至高の悪夢   作:巳傘ナコ

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第一話 《影の支配者》と《ゲンコツ》と《若き怪物》

欠片蝙蝠〈虚〉(ブリックバットホロウ)!!』

 

 

 瓦礫と死体の山の上に立つ少女が明るむ空にニヤリと笑みを浮かべ、小さかった少女の影は背後に登る朝日によって、どんどん伸び、影が伸びきったのを確認すると今度はサイズの合ってないダボダボの黒い革のジャケットからパチンっと指を鳴らす音がした。

 巨大となった影がシールを剥がすようにペリペリッと地面から剥がれ、今度は数多の丸く可愛らしい蝙蝠の形となって飛び立ち空を覆った。

 空を覆うほどに増えた影の蝙蝠達は主である少女を狙ってきた海賊達の影に飛び込むと海賊達の影から腕や足、腹のど真ん中や耳など様々な部位を咥え千切り、影から飛び上がる。

 自身の影が欠けた事以外に目立った変化はない事に海賊達は少女の技が不発に終わったと判断し、仲間の死体と瓦礫で出来た山に座る少女に斬りかるが……

 

 

『夜明けと共に始まる【悪夢】ってのも面白れぇだろ、キッシッシッシ♪』

 

 

 そんな台詞と共に少女が山から降りると、今まで少女が阻んでいた朝日が海賊達に降り注ぎ、大の男達の悲鳴が辺り一面に響き渡る。

 

 

『《影》とはもう一人の自分! 己の半身! 影が有るってのは陽の下を歩くことの《代償》! 払える《代償》ねぇー奴に陽の下を歩く資格はねぇーのさ! 分かったらさっさと消えやがれ、雑魚共が!』

 

 

 少女の前には《体の一部の消失》という理解及ばない未知の現象に怯え、恐怖し、狼狽え、戦意を無くした海賊達。

 

 

『にしても、《(ホロウ)》は数と影への干渉に秀でちゃぁーいるが、欠片蝙蝠(ブリックバット)程の耐久性と単純作業しか出来ねぇーのとが難点、こりゃぁ改良の余地ありだな』

 

 

 自身の技を考察しながら少女は歩きだす。

 四方から聞こえる悲鳴を堪能するようにゆっくりと。

 

 

『テメェらみてぇなのは《海賊》とは言わねぇーのさ! 本当の海賊って奴等には、この程度の《未知》はテメェの野望を彩るスパイスでしかねェ! 本当の海賊には《死》さえ、脅しにならねェ! テメェらみてェな偽物はさっさと《海賊》辞めちまいなァ! キッシッシッ! キィーシッシッシッ!』

 

 

 敗者の海賊達を笑い飛ばすも、勝者であるはずの少女の内心は憤怒で煮えたぎっていた。

 理由は単純で死刑執行直前に海賊王が放った台詞と共に訪れた大海賊時代。

 それ自体は少女にとって喜ばしい事なのだが、それによって増えた海賊の質が問題だった。

 ほとんどの海賊が死を前にすれば怯え、意地を、夢を捨てるような小物ばかり。

 その癖、他人にはそれを強いる様な奴ばかり。

 

 少女が《あの日》死刑台で見たような海賊が居ない……

 

 その事実が少女を苛立たせた。

 そんな少女を迎え経たのは、黒を基調とした軍服と【正義】の2文字が入った黒い中将コートを来た老人。

 

 

「お前さんの反応見る限りじゃ、儂が出張る必要は無かったようじゃな《船長》」

 

 

『気色悪い呼び方すんじゃねェ!! テメェにそう呼ばれると鳥肌立つんだよ、ガープッ!!』

 

 

 ガープと少女が呼ぶ老人は今年60になると言うのに、その鍛えられた肉体は今が全盛期と言わんばかりに筋骨逞しく、纏う空気も到底60には見えない程にハリがあった。

 その証拠にガープの背後には半壊したもの、木っ端微塵なもの、沈みゆくもの、その状態こそ様々ではあるが10を越える海賊船の成れの果てがあった。

 

 

「ガッハッハッ!! 儂を唆しておいてなんて言い草じゃ、ヒヨッコ海賊!」

 

 

 豪快に笑いながら懐から煎餅と書かれた紙袋を取り出し、中から煎餅を1つ掴んではバリバリ、2つめ掴んではバリバリと食いながら《船長》と呼んだ少女を今度はヒヨッコ呼ばわりするという自由っぷりである。

 

 

『ケッ! アタシは唆してなんかいねェ、ただあの《生ける伝説》ゲンコツのガープが糞つまんねェ屑共の為に《意地》を曲げるのが気に入らなかったからチャンスをやっただけだ』

 

 

 一週間前までは数多の功績から同じ海軍や一般人からは《海軍の英雄》、その実力から敵対する者からは《ゲンコツのガープ》と呼ばれた正真正銘の生ける伝説のガープ中将。

 そんな彼が中将止まりなのは、それ以上の地位になると|天竜人《金魚鉢被った竜を冠するのもおこがましいクソッタレ》からの依頼(我儘)に付き合わねば無くなり、それが《己の正義》に背くものだったとしても一度上が引き受けたなら、やらなければ奴等の依頼(我儘)の矛先が同僚や身内、果ては海軍そのものに向く。

 故にガープはいかなる功績を立てようと《中将》以上を望もうとも必要しようともしなかった。

 

 しかし、《あの日》だけは違った。

 

 ガープだからこそ意味の生まれる依頼(我儘)が来てしまったのだ。

 海軍も市民も海賊王ですらも《あの日》あの場所にいた全てがガープの、英雄の不遇に拳を握り、唇を噛み締めた。

 それを救う形となったのが、この少女だった。

 少女は己の《野望》の為に、貫き通す《意地》の為にガープを救い、仲間に引き入れた。 

 

 

「ガッハッハッ、本当生意気なクソ餓鬼じゃ! いっそ、お前も儂も懸賞金もまだついとらんし、センゴクに言って儂と海軍入るか?」

 

 

「馬鹿言ってんじゃねェ、クソ爺!! あんだけの事しといて、戻るってテメェの面の皮は鋼鉄製の恥知らずかっ!!」

 

 

《世界最強戦力》の一人を手に入れはしたが、いかんせん彼は自由過ぎた。

 法と秩序を重んじ、背負う【正義】の二文字に偽り無し、そんな彼だが海賊王ゴール・D・ロジャーに退けを取らないその自由さは、海軍を止めて海賊になったにも関わらず未だにこうして少女を海軍に引き抜こうとする程である。

 

 

「わしゃぁ、そんなの気にせんしっ! 海軍は楽しいぞ、モリア! 始末書はほっときゃ消えるし、ある程度の地位に着けば上の命令も無視出来るっ!」

 

 

 本当に《中将》だったのか? そんな疑問を抱かずには居られないセールストークに少女は頭を抱え、彼の同僚である《仏》《黒腕》《大参謀》に深い、海よりも深い同情を抱いた。

 

 

『始末書は消えてるわけじゃねェーよっ!! 天竜人やら世界政府やらのしがらみモロに受けるあの場所であんだけ我儘通せんのはテメェぐらいなんだよっ!!』

 

 

《海賊》の自分が言うのもなんだか、彼の同僚達の為にもこの自由人に一言物申してやろうと少女は口を開いた。

 

 

「っ!! ひょ、ひょっとすると儂って凄い?」

 

 

『今更かっ!!!』

 

 

 完全に彼のペースである会話に眉間に皺を作りながら深いため息を吐く少女は、まだ海賊旗も揚げてない小船に戻り、船室に入り一息つく。

 時が来るまでの《臨時船員》として同船している女性がガープにはお茶、少女にはコーヒー、それぞれを目の前に置く。

 そして、二人のやり取り見ながらクスクスと嘲笑でも侮蔑でもなく楽しそうに笑っていた。

 

 そんななか自由人代表とも言えるガープが話を切り出した。

 

「で、これからどうするんじゃ?」

 

 

『ひとまずは《コイツ》の待ち人を待って引き渡す。 ついでに《ソイツ》と協力関係になれりゃぁ、アタシの《野望》もテメェの《正義》も目の前とは言わねェが、チンタラやるよりは一気に近づく……』

 

 

 急に真剣な顔で話し始めるガープに、取り繕うことしない彼が年柄年中これだったら楽なのにと想像するも、これはこれで疲れると考えるのを止め、少女を指差しながら現在進行形でこの島で待ってる相手とその目的を話す。

 

 

「私は交渉の切り札にはなりませんからね!」

 

 

『《切り札》じゃねェ、《手土産》だ。

 あの怪物と話をするなんざぁ、アタシみたいた無名の小物じゃぁ端から無理……だからこそのお前だ。

 わざわざ懸賞金上げる前、一般人として海軍と《海賊500人の捕縛》で取引してまで頼んでお前の懸賞金0の手配書を回させたんだ。

 もし、テメェの《待ち人》がソレを見てりゃ、ここに来る。

 ソイツと話せるチャンスが作れりゃ、テメェの役目は終わりだ。

 少なからずアタシはテメェの恩人……向こうだって引き取って終いなんて薄情な真似はしねェさ……まぁ、あくまでアタシの勘だがな…キシシ♪』

 

 

 あの人の枷にはならない!そんな意志をハッキリと伝える女性に少女はチッチッチ!と小馬鹿にするように舌を鳴らし、人差し指を左右に振り、女性を使って有利に取引する気はなく、ただチャンス作りたいだけだと伝える少女。

 

 

「もし、あの人が話し合いを承諾しなかったら?」

 

 

当然ながら、女性を引き取ってサヨナラ…そんな展開だって十分にありえる。

だからこそ、女性は尋ねずにはいられなかった。

《彼》と恩人である少女が争うのは女性にとって最悪の展開だからだ。

 

 

『そん時はチミチミやるさ。《意地》通して地獄生き抜いた女に《切り札》になれっ! なんて言うほどアタシは鬼じゃねェ。 本当の《意地》を通す奴には、通した《意地》に見合った結末が……って、来たみたいだぞ《待ち人》が……新世界の怪物と呼ばれた男、ギルド・テゾーロがっ!!』

 

窓から見えた光に船室から甲板へ出る女性と少女。

空を照らすサーチライトとその光もあって輝き増す軍艦を改造して作ったとされる黄金のカジノ船【グラン・テゾーロ】、それを支配する者にして新世界の若き怪物《ギルド・テゾーロ》こそが少女か待つ者。

 

此処までは上々!と《海賊》らしい笑みを浮かべる少女。

後は全てが運任せ!一か八か!吉と出るか凶と出るか!

礼儀なんざ海賊に求めるほどお坊っちゃんじゃ無いのは調査済み…だが、少しでも可能性を上げておこうと、第一印象違うだけで勝率はグンッと変わる。

少女は戦闘で砂埃ついた服を着替えるために再び船内に向かう途中、入れ違いでガープが出てくる。

 

 

「金ピカ過ぎて目が痛くなる船じゃ!」

 

 

そんな子供みたいな反応示すガープに一気にヤル気を失いかけるが、構ってられるかと気持ち入れ替えて船内に進む少女。

 

 

『ほっんとに締まらねェ、ジジイだ……』

 

 

口から漏れる愚痴はご愛嬌と言うやつである。

 

 

「しっかしまぁ、《新世界の若き怪物》を呼び出すとは、とんでもないクソ餓鬼じゃわい! 《影の支配者》ゲッコー・モリア…コイツァ、ひょっとすると、ひょっとするかもしれんぞセンゴク…ガッハッハッ!」

 

 

親友とも呼べる同僚《仏》の名を呼び、豪快に笑う《英雄》

そんな《英雄》を引き抜いた少女の名はゲッコー・モリア

《海賊》を目指す途中であり、懸賞金は0にも関わらず《影の支配者》と呼ばれるほどに有名な少女

 

 

これはそんな少女が《野望》と《意地》を貫く為の物語

 

 

 

世はまさに大海賊時代!

 

 

 

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