気付いたら周りが百合色になってた   作:まもなう(旧ノリあき)

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なんか黒髪ロングさんが暴走する……


恋愛いらない黒髪ロングが優しい金髪ギャルに秒で堕ちてる話

「おはよー、須藤」

 

「……おはよう、牧原」

 

この教室で朝の挨拶をしてくれるのは一人しかいない。

窓際の席でぼうっと外を眺めていた私に声をかけるのは、先日ならず何度も私の相手をしてくれている金髪、牧原だ。

 

「なにしてんのー?」

 

「なにも。強いて言うなら……烏?」

 

「なるほどバードウォッチング」

 

「そんな高尚なもんじゃないけど。烏って肩に乗せて使役してみたいよね」

 

「んーわからんでもないー」

 

あれから何度か昼休みに屋上で一緒になって、昼食を食べている。

もちろんあの究極の人をダメにするソファ形態でだ。

最初のうちは正直密着しすぎてやっぱり緊張していたが、今では立派に骨抜きにされている。

あんなの陥落しない方がおかしいのだ。

 

「じゃねー」

 

「ん」

 

お互い手を振って、それぞれの席に着く。教室の中では、ある程度距離を保つようにしている。

なんか秘密の関係って感じでいいじゃん?という思いと、あんまりべたべたして噂されたくもないという思い諸々が美味い具合に混ざった結果だ。

高校生は噂に飢えている。それが今まで碌に会話してこなかった地味黒髪と派手金髪間のことなら猶更だろう。

 

「……ね、ねぇ」

 

「……ん?」

 

「牧原さんとその……仲いいの?」

 

おい。さっきまでご高説を垂れていた私は一体どうなる?

目論見が外れるにしてもタイミングがないか?

 

「まぁ、ね」

 

「へー……なんで?」

 

「なんで?」

 

「だって、ほら、全然接点なさそうっていうか……」

 

「ふむ、一理あるね」

 

まあ確かにそりゃそうだ。見た目にしても、授業態度にしても、まったく接点はあるようには見えないだろう。

一方は金髪、ピアス、マニキュア、化粧、香水。もう一方は黒髪、まっさら、何もなし。

それがある日を境に朝に二三こと会話するようになった。しかもある日っていうのは一緒に教室に帰ったあの昼休みの日だ。

それから何度も同じように昼食時に揃って出て帰ってきて、と。成程、なるほど……

これ教室で隠してる意味全くないな?どう考えてもバレバレじゃないか。

 

「確かに接点はなさそうに見えるだろう。私から見てもそう。住んでいる世界が違うわ」

 

「だ、だよね……」

 

「でもね、そんな二人が実は友人だったら面白いでしょ?」

 

「え?」

 

「そういうこと」

 

だからさっきから謎に震えているゆるふわ系美少女よ、手出しはせんでくれ。

恐らく後ろに見える女子グループでじゃんけんに負けて聞きに来たんだろうが、放っておいてくれ。

私はそちらに迷惑はかけないし、そっちだって用は特にないだろう。

 

「とにかく、私と牧原は秘密裏に仲良くなったの。いい子よ、彼女?」

 

「そ、そうなの?」

 

「ええ。私は家内がいるのに会社の付き合いだからと言って飲み会と称してこっそり風俗に行く親父の気持ちを知ったわ」

 

「待って何を言ってるの?」

 

「そこでしか癒せない心があるのよ……」

 

「そうなんだ……全然わかんないけど……」

 

私は疲れたリーマンがそれ系の風俗に通う理由を何となく感じてしまっていた。

誰にも見せられない自分をさらけ出す。それは酷く勇気のいることだ。だけど、圧倒的包容力の前には無力。

気づいた時には赤子同然。もはや逃れるすべもない。私は沼にゆっくりつかるだけだ。

……何を力説しているんだ私は。

 

「他に何か聞きたいことはある?今私は気分がいいわ」

 

「えっじゃあ、えーっと、牧原さんの噂って……」

 

「ああ、童貞を食い散らかしてるっていう?」

 

「ど、どうてっ!?いやまあ、うん……」

 

ほほう、中々いい表情をするな、この子。純朴そうで良い。いや、待て。

なんか私おかしくなってないか?牧原とくっつきだしてから、こう、何というか私の中の致命的な何かが……変容してないか?

以前までは何とも思わなかったはずだ。目の前で頬を赤らめながらチラチラとこちらを伺う……いや可愛いなこの子。

 

「まぁ、噂は噂だよ。私も情事をこの目で見たわけではないから、証拠がない」

 

「そうだよね、証拠なんて出ないもんね……」

 

「証言はあるけど」

 

「あるんだ!?」

 

いちいち良いリアクション取ってくれるなこの子。でも、まぁはぐらかしておくか。この教室の男子の何人が穴兄弟かなんて知りたくもないだろうし。

 

「ふふ、冗談よ。あなたいいわ。好きよ、私」

 

「ふぇっ?あ、えっと、ありがと……?」

 

ふぅ、久々に牧原以外の人間とこうして無駄話をしたけど、予想より口が回って驚いたわ。

なんか彼女の中での私の像が崩れ去ったような気がするけど、ぶっつけ本番にしては上出来ではないかしら?なんてね。

さてそろそろ切り上げないと。HRが始まるし、彼女のお仲間が訝し気な視線が突き刺さってきている。

 

「これで満足な答えは聞き出せた?お仲間が首をそろえて聞きたがってるわよ」

 

「えっああっ、うん、大丈夫!ごめんね、変なこと聞いちゃって」

 

私の方が勝手に変なことを言い始めた気がしないでもないが、そう言ってくれるなら大いにうなずいておく。

というか本当可愛いなこの子。それにわけわからん私の妄言に付き合ってくれたぞ。

いい子だ。私はいい子は好きだ。

 

「ふぅ……」

 

牧原と話すようになってから、というか甘えるようになってから、私の殻がひとつ剥けた気がする。

より素直になれたというか。勇気が持てるようになったというか。恐らく今までの私ではああも簡単にあしらえなかっただろう。

その方向性の良し悪しはともかく、確実に人間強度が上がった気がする。恐るべしくっつきセラピー……

 

「すーどうー」

 

「ん?」

 

「今日はどうするー?」

 

「……いっしょがいい」

 

「にへへ、了解ぃー」

 

いや、やっぱ一番かわいいわ、牧原。

 

 

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