剣道美少女の代わりにボコボコにされるオリ主くん 作:カネナリ#2560
今回の話でキャラ改変・崩壊タグ付けたけど、私が書くと全員キャラ崩壊するんだよなぁ(白目)
あとこれ書いてて思ったけどキャラに会話させるの向いてないわ
殺意と共に放たれた光弾が千葉寿和に降り注ぐ。仲間が巻き込まれようとお構いなしだ。
「ッ!? 許せ稲垣!!」
咄嗟に稲垣を蹴り飛ばし自身は後方に跳ぶことにより難を逃れた。あとなんか可哀相だったので気絶している奴も蹴り飛ばした。二人とも池に突っ込んで溺死しそうだが何とかなるだろう。
千葉寿和の冴え渡る感覚が魔法の射出地点を感知した。物理法則の改変による空間の揺らぎを認識したのだ。どうして自分がこんな大それた事をやってのけるのか、そんな疑問を呈する事などしない。千葉寿和は生き延びるのに必死なのだから、考える暇なんて有りはしない。
降り注ぐ光弾はその軌道を変えることなくそのまま地面に着弾した。光弾は砂利を弾き飛ばしその下の地面を抉ってゆく。それなりの威力があるようだ。当たったら一溜りもないだろう。
着弾付近の砂利が風に撒き散らされ千葉寿和の方にも飛んでくる。これ幸いにと掴み取り、ありったけの硬化魔法をかけて術者が居るであろう所にぶん投げた。石垣の向こう側。すぐそこだ。
放たれた石礫はさながら散弾銃のように石垣を穴だらけにし、術者であろう人物をズタズタに引き裂いた。
その術者が死に際に放ったであろう光弾が一つ出現した。威力はなんとも弱々しいが速度だけは高く、避けるのは難しいと千葉寿和は判断した。そして千葉寿和は自身の袖に情報強化を施し光弾を薙ぎ払った。決死の一撃は儚くも霧散した。
「(よし、これで二人目だ。他は……)」
順調だと宣う千葉寿和。そんな千葉寿和に現実を思い知らせようと更なる試練がやってくる。
上空に空を埋め尽くほどの光弾が出現した。先程のは余興だと言わんばかりだ。絶対に殺すという意思が透けて見える。過剰なほどに。
「は?」
これには思わず現実逃避しそうになる千葉寿和だが、千葉寿和には先ほどのようなものであれば雨あられであろうと避けきる自信があった。だが水面に浮かぶ稲垣はどうなる。水死体のようにプカァ~と浮かぶ物体が動くことはない。まさか運良く全て外れるとでも思うのか。いいや思わないだろう。そして出される結論は稲垣の絶対なる死だ。
「クソ! 稲垣!!」
千葉寿和は稲垣の元に駆け出す。だがもう遅い。千葉寿和と稲垣との間には絶望的な距離があった。例え今の千葉寿和であろうと三秒はかかる程の距離だ。
何故千葉寿和は稲垣を蹴り飛ばした時後方へ下がったのだろうか。保護対象と距離をとる必要性は全く存在せず、かえって悪手となるのに。
それは千葉寿和が不安定な足場で戦うことを嫌ったためだ。池の水深は深いところで千葉寿和の太腿辺りまであり、浅い所でも膝下まで浸かってしまう。どんな人間であろうと二本の足を頼りにしている以上、動きが鈍重になることは避けられない。
つまるところ千葉寿和は自分の命を惜しんだのだ。気絶させたもう一人の保護対象を救うためだとか、自身が死ねば救うことすらできなくなるだとか、そんなことを宣ったところで保護対象から距離をとったことに変わりはない。人一人の命を救うには自分の命を犠牲にする決死の覚悟が必要なのだ。
だが千葉寿和にそんな覚悟が無かった訳ではない。むしろ心はそんな覚悟で塗り固められていたのだ。だが心の奥底で自分一人だけ助かれば良いという驕りのような感情が存在しており、それが千葉寿和の行動を制限するのだろう。
「(畜生……何てことだ)」
千葉寿和はその感情をはっきりと自覚した。そしてひどく嫌悪した。千葉寿和の心は大切な部下が死んでしまう悲しみ満ちている。しかしそこには生き残るのに邪魔な要因が消えるという喜びが少なからず混じっていた。千葉寿和は自己嫌悪に苛まれ自分を殺したくなった。
故に千葉寿和は殺すことにした。臆病で、傲慢で、醜悪な弱い自分を二度と出てくるなと押し潰した。そしてその余白を新たなる覚悟で埋め尽くす。出来上がるのは覚悟の塊、大切な存在を救うという一心でもって動く一人の漢だ。
「(絶対に助ける。今はそれだけを考えろ。
自分がどうなろうと知ったことか!!)」
千葉寿和が駆け出すのと同時に光弾が降り注ぎ始める。千葉寿和は体が思うがままに手を突き出した。体の芯から何かが溢れ出てくるのを感じる。その何かは肩を上り、腕を伝って、手の平から放出された。
放出された何かは光弾を破裂させていく。直線上に出来上がった空白部分は駆け上がる道と安全地帯となった。これで稲垣は助かったのと同義だろう。何もされなければの話だが。
やはりと言ってはなんだが、駆け付ける千葉寿和を狙った新たなる光弾が幾つか出現した。それらは上空の光弾よりも大きく、また内包する力は比較にならないほど膨大だ。襲撃者たちは最初から稲垣など眼中に無く、千葉寿和を釣りだす餌でしかなかったのだ。本来は上空のものを目眩ましにして本命を当てる作戦なのだろう。
襲撃者たちの任務達成条件は目標物の処分、即ちそれを所持する千葉寿和の鎮圧だ。無論、纏めて消し飛ばすのも視野に入れてはいるだろう。
「(来やがったな、カス共が!!)」
千葉寿和は罠であることに最初から気づいていた。飛び出せば狙い撃ちされることも理解していた。それがどうしたと千葉寿和は毒づく。命が脅かされる状況に陥っても千葉寿和は後悔などしない。足も止めることはない。覚悟はとうに決まっているのだから。
地面を蹴る足が砂利を宙に撒き散らす。稲垣との距離が縮まっていく。死の恐怖に呼応するように何かが溢れ出してくる。
「(ぽっと出の力を頼るのは少し怖え。そもそも使い方これで合ってんのかよ。
いや、こんな状況で四の五の言っている場合じゃねえな!)」
千葉寿和に被弾するであろう光弾は前方から二発、後方から三発、左右からそれぞれ二発ずつの計九発だ。全てを避けようにもどれか一発は必ず被弾する布陣だ。なんともいやらしい。
故意か偶然か前方からの二発はちょうど千葉の両脇を通り過ぎていく軌道だ。つまり何もせずとも前方の二発は当たらない。故に千葉寿和が足を止めることはない。
一歩踏み出せば光弾が両脇を通り過ぎていく。そして間髪入れずに背中から溢れ出す何かを放出した。手の平から放出したものより弱いが、求めていたのは通り過ぎた光弾が作動する程度の威力だ。そしてそれは目論見通りに通り過ぎた光弾を破裂させ、迫っていた他の光弾を巻き込み連鎖的に破裂していく。
千葉寿和のすぐ背後からけたたましい爆音と絶大なる衝撃が発生した。無理に放出したせいだろうか、それとも爆発の影響だろうか。千葉寿和の背は裂傷が走り血が噴き出してくる。千葉寿和がお気に入りにしていたお高いスーツもおしゃかになった。手痛い出費だが命よりかは安いはずだ。
斯くして命の危機を脱した千葉寿和は、第二波が来る前に稲垣をさっさと拾ってこの場から逃げ出す算段をつけていた。逸る気持ちが走る速度を上げる。池を取り囲む岩に右足をかけて一気に跳ぼうとしたその時、左足が着いていた地面が爆ぜた。もしくは競り上がったと言うべきか。
光弾だ。地面から光弾が出てきたのだ。狡猾なことに潜ませていたのだろう。恐らく稲垣を狙った光弾が地面を抉ったあの時だ。
地面を掘るためだろうか、光弾は衝撃弾ではなく貫通性を持っていた。被弾した千葉寿和の左足は脛の中部辺りを綺麗に切断されている。
先程でも言ったように人間は二本の足を頼りにしている。人間の足は二本で一対であり、一方が欠けると体勢が崩れてしまうのは至極当然のことなのだ。いかなる武勇の達人であろうとそれは絶対に起きる。片足を失う経験などそれが初めてなのだから。
千葉寿和は前のめりになった。足首一つ分の重心が前に移動したためだ。長く跳ぶはずだった右足の一歩は顔から水面に突っ込むことに相成った。水深は浅い所で膝下辺りまでであり、頭一つ入る程度のため勢いがあると底に打ち付けてしまう。
千葉寿和は選りに選って角張った石に額を打ち付けてしまった。傷ついた額から大量に血が溢れだし、衝撃を受けた脳が意識と視界を歪ませる。並みの人間であればそのまま死ぬところだが千葉寿和は覚悟を決めた男だ。この程度なら歯を食い縛って立ち上がれる。
千葉寿和はまず頭を水面から出した。視界は脳震盪と水のダブルパンチで最悪だ。耳もやられたのか音が遠い。手を着いて体を起こすが、片足だけで立とうするも乱れた重心と揺れる水面に足をとられて尻餅を着いた。
尻からくる衝撃に少し視界が回復し、千葉寿和は辺りの状況を認識した。降り注ぐ光弾が水しぶきと土埃を上げている。立派だった日本庭園が見るも無惨な姿に変わっていく。朦朧としている視界のなか、光弾が新たに出現したのを捉えた。一つ、また一つと増えていく。
「いな……が、き……」
今の状態では立つことすら難しい。だからと言って諦める理由にはならないだろう。
「ちくしょう……」
足が捥げようが這いずってでも本懐を遂げる。千葉寿和はそういう男になった。
「すまねえ。……すまねえ、稲垣…」
千葉寿和は鈍重な感覚のなか水を掻き分けて進む。足の肉が削げようと傷口が深まろうと構わず進む。
「オレじゃあ……オレなんかじゃあ」
遠近感を失った視界は稲垣がすぐ近くに居るような錯覚を起こした。千葉寿和は手を伸ばし触れようとするも、稲垣は遥か遠くだ。一向に触る感覚は返ってこない。
「お前を……守れねえんだ」
躊躇いもなく光弾は降り注ぐ。無慈悲に。冷徹に。無機質に。
救えなかったという後悔の最中千葉寿和は没し行く。後悔に溺れ、後悔に沈み、後悔に果てる。
それが千葉寿和の最後だ。
「(最後ぐらい、お前の笑顔が見たかったよ)」
千葉寿和は目を閉じた。終わり行く者に先を見る資格などないのだから、千葉寿和は自らの意思で瞼を閉じたのだ。
脳裏に浮かぶのは常に仏面の稲垣の顔。そこは家族にしておけ。可愛い妹がいるだろうに。
そしてその時初めて気づいたのだ。水音以外に音がしないことに。土を抉り、水が跳ねる衝撃が止まっていることに。
突然の異変に千葉寿和は目を開いて辺りを見渡した。おびただしい数の光弾が空中で静止しているのが目に入った。まさかと思い千葉寿和は後ろを振り向く。
少年がこちらに歩いて来ている。その顔に歪な笑みを浮かべながら。拾ったのだろう稲垣のCADは妙な光を纏い、何かが密集していることが分かった。
「良き覚悟、良き生き様、良き後悔よ。たった数瞬で見違えるほどに輝きなさった。
その輝きがお前さんを死なすには惜しい、と自分に思わせたのだ。お前さんの勝ちだ。誇るが良い」
少年が銃口をどこかに向けて引き金を引いた。耳鳴りのような奇っ怪な音が発生すると、静止していた光弾が一点に向かって飛んでいく。進行方向にあるものを破壊しながら石垣の向こうに消えていった。
「ふむ、外したか。中々難しいな。後で慣らしておこう」
静寂が訪れる。まるで嵐が過ぎ去った後のような静けさだ。実際にも嵐という危機が過ぎ去ったのだ。千葉寿和は安堵した。気を抜いたその時、何かが切れてしまったようだ。今まで感じていなかった痛覚が不意を突く形で千葉寿和を襲う。突然の激痛と脳のダメージが合わさり千葉寿和の意識は風前の灯火も同然だ。
「おっと、まだ寝るには早すぎるぞ。はよう起きんか」
少年は千葉寿和を引き寄せて頬に何発かビンタして覚醒を促した。ついでに脳にまで達していた額の傷を修正し、切断された左足はピッタリとくっつけておいた。背中の裂傷は塞がりつつあるので放置する。
「オ、オレのことは、いい。稲垣を、先に……た、頼む」
「実に殊勝な心がけだが、お前さんにはまだ果たすべきことがあるだろう? 罪の清算は早い方が良い。すっきりさせようじゃあないか」
「なん、だと……?」
千葉寿和の必死の嘆願を少年は無下に断った。お前が救われるのはまだ早いと。
「攻撃も止み、敵は退却しつつある。お前さんは脅威が去りつつあると思っておるようだが、それは大きく間違いだ」
池の方から一際大きい水しぶきの音が聞こえた。誰かが水中より姿を現す。隠れ潜んでいた脅威が今牙を剥く。
「お前さんは一度敵を撃退した。それは確かなことだ。良くできたと自分も思う。誰しもが認める功績だ。
だが、その後の対応は頂けん。どうした? あの女に情でも湧いたか?」
その女は浮かんでいる稲垣を抱え上げ首もとに短剣をあてがった。千葉寿和と少年に見せつけるようにしたことから、女が口にする台詞はある程度予想がつく。
「貴様ら、そこを動くなよ。手を頭の後ろに回し、地に這いつくばれ。妙な真似をすればこの男の命は無い」
清々しいほど決まりきった台詞だ。本当に本気で言っているのだろうか。怪しいところだ。
「ほら、良く見るがよい。お前さんの不手際でお前さんの大切なものが人質となっておる」
「……クソが」
ギギ、と千葉寿和の口から歯軋りの音が聞こえる。千葉寿和の顔には後悔の念がありありと浮かんでいた。自分の至らさなど言われるまでもなく千葉寿和自身が良くわかっている。
だが少年は敢えて叱責を続けた。
「何故あの時頭を飛ばさなかった。それを可能にする力はお前さんにあったはずだ。
何故あの時女を逃した。お前さんは敵を生かしておくほど甘い男ではないはずだ。
きっちり仕留めておればこんな事態に陥ることはなかったのだぞ」
「……クソったれが」
強張っていた千葉寿和の顔が更に歪んでいく。千葉寿和は少年に対して怒りを覚えているのではない。女に対する憤りもない。ただ、仕様がないほどのやるせなさが千葉寿和を悩ませるのだ。
「おい貴様! 聞こえていないのか! 黙って指示に従え! さもなくばこの男を殺すぞ!」
全く緊張感のない少年に痺れを切らしたのか、女は怒鳴り散らし脅しをかける。本気だと知らせるために剣先を首筋に突き刺して血を流させるのも忘れていない。迫真の演技だ。今日のために練習でもしていたのだろうか。
だがそんな女が鬱陶しいと感じたのか、少年は眉を寄せて銃口を向けた。千葉寿和ですら目に追えないスピードで。
「なッ、なにィ!?」
「その様子だと見えなかったようだな。そうだ、この通り自分はお前を即座に殺すことが出来る。その短剣がその首を刺し貫く前に自分がお前の首を貫こう。
さあ、動くがいい。その男を殺すがいい。自分は動いて指示を無視し妙な真似をしたぞ。お前が言ったようにその男を殺せ。惨たらしく殺せ。
もっとも、そんな勇気がお前ごときにあるとは思えんがな」
少年は呆れているような笑みを浮かべている。だがどことなく漏れ出ている殺意が針の筵のように女に突き刺さる。だからだろうか、女は少年を睨みつけていても短剣どころか体を動かすことが出来ないでいた。女を蝕み体を硬直させているのは死への純粋なる恐怖。それだけだ。
しかし恐怖に打ちひしがれようと女には希望があった。自分が稼いだ時間で攻撃の準備が出来ているはずだからだ。これだけ稼げば目の前の化け物を倒す魔法を使ってくれるかもしれない。
そんな妄想に近しい希望ではあったが縋る程度には実現する可能性は高い。事実、攻撃の準備は着実に進んでいる。空中に光弾が一つ、また一つと現れ始めた。
両者見つめ合うなか、おもむろに少年が口を開く。
「これは、視えているからこそ言える上からの助言、もとい忠告だ。お前はお仲間がどうにかして助けてくれると信じているようだが、あまり期待しない方が良いぞ。
奴らにとってお前のことなど、ただの消耗品でしかないのだからな」
少年に心中を読まれ女は狼狽した様子を見せる。しかし、認めたくないと言わんばかりに少年を非難し始めた。
「き、貴様! 何を言っている! あの人が私を見捨てるはずが……」
「そうかそうか、感動的だな。一方的な親愛ほど心にくるものはない。実に悲劇。そして、とっても滑稽だ。
さて、答え合わせといこう。正直飽きてきた。自分を見つめてないで空でも見るが良い。ほれ、上だ」
少年は銃口をクイッと上に向けた。女は釣られて視線を上空へ向ける。
「そ、そんな……。何で……」
光弾が空を埋め尽くしていた。先程のおよそ十倍だ。女が稼いだ時間は無駄ではなかったのだ。だが悲しいかなその成果は目に見える形で女の命を脅かしている。
だがこんな状況になろうとも女は希望に縋るのを止めない。女は根本的なところで誰かを盲信しているからだ。その人が直前に助けてくれるはずだとありもしないことを思い描いている。
「言ったはずだ。お前はただの消耗品、使い捨ての道具でしかない。扱いに困れば処理されるだけだ。
だが、なんだ。その盲目的な信頼は。洗脳でも受けたか?」
「う、五月蝿い! そんな訳あるか!! きっと、きっと何か策があるはずだ!! さっきだって私を避けて攻撃していたんだ!! 出鱈目を言って私を惑わそうとするんじゃない!!」
それら全ては千葉寿和の献身的な助命によるものなのだが、女はその時意識が朦朧としていたのだ。勘違いしても仕方がない。
「(とことん可哀想な奴だ。ここまで落ちぶれていたとはな)」
こんなのを助けるために命を削ったのだと思うと千葉寿和は悲しくなってきた。千葉寿和は理解出来ないししたくもないが、自身の体が平時のそれと何ら変わりがないことに気づいている。
だが動くつもりは全くなかった。少年は千葉寿和に見ていろと言ったのだ。間違いなく少年は千葉寿和を助け、稲垣も助けてくれるだろう。千葉寿和は女を助けたが、今となっては女が死のうが生きようがどうだって良い。
千葉寿和と女の関係はちょっとした家繋がりの古い知り合いでしかない。大切な存在だとは百歩譲っても言えないだろう。天秤は稲垣に傾いている。
そうして光弾は降り注ぐ。無慈悲に、無差別に。女の想いに唾を吐き捨てて。
「(何故……何故なのです。何故私を裏切るのですか。あれほど貢献したのに……あれほど貴方の為に生きてきたのに……何故)」
女の手から短剣が落ちる。戦いも、抗う意思も、誇りすら放棄して女はひたすら疑念をぶつける。最も信頼する者からの反逆ほど、心を痛め付けるものは無い。
「全く、馬鹿の一つ覚えよ。対処されることぐらい分かっておろうに」
少年はそう言い光弾を一つ撃ち抜いた。続け様に先程と同じ方向に銃口を向けて引き金を引いた。やはり先程と全く同じ光景となる中、魔法ではない何かが打ち出さる。
形状から察するにグレネード、つまるところ魔法に依存しない化学兵器だ。だがどういうわけかその軌道は少年ではなく女を狙ったものだ。成る程、目的は最初から女だったのだ。上空の光弾は目眩ましに過ぎないってこれさっきもやったな。奴らの常套手段なのか?
「(口封じ……いや、あの女が重要なことなど知らされる訳が無いか。ならば証拠隠滅か。これだけ暴れておいてしらばっくれるつもりか? 無駄な足掻きにしかならんぞ……む?)」
少年は女に抱えられている稲垣が目を醒ましていることに気づいた。少年は手榴弾を撃ち落とすのを止めて成り行きを見守った。稲垣の行動に注視したのだ。
これは意地悪でも何でもなく、少年は稲垣の行動を見ようとしただけだ。父との戦いにおいては邪魔だとしか思えなかったが、助けようとしたことは事実なのだ。今こそ見極める好機と言えよう。
まあ何と言おうとも人の生き死にを眺めるカス野郎でしかない。少年はどことなく薄情だ。
稲垣は飛んでくる手榴弾を目にすると、魔法で迎撃することも、逃げようとすることもせず、手榴弾に背を向けて遠ざけるように呆けている女を突き飛ばした。咄嗟の行動はその人物の本性を大いに表していると聞く。
稲垣は命を失おうと誰かを救おうとする、そんな人間だ。無鉄砲で向こう見ず、さらに実力が伴わないがそれでもその理念は高潔であった。人の醜さばかり目にしていた少年はそんな稲垣が眩しく感じ、そしてこんな人間も居るのだなと少し感動を持って稲垣を称賛した。
少年は飛んでくる鉄の破片を弾きながら、この男二人組を気に入ってしまっている自分を認識した。かつて求めていた優しさというものを二人は持っている。気に入る理由はそれだけで十分だ。
「(そうだ、もう十分だ。これ以上粘ってもちょっかいをかけられるだけだ。興醒めしたくはない。防護壁でも張ろうか)」
少年を起点としドーム状の膜が展開していき敷地をスッポリと覆った。これである程度は何とかなるだろう。ついでとはなんだが女の洗脳も解いておいた。稲垣は命を賭けて女を救ったのだ。その善行は当然報われて然るべきだろう。もっとも、女がそれで救われる訳ではないがな。
「おいおい、無茶するねぇ。下手したら死んじまうぞ」
「安心するが良い。生きている以上死ぬことは無い。きっちり治してやろう」
「へぇ、そいつは心強い」
千葉寿和に余裕が出てきたのかその口調はどこなく軽いものだ。それもそうだろう、命の危機が去ったのだ。気を緩めて何が悪い。
千葉寿和は起き上がり躊躇なく池の中に入っていく。池と言ってもその水位は殆ど無い。何処かに穴でも空いたのか水が流れているようだ。優雅に泳いでいた鯉は光弾によって爆破され、見るも憚る状態で取り残されている。
魚の血生臭い匂いが立ち込める池の中心地には、倒れ伏す稲垣とその奥に空を眺めている女がいる。稲垣の背には幾つかの鉄の破片が食い込み血を流している。だがそれだけだ。被害の小ささから何からの防護する魔法を使ったのだろうと千葉寿和は当たりをつける。
千葉寿和は稲垣の近くにしゃがみこみ話しかけた。
「よお、稲垣クン。生きてるかい?」
「……はい。何とか、生きてます」
掠れた声ではあるものの意識ははっきりとしているのか、千葉寿和の問いに対し稲垣はしっかりと返答する。別れてからまだ数分も経っていないというのに、千葉寿和は憎たらしいその声に懐かしさを覚えた。
「ふむ、この程度ならすぐに終わる。どれ、少々痛むぞ」
千葉寿和の後ろにいた少年は、腕を伸ばして刺さりの浅い鉄片を掴み一気に引き抜いた。それと同時に埋まっていた鉄片も飛び出し傷口から更に血が吹き出る。だが出血はすぐに収まり傷口は何かが塞いだ。
稲垣は最初こそ呻き声を上げたが突然痛みが消えて困惑とした表情を見せている。相も変わらず不可解な力だ、とその力で自分の背中を治してみせた千葉寿和は思ったりした。
「傷は塞いだとはいえ流れた血は戻らん。血が足りぬ故、かなりふらつくはずだ。支えてやるが良い」
「ああ、こりゃどうも。稲垣クンも感謝しとけよ」
「は、はあ……。どうもありがとうございます?」
いまいち状況が飲み込めていないようで、稲垣は戸惑いながらもやけに風格のある上司の指示に大人しく従った。そして感謝の対象があの少年だと気づき、この通りピンピンしているので少し安堵してたりする。
「さてと、こんな臭え所に居たってしょうがねえぜ。なあ、すまねえが部屋を借りてもいいか?」
「ああ良いとも。だがその前に服を変えることを推奨しよう。布団の替えがあまり無いのでな。
縁側で待っておれ。服は使い古しが何着かある」
「あいよ。おら、行くぜ稲垣クン」
「あ、いや、まだ彼女が…」
稲垣は千葉寿和に体を起こされながら、未だ立ち上がる気配の無い女をチラッと見た。
「まずは稲垣クンの体を何とかするべきだろ。あんなの放っておけ。気にするだけ無駄だ。そのうちどっか行くだろうよ」
千葉寿和は冷たく言い放つが、一度殺されかけたのだ。それなのにも関わらず見逃してやるのは温情と言っても過言ではない。
千葉寿和は稲垣を支えながらえっちらおっちら歩いていく。何か知らないが絆が深まってそうだ。
少年は父の所持していた服が何処に仕舞ってあるのか思い出していると、倒れている女と目が合った。何か話したそうにしていたので少年は女に近づく。別に話を聞く義務など少年には存在しないが、今の少年は機嫌がすこぶる良かった。言い換えれば、話を聞く理由はそれぐらいしかない。
「…なあ、私はどうすれば良い?」
「何だ? 藪から棒に」
女は話を聞いてくれると思っていなかったのか少し驚いている。だが、聞いてくれるならば、とポツリポツリと語りだした。
「十三年前に家が没落した時、路頭に迷った私はあの人に引き取られた。それから今日に至るまであの人の手となり足となって動いてきた。
命令の赴くままに何人か暗殺したこともある。能力を活かして敵対勢力に忍び込み、情報や弱味をあの人に送ったこともある。間違いなく私は命を対価にして職務に就いていた。これら全てはあの人に対する忠誠心によるものだ。それは確かに私の中で存在している。
だが、どういうわけか私の心はあの人に対する言い様の無い不信感と、膨張し続ける疑念で渦巻いているのだ。
あの人に救われた恩があった。あの人に仕える誇りがあった。それらは他でもないあの人によって汚され、踏みにじられた。とんでもない裏切りに遭った気分だよ。
なあ、私はどうすれば良い? 私はあの日、家族から見放された時から居場所を求めている。悪いことだと分かっていながら、あそこに留まっていたのが良い証拠だ。そしてその居場所を今日失った。戻りたく無くなったんだ。
なあ、私はどうすれば良い? どうすれば居場所を得られる? 何処に行けば良い?
なあ、お願いだ。教えてくれ」
少年に勢い良く捲し立てる悲痛な顔をした女はその眼に涙すら浮かべている。女の時間は帰る場所を失った十三年前のその日から止まったままだ。止められたままだったのだ。体が大人になっていようが少年からすれば年端のいかない少女に過ぎない。
行く先の見えぬ少年に嘆願する少女もまた道を外した迷い子だ。
「お前とは自分が生まれた頃からの縁だ。良いだろう、自分勝手な意見であれば話してやろう。
自分で探すが良い。お前は自由だ。何処に行こうが何をしようが自由だ。間接的にしろ果て無き自由を手にしたのだ。今の自分と同じくお前を縛り付けるものは何一つ無い。
そのたった一つの力を使い世界の果てへ逃亡しても良い。その力があれば誰にも邪魔出来んよ。
或いはお前を助けたあの男に保護してもらうのも良い。あの者ならば喜んで救ってくれるだろう。自分としてもこちらを推奨する。知古と居ればお前も休まるだろう。
だが、お前がここに留まり続けるのならば古巣へ帰ることだな。求めるだけで行動しない愚か者は生きるだけ無駄だ。せいぜい他人のためにその命を磨り減らすがいい。
……明日、彼らがここを去るまでに決めることだ。時間は解決してくれないことはお前自身が良く知っているはずだ。本当の愚か者にならぬことを願っておるぞ」
一方的に言いつけられた三択は女の人生に大きく影響しただろう。独り立ちできるほど心が強ければ一つ目の選択に。孤独に心が耐えらず、しかし居場所を求める勇気が有るのなら二つ目の選択。時間切れが三つ目の選択。そして言外に与えられた敵対するなら死ねという四つ目の選択。
少年は女に選択肢を与えてやった。女がいきなり自由になっても行動できるとは思っていなかったからだ。女がどれを選ぼうと少年はそれを尊重するつもりだ。全ては少年の機嫌で決まる。
長々と話しているうちに千葉寿和と稲垣が縁側に辿り着いたようだ。少年を呼ぶ千葉寿和の声がする。待たせるのも悪いと思い踵を返して屋敷に向かった。
だが、その歩みは数歩もしないうちに止まった。何かに感づいたようだ。非常に忌々しい顔をしている。
「少し訂正しよう。自分はまだ、自分を束縛している存在から逃れられていないようだ。故に、見ておくが良い。これから始まるのは自由を手にする為の戦いだ」
突如として剣道場から轟音が発生した。衝撃を伴うそれは倒壊しかけの剣道場を崩壊させた。縁側に居る千葉寿和は警戒を露にするがそれは杞憂に終わるだろう。剣道場が崩れ落ちる中、歩む敵の意識は少年にしか向いていない。
「失念していましたよ。父よ。
貴方もしつこいお人のようだ」
稲垣くんが池にダイブしてから、寿和くんが顔を突っ込むまで五秒しか経ってないってマ?
まるでHU○TER×HU○TERみたいやな!
突然のキャラ紹介
・少年(主人公)
自由になったし、新しい玩具(CAD)も貰ったし、優しさを目の当たりにしてあったけえになったしでウハウハである。最後ら辺でテンションが少し下がった。
・超人描写で良く見かける石礫ショットガンでズタズタにされた人
生きてる。けど二度と出てこない。
・遠くからチマチマ魔法を打つカス共
それなりに優秀。
・あの人
多分クズ。次の次辺りに出場予定。
・女
色々有りそう。次で話すと思う。
・どことなく主人公臭のする千葉寿和
多分作中で一番改変した人。原作ではキャリア組で警部になっているが、今作ではノンキャリア組からの叩き上げ。つまり高卒である。
主人公と年齢を合わせる為と、設定集を見ながらコイツ面接で落とされそう(自分を顧みないクズ)と思ったのが原因。
取り敢えず覚悟をキメさせた。人格が少し変わってる。
・何故かヒロインになった稲垣
アニメ見て(流し見)原作読んで(十四巻まで)キャラうっす! てなった。正直森崎よりモブしている。なので聖人君子にしておいた。いつかボロが出そう。
・父(京沢才治)
良くいる刀の達人。侍では無い。魔法が嫌いなのに魔法を使う矛盾してる人。