剣道美少女の代わりにボコボコにされるオリ主くん   作:カネナリ#2560

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いきなり一万字をぶちこんでいくスタイル
他の小説ほっぽりだして書いちゃったぜ


そこまで地獄か? 幼少期編

 昔から魔法とか超能力とか、そういう超常的なものに憧れていた。テレビとかの報道で、大々的に行使された煌びやかな魔法を目にしたのが始まりだった。

 理由なんて大したものじゃない。格好いいからとか凄かったからとか、そんな詰まらないものだ。

 

 異様なほどに空が青く澄んでいたある日、ふとした拍子にそんな思いが露呈してしまった。どんなタイミングでばれたか考えたが、魔法師嫌いの父をひどく怒らせた事には変わらない。三時間にも及ぶ罵倒の末に道場に引っ張り出されて"指導"をくらった。

 父は木刀を二本持ち出して来て、一本を僕の足元に放り僕に拾えと命じる。僕は言われた通りに拾った。

 

「握りが甘い!」

 

 父はより一層怒り、僕の手をその木刀で打ちのめした。手放した木刀がカランと軽い音を出して床を転がる。手を押さえて蹲る僕に構いもせず、父は速く構えろと怒鳴り散らす。

 言われるがままに僕は動いた。痛みを発する手を無視し木刀を拾う。父の手元を盗み見て正しい握りで握った。

 

「構えが甘い!」

 

 父は僕の腕を打つ。痛みに喘ぐも今度は木刀を手放さなかった。また盗み見て正しい構えで構えた。

 

「腰を引くな!」

 

 父は僕の胴を打つ。あまりの衝撃に胃の内容物をぶちまけた。少し赤黒い。

 それでもめげずに構え直す。

 

「踵を地につけるな!」

 

 父は僕の足を打った。力が上手く入らず立っていられない。

 それでも、めげずに構え直す。

 

「要らん力を入れるな!」

 

 父は僕の肩を打った。腕の感覚が鈍くなり木刀を握っていられない。

 それでも、めげずに、構え直す。

 

「首を引っ込めろ!」

 

 父は僕の首を打った。息が詰まり全身の力が抜けていく。

 そ、れでも、めげず、に、構え、直す。

 

「前を向け!」

 

 父は僕の頭を打った。視界が赤く染まり霞んでいく。

 そ、れで、も、めげ、ず、に、構え、直、す。

 

 どれ程の時間が経っただろうか、次第に構えていても打たれなくなった。父の及第点に達したのだ。苦しみのせいで達成感なんて感じなかったが、これで打たれることはないと安堵した。

 

「何へばってやがる! 次は素振りだ!」

 

 だからこそ絶望した。なまじ安堵なんてしてしまったのだから余計に。構えが終わったのなら次は素振りがあるのは至極当然のことだろうに。

 構えて木刀を振るえば、叱責と共に悪いところを打ちのめされる。それは一種の教育であり躾であった。これが父なりのやり方なのだろう。父は剣道を僕に修めさせたのだ。

 

 魔法の出現で衰退の一途を辿り、遂に今代で門下生のいなくなった道場の真ん中で木刀を振るう。神聖な場であったそこは僕の血と汗と嘔吐物で穢されている。かつては栄光を極めたそこは最早見る影もない。

 打ちのめされた僕の体に痣のない箇所はなく、痛みは絶え間なく脳内に訴えてくる。皮膚の感覚が鈍くなり木刀を握っている実感が全くない。痛みに気を失おうと、更なる痛みで覚醒させられる。気が狂いそうだ。

 

 日が暮れ始め、道場を茜色に染める。幻想的とも言える光景のなか、倒れ伏す僕に父は片付けておくようにと言い残して去っていった。

 十数分程蹲り、痛みが引くのを待ったが無駄と悟って体を起こす。顔を上げた時、口からポロリと白いものが落ちた。大きさ的に奥の方の歯だ。折角生え揃ったのにな、などと考えながら軋む体を動かす。

 普段のように道場を掃除しようにも思うように動けず手間取ってしまう。特に手の感覚が殆どないことが一番辛かった。道具を上手く掴んでいられない。

 結局終わったのは日が沈んでから二時間程経った頃だった。

 

 身を清めるために風呂場に赴き、覚束ない手取りで服を脱ぐ。露になった肌は青く鬱血し、酷いところでは出血している。痛々しい姿だが骨は折れていない。父は手加減に関しては師範に値する技量を持っていると言えよう。

 

 シャワーを浴びれば赤いドロドロとしたものが流れていく。爽快感があったが痛みを伴っているので気持ちよくはない。石鹸で洗えば傷口に染みて悶絶した。

 湯船に身を沈ませれば痺れるような痛みが襲う。急激な血の巡りは十秒に及ぶ目眩を引き起こし意識を溶かそうとした。ここで意識を失えば明日には水死体として発見されるだろう。そんなことなど百も承知なのでグッと堪えた。

 

 温かな湯は酷使して凝り固まった身と心を簡単に解してしまう。余裕ができたせいか空腹を感じ腹が鳴り響いた。朝食しか食べてないし、それも全てぶちまけてしまったのだから腹が減るのも無理はない。

 食を取ろうと風呂を上がる。途中足を滑らせたが壁に手を置くことで事なき事を得た。

 

 台所へ向かい、配膳機から冷めきった食事を取る。昼食用に予約していたものだ。食べるのは夜になったが味に問題はない。衛生面に問題はあるが、捨てるのは勿体ない気持ちが勝った。

 一人だけのリビングで少し遅い夕食を摂る。広い部屋で聞こえてくるのは僕の咀嚼音だけだ。以前はこんな寂れたものじゃなかったのに。もっと、どこか明るいはずだった。だが、もう一年も前の話だ。こんな光景も流石に慣れた。

 

 父は絶対に僕と食を共にしない。僕と父は家族という間柄だけど、父はそういうものを毛嫌いしている。かつての光景を思い起こしたくないようだ。なら何故僕を家に置いているのかと問われれば、微妙な顔をせざるを得ないけど。

 

 食欲が湧かず胃が食べ物を受け付けない。それでも無理にでも押し込んだ。後になって苦しむ羽目になるのは自分なのだから。これぐらい我慢できる。

 食事を終えると睡魔が襲った。随分と都合のいい体だなと思いながら床に就く。布団のなかで今日の出来事を思い返した。

 父の癇癪はよくあることだ。記憶が確かなら半年ぐらい前から増え始めたはずだ。今日のような体罰は初めてだけど、怒鳴り散らすことは前からあった。だからこれは一過性のものなんだ。明日になったら普通に戻っている。そう信じておこう。

 

 まあ、こんな考え宛になんないけど。

 

 

 

***

 

 

 

 結果から言うには父の怒りは収まらなかった。一年間ずっと怒っていた。詰まるところ、地獄の日々が一年も続いたのだ。これだけ続けば日常と言っても過言ではないだろう。

 ある日自分の技量が一定の範囲を越えたとき、父は実戦を強要した。しかも自分が父に対する攻撃を禁止し、更には父の攻撃を回避することすら禁止した。自分はただ我慢して、父の攻撃を受けることしか出来なかった。

 毎日鬱憤を晴らすが如く、力が込められた木刀を受けては吹っ飛ばされる。こんなの体のいいサンドバックではないか。

 一週間に二日程父がいない日がある。何をしているのか知ったことではないが、自分にとっては救いに他ならない。体を休められる日が如何に大切か身をもって知った。

 

 毎日が苦痛であった。助けを求めようにも、近隣に住む奴らは父の報復を恐れてか見て見ぬふりをする薄情者だ。親族への伝手なんてなかったし、自分を一人ここに置いていった者共に頼る気なんてなかった。

 苦しかった。何よりも自分がなんともないと思い始めていることが辛かった。剣の腕が上達していくのに楽しみを見いだしている自分が嫌いだった。吐き気すら覚えていた程に。

 

 それらがなくなったのは、稽古が始まって半年ぐらいの頃だ。突然父の剣を受け止められるようになった。自分の技量が父の技量を上回ったのだ。その日は木刀による傷は出来なかった。父の剣技を全て受け止めた上で往なしたのだ。代わりに強烈な蹴りをくらったが、骨が折れなかったので気分はそこまで悪くなかった。

 

 翌日から父は姑息な戦い方をし始めた。剣道の大会で使えば、一発で出禁になるような技を平然と仕掛けてきたのだ。

 避けることを禁じられている自分は足払いを受けて転ばなければいけない。受け身を取れば別に問題ないが取れなかった時が最悪だった。起き上がれないように滅多打ちにされるのだ。堪ったもんじゃない。体の小さい自分に出来たことは仰向けになって必死に受け止めるぐらいだった。

 

 木刀を奪われた時もあった。素手で戦う羽目になったがその日は右腕を犠牲にして凌ぎきった。一週間ほど使い物にならなくなったが、木刀があれば左腕一本だけでも何とかいけた。

 

 投擲物を使ってくることもあった。口から吹き出す小物タイプから、普通に懐から出して投げる大物タイプまである。当然避けることは許されていないので全て木刀で弾いた。弾いてなければ自分はここに生きていない。

 

 今日は無傷で稽古が終わった。攻撃を直に受けることが少なくなってきているのだ。父の手口を知り尽くしたのもあるのだろう、簡単に対応することができるようになった。父は明らかに憤慨しているので新たな手を用意することだろう。銃火器を持ってこられたら困りものだ。流石に死ぬ。

 

 最近ジレンマを感じている。自分は父への一切の攻撃を禁じられているが、学んでいるモノは人を殺す術だ。当然疑問を感じるべきことだろう、今まで疑問なんて浮かべてなかった自分が間違っている。

 自分のなかで人を斬りたいという思いが燻っているのを感じる。無論発散すべきモノではない。むしろ閉じ込めておくべきモノだ。まあ、抑えられるとは言っていないが。

 きっと、このままいけばこの一年間の集大成を父の脳天目掛けて振り下ろすだろう。隙だらけの体勢に思わず手を出してしまうのだ。なに、悪いのは隙を晒した方だ。父の教えなのだから間違いない。

 勿論出来上がるのは脳髄をぶちまけて華を咲かせる愉快なオブジェだ。自分の技量なら容易いことよ。意識して抑えれるのは持って一ヶ月。それ即ち父の命の残り時間だ。それ以上は耐えられそうにない。

 

 上達への悦楽は父を越えた日から感じなくなった。父を殺せるようになったあの日からだ。自分は一体どこを目指しているのだろうとタコだらけの手を眺める。

 

 父は自分に殺されようとも文句は言えないだろう。何せそう仕向けたのは他でもない父自身なのだから。

 

 

 

***

 

 

 

 転機が訪れた。父が魔法を使ったのだ。あれほど魔法士を毛嫌いしていたのに、怒りのあまりに発動させたのだ。自分が父の癇癪に付き合ってやっている、と今更だが理解したためだ。誇り高い父にとってそれは耐え難い屈辱なのだろう。自身のプライドを守るために自分を殺そうとした。

 児戯に等しい稽古は一瞬にして修羅場へと変わった。本気の殺気と共に父の木刀がおびただしい数の文字を纏い光を放つ。意外と地味なんだなと密かにがっかりした。

 

 しかし、たかが木刀と言えど魔法を纏っているのだ。真剣と何ら変わらない。簡単に人を殺せるだろう。

 魔法を使えない自分に出来る対処方法は限られている。とれる手段は少ないが、別になにも出来ないわけではない。

 

 父は型にはまりきった面を打ち、自分はそれに下から掬い上げるように向かえた。鍔迫り合いは出来ない。触れた先から木刀は削られ、容赦なく自分の体を引き裂くだろう。だがそれに関しては問題ない。

 削られるのがどうした。削りきられる前に弾けば良いだけの話だ。父と自分の技量には大きな隔たりがある。容易いことだ。

 

 木刀は半ばまで削られたが弾くことに成功した。剣の形を保っていればどうとでもなる。自身を守ることも相手を殺すことも。

 結果から言えば父との死合いはたったの一合で終わってしまった。それを悲しむべきかそれとも喜ぶべきだろうか。まあ、どちらにせよこれから感じることはないモノだ。気にしなくて良いだろう。

 

「そこを動くな!」

 

 制止の声が聞こえた。ピタリと木刀を父の鼻先で止める。聞き慣れない声の方に目を向けると拳銃を構えた人物がいた。今にも発砲しそうな切羽詰まった表情だ。何をそこまで焦っているのだろうか。

 

「殺傷性ランクB相当の魔法行使を確認した! 大人しく身柄を拘束され連行されよ! 抵抗するなら撃つ!」

 

 父の方へ視線を戻した。こんな状況にあるにも関わらず、父は自分に対する攻撃を止めようとしなかった。視線を切ったのがいけなかった。父の攻撃を察知するのが少し遅れてしまった。

 淡く光る腕は先程の木刀と同じ魔法を使っているのだろう。リーチは消失したが性質的には何ら変わりはない。弾くこともできずに木刀は切り飛ばされ死が迫ってくる。ただの木刀では防ごうにも当たった先から消えるだろう。回避することも最早間に合わない。

 ここまで明確に死を突き付けられるのは今までで初めてだ。これが本当の殺し、本当の殺意だ。なんてことだ。この一年間の地獄は生ぬるい湯船のようなものだったのか。

 

 死の恐怖が生存本能を刺激する。死にたくないという思いが自分に残っていたとは驚きだ。だからこそ、この迫り来る死への対処法を導きだせたとも言える。

 

 体の奥底で眠っていた力が溢れてくる。その力を荒れ狂うままに体外へ放出した。手が光を発する。自分はこの時理解したのだ。魔法を使っていると。

 

 自分は本能のままに動いた。生き残るためだけの最適な行動をしたのだ。木刀を手放し父の手を掴んだのも、何か考えがあってのことではない。どこか漠然とした思いで出来ると理解したのだ。

 

 自分は父の手を掴んだ。木刀のように切り飛ばされることなく確りと掴んだのだ。力と力がぶつかり合い接触部分からスパークが迸る。力の奔流だ。

 

 横合いから攻撃の圧を感じた。警察官らしき人物が発砲したのだろう、力の塊が父目掛けて打ち出されている。父はそれを視認することなく、自分が掴んでいる手とは逆の手に力を纏わせ自分の方へ弾いてきた。被弾すれば風穴が開くことを覚悟しなければいけないほどの力だ。余計なことを。

 無論されるがままに受けるわけにもいかない。父の手を離し、後ろに跳びながら父と同じように手に力を纏わせそれを弾き返した。

 衝撃が腕を伝う。初めての手応えの感触だ。痛みが喜ばしいと思える日が来るとはな。不思議なものだ。

 

 弾き返した力の塊はまたもや父の手によって返ってきた。こうなれば持久戦だ。どちらかの力が尽き果てるまで続くだろう。

 下手な動きはできない。弾くこと自体はそこまで難しくはないが、力を纏わせる状態を維持するのにかなり神経を使う。気を抜けばすぐに霧散してしまうだろう。それは父も同じはずだ。

 

 力の塊を返しては返されるのを繰り返していく。時間が経つにつれて力の塊の数も増えていった。やはりあの警察官は邪魔でしかないな。

 片手だけでは心許ないので、両手に力を纏わせて手数を増やす。維持が非常に難しいが、やっていくうちに慣れてきたのか安定しはじめた。

 高速で飛来する力の塊が十に及びはじめ、手だけでは対処しきれなくなってきた。足にも力を纏わせ蹴りを放つことでその穴を埋める。軸足も体幹の安定のために力を纏わせる。これで自分の体勢が崩れることはほぼなくなった。

 

 ここで自分に変化が起きた。全身に力を纏わせたのが切っ掛けなのだろう。明らかに自身の体が加速している。予測と直感だけで弾いていた力の塊を、視認して確りと弾くことが出来るようになっていたのだ。自分の体の奥底で何かが燻っていたことには気づいていたが、ここまで強大であるとは知りもしなかった。

 一歩間違えていれば自分の体は爆発四散していただろう。自分はそんな力を極短時間で会得したのだ。実践に勝る経験はないと知っているが、ここまで急激に上達するのは驚くべきことだ。

 自分の才覚もあるのだろうが、死と隣り合わせの環境であることも大きいのだろう。自分の力がかつてないほど飛躍的に向上していく。自分ですら恐怖を抱く早さだ。

 

 たった二、三秒で得た慣れが体を突き動かし、奇妙なほどに冴えた脳が閃きを編み出していく。まるで機械のように効率化していくように、生き残る上で無駄な部分を削ぎ落としていく。久方ぶりに感じた人間らしさが人でなしの行動を平然とやってのけている。優越感どころか昂りすらしない。唯々自分に対する不快感しかなかった。

 父もそんな自分を見て頬を引きつらせて困惑している。開きかけた唇はなにか思い直したのか固く閉ざされ動くことはない。殺意しかなかった瞳は毛色の違う、どこか探るような或いは試すような色に変わった。それにともなって父の腕も異色な力を纏いだす。固く閉ざされていた唇が開き何かを呟いた。

 

 父は自分が弾き返した力の塊を弾いた。なんて事はない、何度も見た光景でこれからも見ることになる光景だ。だが今回は違った。父が一つ弾いたのと同時に飛び交う全ての力の塊が不自然に動きを変えたのだ。

 

 今しがた弾いたはずの力の塊も、警察官が打ち出したばかりの力の塊も、虚空を貫く力の塊も全てがだ。

 

 総数十五に及ぶ致死の光球が一斉に自分の方へ向かってきている。正面180度、あらゆる方向から全て自分に当たるように飛んでくる様は、自分に絶望の感情を芽生えさせた。本能はそんなクソほどにも役に立たないものは不必要だと握りつぶして、自分に動けと命ずる。動いて生き残れと。

 

 自分は相も変わらず本能のままに動いた。自分の凡人にすら劣る貧弱な脳味噌では、この状況を打開する術なぞ思い付かないからだ。なに、思考の放棄さえ出来れば本能が勝手にやってくれるさ。

 やったことは簡単だ。自分が溜めに溜めた力と呼称しているそれを前方に放出するだけだった。言うなれば、自分を殺せる程度の小波が、荒れ狂う大波に消し飛ばされただけだ。ほら、難しいことではないだろう?

 

「秘術『乖離の太刀』」

 

 そして父はその荒波を斬り裂いて現れた。その手に不定形な刀を携えている。力が異常なほど密集し、ついには具現化まで果たしたようだ。何でも斬ってしまう凄味を感じる。

 

 飛び出した勢いのままに絶死の刀を上段より振り下ろした。その刀はあらゆる摂理、あらゆる術を斬り裂くだろう。秘術と付ける程だ。父にとって最上級の術だろう。

 

 だが、父よ。秘術とは秘めておくからこそ秘術なのだ。その一手で方を付けてこその秘術だ。対峙した者を永遠に黙らせ、目に写らせることが二度とないからこその秘術だ。世に広まることのないからこその秘術だ。

 あなたはその術を自分の目の前で使ってしまった。秘められていない秘術なぞ、ただの術に過ぎない。もしあなたが自分の隙を突いてその術を放ったとしたら、自分はその術の理を理解することなく死んだだろう。

 だが、そんな未来は永遠に訪れない。一度自分に見せてしまったのだから。効果を発揮したのは一瞬だったが、理解するのならその一瞬だけで十分だ。

 

「模倣術『乖離の太刀』」

 

 振り下ろされる父の刀を、同じ力で作られ同じ性質を持った短刀で受け止めた。ごっそりと力が持ってかれたが何とか作り出せた。全てを斬り裂くことが出来る剣は自身を斬ることが出来ない。効力を無効化する術式が組み込まれているからだ。秘術としているのはこの術式が力を使う大部分を占めているからだろう。

 

 対面した父の顔は酷いものだった。眉は垂れ下がり、目元は今にも泣きそうなほどに震え、裂けんばかりに頬をひきつらせ、歯は噛み締めているのにカチカチと音を鳴らしている。その表情が告げるのは恐怖───そして歓喜だ。

 まるで人の理に外れたナニかを目の当たりにしたような顔をする。自分は歴とした人間だ。これだけは言っておかねばと自分は口を開いた。

 

「父よ、何故驚くのです。自分は貴方の腰から出でた者、それは貴方自身がよく理解しているはずです。今更何を疑っているのでしょうか。まさか自分が人ではないと言うのですか。

 もう一度言いましょう。父よ、何故驚くのです」

 

 自分は父の目を捉えはっきりと物申した。父は瞠目したもののすぐさま取り繕い、重々しい口を開いて自分を批判するように言い放った。

 

「私は今までお前のことを只の子供だと思っていた。愚図で鈍重で何の才能のない役立たずだと。私に蹂躙されるだけの存在だと。

 今日をもって改めよう。お前は化け物だ。この世に居てはいけない存在だ。人の理から外れた者は人の手で下さねばならん。他でもない……この私の手で!!」

 

 父が持つ刀の重みが増した。力ずくで自分を押さえ込もうとしている。なんという馬鹿力だ。あまりの重さにミシミシと床が悲鳴をあげている。

 自分がより耐えれるようにと足幅を少し開けた瞬間重圧は消え失せ、代わりに父の蹴りが腹に入った。自分は全身に力を纏わせているのでダメージは無いが、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされてしまった。

 距離を離した父は抜刀の構えをし自分を見据えてこう叫んだ。

 

「その首……貰い受ける!!」

 

 そして父は大きく踏み込んで自分を殺そうと疾風の如く接近した。自分は短刀を構える。

 脳裏に思い浮かぶは一つの川柳。今まで生きてきた軌跡。人生の詩だ。

 

()()を!!」「()()に」

 

 神速の一太刀を短刀の刃で滑らせて往なしきった。

 

()みて()らした!!」「()まれて()よし」

 

 返す刀で斜め上に切り上げる太刀筋をもう一本練り上げた短刀で逸らし、更に返す刀で面を断つ太刀筋を二本の短刀を交差させ刀を受け止めて弾いた。

 

()(ふへ)を!!」「()(ふへ)を」

 

 手から打ち出された力の塊を短刀を一本投げつけて爆散させ、力の纏った蹴りを力を纏わせた足で相殺し、上から落ちてきた刀を短刀で打ち払った。

 

()らぬと()えば!!」「()らぬとすれば」

 

 掌底から繰り出される衝撃を声に力をのせ一喝し、縦に振るわれた腕から発生した衝撃波を足を振り上げて同じ衝撃波を繰り出し消滅させ、横に振るわれた腕から発生した衝撃波を踵を打ち付けて叩き落とし、放出された力の大波を一瞬だけ伸ばした短刀で斬り払った。

 

傲慢(ごうまん)となる!!」「誤算(ごさん)とならん」

 

 斬り抜けた先では突きの構えをして待ち構えていた。一秒の間に繰り出される五連突きを、短刀の刃先を同じ力、同じ角度、相対する方向で刀の刃先に合わせてみせた。重ねる毎に父の刀に罅が入り最後には砕け散った。そして全ての力を使い果たした父は崩れるように倒れ伏した。

 

 自分は五つに渡る連撃を凌ぎきったのだ。計十五回の攻撃全てが一手を間違えれば死んでいた代物だった。だが自分はこの戦いを制した。最初に自分が思ったようにこれは持久戦だったのだ。先に力を使い果たした者が死ぬ。そういう戦いだったのだ。何をとち狂ったのか父はその力を湯水のように使い自分を殺そうとした。地力では自分に勝っていたというのに。

 

 しかしそんなことなど考えても栓なきことよ。重要なのは自分が生きていることだ。この場に確かに立っているのだ。それが自分に生き残ったと、地獄を耐え抜いたのだと実感させるのだ。

 この実感がもたらす幸福感は他の何事にも勝る至上の喜びだ。今はただ、煩わしいことなど忘れて悦に浸ろう。クソみたいな世界で唯一見つけることの出来た幸せなのだから。

 

「なんだこりゃあ。どうなってやがる」

 

 何時までそうしていただろうか。警察官の仲間らしき人物が駆けつけてきた。攻防の果てに荒れに荒れた道場の惨状と、血を流し倒れ伏す仲間を目にし動揺している。警察官は大方流れ弾でも当たったのだろう。運の悪いことにな。

 

「おい、稲垣。なんだこの状況は! 一体何があった!!」

 

 稲垣と呼ばれた男は返事をせず倒れ伏すのみ。止めどなく溢れる血は確実に死をもたらすであろう。お仲間さんが必死に止血するも一向に止まる気配はない。気の毒なものだ。

 

「クソ!! 血が止まらねえ!!」

 

 流石に死なせるのは目覚めが悪いなと思い、手伝うために陥没した床から這い上がった。すると何故かお仲間さんが自分をギリッと睨み付けて、稲垣さんを庇うように前に出てきた。もしかしてこれをやったのが自分だと思われていないか? 確かに無関係だと言うと嘘になるが、直接的な原因ではないはずだ。

 だが弁明するのは正直キツい。戦いに疲弊している今、話すことすら億劫だ。とっとと治して疑惑を晴らそう。お仲間さんは構えてはいるが正直隙しかない。簡単にすり抜けて背後に回れた。気づかれないうちに稲垣さんの傷を治す。

 

 縛っていた布を引き裂いて容態を確認したところ左の脇腹が5cm程抉れている重傷だ。心臓に近いためか出血の勢いが強い。あとは木片による小さな切り傷が無数にあるだけだ。力の塊をギリギリで避けてその余波をもろに食らったようだ。力で防御していないのによく生きてる。まあ死んでなければそれで良い。

 

「なッ。お前何をして……!?」

 

 傷口に手をかざして力をゆっくり流し込んだ。失くなっていた大きい血管の代わりに、力で管を形成し繋ぎ止めた。切れていた血管全てに同じ処置を施し、それを更に皮膚の代わりに力でコーティングしておいた。力は命の源だと自分は認識している。そのうち元の肉に成るだろう。

 いやはや本で人体の構造を知っておいてよかった。下手なことはせずに処置できた。その代わりに脳味噌がショートしそうだ。精密操作は堪えるね。落ち着くために比較的無事な縁側に座り空を見上げておく。

 

 全く、相も変わらず憎たらしいほど青い空だ。

 




 判明しているオリ主の能力
・強靭な精神力→それでもめげずに構え直す
・異常な回復力→複雑骨折の左腕が一週間で完治
・凄まじい学習能力→一目だけで技術を盗み自分のものにする
・良く見える目→視線の通らない穴の中でも上の状況を把握している
・膨大な想子量→原作主人公と同じぐらいじゃね?( ̄σ・ ̄)
・想子の物質化→そこに秘術の真髄が隠されている……かもしれない。
・突然川柳を詠み出す→ゼノブレイドのパクr……オマージュだ!

 なお、最終的に殆ど使わなくなる模様。

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