気付いたら周りが百合色になってた   作:まもなう(旧ノリあき)

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つよすぎ


料理を食べる二人

 

「わぁ……!」

 

「ど、どうでしょうか……?」

 

荒木さんの家に着いて私が料理にとりかかっている間に、彼女はどこかから椅子と机を持ってきて準備をしていたらしい。

確かにあのソファと机で食事をするのはちょっと難しそうだったので、有り難く使わせてもらった。

食卓と化した机にハンバーグやサラダなんかを並べると、待ってましたと言わんばかりに荒木さんは目を輝かせた。

そのギャップに、わかっていてもやられてしまう。ズルい。本当に荒木さんは狡いと思う。

 

「凄いすごい!とてもおいしそうだよ!」

 

「ほ、本当ですか!よかった……」

 

上手く焼き上げられたようで一安心する。油断すると焦げるので普段の倍は緊張したけど、お陰で見た目はばっちり。

何より嬉しそうな荒木さんが見れて、私も嬉しくなる。喜んでもらえてよかったぁ……

 

「冷めないうちに頂いていいかな?」

 

待ちきれない様子の荒木さんに私は微笑んで、机を挟んで反対側に座る。

 

「はい。頂いちゃいましょう」

 

「やった。いただきます!」

 

「はい、召し上がれ」

 

箸を持って早速ハンバーグへ向かう荒木さんを視界に収めながら、私もいただくことにする。

……うん。いいデミグラスソースを買ってくれたこともあって、いい出来になっている。

硬過ぎず柔らか過ぎず、程よい触感と肉汁が溢れてくる。あ、あついーっ!

 

「はふはふっ、はふはふっ」

 

「は、はふいへすねっ」

 

見ると豪快に齧り付いた荒木さんも私と同じように口を押えながら、必死ではふはふと冷まそうとしている。普段の余裕のある感じとは全く違う形振り構っていられなそうな姿は新鮮で、愛おしかった。

 

「はふいけど、おいひいっ」

 

無邪気にそのまま感想を言ってくれた荒木さんは小さい頃に戻ったようで、とても可愛い。

若干行儀悪く体を揺らす彼女を見て、はしたないけど私も同じように揺れてみた。

ただご飯を食べているだけなのに、とても楽しい。

 

「あいがほーごはいはふっ」

 

熱くてちゃんと喋られない!

 

「ふう、ふう……っうん。とっても美味しいよ!ありがとう、宮永さん」

 

「っ……ん。どういたしまして、荒木さん」

 

何とか噛んで飲み込んで、二人して頭を下げる。

同時にあげて顔を合わせて、お互いに笑い合う。

幸せって、こういう時間を言うんだなぁって思った。

 

 

「本当にありがとう。態々、家にまできて作ってくれて」

 

「いえ、そんな。私がやりたいことをしただけですから」

 

「……優しいね、宮永さんは」

 

「あ、あんまり褒めないでくださいっ……照れちゃいますから」

 

「ふふ、可愛い」

 

「もうっ!」

 

こうやって笑い合ってお話しできるということが、楽しい。

 

でも楽しい時間はあっという間で、お喋りをしているうちに晩御飯を食べ終わってしまった。

ちょっとお腹を休めたいけど、一段落着いたら、もう、帰らなきゃ。

食後に荒木さんが淹れてくれた紅茶を頂きながら、少し俯く。

そんな私の様子が気になったのか、荒木さんが私に声をかけた。

 

「……どうしたの?紅茶、あんまり美味しくなかった?」

 

「いえ!そうではないんです!そうじゃなくて……」

 

「うん」

 

「会えなくなる訳じゃないと思うんですけどっ」

 

「うん」

 

「……もう、お別れなんだなぁって」

 

湿っぽくするのは嫌だったけど、どうしても悲しくなってしまう。

今日は偶々スーパーで会っただけだし、普段の荒木さんはきっと忙しいだろうし。

こうやってご飯を一緒に食べられる機会も、あまりないのかなって考えてしまう。

 

「……大丈夫だよ。私だっていつも忙しいということはないし、もう会えなくなる訳でもないから。連絡先だって教えるから。いつでも話しかけてきて欲しい」

 

「……いいん、ですか?」

 

「寧ろ私からお願いしたいぐらいだよ。どうも私の日常には癒しというか、ちゃんと息を抜く時間がなかったからね」

 

音楽を仕事にしている荒木さんは、「お風呂ぐらいかなぁ。気が休まるのは」と少し寂しそうに笑った。

 

恐縮しながら連絡先を交換して、お腹が落ち着いてきてトイレを借りて(とても綺麗!)、いよいよ帰る時間が来てしまった。

マンションの下まで送ってくれると言う荒木さんの言葉に甘えて、着いてきてもらう。

下りのエレベーターの中は、お互いに無言だった。

エントランスを抜けて、大きな自動ドアを二人でくぐる。

私が荒木さんに体を向けて何か言おうとする前に、先に彼女が口を開いた。

 

「今日は、ありがとう。ハンバーグ、とても美味しかったよ」

 

「……はい」

 

「何かお礼がしたいと思ったんだけど、あまりいいものが思い浮かばなかったから……宮永さんが私にして欲しいことを、何でも一つ言って欲しいんだ」

 

「……は、はい?」

 

「ほら、私に曲を作ってほしいとかさ。なんでもいいから」

 

何だか、とてつもない価値のある権利を手に入れた気がする。世界の一線級で活躍する人の、何でも聞いてくれる、権利……

……じゃあ。

 

「……」

 

「……どうかな?」

 

「……じゃあ、今、使ってもいいですか?」

 

「い、今かい?……私に出来ることなら、なんでも」

 

「……じゃあ、ん」

 

荒木さんに向けて、両腕を広げる。

背の高い彼女の目を見上げて、催促をする。

 

「えっ……と」

 

「……ぎゅって、してください」

 

「……」

 

暫く見つめ合った後、荒木さんはゆっくりこちらに近づいてきて、そっと、優しく、私を抱きしめた。

 

「……」

 

「……」

 

私より大きくて。温かくて。安心する香り。いくら夜だからって、季節は夏。ちょっと暑いけど、気にならない。

抱きしめた体はちゃんと柔らかくて、かっこいいけど、女の子なんだとわかる。背中に回す腕を少し強めると、応えるように私の背中の腕もぎゅっと、強くなった。

でも苦しい訳ではなくて、優しさの伝わってくる抱擁。私も、そうできていると良いな。

 

「……」

 

「……」

 

暫くそうして抱き合って、お互いに自然と離れる。

きっと私の顔はとても赤くなっていて、でも、恥ずかしいけど、合わせた目を離せられない。

見つめ合っていると、少し頬を赤らめた荒木さんが呟くように言った。

 

「……じゃあ、また今度、だね」

 

「……はい。ありがとう、ございました。また、いつか」

 

頭を下げて、そのまま振り向いて歩き出そうとした。

 

「っ、待って!」

 

私の手を後ろから掴んだ荒木さんが、私を振り向かせた。

瞬間、口を開けようと思ったら、その前にまた腕の中に閉じ込められた。

 

「あ、の……?」

 

ぎゅーっと強めに抱きしめられたあと、抱えた頭を解放した荒木さんは私のおでこをめくって。

 

「ちゅっ」

 

「……えっ」

 

そこへ、唇を落としたのだ。

 

 

 

 

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