色々と詰まった結果、変な風に暴走した末の、よく解らない夢を見たためにサルスベリがノンストップで暴走した結果のお話になります。
会社の構造とか、経営者の苦労とか、経済の仕組みなんて細かいことは解りませんが、とにかく考えることは。
鬼って社畜じゃね? っていうお話。
ある日、鬼舞辻無惨は天啓を得た。
『俺は転生者なんだ』、『こんなはずじゃなかった』とか騒ぐ馬鹿ものを食べた彼の脳裏に、凄まじい勢いで知識が流れ込んできた。
天を貫くような巨大な構造物。真夜中でも輝きを失わない街並み、音よりも速く飛行する鋼鉄の鳥、地上を走り去る巨大な箱。
そして何よりも、何よりも彼を揺さぶったのは、そこに溢れる未知の食べ物。
鬼となった以上は人の肉しか食えないはずが、何故か無性に食べたくなった。それらを手にとって食べたくなった。心の底から、喉の奥底から魂の底から渇望するように。
馬鹿なと否定しても湧いてくる欲望。ふざけるなと憤りを感じても湧きあがってくる感情は鬼舞辻無惨を揺さぶり。
そしてその結果。
「さあ今日も頑張ろうではないか!」
会社を興してしまいましたとさ。
株式会社KIBUTUZIは、今日も平和な日常を。
「童磨ぁぁぁぁ!! この企画書はなんだぁぁぁぁぁ!!」
「無惨様、それは僕じゃない」
「では誰だ?! 先方からクレームが来ているではないか?!」
「あ、それは僕」
「累か、書式を間違えている。予算案の計算ミスが多い、やり直せ」
「は~~い」
書類を持っていく小学生みたいな、けれどしっかりとスーツを着た社会人の背中を見送って、彼は大きく頷いた。
「よし、これで」
「社長! D社の担当が次のイベントの会場を変更したいと!」
「なんだとぉ!!」
「む、無惨様!」
「情けない声を出すな! 誰か猗窩座を呼べ! イベント会場を抑えさせろ! D社の担当は誰だ!?」
一斉に周りを睨むように見回すと、誰もがサッと顔を背けた。
「・・・・私である」
ヌッと立ち上がるスーツの鬼が一人。六つの目をした男は、この会社でもかなり優秀なのだが。
五十人に一斉に名刺を配れる、そんな優秀な男なんですが。月の形をした名刺を一斉に飛ばして、六つの目で全員の顔を一気に覚える。そんな優秀なビジネスマンなのですが。
「ど、どういうことだ、黒死牟?」
「ふむ・・・・先方より・・・・もっとビッグなイベントにしたい・・とのお話があり」
「お、おう、そうかそうか。それはいいことだ。うん、いいことだぞ」
「私が承諾し・・・・・・・・・・頑張っているところだ」
グッと拳を握り決意を示す彼に対して、周りは固まったのです。
「・・・・・・・先に周りに知らせるということを覚えろぉぉぉ!!」
大変、優秀なビジネスマンなのですが、全部を一人でやろうとする癖がついているようなので、放っておくとこういうことが稀に起きる。
「無惨様! 猗窩座、推参しました」
「よしイベント会場の予約だ! 最速で動け!」
「ハ!!」
そう答えた彼は、すぐさま窓から飛び出した。ここ、五階以上あるとか、街の屋根を飛び越えているとか、そんな細かいことは気にしてはいけない。
彼らは鬼だから。
「鳴女! D社への通路を開くのだ! 私が直接!」
「いえ、先方がお越しになっています」
「は?」
鬼舞辻無惨、固まる。何を言っているんだという顔で固まり、彼女を見つめた後にその後ろにいる顔面蒼白で固まっている男を見つめ。
「ようこそ、我が社へ。今、全力で対応させていただいております」
極上の笑顔を浮かべた鬼舞辻無惨が、D社担当に話を振ったのでした。
後で殺す黒死牟、なんて内心で思ったのは内緒の話。
D社担当は、凄く低姿勢で申し訳ないと謝り、他に頼れなかったんですと言い訳を行い、御社ならば可能ですよねとそんなことを言って帰った。
正直、社会人としてどうかと思う。
はっきり言って他の会社の社長に、そんなことを言うのはどうかと、説教したくなったのだが。
「D社の会長、美味しいスィーツをよく知っているからな」
はぁと無惨はため息をつき、仕方ないかと諦めて顔を上げて。
「朝日よ、今日も美しいなぁ」
と、窓から見える日の出を眺めるのでした。
鬼になって人肉以外は食べられず、朝日を浴びたら死ぬような体質になったのだが、あの時に転生者を食べてから日の光なんて問題なし。食べられるものはなんでも食べられる体質になった。
しかし、だ。
心の中の渇望は変わらない。
美味しい食事がしたい。上手い飲み物が欲しい。綺麗な景色を眺めながら、絶品料理を楽しむのもいい。
「今日の仕事はもういいだろう。私は」
そっと引出しを開け、二重底をいじり、厳重に施された仕掛けを解除して、その中にあるコハク色の瓶を取り出す。
「フフフフフフフフ」
ニヤリと笑い、声を抑えることさえせずに、ゆっくりと瓶を取り出し、グラスを持ち上げ。
「ああ、いい色合いだ。美しい、まさに芸術品だ、これぞ日本が世界に誇るものだ。さあ、今宵も私を楽しませろ」
クックックックと喉を鳴らしながら、ゆっくりと瓶を傾け、グラスにコハク色の液体を注いでいく。
グラスを持つ、この瞬間がたまらない。ゆっくりとグラスを近づけ、鼻へと持っていく途中で。
バンっと扉が開いた。
「私の楽しみを邪魔すヒ?!」
そこに立っていたのは、鬼のような顔をした女性だった。
「た、たたたたたたた珠世!」
「無惨、それは?」
鬼のような顔をした女性、いや無惨も鬼なのだが、何故か彼女にはそういう表現がピッタリと合っているような気がする。
彼女は憤怒を閉じ込めた雰囲気のまま、ゆっくりと白い綺麗な指でさしてくる。
無残はゴクリと喉を鳴らしながら、ゆっくりとその指先を辿って行き、やがて自分の持つコップに行きつき。
「・・・・・は?! だ、ダメだ!! これだけはこれだけは?!」
「無惨、いいからそれをよこしなさい。山崎ね?」
「ダメだ珠世! ダメだ! せっかく仕入れた逸品なのだぞ!!」
「・・・・・・・・よこせぇぇぇぇ!!」
「ダメだぁぁぁぁ!!」
絶叫と怒声、それと飛び交う机や棚、イスなど。
今日もKIBUTUZIの社長室は、とても賑やかでしたとさ。
珠世は、鬼になって家族を殺される、なんてことはなく。夫と出会う前に鬼となってしまった彼女は、無惨の性質が変化して最も多くの影響を受けた鬼でもあった。
特に彼女の大好物であり、最もエネルギーを吸収できるのは『酒』。中でも最近はウィスキーがとてもお気に入り。普段は温和で優しく穏やかで、薬品とか製造してはKIBUTUZIに貢献してくれているのに。
一度でも酒の匂いを嗅ぐと、それを飲まないと気が済まない暴走淑女に大変身してしまう。
「今日もいい運動ができました」
にっこり笑って立ち去る珠世の背を見送った無惨は、拳を握り締めて決意を新たにした。
「次こそは、次こそは」
次こそは絶対に渡さない。無惨は心に深く決意して、立ち上がり、室内の片付けを行うのでした。
「この鞭、便利だな、さすが私だ」
血を有刺鉄線のような鞭にして、一人で部屋の片づけが行える。さすが鬼であり、さすが自分だと感心して。
「私の酒が、ウィスキーが」
隠していた酒瓶がすべてなくなっていたことに、落胆して膝から崩れ落ちたのでした。
「無惨様! タンカーが座礁したそうです!」
「無惨様! C社の方から契約内容を変更したいと連絡が!」
「無惨様!」
「無惨様!」
「・・・・・・・フ、今日も忙しい日々の始まりだな」
彼はそう笑い、立ち上がり、社員に背中を向けて壁に掲げてある社の目標を見つめた。
「貴様ら! 今日も二十四時間労働だ! 死ぬ気で私のために働け!」
「はい無惨様!」
「さあ! 目指すは『一部上場』だ!!」
盛大に宣言した無惨は、自分の机に向かうのでした。
「そして私に世界中の美食と美酒を」
うんうんと頷く彼の背中は、とても頼もしく。
とても小さく楽しんでいる子供のようでした。
他の作品を考えて、こんな感じで書こうかなとメモをとっていて、試作で書いてみようと考えていたら、気がついたらこんな話が出来上がっていました。
うぉい、自分。全然、違う作品じゃないかと突っ込んだ後に、いいやで投稿しておきます。