「……それで、宿舎に帰ってきてからヤブデマリちゃんと食事をして、あとは部屋に帰ってシャワーを浴びたらすぐ寝ちゃったよ」
「うんうん、なるほど。ありがとうお姉ちゃん」
起き上がり、ベッドに座ったお姉ちゃん(パジャマの丈が余っている。かわいい)は、向かって椅子に座る私に昨日の様子を教えてくれた。
要約するとこうだ。
朝のお祈り後に私と別れ、司聖官の同僚であるパキスタキスさんとヤブデマリさんと共に王城大ホールで儀式の準備。
儀式は滞りなく行われ、ヒツジグサ様と側近の方々、それからネライダの面々や司聖官が小ホールに移動して会食が行われた。
その後、ヒツジグサ様は次の公務のため退出、お姉ちゃん達は残った人と一緒に儀式の後片付けを行った。その際に王城倉庫、祭具殿、礼拝堂、医務室に立ち寄った。
片付けが終わった後は次の儀式の日程の確認と準備をし、ヤブデマリさんと一緒に騎士団宿舎へ戻ってきた、と。
一か所、気になる点があった。
「お姉ちゃん、医務室にはどうして立ち寄ったの?」
「……ちょっと片付けの時に指を挟んじゃって」
「ええっ? だいじょうぶなの?」
「うん、ほら包帯もないでしょ? 一緒に片付けをしてた王室専属薬師の人が診てくれたんだ。すごいよね」
「痕も残ってなくてよかった」
お姉ちゃんの綺麗な指に傷が残ったら一大事だった。
王室専属薬師……何か引っかかって記憶をたどる。
確か名前はトゥルシーさんだったはずだ。姉妹で水中、水上都市それぞれの王室専属薬師をしている。
彼女には少し気になる噂があった。なんでも不老不死の研究をしているんだとか。
不老不死、つまりは永遠の若さ。
……若返りにも通じるものがあるだろう。
この符号は果たして偶然なんだろうか。
「お姉ちゃん、薬師の人、確かトゥルシーさんだと思うけど、その時のこと詳しく覚えてる?」
「トゥルシーさんっていうんだ? えっとね、症状を見たらすぐに軟膏を塗ってくれたよ」
「軟膏だけ?」
「それから痛むようなら痛み止めを調合しておくから取りに来てくださいねって。あとから取りに行ったら、トゥルシーさんは不在だったけど、ミズアオイさんへって書かれた紙が置いてあったから、その近くにあった錠剤をもらって飲んだら楽になったよ」
調合したばかりの痛み止め、錠剤。
ここから導き出される結論は……。
「お姉ちゃん、もしかしてお姉ちゃんの名前が書かれた紙って包み紙だったんじゃない? 痛み止めってね、多くの場合は粉末なんだよ。その方が早く効くから。調合したばかりならなおさら。取り違えた可能性があると思う。」
「ええっ!? でもでも、ちゃんと痛みが引いたよ?」
「プラシーボ効果って言ってね。薬を飲んだって思いこむことで、痛みが引くことがあるんだって。あ、お姉ちゃんが思い込みやすいってことじゃないからね!?」
「うぅ……どうせ私は思い込みの激しい単純お姉ちゃんなんだぁ」
しまった。
ええっと、この場合は……。
「お姉ちゃんは意志力が強いんだよ。だから痛みも感じなくなったんだと思うな? かっこいいよ、お姉ちゃん」
「そ、そうかな。私は痛みに負けないかっこいいお姉ちゃん?」
「そうだよ! お姉ちゃんかっこいい!」
「えへへ~、それほどでもないよ~」
さっきお姉ちゃんが自分で言ったことが完全に的を射ることになってしまったが、立ち直ったのでよしとしよう。
「とにかく、他に原因になりそうなことはないし、まずその錠剤のことから当たってみるのがいいと思う」
「コナギちゃんはやっぱりすごいよー。よくお薬のことも知ってたね」
正面で椅子に座った私の頭を撫でてくれようとするお姉ちゃん。届いてない。
ちょっとかがんでみる。
お姉ちゃんが私の頭を抱えるようにしてなでてくれた。
小さい手が私の髪を梳いてくれる。気持ちいい。
ひとしきり撫でた後、お姉ちゃんは宣言した。
「よしっ、それじゃあトゥルシーさんのところに行ってみよう!」
お姉ちゃんは即断即決だ。
「うん、もちろん私も一緒に行くよ。朝のお祈りはお休みするって連絡しておこうね。それから団長さんくらいには事情を話しておいたほうが良いと思う」
となると一つ問題が。
「服、ここには子ども用のものはないよね。いつもの司聖官の服を……こう、スカートをベルトで裾あげしてっと。袖はとりあえずしょうがないかな?」
「うん、腕まくりすれば大丈夫!」
袖があまってぷらぷらしてるお姉ちゃん、かわいい。
思わず抱きしめてしまう。
「んっぷ。なになに。コナギちゃん?」
「ごめん、お姉ちゃんがかわいくて」
「もー、小っちゃくても私のほうがお姉ちゃんなんだからね?」
「えへへ、分かってるよ、お姉ちゃん♪」
靴はどうしようもないから買うことにした。
店までは私がお姉ちゃんをおんぶだ。
「むー、私のほうがお姉ちゃんなのに。昔は私がコナギちゃんをおんぶしたんだよ? 覚えてる?」
「覚えてるよ~。お姉ちゃんだって小さかったのに、私が歩けないから頑張っておぶってくれたんだよね?」
「お姉ちゃんだもん、当然だよー。……ありがとう、コナギちゃん」
「お礼はまだ早いよ、早く治してもらわないとね。」
こうして私たちは王城にいるであろうトゥルシーさんのもとに向かうのだった。