イナイレップーケン   作:つヴぁるnet

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転がるボールの様に もしも がある話たち
太陽の様に暖かい女の子の世界線


 

あれからそれなりに時間が経った。

 

 

エイリア学園の悪夢が終え、いまわたし達は謹慎期間中だ。 主にボランティア活動などに参加して償いを働きで表すようにしている。 今日のボランティア活動にはプロミネンス…だった太陽組が軍手をつけて砂浜で活動中。 ビニール袋を持って周りを見渡せばあたり一体ゴミだらけ。

 

いまから一つ一つゴミを回収する地味な活動が始まる。 楽しいとは言えないがあの晴矢くんは黙々と作業をしている。 ふつうならこのような作業は苦手なので「面倒だ!」とか「やりたくないぜ!」って喚く筈だ。 しかし晴矢くんは何も言わず取り組んでいた。 やらなければならない事だと理解してるからだろう。

 

 

 

「うおお! 旋風陣!」

 

 

 

そして離れたところでは砂嵐が起こっていた。

 

その原因はまず一つ。

 

破和土 基秀である。

 

彼もまたゴミ拾いを手伝おうと軍手を付けていたが周りのゴミを旋風陣で集めようとしていた。

 

 

 

「おぼぼぼ、ぼわぁ、この砂、深い…たぁすぅけて! おぼぼぼ!」

 

 

 

「基秀兄貴が回り過ぎて砂に突っ込んだぁ!」

 

「自分から砂地獄するその器用さ私は好きよ」

 

「ああもう、無茶苦茶だよ」

 

 

 

普通なら彼はエイリア学園の騒動を止めた功労者としてこのボランティア活動に参加する必要はない。 だけど彼も一緒にやると言って軍手をつけて参加を希望した。 まぁ私たちのお目付役として彼は必然的に抜擢されたが彼が手を汚してまでゴミ拾いをする必要はない。

 

それなのに…

 

 

 

 

「お、これよく見たらアイスの当たり棒じゃねーか、ラッキー(スキルでは無い)」

 

 

「「「!!」」」

 

 

「そんなに欲しいか? 欲しけりゃくれてやる! 探せ! 全てをそこに置いてきた!…と、いうことでゴミ探して見事俺から手に入れてくれ!」

 

 

何名ほどかアイスの当たり棒が欲しいらしく、基秀がどこぞの処刑を受ける間際の海賊王のセリフを放った瞬間にやる気を出してゴミ拾いに精を出す。 暑い日に冷たいアイスをもらえるなら頑張りたい気持ちもわからなくない。

 

しかし、私は知っている。 基秀がポケットからアイスの当たりを取り出した事を。 つまりこのためにわざわざ本物を用意したようだ。

 

 

 

「相変わらずだね…」

 

 

どれだけ時間が経っても彼は私たち目の前にいる時は良き兄貴分として振る舞い続ける。 それはうれしい事でもあるが自立心を奪うようなもどかしい物でもある。 だがお日さま園の皆んなはいずれ基秀に頼らず自分の力で外の世界を歩まなければならない。

 

それこそ、基秀の側から離れ……

 

 

 

「!」

 

 

そうか…

 

そういえばそうだ…

 

よく考えたら将来的に基秀の元から離れることになる。

 

なぜなら私の夢は最強のサッカー選手。

 

お日さま園の中でくすぶってる訳にはいかない。

 

あそこは居心地が良いけど、私は夢のために再び走り出さなければならない。

 

 

でも…

 

やはり…

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

いずれその時が訪れる将来を考えて途端苦しくなる。

 

 

ああ、私はこうも弱かったのだろうか?

 

 

いや、もともとそんなに強かったとは思えない。

 

皆に負けぬよう強気で振る舞い、そして舐められないように目つきも弱くないようにして、そこら貧弱な奴なんかよりも私は鍛えてきた。

 

だってそれは私が幼い頃に最強のサッカー選手の夢見ていた事。 そしてなによりもその夢に対する思いが強くなったのは彼の存在が大きい。 まだ幼子の私は将来目指したいその強さをそのまま身につけている彼のプレイを見てこんなにも魅力的なんだと心が踊った。 素直に憧れを抱けるようなその佇まいは私にとって目指したい場所となってくれた。

 

だからこそ、彼を超えるサッカー選手になりたくて常にサッカーボールを転がし、私は将来の私のためにひたすら強くなってきた。 だからそれを離れたく無い"恋しさ"で止めて良いほど簡単に捨ててはならない気がした。

 

 

それに、彼は吉良瞳子さんが好きだった筈。

 

あの二人が会話すると時は柔らかい空気が流れる。 いつもキリリとしている瞳子さんも基秀と話すときは何処か嬉しそうで、会話の中で多くは語らずとも通じ合う。 それは互いに信頼してる証だと理解している。 見ている側としては微笑ましく、そして時々胸を痛めるようなもどかしい光景でもある。 あの二人の仲が良いのならこちらとしても喜ばしい関係だと思う。

 

だが、私は複雑な気持ちを抱いていた。

 

もしかしなくとも、瞳子さんも、彼の事が好きであり、彼が『これまでよりもっと寄り添いたい』と言えば、瞳子さんは困りながらも、それを了承する未来が見える気がする。 なんなら基秀がやや強引に納得させ、彼女を手に入れるかもしれない。 これもあり得る話だ。

 

 

それほどにあの二人はお似合いだから。

 

私なんかよりも、お似合いだ…

 

 

 

 

 

でも…

 

 

正直に言えば…

 

 

私だって彼が好きだ。 大好きだ。

 

 

『like』じゃなくて『Love』だと言える感情。

 

 

そもそも、あの人の事を好きにならないのがおかしいと思う。

 

だって彼はそう言えるほどの人間だ。 そんな彼ともっともっと親密になれたらその女性はどれほど幸せかも想像したことある。 それはもちろん自分自身にも当てはめて考えたことがある。

 

 

 

「…」

 

 

私はいつから彼の事をこんなにも意識し始めたのだろうか? このように困らさられる感情に発展する前も私は破和土基秀と言う人間が好きだった。 でもそれはまだ『like』の話であり、頼れる兄貴分として見ていた。

 

だけど彼は私を含めてみんなを救おうとしたその行動力に愛する気持ちでいっぱいだった。 彼は言った『君たちを思わなかった日は無かった』と心の底から告げられた。 本来、言葉なんてものは建前で終わることが多いけどそれは偽りでは無かった。 エイリア学園から逃げた私は彼を探し求め、河川敷で出会った後、強く抱きしめてくれた。 とても嬉しかった。 そしてエイリア学園に怯えてるあまり、一人で眠れない時も私が眠るまで彼は起きてそばにいてくれた。 それはエイリア学園に乗り込む最中も、拠点として使わせてもらった門岡さんの家でも同じようにその愛情は揺るぎなく面倒を見てくれた。

 

こんなにも、こんなにも、彼から大事にされ続け、いつしか私の中で基秀のことが大きくなった。

 

エイリア学園の悪夢から救われた後も付き合いは変わらない。 サッカーで一対一の勝負も真剣に取り合ってくれた。 食事を取るときも共に味を楽しんでくれた。 悪夢に魘された時も近くに居てくれた。 落ち込んでいた時も共に悩んでくれた。 どんなことも彼は私と共有してくれる。

 

時にはデートのような買い物も付き合ってもらい、その時間が経過しても変わりなき愛情は受け止めていて気持ちが良かった。でもそれはみんなにも等しく振舞っている愛情である。 だから私の中で強い独占欲が生まれる。 私だけ彼の中で特別にしてほしい。 皆んなの基秀を独り占めしたい。 そんな自分勝手な悪い独占欲が蠢く。

 

 

けれど…

 

 

私は夢があるから…

 

 

 

 

だけど…

 

 

私は彼が欲しいから…

 

 

 

 

 

 

「杏?」

 

 

 

「………ぅえ?」

 

 

 

「杏? 大丈夫?」

 

 

 

「ふぁ!? …な、なに? 穂香ちゃん?」

 

 

 

「浜辺でゴミ拾いしてる時からずっとそんな顔してますわ。 今こうしてシャワー浴びてるのにスッキリしないような顔して、心配ですわよ?」

 

 

「……」

 

 

「……?」

 

 

「……穂香ちゃんは、胸大きいよね」

 

 

「え? え!??」

 

 

「それだけあったら男の人もイチコロなのかな」

 

 

「ど、どうしましたの突然!?」

 

 

「……私なんてぺったんこに等しい。 だから基秀にとって私は妹のような扱いなのかな……やはり一人の女性として見てくれないよね。 穂香ちゃんの方が全然魅力的だもん」

 

 

「!」

 

 

「ぁ……ごめん、突然変なこと言って」

 

 

 

 

半分無意識に嫉しさを穂香ちゃんぶつけてしまい、私は少し事故機嫌に陥る。 穂香に少し嫌われてしまっただろうか?

 

 

 

「…ふぅ、まったく。 杏はいらない心配をしてるますのね」

 

 

「なっ!」

 

 

「いい? 杏? よく聞きなさい。 たしかにお胸が大きな女性……まぁ、瞳子お姉様のように綺麗なボディラインを作り、お胸も大き過ぎず小さ過ぎず、あのような美乳でしたら男性にとってさぞかし魅力的な女性です」

 

 

「…」

 

 

「私もこの歳になって突然成長しましたし、時折男性から熱い視線が集まりますわ。 だけどそれは恋愛感情とは程遠い情欲です。 けれど本当に必要なのは内面ですもの。 これに関してはよく言われてるのを聞きません?」

 

 

「でもそれは…」

 

 

「ええ、人は外見ではなく中身…って言葉は自身の身体に足りない部分に対する劣等感から生まれる言葉なんて偏見はあります。 それこそ体目当で如何わしいお付き合いを求めてくる殿方もいます。 ですがそれはlikeでありLoveではありませんわ。 それに大人のlikeは長続きしないと瞳子お姉様から聞いたことあります。 だから体目当てで寄ってきても最終的には飽きてしまうわ」

 

 

「…」

 

 

「まぁ、ここまで説明しましたが、私が言いたいのはあなたが恋しがれてる基秀お兄様は杏の胸が小さい程度で敬遠なんてそれこそありえませんわ」

 

 

「わ、わかってるよ…」

 

 

「基秀お兄様が、瞳子お姉様と仲が良いのは互いに良いところを知ってますもの。 例えば基秀お兄様の場合それは心の強さ。 これは内面の魅力的部分。 瞳子お姉様も同じく心の強さ、これも内面の魅力的部分。 そう言った部分を互いに知っていて、それは強い信頼として表れています。 決して肉体的な関係で築き上げた仲ではありませんわ」

 

 

 

彼女の説得力はこれまでに無い程高かく、納得すらした。

 

 

 

「私が一つ、基秀お兄様も知っている杏の良いところを教えてあげますわ」

 

 

「え?」

 

 

「杏の良いところ、それは努力家な部分。 あなたは最強のサッカー選手になろうと常に練習していましたわ。 エイリア学園にいた頃も、その夢を諦めずいつも練習コートにいた。 だから基秀お兄様が大阪まで来ていた時、あなたは会いに行ってそこで約束を果たさせようとしたのでしょう? これまでの成果を見て欲しくて」

 

 

「うん…」

 

 

「基秀お兄様は、杏のそういうところが大好きよ」

 

 

「!!」

 

 

「それに杏の事を可愛い人と思ってるのは確かよ。 それは女の子にとって光栄でしょう? それでもまだまだ小さな子供のように思っているでしょうけど……もし、杏が基秀お兄様ともっとこれまで以上に親密な関係になり、特別な存在になりたいと願えば彼はちゃんとあなたの事を考えてくれるわ。 あとは……その先どうしたらいいかわかるわよね?

 

 

「……っ、ありがとう、穂香ちゃん」

 

 

「ふふ、私たち親友でしょ? ほら、今その気持ちが強いならそのうちに伝えないとダメよ。 想いを伝えてダメだった時はもちろん辛いけど、何も言えずにいる方が絶対に辛いわ。 後悔しないようにしなさい」

 

 

「うん! 行ってくる!」

 

 

 

穂香に見送られながら私は行く。

 

タオルを取って、体を拭いて、服を着て基秀を探しに向かった。

 

何も言わずに後悔なんてしたくないから。

 

 

 

 

 

「……杏。 私もね、あなたと同じように基秀お兄様のことが大好きよ。 それこそ特別な存在になれたらどれだけ幸福なのか分かるわ。 ふふふ、だから私は杏を応援することに決めたのよ」

 

 

 

 

 

 

___杏は…

 

___基秀の隣人として立てる権利があるもの…

 

 

 

 

 

 

「嫉妬するわね、まったく…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____って感じでな、杏から告白された」

 

 

「基秀園長モテモテー!」

「美人な妻を手に入れたラッキーボーイだ!」

「こら! 園長をそんな風にいわないの!」

「良いなー、私も恋したーい!」

「でも基秀先生、そうなると杏先生はプロのサッカー選手を辞めたの?」

 

 

「んん? プロ?」

 

 

「うん、杏先生はプロのサッカー選手目指してたよね? その夢を捨てて基秀先生と添い遂げたと言うことになるの?」

 

 

「……あー、なるほど。 そう言うことか。 いや、杏はプロなんてものは目指してないぞ」

 

 

「「「??」」」

 

 

「杏は『プロのサッカー選手』じゃなくて『"最強のサッカー選手"になりたい』って言ったんだよ。 しかしその最強ってのは地球で一番最強と言う意味じゃなくてね、杏が"幼い頃"に見ていた世界の中で基秀(最強)を超えたいと言う意味で最強のサッカー選手になるって話だったらしい。 少し紛らわしいよな」

 

 

「「「そうなの!?」」」

 

 

「ああ。 まぁ、子供の頃に掲げた思念だから表現的にあやふやなところあるんだよ。 それにさ、実際のところ最強のサッカー選手というのはこの世界に居ない」

 

 

「どう言うことですか?」

 

 

「たとえばイタリアで活躍してるフィディオ選手なんか凄いだろ? あれは間違いなく最強クラスだ。 けどそれはMFとしての話であり、DFとし最強かと言われたら違うだろ? それなら吹雪士郎の方がDFとして明らかに強いし、吹雪士郎も最強クラスのサッカー選手だ。 でも吹雪士郎がFWとして最強かと言われたら絶対に日本代表の豪炎寺やイギリス代表のエドガーには勝てないし、弟のアツヤの方がFWで最強クラスだ。 まぁ、つまりだ。 それぞれの最強てのがサッカーにあるんだよ」

 

 

まぁ、全面的に強いとか言ったらロココとか鬼道の事を言うだろう。 でも全盛期の話を引っ張り出すなら俺の方が強いとか話は止まらなくなる。 サッカーの世界に最強と言うのはない。 それぞれの最高があるわけで最強のサッカー選手なんてのは存在しない。 でも誰かが誰かに最強と言うことはできる。 それが杏が俺に対して『最強のサッカー選手』と言ったそれと同じことだ。

 

 

「でも!でも! 豪炎寺選手が最強だよね!」」

「おいおいそれならヴィッセル神戸の緑川選手が総合力で勝るから。 守備も上手いんだぜ?」

「バーカ! 大分のダークストライカーとして有名な闇野選手だよ! 誰にもボールを取らせないあいつが一番だよ!」

「いやいや、エースストライカーなら風丸選手だって一択だってそれよく言われてるから」

「だよな! だって去年の世界戦なんかアルゼンチンから2点も取ったんだよ!」

「むぅ! 吹雪兄弟の方がすごいよ! イケメンだもーん」

「だよねー」「ねー」

「おいおい、それは日本国内レベルだろ? やはり凄いのは世界の舞台に行った選手だよ」

「え〜? でも無失点王の立向居がすごくな〜い? 彼の高校は日本一になったんだよ?」

「たしかに凄いけどそれは高校時代の話だろ? いまはただの社会人だよ。 そんなの過去の栄光」

「でも、結果残したじゃん! あの時は確かにキーパーの円堂を超えた事で有名じゃん! あの円堂守をだよ!?」

「でもいまもサッカー続ける奴の方が強いのは当たり前だよなぁ?」

 

「「「なにをーー!」」」

「「「そっちこそー!」」」

 

 

 

「はいはい、そこまでにしろ。 …でも、わかっただろ? それぞれの人の心の中で最強ってのが決まる。 だからまだ中学生の頃の杏が最強と思ってたのは俺って存在だった訳だ。 それで最終的にはサッカーで俺に勝って彼女の最強は果たされ、その前には告白もして俺すらも手に入れた。 俺を好きになった女性はこんなにも凄いんだよ」

 

 

「本当だね! 杏先生すごいねー!」

「うんうん!」

「好きになった上に勝てたドラマか!きゃー!」

「ちぇー、基秀園長負けたんだ〜」

「なんで負けたの!? 基秀園長は負けたの!?」

 

 

「ああ、負けたよ。 あれはもう確実に負けたと言える。 彼女の中で唯一の勝利で__」

 

 

 

>ちょっとー! もとひでー! もうすぐテレビ会社来るんだよ?エプロンと箒閉まって準備して!

 

 

 

「おっとやべぇ……はいはいよー、すぐ行きますよイクイク」

 

 

 

「わー、先生怒られた!」

「尻に敷かれてやんのー!」

「もう! 園長にそんなこと言わないの!」

「「「ガミガミ女が怒ったー!」」」

「「「逃げろ逃げろー!!」」」

「なっ! ちょっと待ちなさーい!」

 

 

 

「こらー、走るなら外にしろー」

 

 

 

 

ちょんちょん…

 

 

 

 

「おやおや? どうした?」

 

 

「本当はどうなの? 杏先生は基秀よりも勝ったの?」

 

 

「おっと? こりゃ鋭いな。 そうだな、勝ち数で言えば俺が99回で圧倒的勝利だ。 けどその中で1回の最高の勝利を彼女は俺から奪い取った。 そりゃもう認めないとならないくらいにな」

 

 

「そうなんだ」

 

 

「懐かしいな、本当に……それじゃ俺は行ってくるよ」

 

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

>もう! 遅いよ! あと五分で来るんだよ!

 

>そんな焦らんでもいいだろうに。

 

>仮にも園長なんだから!それでは示しつかないよ!

 

>別に日本中は既に俺がどんな奴とか知ってるだろ。

 

>だーめ!こう言う時はちゃんとしてよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……確かに、杏先生は基秀園長を超えたんだね。 あ、お母さーん」

 

 

「あらあら、まったく困った子ね? ここでは穂香先生でしょ?」

 

 

「はーい、お母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一児の母となった彼女は最強を目指した親友の事をこう話す。

 

まだあの頃とは変わらない光景は今でも思い出すと。

 

そしてあの日、お日さま園が大きくなる前のグラウンドで、熱く滾らせた二人は本気で戦ったと…

 

多分、片方の人間はほんのちょっとだけ手加減したと思っている。

 

 

 

でも、彼女は確かに、あの勝負の中で勝利し、目の前を超えて最強になれた。

 

しかしそれは最強を目指した彼女とひとりの青年、その二人世界だけの話だと思う。

 

でも彼女にとってあの瞬間は最強のサッカー選手になったことになる。

 

それだけ充分過ぎたのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ほら、基秀、肩に埃ついてるよ」

 

 

「掃除頑張ったアピールになるからこれはこれで残さない?」

 

 

「もう……テレビの前の夫が汚い姿なんで嫌だよ?」

 

 

「冗談だよ。 元聖者らしく決めてくるさ」

 

 

「もう、聖者なんていつの話してるのよ?」

 

 

「6年前くらいか? まぁ君に負けたから俺は聖者名乗るの辞めたけど、それに関しては後悔してないし、良かったと思ってるよ」

 

 

「そうなの?」

 

 

「ああ。 聖者は一人でその後ろにいる全員の前を進んでないとならない。 結構大変なんだよ? でも杏が一番前を進んでいた俺よりも一歩前に踏み込んだ。 こうなった以上は聖者も名乗れない。 けど聖者なんて役目は終えていたようなものだから君が俺を倒してくれて助かったよ」

 

 

「そうか。 でも…あの時負けを認めたのは聖者を降りたかったからじゃないよね?」

 

 

「まさか! 杏の本気が俺の本気を倒したんだ。 そこに聖者は関係ない。 それに倒した回数じゃない。 その一つが充分なんだ。 基秀って人間が杏って女の子に負けた瞬間が言い訳にもならないほどだったから良かったんだ。 だからありがとう」

 

 

「そっか、ならあなたに何度も挑んで良かった」

 

 

「ああ。 ……それじゃあ、行ってくるよ」

 

 

「! …あ、基秀」

 

 

「??」

 

 

「あなたを愛してる。 ……頑張ってね」

 

 

「ああ、俺もおまえを愛する。 頑張ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、あり得たかもしれない一つの物語。

 

 

太陽のように暖かな女の子と添い遂げた『彼』の世界線だ。

 

 

 

 

おわり。






蓮池 杏 end です。

本編では瞳子の事を考えて退いた身ですが、この話では親友に背中を押されて告白して、基秀をサッカーで倒した流れでした。
彼女は最強になれた。
あと生まれる子供はハイブリッドでしょうね。
間違いない。


ではまた
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