
そこには暴れる依奈を必死に抑える壱の姿があり、それはいつもの彼女達ではありえない光景だった。
蓮夜「・・・だから俺はせめて人であるうちに・・・人でなくなる前に、」
そう言うと彼の手に力がこもる。
その刃はどんどんと天葉の首筋へと近づいて行く。
蓮夜「ごめんな、天葉・・・。」
本当にこれでいいのか?
この言葉が樟美の頭の中を駆け巡る。
確かに今の
そして彼の言う通り今の2人は余りにも似すぎているのだ。
あの光を失った濁った眼が、
そして少女達の中には百合ケ丘の制服も存在した。
つまりこれは彼の言う通り2人の身体は今の
蓮夜「・・・俺にはこれしかできない。」
だとするならアレは感染する可能性があるということだ。
もしも広がってしまえば手遅れになってしまう。
ならばこれが最前の手なのだろう。
大を救うために小を切り捨てる。
今まで人類が繰り返してきた方法だ。
蓮夜「せめて・・・。」
しかし本当にそれでいいのだろうか?
確かにそれが最善なのだろうが本当に正しいのだろうか?
樟美は彼へと視線を向け直す。
やはり彼の表情は変わっておらずその手の刃は徐々に
樟(・・・あれ?)
しかしここで彼女は違和感を感じる。
まるで何かが決定的に違うような、
まるでカーテンを開けると空の色が緑だったような、決定的な違い。
その発生源はどこなのだろうか?
彼女はその原因を探す。
そして見つけた。
それは彼の持つ太刀・・・それを握る手であった。
彼の手が震えているのだ。
まるで、
蓮夜「・・・君が獣になる前に、」
彼自身がこの結果を拒んでいるように、
樟美(もしかして!)
彼女は思い至る。
彼自身が1番この事態信じられていないのではないかと、
天葉を通じて顔見知ってはいるが、彼女自身は彼との接待は少ない。
それでも彼がやさしいことはわかるのだ。
よく天葉に振り回されている彼を彼女はよく見ているのだ。
彼は普通なら嫌気がさしてもおかしくない程に振り回されているが溜め息をついたり説教をすることはあるが、それでも彼女の我儘を聞いていた。
蓮夜「・・・せめて君の手が赤く染まらない内に、」
そんな彼が本当に何も感じずに彼女のことを手にかけられるのだろうか?
蓮夜「・・・
樟美「ダメーーー!!」
彼女の身体は彼女の意志とは関係なく動いた。
彼が刃を振り抜く寸前、天葉を押し倒す形で倒れる。
天葉は拘束されているため倒れず、樟美の頭上を刃が通過した。
蓮夜「樟美さん・・・。」
樟美「だめです。・・・天葉姉様は天葉姉様なんです。」
蓮夜「・・・。」
樟美「天葉姉様!戻ってきてください!」
天葉「・・・。」
樟美「約束したじゃないですか!絶対に帰ってくるって!」
天葉「・・・。」
樟美「なのに・・・帰ってきて、天葉姉様・・・私をひとりにしないで、」
樟美の瞳から雫が零れ落ちる。
それは彼女の頬を伝い天葉の頬へと落ちた。
天葉の頬へと落ちた雫は彼女の頬を伝い彼女の口へと入り込んだ。
それを眺めていた彼だが意を決したのか彼は再び太刀を構える。
それを見た樟美は身体の力を抜き天葉へと身体を預けた。
樟美「・・・黒鉄さん、」
蓮夜「・・・。」
樟美「私も一緒にお願いします。」
蓮夜「・・・。」
樟美「私は天葉姉様がいないとダメなんです。・・・壱ちゃんには可哀想なことをしようとしていると思うけど、」
蓮夜「・・・。」
樟美「私は天葉姉様と一緒がいいんです。」
蓮夜『・・・ごめんな。』
樟美「いいえ、むしろごめんなさい。黒鉄さんに辛い思いをさせて、」
樟美が目を閉じるのを確認すると彼はその手に持つ刃を振り下ろした。
それは吸い込まれるように彼女達の首筋へと落ちていく。
目を瞑っているがレアスキルにより把握できる樟美はその凶刃に対して恐怖を感じなかった。
その刃には殺意などは篭っていなかったのだから、
それに籠っていたものそれは、
彼女がそう考えているうちに刃は彼女の首筋へと迫る。
そしてあと数瞬で彼女へと到達する所まできたその時、
蓮夜「っ!?」
彼の刃は何かによって止められた。
天葉「・・・ワたしノカワいイクスミに、なにシヨうとシテルノヨ、」
そこには力なく倒れる身体を鞭打つように腕に握られたCHARMで樟美へと迫る凶刃を防ぐ天葉の姿があった。