黄金の軍艦の表面が波打ったかと思えば、今度は触手のように蠢きながら岸まで伸び、世にも珍しい純金の階段が出来上がった。
その道を優雅に、一歩一歩が洗練された動きで下りてくる男こそ《新世界の若き怪物》と言われたギルド・テゾーロである。
「いやぁー、驚かせてしまったのなら申し訳ない! 私はカジノ《グラン・テゾーロ》のオーナーをしていますギルド・テゾーロと申します。 以後お見知りおきをMs.モリア、そしてMr.ガープ。」
『キッシッシッ! 全部調査済みってなら話が早え…ギルド・テゾーロ、テメェと話す場が欲しいってのがアタシの要件だ!』
ガープは
テゾーロが知っていても可笑しくはない…が、モリアは違う。
《影の支配者》なんて異名を持ってはいるが、賞金稼ぎでもなければ、《まだ》海賊でもない。
世界政府としても《あの日》大勢が見てる前で、政府どころかマスコミや市民までもを巻き込んだ《世界的大隠蔽》を行わせた《ゲッコー・モリア》という存在が公になることを望まず、隠した。
そんな自身の事まで知っているなら腹の探り合いは無用と判断したモリアは《新世界の若き怪物》に会談を申し込んだ。
「コイツが海軍でも噂になっておった《新世界の若き怪物》…ロジャー程じゃないが、中々良い面構えしちょる!」
初めて会った男を獰猛な笑みを浮かべながら評価するガープにゴクリと唾を飲むテゾーロ。
以前の
しかし、今は違う…
海軍を止める祭の退役式でインタビューしに来た世界経済新聞社の次期社長と名高いモルガンズの前で『ワシ、海賊になるっ!』と発表し、世間のド肝を抜いた彼。
しかも、『今まで海軍じゃったから我慢しとったが、海賊になるんじゃから《世界政府》やら《天竜人》やらを気にせんで済むし、天竜…じゃなかった、クソッタレ共がフザケた真似しとったらウッカリと砲弾ぶん投げて沈めるかもしれんが《海賊》じゃから構わんかっ! ぶわっはっはっ!』なんて事まで、ぬかす始末。
退任するならと《英雄ガープ》を自身の権力誇示するための一品にしようと本部まで降りてきていた《天竜人》の護送船に向かって、名だたる海賊を海の藻屑へと変えてきた
これに激怒した《天竜人》は護衛の
映像電伝虫により世界中に放送されたこの中継、普段飄々としロジャーを彷彿とさせる自由っぷりが目立っていたガープが、かつて無いほど激怒し、放った覇気は電伝虫越しに見ていた海賊達を昏倒させるほどに凄まじく、後に四皇と呼ばれる海賊達にガープに対する認識を改めさせるほどだった。
故にテゾーロは警戒する。
小さなミス一つでもガープの機嫌損ねれば苦労して築き上げた、地位も名誉も権力も全てが壊される可能性が大いにあるからだ。
『《新世界の若き怪物》の異名持つとはいえ、テメェやロジャーと並ばせるにはアタシと一緒、《まだまだ》ルーキーなんだから怖がらせてんじゃねェーよ! さっきも言ったが、こっちは《話し合い》の場が欲しい…コイツはその手土産だ!』
モリアが指をパチンッ!と鳴らすと彼女の影が実体化し、船室から《
テゾーロから見れば、メリット無い条件を飲まざる負えなくなるほど、交渉の材料としての価値が有る女性。
モリアの出方次第では最悪の場合、実力行使もありうると《金》に力を込める。
『そぉ、カッカッすんじゃねェーよ、キシシ…
モリアが
「ステラッ!!」
「テゾーロッ!!」
地位も、名誉、権力、力でさえも望むままに掴み取ってきたテゾーロが成り上がる事を望んだ切っ掛けにして、唯一手に入れられなかった《
一見すれば強面の彼が今浮かべている表情こそが、エンターテイナーとして《ギルド・テゾーロ》ではなく正真正銘の一人の人間《ギルド・テゾーロ》の顔なのだろう。
《天竜人》が絡み、一度は奈落の底まで堕ちた二人の人間の物語にしては、これ以上無いほどのハッピーエンド。
「ぶっわっはっはっ! やっぱモリア、お前海軍向いとるぞ!」
『誰がなるかっ! キッシッシッ、幸せ満喫してる二人に水を差すのは心苦しいが、乳くりあってないでアタシの要望は聞く、聞かねェのかそろそろ答えくんねェか?』
完全に二人の世界満喫してる二人
最初こそ《この二人》の再開に水を差すのは野暮だろとガープの海軍勧誘を断るという方法で暇を潰していたモリアだったが、二人の世界が5分過ぎ、10分過ぎ、20分超えようとした時、流石に長すぎねェーかと額を指でカリカリと掻きながら、世界に割って入った。
「ち、乳くり合ってなんか居ませんっ!!」
ステラは顔を真っ赤にしながらモリアの台詞に異議を唱えるも、へぇー、そうですか、と聞く耳持たずのモリア。
テゾーロはテゾーロで新世界や政府に舐められないように作り上げたイメージの崩壊を見られて顔こそ赤くはないが耳が真っ赤になっていた。
「んんっ! お恥ずかしいところをお見せしました、Ms.モリア。 ステラの恩人たっての願い、《話》はお聞きしましょう!」
直ぐに普段の《ギルド・テゾーロ》へと戻った彼は《話》は聞くと言った。
それは、モリアの話に乗るか反るかは内容しだい、今回の恩が《話し合い》のセッティング以上になることは無いと言う意味を含んだもの。
『キッシッシッ、喰えねェ野郎だぜ! だが、アタシとしても持ち掛ける相手が、この程度で靡かれちゃ信用出来ねェし、なによりトントン拍子ってのもつまらねェ!』
無駄足となるか、成果をだすかは自身次第の状況を楽しむモリアにテゾーロは中々有意義な会談になりそだと心踊らせた。
緊張すら楽しむ二人に水を差したのが……
「あっ! 煎餅無くなった!!」
自由奔放《海軍版ロジャー》を地で行くガープ。
ステラはクスクスと楽しそうに笑いながらテゾーロの手を強く握り言った。
「貴方の船にお煎餅って売ってる?」
モリアが事を起こした《あの日》まで天竜人の奴隷だった彼女。
奴隷以前と変わらことない人間性を持ち続けた彼女は力こそないがある意味ガープ寄りなのかもしれない。
『ガープ、少しは緊張ってもんを覚えろっ!!』
「ステラ、君も変わってないなぁ…」
片方は呆れ、片方は嬉しさから来る溜息を吐いて一言言った。
『「はぁ…締まらないな」ねェ…』