アサルトリリィ Abnormal Transition 作:0IN
穏やかで優しい微睡みの中、
何年も得ることのなかったその幸福の中から彼の意識は浮上する。
蓮夜「・・・。」
脳が上手く働かず思考が纏まらない中、彼は目を開けた。
白け良く見えない視界を目を正常に戻そうと目を擦る。
正常になった視界で周りを見渡すとそこは彼の部屋であり自身がベットの上にいることがわかった。
重く感じる上体を起こしたその時部屋のドアが静かに開いた。
夢結「起きたのね。」
蓮夜「うん・・・。」
夢結「調子はどうかしら?」
蓮夜「特に異常はないと思うけど、なんだか少し身体が重く感じる・・・かな?」
夢結「起きてすぐなら仕方がないわよ。」
蓮夜「・・・そうなんだ、よく分からないや。」
夢結「・・・そうよね。」
蓮夜「これが普通なんだ・・・。不思議な感覚だね?」
夢結「・・・。」
蓮夜「・・・今まで眠る行為そのものをしていただけだったし・・・全然感覚も違うや・・・ただ悪い感覚ではないの・・・かな?」
夢結「・・・!」
蓮夜「ゆ、夢結!?」
彼の言葉を聞くと彼女は彼を抱き締める。
いきなりのことに目を白黒させながら彼は戸惑うがすぐに彼女を抱き締め返した。
夢結「・・・ごめんなさい、気づいてあげられなくて、貴方はずっと苦しんでいたのよね。・・・貴方は謝罪なんて求めていないことは分かっているけれど・・・今だけはお願い、」
蓮夜「・・・いいよ。これは僕が自分の意思でしたことなんだ。・・・確かに辛いこともあったよ?だけどそのおかげで今があるんだから。」
夢結「・・・ありがとう。」
蓮夜「・・・だけど、」
夢結「どうかしたの?」
優しげな声で返した彼は少し気まずそうな顔になり彼女へと問いかける。
その様子を見た彼女は少し不思議そうに首を傾げた。
蓮夜「その・・・謝罪の代わりと言ってはなんだけど、まだ僕は普通がよく分からないんだ?・・・だから、僕に教えてくれないかな?」
夢結「それくらいお易い御用よ。」
蓮夜「良かった・・・断られたらどうしようかと思ったよ。」
夢結「失礼ね・・・これくらいのことならするわよ。」
彼の軽口に拗ねるように頬を膨らませる彼女に苦笑をしながら彼女の頭を撫でる。
すると機嫌が治ったのか頬を緩ませた彼女は目を閉じ彼へと身体を預けた。
彼の肩に頭を乗せて全身の力を抜いた彼女は彼の右手を握る。
蓮夜「・・・夢結、」
夢結「どうしたの?」
蓮夜「ありがとうね。」
夢結「どういたしまして、」
彼は上を見上げる。
そこには何の変哲もない天井があるだけだが、それが彼には何かいつもと違く感じた。
蓮夜「・・・なんだか不思議だね。」
夢結「・・・どうしたの?」
蓮夜「今まで見続けた光景が、いつもと違うように感じるんだよ。」
夢結「・・・そう。」
蓮夜「なんなんだろう?・・・ただの天井の筈なのに、鮮やかって言えばいいのかな?・・・綺麗に見えるんだ。」
夢結「・・・。」
蓮夜「最初は色彩が戻ったからかなって思ったんだけど、それも違うように感じてね。」
夢結「・・・。」
蓮夜「暖かいのかな?・・・目に映る全てが暖かくって心地いいんだ。」
夢結「そうね・・・確かに世界は残酷なものよ。だけどそれと同時に暖かくって優しいのよ。」
蓮夜「・・・そうだね。辛いこともいっぱいあった。悲しいこともいっぱいあった。・・・生きることを諦めたくなる時もあった・・・けど、」
彼は目を瞑ると何かを思い出すように言葉を紡ぐ、
それを口にする度に声が震えだし、彼の中から熱い何かが込み上げる。
蓮夜「やっぱり生きてて良かった・・・。」
夢結「・・・まだよ。」
蓮夜「えっ?」
夢結「まだ、貴方は始まったばかりよ。・・・これから貴方の本当の日常が始まるの、」
蓮夜「そっか・・・そう、だよね。」
夢結「そうよ。・・・けれど、これからが大変なのよ。わかっているかしら?」
蓮夜「わかっているよ。・・・だってなんにも分からないんだから、だって色はただの情報だと思ってたんだよ。」
夢結「なら、まずはそこから覚えて行きましょうか。」
蓮夜「・・・そうだね。」
夢結「・・・だけど、その前に!」
彼女は1度目を開けて彼を見ると彼をベットへと押し倒す。
彼はその行動に身体を硬直させるがすぐに冷静に戻り身体を起こそうとするが彼女の力が強く身体を少しも動かすことができない。
蓮夜「ゆ、夢結?」
夢結「何かしら?」
蓮夜「これはどういうことなのかな?」
夢結「私ね、昨夜眠ることが出来なかったのよ。」
蓮夜「・・・ごめん。」
夢結「いいのよ?・・・けれど今少し眠いのよね。それに今日は休日で予定がないのよ。・・・だから、」
蓮夜「・・・だから?」
夢結「少し・・・ね?」
そういうと彼女は目を閉じ寝息を立てる。
それを見た彼はため息を吐くとそっと彼女を抱き締め、
蓮夜「・・・おやすみ、夢結。」
彼も彼女の後を追い再び微睡みへと戻って行った。