気付いたら周りが百合色になってた   作:まもなう(旧ノリあき)

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おかしい……あのクールだった須藤さんはどこへ行ってしまったの……


恋愛いらない黒髪ロングが優しい金髪ギャルに秒で陥落してる話

「ねーぇ」

 

「んー?」

 

「名前で呼んでくれないのー?」

 

いつものように、最早恒例となってしまった昼休み。夏が近づいてきて、くっつく時は半袖になってしまった。

なってしまった、とは言ったが、これがまた良い。牧原の素肌はつるつるもちもちで、触っていてとても気持ちいい。

胸の前に回された左手を私のそれで握ると、私に目を合わせてきて「気持ちいいねぇ」なんて言ってくる。

こいつは私をどうしたいんだ?金を払えばいいのか?

 

「名前」

 

「そう、名前」

 

「……」

 

「え、まさかぁ」

 

「いや、待て、落ち着け」

 

そうだ、落ち着け。いくら私がクラスの連中のことが眼中にないからと言って、こんなに良くしてくれている牧原の名前がわからないわけが……わけが……

 

「……」

 

「え、なに、その険しい顔」

 

「……すまない」

 

「えー!えみちんしょっくー!」

 

大げさにリアクションをとった彼女は、ぶーっと表情を変え……いや可愛いなこいつ。

 

「えみちん」

 

「そう、えみちん。牧原愛美でーす!愛に美しいって書いて、愛美ね!……ちょっと恥ずかしいね」

 

「フグッ」

 

いきなりこんな至近距離で即死級の攻撃を使わないでほしい。思わず浄化されそうになったぞ。

なんだそのはにかんだ笑みは。愛美だけにってか。やかましいわ。

 

「えみ、愛美、EMI……」

 

「なんで最後訛ったの?」

 

「牧原にぴったりだ。かわいい」

 

「えへー、ありがとー」

 

ぎゅーっと背中から抱き着いてくる牧原、ないし愛美はもう私の自惚れでなければとてもうれしそうだ。

あー幸せだ私は。今全世界中の誰よりも幸せな自信があるぞ。でも死にたくはない。

世の中にはもう死んでもいい、なんて言う輩がいるらしいが、そんなわけないだろう。絶頂の中にあって死んでもいいなんて思うはずがない。正解はもっと続け、だ。

この温もりを手放すことは最早できぬ……いや武士をインストールしている場合ではない。

 

「あー、私は「須藤杏」……でしょ?」

 

「知って、くれてたんだ」

 

「もちろん!友達でしょー?あーんず」

 

「……っ!」

 

「わぁ!?」

 

そう言って私の顔をのぞき込む牧原……もういいや、愛美の顔が眩しすぎて思わず身体を反して正面から抱き着いた。

首筋からダイレクトに彼女の香りが飛び込んできて、もうくらくらする。はー柔らかいし気持ちいい。

 

「んふふ、どーしたの?」

 

おまけに抱き返して頭まで撫でてくれるぞ。どうなっているんだ?そうか、ここが天国だったか……

 

「いや、ちょっと、思ったより嬉しかったみたいで、体が勝手に」

 

「えー?大げさだなー」

 

「大げさなもんか。私の体を勝手に動かすことはニート脱出直後のバイトの面接より難易度が高いぞ」

 

「そりゃぁやばい」

 

彼女はそう言ってけらけら笑ってくれているが、大丈夫だろうか。私の顔から火が出ていないか?

名前を憶えてくれていてしかも甘え声で呼んでくれただけで死にそうなんだが、

いやまて、それは『だけ』で済ませていいのか?この母性の塊大聖母愛美にこうしてもらえることが『だけ』、か?いやそんなはずはない。

 

「んふふ、あったかいねぇ」

 

「……ああ、うん、暑いぐらい」

 

もういいや。あまり深く考えても碌なことにはならない。こと愛美のことに関しては、どうやら私の思考回路が腐ってしまうらしいからな。

今私を満たしているものは圧倒的多幸感。それでいい。

暫くそれを味わって、顔をゆっくりと愛美の肩から外す。なんだか顔を合わせるのが無性(大嘘)に恥ずかしい。

そんなとき、ふと、意識が集中してしまった箇所がある。

 

「……」

 

愛美の唇だ。

彼女の唇は今までパンを食べていたというのに、妙にみずみずしい。薄くリップを引いているのか、ほのかにピンク色に見える。

そんな一級品であるお口を見て、私は漠然と火照った頭で思ってしまった。

 

「?」

 

おいしそうだと。

 

 

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